「とりあえず、こんな感じか」

俺は、迫るヴォイド・イーターの腕の軌道に剣を突き出し、魔石を砕いて【特殊魔力エンチャント】を付与する。

そして剣の後ろ側にそこそこ頑丈な結界魔法を張り、剣に他のエンチャントを付与する。

――その直後、ヴォイド・イーターの腕が、剣へと突っ込んだ。

轟音とともに結界が一瞬で砕け散り、結界のあった空間をヴォイド・イーターの腕が通り抜け――宙を舞った。

「……ガ？」

ヴォイド・イーターが、何が起きたのか分からないとでも言うような表情で、自分の腕を見つめる。

その腕には、肘から先がなかった。

「もうちょっと、強めでもよかったか」

言いながら、俺は剣の様子を確認する。

剣には刃こぼれもないし、重心のずれもない。

強度は十分なようだ。

「う、腕を一撃で……なに今の！？」

地上に降り立った俺に、遠くからアルマが声をかける。

「結界を使って、一瞬だけ剣を支えたんだ。大威力の攻撃にも、カウンターを決めやすくなる」

……とは言っても、ぱっと見単純なようで、実は色々と調整が面倒な方法なのだが。

結界が弱すぎると意味がないし、強すぎると今度は剣にダメージを与えてしまう。

敵が巨大で硬い場合以外には、あまり使い道のない技だな。

「カウンターって、魔物相手にも使えるんだね……」

「むしろ動きが単純だから、人間相手より決めやすいぞ。力が強いせいで、そこだけ注意が必要だけどな」

相手が人間だったら、攻撃の軌道を読み切って剣を先に置いておこうとすると、まずは相手の戦い方を見極めないといけないからな。

魔物の場合は、魔力や筋肉の動き方を見ていれば、何となく分かる。

「いや、ふつう魔物のパワーなんて、気をつけたってなんとかならないからね！？」

「しかも相手は、あの大きさですし……」

腕を一本失ったヴォイド・イーターを見上げながら、ルリイが言う。

「そうでしょうか？　力だけならそんなに……」

「ああ。力だけの魔物だったら、対処はいくらでもある」

これが本当に強い相手だと、たとえ魔物でもある程度の知能を持って戦ってくるから厄介なのだが。

ちなみに、そういう相手のほうが戦っていて楽しい。

いくら力が強くても、知能のない相手だと戦いが単純になるからな。

「ダメだこの人達。基準が壊れてる……」

「イリスさんに至っては、人というかドラゴンですけどね……」

そんな話をしながらも、俺は再生して振るわれた腕を、結界つきの剣で受け止めて切り落とす。

腕というよりは、前脚なのかもしれないが。

うん。やはり単純だ。

開けた場所とはいえ【特殊魔力エンチャント】を安全に使えるのは５回程度だろうが、別に限界まで使う必要はなさそうだな。

実際、大きい部位を２回も再生させたせいで、ヴォイド・イーターもだいぶ消耗してきているようだ。

――そして。

「イリス、そろそろいけそうか？」

そう言って俺は、イリスに視線を送る。

これは質問というより、確認だ。

魔力の反応などから、先ほどまでイリスの攻撃を受けていたヴォイド・イーターの後ろ脚が限界を迎えようとしているのは、すでに分かっている。

剣によるカウンターのように一撃で腕を落としたりはできないが、イリスの槍も、かなりの威力だからな。

「はい！すぐにでも落とせます！　多分！」

「よし、こいつの次の攻撃と同時に行くぞ！」

「分かりました！」

俺達が相談をまとめた矢先、ヴォイド・イーターの腕が動きを見せた。

「来るぞ、今だ！」