第161話 最強賢者、龍脈を掘り出す
「……だいたい、このあたりか」
そう言って俺は、迷宮の壁につるはしを突き立てる。
第二学園でミスリル集めをしたときに使った、魔法入りのつるはしだ。
今回は結界を作るわけではないので、スピード重視でどんどん掘り進めていく。
そして――掘り始めてから、数分後。
掘ったトンネルの奥の壁から、魔力が吹き出した。
「出てきたな。これが、大迷宮の龍脈だ」
「す、すごい魔力ですね……」
大量の魔力を放出する壁を見ながら、ルリイが呟く。
見た目は、本当にただの岩の壁だ。
だが、ある程度魔力を探知できる人間なら、この壁が圧倒的な量の魔力を含んでいることはすぐに分かるだろう。
そして、もう少し魔力の探知になれた者なら、その中身にも気付くはずだ。
「あの……なんかこの魔力、魔族っぽい雰囲気がしませんか?」
ルリイは、気付いたようだ。
「魔族の魔力が含まれてるからな。……っていっても、これの大部分は、最近の干渉じゃなさそうだな」
「最近じゃない? ……古いってことですか?」
「ああ。最低でも100年は経ってる。この量だと……恐らく、まともな力を持った魔族が、命を捨てるとかして細工したな。今の魔族は、その仕上げをしようとしてるだけだ」
今まで魔族が急いで人類を滅ぼしに来なかったのは、魔族の勢力が落ちていたのに加え、これの発動を待っていたのかもしれない。
これを発動させるだけで、今の人類なら滅ぼせるくらいの大災害が起きるだろうし。
「100年以上も……でも、仕上げが必要ってことは、今からでも止められるんですよね?」
そう言ってルリイは、龍脈へと向き合う。
どうやら、覚悟は決まっているようだな。
「その通りだ。とりあえず、この通信用魔法陣を龍脈に仕込んで……あとは俺と相談しながら、龍脈に干渉してくれ! 制御に失敗すると爆発したり魔力災害が起こって、最悪この都市くらいは滅ぶから気をつけてくれ!」
「は……はい!」
失格紋の通信魔法は、距離が離れると通じない。
そのため、龍脈を媒体として通信魔法を通すのだ。
情報を通すくらいなら、今みたいに龍脈ギリギリまで近付く必要もないので、迷宮の中ではこういうのが有効な通信手段だったりする。
龍脈を操作するのに使う魔法や魔道具は、すでに教えてあるしな。
「2人は、ルリイの護衛を頼んだぞ!」
「うん!」
「分かりました!」
そう言って、アルマとイリスがルリイの護衛についたのを確認して、俺は階層を降り始める。
魔族が龍脈をいじったせいで、昨日とは階層の構造自体も変わっているようだ。
『ルリイ、龍脈の動きに変化はあるか?』
俺は迷宮を一気に進みながら、壁に手を当ててルリイに通信を通す。
『はい! なんか、動きが不自然な感じがします!』
やはり、もう魔族は仕上げに取りかかり始めているみたいだな。
妨害をするには、最高のタイミングだ。
『龍脈の操作を、妨害しておいてくれ! ランク2以内の魔道具なら、好きなのを使っていい!』
『分かりました!』
ランクというのは、魔法が龍脈に与える影響の大きさを表す数字だ。
元々魔法にそういうのが設定されている訳ではなく、俺が勝手に『これはランク1,これはランク2』とか言ってるだけだが。
俺が教えている魔法は、適当に使うと大災害を起こしてしまうようなものもあるからな。
こういう時、使ってはいけない魔法を1個ずつ指定すると時間がかかるので、ランクで分類して短縮しようという訳だ。
そうやって指示を出しつつ、迷宮を進むうち――俺は、自然の迷宮とは決定的に違う階層へとたどり着いた。
俺が今いるのは、第31層。
本来であれば、まだまだ迷宮は先へと続いているはずだ。
だが――この第31層には、下へと続く道が存在しなかった。
「さて……ここからが本番か」
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