第122話 最強賢者、進化を手伝う
「チャンス……ですか?」
「ああ。この戦闘で一番大変なのは、敵を逃がさないで戦うことだからな」
最初に比べれば勢いは弱まっているが、相変わらず魔物は湧き続けている。
魔力が減っていく中で、これを閉じこめ続けるのは、なかなか骨が折れる。
それを一匹にまとめて強くなってくれるのに、邪魔をするなどとんでもない。
「あの……ワタシもなんか、引っ張られてる気がするんですけど……」
魔物が吸い込まれていくのを見ながら、イリスがそんな声を上げる。
イリスの髪が、ヴォイド・イーターのほうに向かってなびいていた。
「……吸い込まれそうな感じか?」
「んー。そんな感じは、全然しないんですよねー。頑張って引っ張ろうとしてるのは伝わってくるんですけど……」
「だろうな。イリスを吸収できるほど、こいつは強くないからな」
いくら人化しているとは言っても、イリスは竜だ。
迷宮に出てきたような下級竜ならともかく、イリスを吸収できる魔物などほとんどいないし、もしその類の魔物が出現していれば、王都付近の魔物はとっくに全滅している。
明日には、この国も滅んでいるだろう。
「とか言ってるうちに、向こうも大分仕上がってきたみたいだな。こっちも、そろそろ手を出すか」
そう言って俺は、収納魔法から魔石を取り出す。
「魔石……付与ですか?」
それを見てルリイが、俺に聞く。
当たりだ。
「ああ。付与する前に持って行かれないように気をつけてくれ」
そう言って俺は魔石と、魔法陣を書いた紙を手渡す。
「持っていかれる……?」
怪訝な顔をしながらルリイが魔石を受け取り――驚いたような声を上げた。
「何か、引っ張られてます!」
「あいつが引っ張ってるのは、魔物の魔石だからな」
ちなみに、人化した竜の魔石がどこにあるのかは、俺もよく知らない。
魔力の雰囲気からすると、魔石としての形をなくして、全身に分散しているような気がする。
そんなことを話しながらも、付与が完成する。
「できましたけど……これをどうするんですか?」
「投げつける」
「投げ……あれにですか?」
「ああ。適当に投げればいい」
その言葉を聞いて、ルリイは魔石を振りかぶって、前へと投げる。
「えいっ!」
すると魔石は、真っ直ぐにヴォイド・イーターの方へ飛んでいき……そのまま、吸い込まれていった。
「なんか、吸い込まれちゃいましたけど……作り直しですか?」
「いや、あれでいい。吸収型の魔物は放っておくと歪に進化して、よく分からない生き物になってしまうからな。あの魔石で方向性を固定して、安定して進化できるようにしてやるんだ」
そう言いながらも俺は、魔物の様子を観察する。
どうやら進化は、上手くいっているようだ。
よしよし。沢山食べて大きく育てよ。
「ああいう魔物は普通、倒してもロクに素材が取れないんだ。でもああやって安定させてやれば、素材が取れる。……どうせ倒すなら、そっちのほうがいいだろ?」
あと、戦ってて楽しい。
変に進化してまともに戦えない魔物なんて、倒してもつまらないからな。
「あ、倒せるのは最初から前提条件なんですね……」
「当然だ。……ってことで、もうちょっと足そう」
そう言って俺は、収納魔法から使い道の少ない、質があまり良くない魔石を沢山取り出し、ヴォイド・イーターに投げつける。
その魔石を片っ端から吸い込みながら、ヴォイド・イーターは進化していく。
そして、出現からおよそ二分後。
ヴォイド・イーターの吸収が収まり、形が固まりはじめた。
魔石で進化を手伝った甲斐あって、なかなかいい仕上がりだ。
これは期待できそうだな。
書籍版10巻が、【9月15日】に発売します!!
漫画版8巻も、同時発売です!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!