堀越照雄
地元で抱えた「漠然とした不安」――大泉洋と米津玄師が吐露する“地方と東京”
9/11(水) 8:00 配信
「なんでもかんでも東京だったし、悔しさがあった」と北海道出身の大泉洋(46)は言う。「もっと人が多いところに行けば、いい出会いがあるんじゃないかと思っていた」と徳島県出身の米津玄師(28)も語る。地方で育ち、上京して第一線で活躍する2人にとって「地方と東京」はどう映っているのか。世代の違う2人の共通点とは。対談で熱い思いを吐露した。(取材・文:長瀬千雅/撮影:堀越照雄/Yahoo!ニュース 特集編集部)
(文中敬称略)
インターネットの中に救いを求めて
北海道発で全国区の人気番組になったバラエティー「水曜どうでしょう」をはじめ、数々のドラマや映画に出演して、お茶の間に浸透している大泉洋。片や、2018年のシングル「Lemon」がデジタルダウンロードとCD合わせて300万セールスを記録するなど、広く知れ渡る楽曲を送り出しながら、テレビ出演はほとんどない米津玄師。ジャンルは異なるが、日本のポップカルチャーを背負って立つ2人だ。
大泉 いま、28歳でしょう?
米津 そうです。
大泉 「水曜どうでしょう」のレギュラー放送が終わったのが28、29歳だから、いまの米津さんくらいの年だったんだな。北海道でずっと仕事ができればいいと思ってたんです。野心がなかったから。だけど、30歳手前になって、漠然とした不安に襲われました。「この先、どうすればいいんだろう」って。北海道では有名になったけど、「北海道の人たちは、僕が北海道にいるから応援してくれているわけじゃないよな」と考えたときに、このままでいいのかなと思ったんですよ。
少し閉塞感もあったんですよね。飽き性でもあるので、毎日毎日、違うバラエティーに行ってロケしてるだけの生活に、「ちょっとつまらないなあ」と思った時期があって。それで「お芝居をちゃんとやりたいな」と思い始めた。
米津 僕は、18歳まで徳島で育って、大阪に出ました。徳島にいたころは全然なじめなくて、「自分のことをちゃんと分かってくれる人がいるところに行きたい」という気持ちがすごく強くありました。「もっと人が多いところに行けば、いい出会いがあるんじゃないかな」と。それは昔の話で、自分がうだうだしてたのを責任転嫁してただけなんですけど。
大泉 「自分のことを分かってくれる人がいるんじゃないか」というのは、音楽的な才能という意味ですか? それとももうちょっと違う感じなの?
米津 音楽的なことだったと思います。
大泉 じゃあ、10代のころからもう音楽はなさってたんですね。
米津 音楽を始めたのは中学生のときです。でも、話が合う人間が全然いなかったんですね。好きな音楽の話をしたいけどできないっていう状況で、インターネットの中に救いを求めていたんです。インターネットは、すごく遠いところから手を伸ばしてくれる人とつながれるから。大阪で1年ちょっと過ごしたあと、そこに近づけるかなと思って、東京に出てきました。でも、来たところであんまり変わらなかったなと思います。
東京でライブに行ったりもするんです。生身のミュージシャンが奏でる生の音の美しさはすごく分かる。でも「家で一人で聞きたい」と思ってしまう。小学生のころからずっとインターネットを見て育ってきたから、画面の中で完結するものが音楽だと、俺は思ってたんです。
大泉 へえ〜っ。
米津 どこまで行っても自分の体には、地域性みたいなものは根付かないんだなって、東京に出てきて初めて分かりました。
大泉 それはやっぱり、世代の差だなと思いますね。僕は「東京に出たい」とは思わなかったタイプだけど、僕らの世代は「東京に出るしかない」という人が圧倒的に多かった世代だから。なんでもかんでも東京だったし。舞台公演が北海道に来てくれないとか、人気番組が北海道では見られないとかね。そういう悔しさはあった。「水曜どうでしょう」は北海道に来ないと見られない時期がずいぶんあったんだけど、そのときはちょっとした痛快さはありました。でも、これだけインターネットの時代になると、いまの若い人たちは「東京にしかないものって、何かあるの?」って感じだよね。
その人の人生だから、どっちがいいってこともないんだけど、東京のど真ん中で生まれ育つと、田舎の、自然の中で暮らす生活は知らずに育つわけだからね。東京って、そこに仕事があるとか、何かやりたいことがあると思って来てる人が多いなかで、何かやってないと置いてきぼり感を抱いてしまう。「やばいやばい、何かしなきゃ、何か結果を残さなきゃ」って思う街なんだよね。それが疲れるとは思う。いまでも、新千歳空港に着いた瞬間に落ち着くっていうのかな。人だけじゃなく、車も若干ゆっくりな気がする。本当は北海道の人のほうが飛ばしてるんだけどね。土地がでかいから(笑)。
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