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 激しい騒音の下でのくらしを強いられる住民の苦悩に、しっかり向き合っていない判決と言わざるを得ない。だがその判決も、国の長年の無為無策を手厳しく批判した。政治の姿勢がますます問われる。

 沖縄の米軍嘉手納基地の周辺住民ら約2万2千人が起こした第3次爆音訴訟で、福岡高裁那覇支部は国に総額261億円の賠償金の支払いを命じた。だが原告らは落胆し反発している。

 一審判決からの後退が明らかだからだ。高裁は、騒音による生活妨害や血圧上昇の不安などは認定したが、それ以上の健康被害には踏み込まなかった。慰謝料の基本月額を「3万5千円~7千円」から「2万2500円~4500円」に減らし、住民らが何より期待した飛行の差し止めも、「政府は米軍機の運航を規制できる立場にない」との理由で認めなかった。

 一方で国が胸に刻むべき指摘もある。防衛・外交政策上、米軍基地には高い公共性、公益性があるのだから住民は我慢せよという国の主張を、高裁は一審に続いてこう述べて退けた。

 「国民全体が利益を受ける一方で、基地の周辺住民という一部少数者に特別の犠牲が強いられている」「看過できない不公平があり、これを正当化することはできない」

 国の怠慢にも切り込んだ。

 日米両政府は96年に、夜10時から朝6時までの飛行は、米側の運用上必要とされるものに限るとする騒音防止協定を結んでいる。だが判決は「その少なからぬ部分が十分に履行されていない」「政府が米国に、協定の履行を求める実効的な措置を採った事実はない」と断じた。

 実際に、嘉手納基地での夜間早朝の離着陸回数は昨年度1500回を超え、嘉手納町が設置している測定ポイントでは、70デシベル以上の騒音が月平均で80回以上発生している。いったい何のための協定なのか。

 ほかにも、県民の思いを踏みにじる出来事は尽きない。

 嘉手納では、同じように日米合意に反するパラシュート降下訓練が今年は3度強行された。先月末には普天間飛行場所属の米軍ヘリから重さ約1キロの窓が落下。ところが政府は、事故原因の究明と再発防止を求める県の声に耳を傾けず、米軍の飛行再開を追認している。

 「当事者意識について疑問を持たざるを得ない」。玉城デニー知事が政府の対応に不信を表明したのはもっともだ。

 沖縄は、過重な基地負担という「特別の犠牲」を戦後一貫して強いられ、本土との間の「看過できない不公平」に苦しむ。その解消に、政権は本気で取り組まなければならない。

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