第118話 最強賢者、罠を仕掛ける
「さて。結界は動いたってことで……ちょっと、色々仕込みに行くか」
「仕込み?」
「ああ。魔物が出てくるまえに色々仕掛けておけば、やりやすくなるからな」
そう言って俺は、収納魔法から魔石と、鉄の塊を取り出す。
「仕込みには、これを使う」
「……結界魔法ですか?」
俺が取り出した素材を見て、ルリイはすぐに俺の意図を察したようだ。
だが、その答えは半分くらいしか当たっていない。
「似てるが、ちょっと違うな。地面に仕掛けるのは、探知付きの誘導魔法だ」
「……誘導魔法?」
「ああ。後で魔法陣を教えるけど、魔法を引き寄せる魔道具があるんだ。引き寄せる強さは、魔道具に流す魔力の量で変えられる」
ちなみに、魔法を引き寄せるとはいっても、そこまで大きい出力が出るわけではないので、防御には使いにくい魔法だ。
使われたことが分かれば、対策も簡単だし。
「誘導……それが、罠になるんですか? ……まさかマティくんが魔物の群れの中に入って、ターゲットになるとかじゃないですよね?」
「そういう手も、あるにはあるな」
「あるんだ……」
俺の言葉に、アルマがあきれたような声を出す。
まあ防御魔法を上手く使えば、そこらの魔物の攻撃くらいは防げるからな。
学園生の攻撃魔法も、受け流そうと思えば受け流せるし。
防御力だけで耐えるつもりなら、イリスのほうが適任かもしれないが。
「だが、今回使うのは違う手段だ。この間、魔力を探知する装置を作ったよな? アレに直接、誘導装置を使う」
「そうすると、どうなるんですか?」
「魔物が多い場所は魔力が多くなるから、魔法が引き寄せられることになる。つまり空に向かって撃つだけで、魔法が勝手に敵の密集地帯へと落ちていくんだ」
魔物が多い場所には、多くの魔法が。
少ない場所には、少ない魔法が落ちることになる。
大規模な集団戦闘となると、一人一人にどこを狙うか指示するのは難しいし、射線を通すのも大変だ。
かといって、魔法使いが個人の判断で適当に魔法を撃ったのでは、集団としての強さを生かすことができない。
そこで、この魔道具の出番だ。
ただ戦場にばらまいておくだけで、魔法は自然といい感じに配分されることになる。
ちなみに誘導の細かさは、使う魔道具の数による。
多ければいいというものではないのが、難しいところだが……まあカンで大体なんとかなる。
討ち漏らしが出たら、俺が処理すればいいしな。
「そ、そんなことになるんですか……あれ? ってことはもしかして魔物って、学園生が倒すんですか?」
「ああ。第一波はな」
「第一波?」
俺の言葉に、ルリイは不思議そうな顔をする。
「実は今回の魔物召喚、二波に分かれそうなんだ」
「……二波、ですか?」
「ああ。そのうち第一波は、数だけ多くて敵は弱いと見ている。そっちは訓練も兼ねて、学園生に任せようと思ってな」
今回の対魔族戦で、単体戦闘の基本はつかめただろう。
後は集団戦が分かれば、放っておいても強くなる奴は出てくるはずだ。
……まあ、学園生に第一波を任せる目的は、どちらかというと魔力の節約なのだが。
何か変な事態が起こった時、魔力があるのとないのでは大違いだからな。
第一波の魔物は、第二波に比べて経験値も少ないはずなので、無理して取りに行くほどでもないし。
そんな会話をしつつ、俺達は目的地へとたどり着き、30組ほどの魔道具を設置した。
金属のケースの中に入れて、地面に埋めたので、破壊されることはないだろう。
後は第二波で、何が出てくるかだな。
いい感じに、強い魔物が出てきてくれるといいのだが。
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