2019年は早くも半年が経過しました。何かと騒がしかった2018年と比べ、今年の不動産市場はやや活気が無いように思える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それもそのはず、実はこのところ不動産市場に変化が表れ始めています。しかもマイナス要因と取れる変化です。多くの方が「消費税増税前の駆け込み需要はあったのか」「オリンピックや大阪万博を前に不動産市場がどう変化していくか」は気になる点ではないでしょうか。
この記事ではまず、「マンション市場」「証券化不動産市場」「賃貸市場」「住宅着工数」の4つに表れた変化をご紹介します。その上で今後の不動産市場の見通しなどを様々なデータから考察していきます。
【売買市場】新築発売戸数と中古マンション成約件数にみる需要の変化
2019年7月、「首都圏マンション市場動向2019年(上半期)」を不動産経済研究所が公表しました。報告内容によると、2019年1~6月までのマンション発売戸数は1万3,436戸と3年ぶりの低水準とのこと。
【参考】株式会社不動産経済研究所
※株式会社不動産経済研究所のデータを基に筆者作成
過去データは公開されていませんが、実は今回判明した1万3,436戸という数字は1992年以来の低水準だとも報じられています。1992年と言えば、日本のバブルが崩壊した直後の水準です。また同資料では、総契約戸数が前年比4.3%減の1万5,550戸だったとも伝えられています。昨今の首都圏マンションは明らかに価格が高騰していましたが、今になって反動が表れ始めた印象です。
対する中古マンション市場はどうでしょうか。東日本不動産流通機構が毎月公表しているマーケットデータによると、先月の成約件数は3,490件(前年比5.2%増/前月比27.0%増)。売中古マンションとして新規登録された件数は1万7,301件(前年比▲1.0%/前月比9.7%増)と、それほど変化は見られません。ただ、2001年からのデータをグラフ化すると興味深い事実が浮かび上がります。
【参考】公益財団法人東日本不動産流通機構
※公益財団法人東日本不動産流通機構のデータを基に筆者作成
上のグラフは2001年1月からの首都圏中古マンションの成約件数です。約20年の間に中古マンションの成約件数が確実に底上げされているのが分かります。さらに、2019年3月から4月にかけては4,117件という最多件数を更新している状況です。
新築の発売戸数が27年ぶりの低水準。そして現状までに中古マンションの需要が確実に伸びてきた事実。日本の不動産需要が、新築から中古へ確実にシフトしている証左と言えるのではないでしょうか。
【J-REIT】海外勢による証券化不動産の売買に大きな変化
売買市場と言えばJ-REITも重要です。日本の不動産市場は約200兆円規模。対するJ-REITは2019年6月の時点で27兆円の売り買いがあります。不動産市場全体で考えると決して大きな規模ではありませんが、J-REITは不動産市場の動向を見る一つの指標です。
特に気になるのが、法人の海外投資家による売買です。東京オリンピックが決定してから海外投資家による日本不動産への投資が増えたと言われていました。ただJ-REIT市場では、下のグラフを見る限りほとんど変化がありません。
【参考】JPX 日本取引所グループ
※JPXの市場データを基に筆者作成
2016年前半には60万口近く買い越した月もありましたが、全体的には売り買いが拮抗している状態。世間が言うほど海外資金は日本の不動産市場には流れていないのが分かります。気になるのは、ここ最近の荒い動き。2018年6月に急激に買われ、すぐに売買口数は急減。その後も売買口数は乱高下しています。
そして2019年4月には売り買い差し引き40万口を超える大幅な売りがあり、直近6月の時点でもまだしっかり買い戻されていない状況です。2019年から2020年は、消費税増税やオリンピック開催を間近に控えて不動産市場に何らかの変化が訪れると多くのメディアが伝えてきました。それは住宅市場だけでなく、J-REITなどの証券化不動産の市場も同じなのかもしれません。
【賃貸市場】首都圏の賃貸成約数が大幅減少の異常事態
賃貸市場にもここ最近で大きな変化が見られます。不動産ポータルサイトを運営するアットホーム株式会社は毎月「首都圏の居住用賃貸物件成約動向」を発表しています。レポートでは同社のネットワークに登録された賃貸物件の成約数を知ることができますが、過去10年分のデータをグラフ化してみました。
【参考】アットホーム株式会社
※アットホーム株式会社のデータを基に筆者作成
