第112話 第二学園、魔族を倒す
「くそ、何なんだこのガキ共は……。さっさと死ねえええ!」
校庭の上空に陣取った魔族は、苛立ちを見せながら校庭へと魔法を放つ。
魔族の攻撃は、一発たりとも学園生へと届かない。
生徒たちが組んだ陣形に、穴がないのだ。
それと同じく、学園生たちの攻撃も、魔族には届かない。
だが学園生達は、魔族と違って、攻撃が届かないのを理解した上で攻撃していた。
アルマ達から、意識を逸らさせるために。
「これは、外す訳にはいかないよね……」
学園生たちから少し離れた場所で、アルマは弓を構え魔族へと狙いを付ける。
そして、一瞬息を止めて、矢を放った。
「むっ?」
アルマが放った矢に気付いた魔族は、その矢が今まで飛んできたものとは違い、自分に危害を及ぼせるものだと気付いたのだろう。
魔族は魔法を展開したまま、ゆっくりと移動して、矢を避けようとする。
だが矢は、魔族を追尾するように、方向を変えた。
やむを得ないと判断したのか、魔族は用意していた魔法を消滅させ、翼を広げて一気に加速する。
矢はそれでも追尾を続けようとしたが、流石に追いかけきれなかったようで、魔族の横をすり抜けていった。
「何だったんだ、今の矢――は!? ……あがあああああ!」
魔族の放った疑問の声は、途中で苦痛の叫びに変わった。
避けたはずの矢が、途中で180度方向を変えて、背中へと突き刺さったのだ。
「【誘導魔力エンチャント】……こんなに曲がるようになってたんですね……」
矢の動きを見たルリイが、アルマに感嘆の声をかける。
だが、矢を当てたアルマも、戸惑っているようだ。
「途中までは誘導したけど……最後の動きは、ボクも知らないよ? あんなの、矢の動きじゃないと思う」
「アルマの誘導じゃないんですか? となると、これですか……流石マティ君ですね……」
魔法陣が書かれた紙を見ながら、ルリイが呟く。
ルリイも魔法陣の書き方は教わったが、魔族の高速軌道を追尾した上、その防御を貫けるような付与の組み方など、想像もつかない。
「マティ君もマティ君だけど、こんなの付与できるのは、ルリイくらいだと思うけどね! 見てよ、あの刺さり方!」
言ってアルマは、落下する魔族を指す。
その背中に――正確には、2枚の翼を縫い付けるように、矢が突き刺さっていた。
いくら魔族でも、あれでは飛べないだろう。
そして、魔族の落ちた先には――
「落ちたぞ! 陣形を組み替えろ!」
「「「「「はい!」」」」」
今まで魔族の攻撃を防いでいた、学園生たちがいた。
学園生は、一定の距離を取るようにして、魔族を包囲すると、一斉に魔法を放ち始めた。
今度は、届く。
学園生の攻撃魔法は、一撃では魔族に有効打を与えられない威力だ。
しかし同じ魔法が、数十発も集まれば、話は変わってくる。
絶え間なく浴びせられる攻撃魔法は、相乗効果を生み、魔族の体力を容赦なく削っていく。
アルマも威力に特化した矢を撃ち込み、援護する。
魔族も飛べないなりに、魔法を撃ち込んで反撃したが、その魔法は全て、失格紋の学園生によって張られた結界で防がれた。
かといって、魔族が斬撃を仕掛けるために距離を詰めようとすれば、今度はアルマが妨害魔法付きの矢を撃ち込み、その足を止める。
学園生による包囲網は、こうして崩れることなく維持される。
そして、しばらくの間、魔法による攻撃が続き――
「やった!」
ついに、魔族が絶命した。
それでも油断なく、魔法によって死亡確認が行われてから、陣形が解かれる。
「倒した! 魔族を倒したぞ!」
「まさか本当に、生徒だけで魔族を倒せるとは……」
「急いで、関係各所に報告を!」
生徒と先生たちが、一緒になって喜びの声を上げる。
きっかけを作ったアルマとルリイを、胴上げしかねない勢いだ。
起こったことを王都中に伝えるために、沢山の人が学園から走り出していく。
その表情には疲れが見えるが、同時に喜びにあふれている。
「私、マティくんに報告してきます!」
「ボクも!」
ルリイとアルマは、勝利をマティアスに伝えるべく、迷宮の方へと駆けだした。
――そんな、祝勝ムードの中、声が響いた。
先ほどの魔族は倒され、すでに誰もいないはずの、空から。
「あれ? ベルリアス、倒されてるじゃん」
「あーあ。だから言ったのに。どうせ殺し放題なんだから、ちゃんと体勢を整えてから攻めようって」
「まあ、そう言うなよ。おかげで、俺達が殺せる分が増えたぜ? ほら見てみろよ。獲物が間抜け面で喜んでやがる」
耳障りな声とともに、空から現れたのは――魔族だった。
それも、1人や2人ではない。
――14人。
それが、王都の上空に浮かんでいる、魔族の数だ。
もっとも、今の王都に、魔族の数を数えるような冷静さを残した人間は、存在しないだろうが。
「嘘、だろ……」
「一体、何人いるんだよ……」
「こんなの、勝てる訳ないだろ……」
魔族を1人倒すだけでも、総力戦だったのだ。
それが、14人。
しかも先ほどの戦闘で、生徒たちの魔力は切れかけている。
どう見ても、状況は絶望的だった。
生徒たちの戦意は折れ、武器を構える者さえいない。
逃げ出すだけの判断力も、残っていないようだった。
「じゃあ、早速――あ?」
そんな状況の中、無防備になった生徒へと、攻撃魔法を叩き込もうとした魔族が――急に、止まる。
いや、止められたと言った方が正しいだろう。
なぜならその魔族は、虚空から突き出た剣によって、真っ二つに切断されたのだから。
そして、切断された魔族は、声を出すことさえ許されず絶命し、地面へと落ちていく。
「……は?」
その非現実的な光景を見て、魔族たちが、困惑の表情を浮かべる。
何かの間違いではないか、とでも言うように。
しかし、間違いではない。
その事実を証明するように、剣はまた姿を現し――2人目の魔族の首が落ちる。
「うっ、うわああああああ!」
2人目を殺されて、ようやく理解が追いついたのだろう。
恐怖にかられた魔族が、無茶苦茶に剣を振り回し始める。
それも、無意味だった。
叫んで目立った魔族は、5秒と経たず、虚空からの剣の餌食となる。
剣を振るった者の姿は、見えない。
だが今の状況を見た学園生達は、これが誰の仕業であるのか、薄々気付いていた。
――こんな真似ができそうな人間など、王都には一人しか存在しないのだから。
「……14人か。思ったより集まったな」
昨日予告させていただいた、重大報告です!
『失格紋の最強賢者』が、漫画UP様、ガンガンGA様から、コミカライズされることになりました!!
ここまで来ることができたのは、読者の皆様のおかげです!
本当に、ありがとうございます!!
コミカライズの情報は、書籍版の帯にも掲載されています!
書籍版の公式発売日まであと3日ですが、一部のお店では、明日から明後日あたりに入荷するみたいです(amazon様は明日です)!
書籍版についての詳しい情報は、下のリンクをどうぞ!http://ga.sbcr.jp/bunko_blog/nekopyon/20170512b/
書籍版10巻が、【9月15日】に発売します!!
漫画版8巻も、同時発売です!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!