偶然の出会いからおよそ1年。
プライベートで交流を重ねた2人は
たちまち仲良くなって。
ついに 〈マミタス〉 
*01

*01 中川翔子とBEAMSが共同プロデュースするファッションブランド。

の2019-20秋冬コレクションで、
コラボレーションが実現!
中川翔子と藤子不二雄Ⓐ、ある夏の日の会合。
中川翔子(以下

中野ブロードウェイという、ちょっと不思議な場所があるんですが、私はそこが大好きなんです。自分が生まれる前の世界を知るキッカケになった場所で、藤子不二雄Ⓐ先生の漫画だったり、トキワ荘の先生方の作品にもそこで出会いました。
藤子不二雄 (以下

へぇ。そんな場所があるんだね。
幼い頃から、そこでよく漫画を買っていたんです。小学生の頃には、先生の漫画を真似して描いていました。そんな私が大人になって、まさか先生とお会いするとは! そして銀座でお酒を飲むなんて!
最初は本当に偶然。確か、荒木飛呂彦氏の展覧会で。終わったのが16時くらいで、そのあとアフターパーティまで2時間ほど空くからと会場を出ようとしたら……。その時だね、初対面は。
先生がお帰りになられるところにバッタリ、という感じでしたね。我が人生で藤子不二雄Ⓐ先生に会うという出来事を想定していなかったので、その時はちょっとアワアワしちゃって(笑)。 それで一緒にお写真を撮らせていただいたんです。ピースサインの。それをツイッターに載せたら、なんと、そのあと先生からお電話をいただいて。
知らない女の子から話しかけられたんですよ。「しょこたんのツイッターに載っている人ですよね?」って。その報告でね。その子はしょこたんは知ってるけど、僕のことは知らなかったみたい(笑)。
その時に「今度一緒に食事でも」ってお誘いいただいたんです。あと、私の小学校からの親友が、銀座のバーで働いていて。そのバーに先生がよく飲みにいらっしゃるって聞いたんです。
そうそう。それで、夜の22時にそのバーで会おうってことになったんだ。で、僕はその日、ゴルフをして……。
朝からですか?
6時くらいに起きて、朝8時くらいからかな。終わったのは14時か15時か。そこから打ち上げをやって、お酒を飲んで。終わったのが17時。そこからまだ時間があるわけ。どうしようか考えて、いったん家に帰って、着替えて、スポーツクラブに行って。僕、泳ぐのが好きなんですよ。
そうなんですか!?
それから2時間泳いで。サウナに入って、そのあと理髪店で髪を切って、まだ時間がある……。1人でしょこたんに会うのはちょっと恥ずかしいから、小学館の担当編集の小田さんを呼んで、そのあと、もう1人くらい呼ぼうかなーということで、俳優の小林薫に連絡して。彼とは長い付き合いなんだよ。「しょこたんって知ってる? 会ったことある? 今日会うから来ない?」って誘ったら、行くってことで。
えーと……。私と会うまでに、18時間くらい活動していたんですね。だけどその後も、お酒を飲んで……。す、すごいバイタリティですね。その時は『まんが道』
*02

*02 藤子不二雄Ⓐの自伝的作品。漫画家を目指す2人の少年の成長を描いた長編青春漫画。藤子不二雄Ⓐによるシリーズとしては最長連載作品で、シリーズの連載は1970年から43年間にわたり続いた。

に出てくる新聞社で働いていた時代のこととか、トキワ荘のこととか、漫画に書かれていないことをいっぱい時系列でお話してくださって。
『まんが道』の本を持ってきてたよね。
トキワ荘とか『まんが道』とか大好きすぎて!
しょこたんが作品のことを僕よりも細かく知っているから、感動しちゃってさ。あまりにも詳しいもんだから嬉しくなっていろいろ話したよね。それで仲良くなって。
その時にいただいた喪黒福造の絵は家宝にしています。その後も先生の展覧会
*03

*03 『藤子不二雄Ⓐ展  -Ⓐの変コレクション-』のこと。キャッチコピーは 「あなたのココロのスキマ、お埋めします…」 。2018年10月の 「六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー」 を皮切りに、各地を巡回中。10月6日から12月22日までは故郷の富山で開催。詳しくはこちらで !

