第120話 最強賢者、撤退を支援する
「やった……か?」
戦闘開始から、しばらく後。
第一波の魔物は、無事に殲滅された。
魔物が弱かったこともあって、特に怪我人などは出なかった。
生徒達の魔力も、半分くらいは残っているようだ。
「おい、あれは何だ!?」
討伐が終わって、少しの後。
目のいい生徒が、魔物の出現場所を指して叫んだ。
最初に魔物が出現したあたりから、猪の魔物が現れたのだ。
「ま……魔物?」
「で、でかいぞ!」
魔力の総量が変わっていないのに、第一波の魔物が弱い。
それはつまり、第二波の魔物が、より強くなるということだ。
この辺は、その時の周囲の魔力状況に左右されるため、その時になってみないと分からない。
戦闘開始の直前まで龍脈付近にいれば、そこまで見ることもできるのだが、今回は俺も召喚場所の近くにいる必要があった。
そのため、ここから何が起きるかは未知数だ。
一つ言えるのは、第二波の魔物は、第一波とは格が違うということだろうか。
今出てきたのは5匹程度だが、それでも第一波の魔物全てを足したより強いだろう。
「落ち着け! 状況は変わっていない! ただ魔物が、少し遅れてきただけだ! 落ち着いて攻撃を仕掛けろ!」
メイラードが、自分の声を魔法で大きくし、部隊に指示を出す。
学園生たちは冷静さを失っておらず、メイラードの声に従って魔法を撃ち込むが――
「なっ……無傷!?」
「嘘だろ……」
「何だ、あの化け物!」
生徒達の魔法は、新しく現れた魔物に傷一つ与えられなかった。
第一波の魔物であれば、ほとんど一撃か、せいぜい二撃程度で倒せていたというのに。
――それだけではない。
「ふ、増えてるぞ!」
第二波の魔物は、当然5匹などではない。
地面からは次々と魔物が沸き出し続ける。
「て、撤退だ! 王都まで退くぞ!」
それを見てメイラードは、すぐに撤退を決めた。
どうやら、リーダーとしての訓練の成果は、ちゃんと出ているようだ。
こういう場面ですぐ判断ができないリーダーは、部隊を全滅に導くからな。
やや冷静さを欠いているのか、拡声魔法の出力が不安定になっているが、部隊全体に伝わる音量は確保できているので、まあ合格点だろう。
「りょ、了解!」
「逃げろおおお!」
指示が下る前から、すでに逃げたそうな顔をしていた学園生たちは、メイラードの言葉にすぐさま従った。
学園生達は、一目散に王都へと走り出す。
「ルリイとアルマは、何か起こるまで結界の中で戦ってくれ。イリス、2人の前衛を頼んだ」
「はい!」
俺は、あらかじめ用意していた結界の中を出る。
出現した魔物のほとんどは、まだ攻撃の動きを見せていない。
しかし最初に出てきた魔物は、攻撃を受け、怒り狂って学園生達の元へと走っていた。
猪だけあって、魔物は足も遅くない。
このペースでは、追いつかれてしまうだろう。
土魔法でも使って足止めの指示を出していれば、撤退の指示としては完璧だったのだが……初めて実戦をするリーダーにそこまでは要求できないので、俺が手を出すことにする。
俺は身体強化を発動し、足下に張った結界を蹴り、ゼロからトップスピードまで加速する。
そのままの勢いで猪へと走り寄って、剣を振った。
音もなく、魔物の首が落ちる。
魔物は、自分が死んだことにさえ気付かないまま、倒れながら転がっていった。
そんな猪の魔物を尻目に、俺は頭上を飛び越え、空中の結界を蹴って地面へと突っ込みながら、二匹目と三匹目をまとめて倒し、更に空中を蹴って、残党へと突っ込み、残った魔物を全滅させた。
――これが失格紋としての、正攻法の集団戦闘だ。
ある程度の力を得た失格紋にとって、地面はあまり意味を持たない。
いくら硬い地面であろうと、地面の強度は有限であり、本気で蹴れば踏み抜いてしまう可能性が高いからだ。
自分で張った結界を足場にした方が、よほど信用できる。
この戦い方の最大のメリットは、魔力消費だ。
使っている攻撃魔法は、剣に乗せる最低限の部分だけなので、非常に燃費がいい。
そうでなければ、俺達だけで第二波と戦おうなどとは考えなかっただろう。
これから戦う魔物は、半端な数ではないのだから。
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