2009年5月以降から徐々に賃貸物件の成約数は伸びていました。しかし2019年の引っ越しシーズンは、前年より約4000件も成約数が減っています。更に2019年5月には1万3,783件と2010年以来の低水準です。明らかに賃貸物件の成約数が減っています。直近の件数こそ1万4,973件と前月比では増加したものの、実は前年比だと7ヶ月連続で減少しているのです。
もう一つグラフから読み取れるのが「引っ越し難民」という言葉をよく耳にするようになった2016年の成約件数が大きく減少している点。2019年に再度大幅に減少した賃貸市場ですが、原因は引っ越し業者の人員不足や働き方改革による転勤族の減少など様々な憶測が飛び交っています。どちらにしても、マンション市場だけでなく賃貸市場にも何やら妙な変化が表れ始めたのは事実です。
【住宅着工数】貸家の着工数が9ヶ月連続の減少
そして最後にご覧いただきたいのが建築着工統計調査における住宅着工統計です。国土交通省の報告によると、貸家の建築着工数がなんと9ヶ月連続で減少とのこと。持ち家の着工数こそ増えたものの、分譲住宅については2か月連続の減少だとしています。
【出典】e-Stat 建築着工統計調査
上のグラフは季節要因を取り除く調整を行った後の住宅の建築着工戸数です。まず目に付くのが貸家の着工戸数が着実に減り続けている点。2017年前半をピークに少しずつ着工数が減り続けています。また、これまで各メディアでは相続税法の改正によりアパートが増加したと言われていましたが、確かに相続税法が改正された2015年(平成27年)頃から貸家は増加したものの、着工数を見る限り、2017年(平成29年)にアパートの着工数はピークを迎え、既に減少が始まっていたことが分かります。
今後の不動産市場の変化と動向
ここまで「マンション市場」「J-REIT」「賃貸市場」「住宅着工数」と見てきましたが、どのデータもここ最近で何らかの変化が表れていました。しかもポジティヴな内容とは言い難い変化です。2019年10月の消費税増税による駆け込み需要も見込まれていましたが、ここまでにご紹介したデータでは駆け込み需要らしき動きは見られません。強いて言えば、持家と分譲住宅の需要が若干伸びたといったところでしょう。
むしろ新築マンションの発売戸数や賃貸の成約件数などが大幅に減少しているのを見ると、「消費マインドが低下している」と言った方が適切とも言えます。貸家の着工数減少からは、少なくとも不動産投資市場が冷え込んできたのは確実だと言えるでしょう。また、2019年6月に野村総合研究所が公表した資料によると、今後住宅の着工数は以下のように変化すると予測しています。
【出典】株式会社野村総合研究所「新設住宅着工戸数の実績と予測結果(利用関係別)」
上のような予測となった主な理由は、やはり人口減少や増え続けた住宅ストック。つまり今後、一方的に新築住宅が増え続けるとは考えづらいのです。すると、今後の住宅需要はやはり中古住宅に関心が向くのではないかと考えられます。事実、最初にご紹介した中古マンション市場の成約数は、確実に増え続けていました。更に野村総合研究所は、「リフォーム市場」について下のグラフのような予想をしています。
【出典】株式会社野村総合研究所「新設住宅着工戸数の実績と予測結果(利用関係別)」
上のグラフの「狭義」「広義」の意味は以下の通りです。
- 狭義のリフォーム市場規模
- 住宅着工統計上の増築・改築にあたる工事、また設備等の修繕維持費
- 広義のリフォーム市場規模
- 狭義のリフォームにエアコンや家具、インテリアなどの購入を含めた費用
これを見る限り、どちらの市場も伸び続けていく予想です。つまり、今後の不動産市場は「新築住宅よりもリフォームを含めた中古住宅市場が盛り上がっていく」と考えられます。ただ、2019年に公表された住宅・土地統計調査によれば全国の空き家数は約850万戸。いくら中古住宅に需要が集まっても、空き家の増加問題が解消と言える状況になるまでにかなりの時間を要するでしょう。むしろ空き家問題はさらに悪化する懸念すらあります。
2020年の東京オリンピックが終われば、今度は2025年に大阪万博を控える日本の不動産市場。オリンピック終了と同時に不動産市場から人が消えるのか、もしくは外国人観光客を始めとしたインバウンド需要を見込んだ動きを継続していくのか。今年2019年から2020年は、不動産市場の今後を占う大事な節目になるかもしれません。
Source: 不動産投資を考えるメディア
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