第113話 最強賢者、消える
「……な、何だ貴様は!」
3人目の魔族を倒しながら姿を現した俺に、魔族が驚きの声を上げる。
「こ……こいつがマティアスだ! 作戦通り、散開して――」
どうやら魔族の1人は、俺の顔を知っていたらしい。
そいつが指示を出そうとしはじめるのを見て、俺は【縮地】を発動する。
「なっ、消え――」
急に姿を消した俺に、魔族が驚きの声を上げる。
どうやら魔族は、今ので俺の姿を見失ったようだ。
魔力反応を見れば【縮地】を破るくらいは簡単なはずなのだが……やはり今の魔族は、戦い慣れていないようだ。
そこで俺は、魔族が間違っても俺を見失うことのないよう、親切にも魔族の目の前で姿を現す。
「……え?」
状況が理解できず、間抜けな声を上げる魔族に対し、俺は水平に剣を振るう。
魔族は最後まで反応できず、一撃で首を切断され、地面へと落ちていった。
これで、残り10人。
まともに統制を取られると、面倒だからな。
司令塔になりそうな奴から倒すのは、対集団戦闘の基本だ。
「こっ……こいつ、消えるぞ!」
「こんなの、どうやって戦えば――」
今の動きを見て、魔族が怯えたような声を上げる。
もう、腰が完全に退けている。今すぐにでも逃げ出しかねない勢いだ。
……逃げ出されると、それはそれで面倒だな。
この人数が、一斉に『全力飛翔』で逃げようとすると、流石に討ち漏らしが出ることになる。
魔族の出入りを防ぐことができる『王都大結界』は、まだ稼働していないし。
よし。ヒントを与えてやるか。
考えてみると、魔族と戦う時には、毎回だまし討ちみたいなことをやっている気がするな。
「無駄だ。この結界の中で、お前らに戦い方なんて存在しない」
そう言って俺は、適当に魔力を調整して、結界魔法に似せた放射を魔族たちに浴びせる。
我ながら、お粗末なフェイクだ。
「結界――そうか! こいつが姿を消しているのは、制御型結界だ! 破壊を――」
だが、魔族はうまく騙されてくれたらしい。
俺の言葉を聞いて、魔族は大量の魔力を、一点に向かって放つ。
簡易的な結界を破壊する際に使われる『飽和魔力』という技術だ。
俺の背後で、何かが割れるような、パリンという音が響く。
うん、期待通りの反応だな。
わざわざインパクトの強い倒し方をして、判断力を奪ったかいがあったというものだ。
「馬鹿め! 戦闘用の結界魔法は、魔力で吹き飛ばせるんだ!」
もちろん、馬鹿は魔族のほうである。
この程度の魔族の『飽和魔力』で壊せるほど、俺達が張った結界は小さくない。
さっきの音は、魔族に分かりやすく結界の消滅を伝えるため、俺が魔法で出したものだ。
「え? なんで消え――」
俺はそんなことを考えながら、また【縮地】を発動し、指示を出そうとした魔族を倒す。
ついでに、近くにいた魔族も2人ほど倒しておいた。
これで、残り7人。
……そろそろ、【縮地】は対策できたことにしておいてやるか。
あまり追い詰めると、逃げられかねないからな。
ということで俺は、姿を消さないまま、足下に張った結界魔法を蹴り、一気に魔族へと接近する
「見える! 見えるぞ! これで――ぐあああああああ」
真っ直ぐ魔族へと向かう俺を見て、魔族は喜びの声を上げながら、魔法を付与した剣を振り、同時に魔法を撃ち込もうとする。
俺はそんな魔族を、剣に【斬鉄】【魔力撃】を乗せて、防ごうとした剣ごと切断する。
うん。新しい剣は、やはり切れ味がいい。
今回は、首ではなく体を斬ったため、断末魔を上げるくらいの時間はあったようだが。
「ば……化け物!」
それを見て、生き残った魔族は恐怖の声を上げ、後ずさった。
俺は人間だし、魔族に化け物と言われる筋合いはないと思うのだが……。
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