第154話 最強賢者、脱出させる
「……魔族が、迷宮に……? まさか魔族が、魔石をほしがっているとでも?」
俺の言葉に、エイクが聞く。
そうか、今の世界だと、迷宮イコール魔石って認識なのか。
確かに迷宮は資源としても重要だが、それだけではないのに。
「連中が興味があるのは、魔石じゃなくて……龍脈です」
「……龍脈……ですか?」
「世界規模の災害を起こそうとすれば、大規模な龍脈に魔法でも仕込むのが一番手っ取り早いですからね」
そう言われても、エイクはピンと来ていないようだ。
結界の件とかで龍脈に触れているルリイ達は、なんとなく事態を理解できているようだが。
「龍脈に魔法を仕込むと、災害が起きるんですか?」
「大体、そんなところです」
もっとも、俺の予想では、魔法は以前から仕込まれていたと言う方が正しい。
それも、かなり昔に。
王都で魔物が大発生したときの龍脈の動きは、細工でもなければあり得ないほどに不自然だったが、魔力が不安定なようには見えなかったからな。
龍脈に魔法が仕込まれたのが最近であれば、魔力ももっと不安定なはずだ。
おおかた今いる魔族は、その魔法の仕上げでもしに来たのだろう。
とりあえず……王都に連絡する必要はありそうだな。
「これを、王都に持って行ってください」
そう言って俺は、収納魔法に入っていた紙に魔法で文字を書き込み、エイクに渡す。
もちろん、魔法によるのぞき見の対策もしてある。
のぞき見ようとする魔族には、この手紙がもらった手紙に対するお礼に見えることだろう。
「……分かりました。必ず届けます!」
「お願いします。……それと、急いだ方がいいかもしれません」
領主が倒されたことには、魔族も当然気付いていることだろう。
そうなれば、ここに潜り込んでいる魔族は、当然次の手を打ってくる。
連中としては、迷宮への注目を他に向けるか、迷宮都市ごと消したいところだろうから――
――そこまで考えたところで、地面が揺れた。
「……地震ですか? 珍しいですね……」
突然の揺れに、イリスが不思議そうな声を上げる。
だが、アルマとルリイ……つまり【受動探知】を使える二人の反応は違った。
「なっ、何この魔力反応!?」
「……まるで、街の外が魔物に囲まれているみたいな……」
なるほど。こう来たか。
どうやら向こうの方が、俺達よりちょっとだけ先に動いたらしい。
この反応を見る限り……龍脈に干渉して、迷宮都市の周囲に、まとめて魔物を召喚したのだろう。
迷宮都市さえ滅ぼせば、俺達に余計なちょっかいをかけられる心配はないからな。
そうでなくても、時間は稼げる。
魔族の狙いは、その間に魔法の仕上げをすることだろう。
向こうが今まで動かなかったのは、準備を万全にしてから勝負をかけたかった、ということなのだろうが……領主が迷宮都市につけば、やりにくくなるからな。
「……とりあえず、このルートから迷宮都市を脱出して、手紙を王都に届けてください」
そう言って俺は、紙に一つのルートを書き込んで、エイクに手渡す。
迷宮都市が魔物に囲まれているとはいっても、召喚に魔力が必要な以上配置にムラはある。
今渡したのは、その合間を縫って脱出できるルートだ。
「分かりました! では失礼します!」
そう言ってエイクは、駆けだしていった。
その様子を見ながら、俺は敵の動きの予想を立てる。
向こうが、稼いだ時間で以前に仕込まれた魔法の仕上げをするということまでは、ほぼ確定とみていい。
魔法の種類も、大体の見当がついている。
問題は、どうやって止めればいいかだな。
どうせなら、ただ止めるだけではなく、以前に仕込まれた魔法の効果も削りたいところだ。
そう考えれると、妨害を入れるべきタイミングは……。
「……2時間だな」
「え?」
きょとんとした顔で聞き返すルリイに、俺は答える。
「今から2時間で、この大発生を片付ける。その後で……魔族の邪魔をしに行こう」
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