第155話 最強賢者、珍しい魔物に遭遇する
エイクを脱出させてから、数分後。
「街の周囲に、魔物の大群が!」
「西の道はダメだ! 東はどうだ! いる魔物が少ないなら、無理矢理にでも――」
「東の街道も、魔物でいっぱいです! とても突破できません!」
街の中は、大騒ぎになっていた。
街の周囲が魔物によって囲まれているという情報が伝わったのだ。
脱出ルートを探す冒険者もいたが、見つけられていないようだ。
仮にそんなものがあったとしても、避難できるのは数十人がせいぜいだが。
そんな様子を見ながら、俺達は街を出る。
「大発生を2時間で片付けるって、どうやるんですか!?」
「一カ所に集めて、一気に殲滅する! 敵が集まってれば、範囲系の魔法でまとめて吹き飛ばせるからな!」
今回の場合、大発生の中心部に街があるのが一番の問題だ。
街を巻き込む心配さえなければ、中心に集まってきたところを、大規模魔法(出力が足りない場合は、竜になったイリスのブレス)で吹き飛ばせば、それでおしまいなのだが。
そんなことを考えながら、俺達は街から離れるように走る。
魔物を集めるのは、できれば街を巻き込まないような位置にしたいからだ。
だが……なんというか、違和感がある。
普通の魔物と、今回大発生した魔物は、動き……というか、行動の傾向が違う気がするのだ。
基本的に、普通の魔物には、人間を見れば追いかける習性がある。
だが俺達が今目の前にしている魔物は、違う気がするのだ。
明らかに俺達を視界に入れていても、俺達を無視する魔物がやたらと多い。
「……試してみるか」
そう言って俺は、試しに『強制探知』を使ってみる。
予感は的中した。
「……これ、『強制探知』で引っ張れないな。というか、全く反応すらしない」
『強制探知』は、魔物に向かって敵対的な魔力を浴びせることで、魔物をおびき寄せる魔法だ。
魔力消費が少なく、魔法ではなく魔力操作の一種であるため、失格紋でも広範囲に影響を及ぼすことができる。
だが魔物達は、『強制探知』に対して、全く反応しない。
試しに、普通の魔物であれば逆に恐れをなして逃げ出すほどの量の魔力をぶつけてみても、気付いた様子さえないのだ。
「じゃあ、これで……」
そう言ってルリイが、ポケットに入っていた魔石から魔道具を作り、即座に起動する。
以前に教えていた、敵を集めるための術式だな。
範囲はそこまで広くないが、魔道具であるため魔力を使わずに維持できるのが利点の魔法だ。
だが……魔物が集まってくる様子はない。
「効果がないです! 組み方を間違えたかもしれません!」
そう言いながら、ルリイがもう一つ魔石を取り出そうとする。
しかし俺が見た限り、ルリイが組んだ術式は間違っていなかった。
「もしかして……」
俺はそう言いながら前に出て、思いついた魔物収集系の魔法をいくつか使ってみる。
魔力、音、光、赤外線、温度、二酸化炭素濃度……
普通の魔物が人間を探知するのに使うようなものを偽装する魔法を、片っ端から起動したのだ。
だが、どれもまったく反応がない。
物理的に引き寄せる魔法は効くようだが、魔物を自発的に移動させるような魔法は、一つも効かないらしい。
それどころか、俺の存在を完全に無視して、横を素通りしようとする魔物までいる始末だ。
これは……ルリイの術式がどうとかじゃなくて、もっと根本的な理由だ。
「多分こいつら、普通とは違う原理で動いてるな……」
「違う原理!?」
「ああ。こいつらが見てるのは、魔力でも音でも光でもない! ……これは、別の方法で集める必要がありそうだな……」
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