第114話 最強賢者、殲滅する
「魔族に化け物と呼ばれる筋合いはない……ぞ!」
そう言って俺は、近くにいた魔族に斬りつける。
「ひぃっ!」
魔族はほとんど戦意を喪失しており、攻撃をかわすでも防ぐでもなく、ただ恐れるように縮こまった状態で首を飛ばされた。
そして、他の魔族は逃げだそうとする。
俺の前で隙を見せるのが嫌らしく、魔族は誰一人として『全力飛翔』を使おうとはしなかった。
――だが、残った5人の魔族は、全て俺の魔法の射程内にいた。
翼を広げて飛び立とうとする魔族たちの背中に、俺は小さい魔法を展開する。
『軽押』。
名前が示すとおり、ただ物を軽く押すだけの、ごく簡単で低威力な魔法だ。
効果時間も短く、普通の戦闘では、打つだけ無駄とも言えるような術式である。
実際、魔族たちが無理に飛んで逃げようとすれば、簡単に抜けられただろう。
だが、そんな魔法を受けて、魔族たちは絶望の表情を浮かべた。
「なっ、結界は壊したはずじゃ――」
そう。
魔族たちは、今の『軽押』を、結界にぶつかったのと勘違いしたのだ。
――もちろん、勘違いするように、タイミングや方向を考えながら発動した訳だが。
「う……うわああああああ!」
結界に囲まれ、追い詰められた(と勘違いした)魔族たちは、唯一の活路を見いだすべく、俺の方へと飛んでくる。
俺に攻撃魔法を撃つ者もいれば、目くらましの魔法を使う者や、剣で斬りつけようとする者もいた。
だが、その程度で何とかなるのであれば、魔族たちはこんな状況になってはいない。
「ぎゃああああああああ!」
「助けて……助けてくれえええええ!」
命乞いをしたり、悲鳴を上げたりする魔族たちを、俺は片っ端から剣と魔法で倒す。
これでは、どっちが悪役か分からないな……。
そんなことを考えながらも、俺は王都上空にいた、14人の魔族を倒し終わった。
「……この体も、最低限は戦えるようになってきたみたいだな」
終わってみると、ずいぶんあっけなかった。
まあ、剣の影響も大きいのだが。
流石に今まで使っていた武器だと、数を倒すのは面倒になってくるし。
「この数の魔族が、一瞬で……?」
「今、消えてなかったか?」
「マティアスって、姿まで消せるのか……」
俺が足場にしていた結界魔法を解除して地面に降りると、こんな声が聞こえ始める。
どうやら地上にいた人々も、さっきの空中からの剣のトリックを見抜けていなかったらしい。
地上からなら、とても見抜きやすいトリックのはずなのだが。
あれは単に『縮地』を応用した魔法で短時間だけ姿を消し、敵を斬ったらすぐに移動して敵の視界から外れる、といった動きを繰り返していただけである。
だから、魔法というより、一種のトリックのようなものだ。
もし魔族が一瞬でも周囲を見回せば、簡単に見抜けただろう。
だから、わざと剣だけ見せたりして、注目を集める必要があった。
俺ではなく、倒された魔族に。
かかった時間は短かったが、14人の魔族を逃がさずに倒すのは、結構面倒な綱渡りだったのだ。
――そして俺には、これからもっと面倒な仕事が残っている。
「マティくん!」
『結界用の穴は掘り終わったから、中に魔道具を設置しておいてくれ。今はイリスの魔法で支えてるが、長くはもたないからな』
地上に降りた俺は、駆け寄ってきたルリイとアルマに、近距離念話魔法を送る。
『はい! ……あれ? マティくんは……』
『ちょっと、細工をしてくる』
そう言って俺は【縮地】などを使いながら、勝利を祝う人々の群れを抜け出す。
王都上空にいた魔族は全滅させたが……それで今回の戦いが終わった訳ではないからな。
むしろ重要性から言えば、ここからが本番と言ってもいいかもしれない。
書籍版10巻が、【9月15日】に発売します!!
漫画版8巻も、同時発売です!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!