第159話 最強賢者、風を操る
「さて、集まった魔物を殲滅するぞ!」
魔物が十分集まったのを見て、俺はルリイたち3人に宣言した。
集まった魔物達は、人が大勢集まっている迷宮都市に夢中のようで、壁から離れようとしない。
普通であれば、絶好の攻撃チャンスなのだが……今の場面だと、数が多すぎて普通の攻撃では倒しきれないだろう。
そこで……いくらでも魔力がある奴の出番である。
「イリス」
「はい! ……もしかして、アレをやるんですか?」
俺に呼ばれたイリスは、そう言って翼を広げるようなジェスチャーをする。
恐らく、竜の姿になってブレスを撃つのかと聞きたいのだろうが……そうではない。
ブレスを撃つのは今のイリスだと負担が大きいし、街を巻き込んでしまうからな。
「違う。使って欲しいのは、普通の炎魔法だ。ただ炎をまき散らすタイプのな」
そう言って俺は、小さく炎を出してみせる。
火球系の魔法のような単発の炎ではなく、連続して出続ける炎だ。
「……大丈夫ですか? 制御、効きませんよ?」
「ああ。ルリイ、あれは完成したか?」
「ええっと、結構複雑ですねこれ……」
魔石に手を当てながら、ルリイが呟く。
俺がルリイに作ってもらっているのは、大型の結界だ。
強度はそれほどでもないが、範囲を広くしてある。
全員とは言わないまでも、ほとんどの魔物を範囲内に収めないといけない訳だからな。
「できました!」
「助かる!」
そう言って俺は、ルリイから受け取った魔石を起動しながら、魔物の群れのど真ん中に放り込む。
ギリギリ、結界内部には街が入り込まない形だ。
そして……この結界には、もう一つ特徴がある。
「おい、なんか、外に結界が張られたぞ!」
「あれ……本当に結界か?」
「魔物が素通りしてるぞ!」
外壁の上に登って魔物の様子をうかがっていた冒険者たちが、展開された結界を見て声を上げた。
そう。この結界は、魔物に対しては全く影響を及ぼさないのだ。
「あの……もしかして、結界作りに失敗しちゃいましたか?」
結界の様子を見て、ルリイが心配そうに聞く。
だが、大丈夫だ。これで合っている。
そもそも、この数の魔物を結界ではじき返そうと思ったら、さっきのとは桁外れに大きい魔石が必要になるからな。
「これで準備は完了だ。イリス、俺が『今だ!』って言ったら、最大出力の炎魔法を、向こうに向かって放ち続けてくれ」
「分かりました! 全力でやっちゃっていいんですね!?」
「ああ。念のためだが……その姿で出せる全力で頼むぞ」
いくら結界が壊れないように調整するって言っても、竜の姿のイリス相手じゃ焼け石に水だからな。
技術がどうこう以前に、あのサイズの魔石とドラゴンじゃ出力が違い過ぎるし。
そうして、イリスとの位置関係を調整しながら、俺は結界の中に立つ。
「おい、そんな魔物の群れの中に突っ込んで、大丈夫なのか!?」
「大丈夫だ、浮いてるからな!」
魔物がひしめく結界へと飛び込んだ俺を見ていた冒険者が心配してくれるが、俺はそう叫んで心配ないと伝える。
よく考えてみると、こんなに人が多い場所で戦うのは久しぶりだな。
まあ、人がいっぱい集まっているのは塀の中なので、俺達の戦いが見える場所にいるのは、塀の上に立っている10人ちょっとだが。
「と……飛んでる!?」
「まさか、飛行魔法か?」
「いや、空中に立ってるみたいだ」
「あのマティアスって、例の化け物みたいな実力の治癒魔法使いだよな? 何であんなところにいるんだ?」
空中に立っただけで、この反応か……。
今まで聞いてみたことはなかったが、今の世界って、飛行魔法もないんだな。
流石に、第二学園生がいっぱいいる王都では、こんな反応にならない気がするが……人類を衰退させる手として、詠唱魔法を広めた作戦は、大成功だったようだ。
そんなことを考えつつ、俺は風魔法を起動する。
この結界の目的は、風を遮断することなのだ。
その中で、うまく調整しながら風を起こすことで、俺は結界の中に空気の渦を作り出す。
そのついでに、細かく粉砕した木片や、小麦粉もばらまいておいた。
「今だ!」
そして俺は、イリスに指示を出しながら、結界の外に退避する。
「行きます!」
そう言ってイリスが、結界の中に炎魔法を放ち始めた。
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