第123話 最強賢者、ヘイトを稼ぐ
「あ、あれ……何ですか?」
「ちょ……ちょっと、大きすぎない?」
ヴォイド・イーターが魔物(と、俺が餌としてやった魔石)を吸収して出来上がった魔物を見て、ルリイとアルマが戸惑ったような声を上げる。
「色々混ざってできた物だから、明確なモデルはないが……強いて言えば、虎に近いか」
言って俺は、完成した魔物を観察する。
その魔物は大きい爪と牙を持った、虎のような形の魔物だった。
但し体の大きさは、そこらの魔物とは比べものにならない。
下手をすると、イリスの本来の姿より大きいくらいだ。
素材となった魔物は四足歩行型が多かったので、こんな形になったのだろう。
俺が餌としてやった魔石も、そういうタイプが多かったし。
……うん。
「な? いい感じだろ?」
ヴォイド・イーターの姿を見終わって、俺は満足して頷いた。
ちなみに向こうは形成が終わったばかりなせいか、まだ俺達を攻撃する気はないようだ。
一応、魔法などを使っての隠蔽もしているので、見つかる心配もない。
「いい感じって……何がですか?」
「そうだな……例えば、爪とか牙とかだ。色々混ぜたおかげで特定の魔物の性質に偏っていないから、扱いやすい」
金属の剣とは特徴が少し違うので、この間作った剣の代わりにはならないだろうが、これはこれで利点がある。
相手になる魔物や使い方によっては、かなりの効果を発揮するだろう。
「倒してもないのに、素材の話!?」
「いや、それだけじゃない。腕とかの魔力の流れが、かなり太くて安定している。あれはいい魔物だぞ。経験値もかなり入るはずだ」
「強いのを喜ぶって……完全に、倒せる前提なんだね……」
俺の言葉を聞いて、アルマが呆れたような声を上げる。
確かに、倒してもいないのに素材や経験値の話をするのは少し気が早かったかもしれない。
……ということで。
「よし。倒すぞ」
そう言って俺は、前へと走り始める。
「わ、私達はどうすればいいですか!」
「アルマとルリイは距離を取って、いつも通り矢を射ってくれ! イリスは近付いて、脚あたりを攻撃してくれ!」
言いながら俺は、足下に張った結界を蹴って高度を上げる。
流石にこのサイズが相手だと、適当に攻撃したところでロクなダメージが入らない。
イリスの攻撃が脚に効いてくるのも、時間がかかるだろう。
だから、手っ取り早い方法を使う。
俺は背中側から、音を立てないようにヴォイド・イーターの頭上に出る。
そして一気に顔の前へ出ると、強化魔法を大量に乗せた剣を目へと叩き込む。
「ギャアアアアアアアアァァァ!」
片目を潰されたヴォイド・イーターが、苦痛の叫びを上げた。
苦痛の声はすぐに怒りに変わり、俺に殺意のこもった目が向けられる。
――狙い通り。
ヴォイド・イーターは、もともと不定形の魔物だ。
形が固まった後だと、体の構造そのものを根本から作り直すようなことはできないが、今でも潰された目を再生させるくらいはできる。
しかし、形を固めた後での再生は、急激にヴォイド・イーターの体力を奪う。
再生させる部位が、大きければ大きいほど。
だから、大きくて切断しやすい部位は狙い目だ。
――たとえば、腕とか。
「ガアアアアアアァァァ!」
空中に立つ俺に、ヴォイド・イーターの腕が振り下ろされる。
ヴォイド・イーターは、その大きさに似合わず俊敏だ。
最高速となる腕の先端付近は、音速近くにまで達するはずだ。
――これからヴォイド・イーターは、自分の攻撃の威力を、存分に理解することになるだろう。
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