英国の欧州連合(EU)からの離脱を急ぐジョンソン首相は議会を閉会、議会は離脱を延期させる法を成立させ対抗した。延期で得られる猶予期間を生かし、衝撃を和らげる方策を探りたい。
離脱延期法は、EUとの離脱協定案を議会が十月十九日までに承認しなかった場合、離脱期限を十月末から来年一月末までに延期することを政府に義務付ける。最大野党・労働党が取りまとめ、ジョンソン氏の強権姿勢に反発した与党・保守党の二十一議員が造反して下院を通過した。英議会の良識が働いたと評価したい。
議会は今月十日から来月十三日まで約五週間、閉会される。異論を封殺するかのごときジョンソン氏の専横ぶりは目に余る。さらに、主導権を強めるため、二回にわたり解散総選挙を提案したが、いずれも必要な賛成(定数の三分の二以上)は得られなかった。
造反議員追放で与党は下院で半数を大きく割り込んだ。ジョンソン氏のもくろみは裏目に出た。
もはや、政府だけで強引に進められる状況ではない。野党も含め、話し合いで最善の道を探っていくべきだ。
「合意なき離脱」も辞さないと強調していたジョンソン氏だが、現実にそうなれば「国政の失敗」とも述べ主張を軟化させている。
下院の求めで政府が公表した内部文書によると、合意なき離脱により、新鮮な食料や医薬品の供給が滞って低所得者層を直撃、社会不安も広がる。英領北アイルランドと地続きのEU加盟国アイルランドとの間で、対立や紛争が再燃する恐れもある。影響は欧州全体、日本を含めた世界経済にも及ぶ。衝撃は計り知れず、絶対に避けなければならない。
英国がEUの関税同盟に残る余地も残したメイ前政権の離脱協定案に不満ならば、ジョンソン氏は代案を出すべきだ。
再提案や交渉になお時間が必要なら、離脱期限をさらに延期すればいい。
国民投票から三年以上たっても離脱が進まないのは、離脱そのものに無理があるからではないか。
離脱で本当にいいのか、民意を問い直すことも考えてはどうか。ジョンソン氏の英断を求めたい。
英国の離脱延期には他のEU加盟国の同意が必要だ。英国に振り回され続けているEUだが、交渉には寛容に臨んでほしい。
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