第121話 最強賢者、珍しいものを見つける
「流石に、かなり多いな……」
俺は魔物の出現地点の外周を回るようにして、外へ出て行こうとする魔物を狩る。
第二波の魔物は、一匹たりとも外へ逃がすわけにはいかない。
今の学園や王都の戦力では、それだけで大災害だからだ。
救いなのは、魔物の中に飛行型がいないことだろうか。
いくら結界を蹴ってあちこち飛び回れるとは言っても、上下に移動するとなると、時間のロスが出てくる。
ただでさえ、この数をたった四人で何とかするのは負担が大きいのに、飛行型が加わるとなると面倒だ。
そんなことを考えながら、俺はルリイ達3人の方へ目をやる。
ルリイとアルマはいつも通り、ルリイが作った矢をアルマが撃って戦っているようだ。
使う魔法陣の指示は出していないが、今までルリイに教えた中では、この状況に向いた付与が使われている。
「ルリイ、矢を!」
「はい!」
アルマがルリイから受け取った矢を放つと、矢は猪の魔物を追尾しながら、吸い込まれるように前脚へと突き刺さった。
自分の実力をよく理解した、いい狙いだ。
魔物の頭蓋骨は硬く、いきなり頭を狙っても、とどめを刺すのは難しい。
だが最初に脚を射貫き、機動力を奪えば、次の一射で確実に決められる。
手負いの魔物に襲いかかられる確率も低いし、賢明な選択肢だ。
「そいっ!」
イリスは槍を構えてルリイ達に近付く魔物を倒し、魔物が途切れると、投石で攻撃しているようだ。
ただの投石だとは言っても、そこらの人間が投げるような石とは、訳が違う。
イリスが投げているのは小石ではなく、人間の頭ほどもある岩石なのだから。
そんなものが、地面を踏み砕く勢いで投げられるわけだから、魔物の側もたまったものではない。
吹き飛ばされたり、頭を叩き割られたりして、次々と倒れていく。
投げるペースが早くないせいで、倒す魔物の数はアルマとさほどかわらないが、なんというか、迫力がある。
人間の投石というよりは、攻城兵器として使われる投石機の方が近いだろう。
まあ、イリスが本来の姿で戦ったら、こんなものでは済まないのだが。
ちなみに今回、イリスが本来の姿で戦う予定はない。
後で調べてみたところ、竜と人間の姿を行き来するのも、意外と魔力回路に負担がかかることが分かったため、緊急時以外には控えることになったのだ。
そんな戦闘の中、俺はふと魔物の出現地点に、違和感を覚えた。
そこから魔物が出てきているのは、今まで通りだ。
しかし、でてきた魔物が違う。
「おお。珍しいな、こんなのまで出てくるのか」
ヴォイド・イーター。
俺がマティアスになってからはもちろん、前世でさえ、あまり見たことのない魔物だ。
だが、特徴は分かる。
周囲の魔物を吸い込み、自分の力に変える魔物の一種だ。
この力を持つ魔物は他にもいるが、こいつが特徴的なのは、その対象に見境がないことだ。
ひとたびこいつが現れれば、周囲にいる魔物は全て、こいつの力へと変わることになる。
そういう、とても素敵な魔物だ。
「ま、マティくん! あれ、魔物を吸い込んで、どんどん大きくなってます! 早く止めないと……」
ルリイも、魔物が吸い込まれていることに気付いたのだろう。
俺の姿を見るなり、魔物を吸い込むヴォイド・イーターを指して叫ぶ。
だが……対応のほうは、正解とは言えないな。
「いや、これは止めるべきじゃない。むしろチャンスだ」
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