IT大手ヤフーがネット衣料通販大手のZOZO(ゾゾ)を買収する。ライバル社に対抗する狙いだ。ただ個人情報保護や取引先との関係で問題が山積しており、過度な競争を戒める必要もある。
ゾゾは、創業者で今回社長を退任した前沢友作氏のトップダウン型経営で急成長した。若い層に的を絞った戦略で約八百万人の利用者を集めた。
前沢氏本人も月旅行計画や有名女優との交際で世間をにぎわせ、ゾゾの名は知れ渡った。しかし出店ブランドとの確執などが表面化し、今年三月期決算は一九九八年の創業以来、初の減益となった。
一方、ヤフーはネット通販では米アマゾン・コムや楽天に差をつけられている。ヤフーは、成長に陰りが見えたとはいえネット衣料分野で大きな利益を上げるゾゾを買収。ライバルとの距離を一気に縮める戦略に打って出た。
ここで留意したいのは、買収劇が消費者利益につながるかどうかだ。健全な競争環境は確かに企業努力の素地となり、さらなる利便性の向上を生み出す。
だがIT業界では、人工知能(AI)技術の発展を背景に、行き過ぎた個人情報の集積が問題視されている。具体的にはIT企業が顧客の嗜好(しこう)や経歴、年収、家族状況などを無断で集め、利益増につなげようとするケースだ。
強い立場を利用した取引先への高圧的なビジネス態度も公正取引委員会による調査で判明している。調査対象にはヤフーや楽天、アマゾンが入っていた。
さらには商品配送の問題もある。ネット通販は配達のスピードがかぎを握る。それは同時に配送する人たちの労働強化に直結する。買収による競争激化が、ただでさえ過酷な労働現場に一層の負担をかける恐れも考慮すべきだ。
ヤフーを傘下に収めるソフトバンクグループの孫正義会長が、ネット通販事業での首位奪取を狙っていることは否定できないだろう。ただ、山積する課題を放置したままの競争なら容認するわけにはいかない。
公取は独占禁止法を活用しITビジネスを規制する構えだ。もちろん規制が経済の活性化を阻害する場合もある。しかしIT業界には国が介入すべき問題点が手付かずのまま残っており、公取の動きは支持せざるを得ない。
同時にIT企業側に対しても、極端な利益優先主義を戒めるよう強くくぎを刺しておきたい。
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