第156話 最強賢者、壁を固める
「別の方法?」
「ああ。魔物を集めるには、魔物の知覚をだますのが一番手っ取り早いんだが……それ以外にも、方法はあるからな。幸い、魔物が何を追いかけているのかは、大体見えてきたし」
「傾向?」
「ああ。簡単に言うと、こいつらは人間の多い場所に向かってるんだ」
今ここにいる魔物達の行動原理には、1つのルールが見える。
それは、この魔物達が、人間の多い場所に向かっているということだ。
人の多い場所には多い数の魔物が、人の少ない場所には少ない数の魔物が向かっている。
距離はあまり関係ないらしく、多少遠くても、人が多い場所のほうが優先のようだ。
実際、俺達に向かってくる魔物はせいぜい10匹ほどで、残りの魔物は俺のすぐ近くを素通りしていくことさえある。
まあ、一番人が多いはずの王都に向かっていかないところをみると、流石に遠すぎると反応はしないようだが。
「人の多い場所に……それって、いくら手前で戦って足止めしようとしても、魔物は冒険者を無視して町の方に向かうってことですか!?」
「そういうことだ。ついでに言うと、迷宮都市だからって、住民が冒険者ばっかりだって訳じゃない。街の外に人を集めておびき寄せるってのも、現実的じゃないな」
「……魔法で外壁の一点を強化して、その近くに住民を集めれば、壁の向こう側には魔物が集まるだろ? そこに罠を仕掛けておけば、魔物を一網打尽にできる。……急ぐぞ!」
そう言って俺は、迷宮都市に向かって引き返す。
幸い、魔物の多くは、そこまで脚が速くないようだ。
今から走って引き返せば、都市の外壁が崩されるより前に準備を終えられるだろう。
それから、少し後。
俺達は、迷宮都市の外壁へとたどり着いていた。
魔力反応を見る限り、まだ迷宮都市へとたどり着いた魔物は多くないようで、何とか食い止められている雰囲気だな。
「このあたりが、一番人を集めやすい。ここに罠を仕掛けるぞ! アルマとイリスは、邪魔されないように近付く魔物を蹴散らしてくれ!」
「はい!」
「分かった!」
「罠……どんな魔法を使えばいいですか!」
俺が場所を指定すると、ルリイが魔石を取り出して聞く。
いくら魔物が微妙な強さでも、数が多すぎるので、普通の攻撃用魔法では倒しきれないだろう。
ここは、あの魔法を使うべきか。
「そうだな……これを使ってくれ。魔石もその小さいやつじゃなくて、こっちだな」
そう言って俺は、結界魔法の一種の魔法陣を地面に描きながら、そこそこのサイズの魔石をいくつかルリイに渡す。
結界で囲った空間の中に攻撃魔法を放つと、威力を閉じ込めて殺傷力を上げることができるのだ。
「わ、分かりました!」
ルリイが魔法を付与する間に、俺は近くの壁に触る。
町の外壁は、木の骨組みをベースに、土などを盛って固めたものだな。
このままだと、多くの魔物が集まれば簡単に壊されてしまう。
そこまで考えたところで、俺は再度、魔物たちの魔力反応を観察する。
魔力の様子を見て、壁に掛かる負荷を予測するのだ。
適当に強化しても耐えてはくれるだろうが、できるだけ魔力は温存したいからな。
「まあ、こんなもんか」
ちょうどルリイの魔道具が完成する頃、壁の強化が完成した。
壁の土を魔法でいったん溶かして、強く結合させたのだ。
これでとりあえず、魔物には耐えてくれるだろう。
攻撃魔法を撃つ時、表面くらいは削れるかもしれないが。
さて……これで、下準備は完了だな。
あとは、このあたりに人を集めればいい訳だが……残念ながらこのあたりは、町中の人を集められるほど広くはない。
よし。
……とりあえず、建物でもどけるか。
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