先輩たちの仕事

誰に向かって、何のために
ニュースを伝えているのかを
意識する

アナウンサーとは
アナウンサー アナウンス室 和久田 麻由子 (2011年入局)

アナウンサーは目指していなかった

大学時代は運動会ラクロス部のトレーナーとして学生日本一を目指す日々でした。最初はマスコミで働きたい、アナウンサーになりたいなどと明確に考えてはいませんでした。働くなら、社会の中で果たすべき明確な役割のある企業が良い、その中にいれば誇りを持って働き続けられる、そんな企業を探していました。
NHKは、視聴率だけが指標ではなく、たとえ母数は少なくてもそこに強烈な需要があれば公共メディアとして伝えていく。必要とする人へ、きちんと情報が届くように番組を制作しているところが素敵だなと思っていました。アナウンサーを志望したのは、ナレーションに興味があったからです。音声表現によって制作者の思いを明確にし、一段番組の雰囲気を上げることができる。職人技のような部分に憧れました。

高校野球地方大会の実況に四苦八苦

初任地は岡山放送局です。1年目の秋に高校野球の地方大会の実況を担当。来る日も来る日も球場に通い、必死に実況を練習する毎日でした。岡山にいた3年間担当しましたが、放送が終わって歩いていると、地元の野球ファンのおじさんに「おう、去年よりはうまくなったな」と励まされたりして。地元の方は皆さん優しいんです。
またある時は、出勤途中でおばあさんが「あんたNHKの子じゃろ、頑張ってるのをいつも見てるよ」と話しかけてくれました。最初の頃は、ニュース原稿を間違えずに音声化するだけで精一杯でしたが、それからは、この優しいおばあさんにも「伝わる放送」を心がけよう!「伝わるニュース」を読もう!と思うように。「誰に向けて伝えているのか」を意識することが、いい放送につながると今でも思っています。

朝の忙しい時間にわかりやすく伝える

東京に異動してからは「おはよう日本」を担当しています。毎朝の放送前の打ち合わせは、時間との勝負です。VTRの試写をして、スタジオで話すコメントの内容などを話し合います。ディレクターや記者は、そのテーマについて何を聞かれても答えられるほど丁寧に取材を重ね、知識を蓄えます。一方、アナウンサーは、視聴者との間に立ち、視聴者の視点の一番近くにいる立場だと思うので、朝の忙しい時間帯に初めて見る視聴者の皆さんに、わかりやすく誤解なく伝わるかということをチェックします。
1から5までを説明するときに、2と3を入れ替えた方がわかりやすいのではないか。テロップをつけた方が丁寧ではないか。前提をもっと詳しく説明したほうが理解しやすいのではないか。放送開始ギリギリまで話し合います。

番組、視聴者、自分の三点のバランス

「アナウンサーって自分の意見を話しているのですか?」と聞かれることがありますが、もちろんあります。けれど、「おはよう日本」が番組として取り上げる動機や、制作者の伝えたいメッセージもあります。それをX軸とすると、番組を見た人がどんな感情をもって受け止めるかがY軸。それにプラスして、「働く女性」「30歳」などの私自身の属性や受け止め方がZ軸。
その3つの座標が交わるポイントで話すことを心がけています。自分の素直な感情だけを話すのではなく、制作者の意図もくみ取りながら、視聴者の受け止めも想像する。三点のバランスをどこに置くか、とても気をつかって言葉を選んでいます。独りよがりになってもいけない。かといって、当たり障りのないことばかりだと何も伝わらないし、伝える意味もありません。

私のリアルとは

自分自身の「リアル」な受け止めをうまく織り交ぜることで、視聴者の皆さんにも「リアル」に伝わる、共感していただける番組になるのではと思っています。