に伺ったり、モーニング娘。のコンサート
*04

*04 昨年12月、東京・日本武道館で行われた 「モーニング娘。'18 コンサートツアー秋~GET SET,GO!~ファイナル 飯窪 春菜卒業スペシャル」 のこと。しょこたんのツイッターには、 「はるなん卒コン参戦」 というコメントとともに藤子不二雄Ⓐ、堀井雄二、中川翔子のスリーショット写真を投稿。

では、隣の席でペンライトを持って応援したり、先日は先生のお誕生会にも!
3月10日に85歳になったんだけど、その時、お祝いでしょこたんが僕の似顔絵をプレゼントしてくれて。僕の周りには僕の作品のキャラクターをたくさん書いてくれているんだけど、それがすごく上手なの! その中に、坊一郎とかトキワ荘のテラさんとか、僕の漫画を読み込まないと知らないようなキャラクターをいっぱい書いてくれていて。
いちおう持って行ったんですが、実は受け取ってもらえるか心配だったんです。でも喜んでいただけてめちゃくちゃ嬉しかったんです。過去に遡って、小学生の自分に伝えたいくらい、嬉しい出来事でした!
受け取るに決まってるじゃないか!
しかも、そのあと、ちばてつや先生のブログ
*05

*05 『あしたのジョー』 、 『あした天気になあれ』 などの作者、ちばてつやのブログ 『ぐずてつ日記』 。

を見たら!
そうそう! 僕、漫画家仲間で“イージー会”というコンペをやっているんですよ。さいとう・たかを氏とか、ちばてつや氏とか6人くらいで。
神々が集いし会ですね。
そこにそのイラストを持って行ってみんなに自慢したんですよ。「誰が描いたと思う?」って。そうしたら、その時の写真をちばてつや氏がブログに載せたらしくって。
伝説の人を巡り巡って、その記事を目にした時は、正気を保てなかったですね。
お誕生日会のあとも先生の行きつけのおでん屋さんに行ったり、銀座の伝説のバーに連れていっていただいたり。そこでは、オバQ音頭とか、怪物くんとか、生でいっぱい歌ってくださって。もう大熱唱。
あそこでしか歌わないんだけどね。
プライベートでとっても仲良くさせていただいます。 最初にお会いしてから1年くらいですかね。思い出もたくさんできました。それで、お誕生会の時に、恐れ多くもコラボレーションがしたい……なんて口にしたら、小田さんが「やりましょう!」と。先生も快諾してくださって。今回のTシャツはそういう経緯で作ることになったんです。
さっきデザインを見たけど、チャーミングだね!
ありがとうございます! 私が最初に買った先生の漫画のひとつが『魔太郎がくる!!』
*06

*06 週刊少年チャンピオン」(秋田書店)1974年23号からの1カット。

で。すっごく大好きな作品で、飼っている猫の名前を“股朗”にしたくらい。このデザインは、魔太郎くんがウチの股朗を抱っこしています。
僕の漫画で猫が出て来るのは珍しいんだよね。どっちかというと犬派(笑)。
そんな貴重なエピソードから、魔太郎くんが猫を抱いているカットを選んでアレンジさせていただきました。オリジナルは白猫ちゃんなんですが、股朗のブチ柄に。さらに魔太郎は〈マミタス〉のキャップをかぶっています。
魔太郎が笑っているのも珍しいんだよ。いじめられっ子だから。
いじめが社会問題になるだいぶ前ですよね?『魔太郎がくる!!』の連載がスタートしたのって。
『週刊少年チャンピオン』から執筆の依頼を受けた時、ちょっと変わったテーマで書こうと思って。僕が生まれたのは富山県の氷見というところ。そこは漁業の町で、小さい頃からみんな親の漁の手伝いをやっていて、すごくたくましいの。僕はというと、650年の歴史がある寺の生まれで、すごく背が小さくて。クラスでは1番前。授業の時、級長が「起立」って号令をかけてみんな立つでしょ。そうすると先生が「安孫子、お前はなんで立たないんだ?」っていうわけ。それで「僕、立ってます」っていうとクラス中がワっと笑うわけ。先生もそれがウケるのをわかってイジるんだけど、もう、僕はそれが嫌でね。今なら登校拒否児童になっていたと思うけど、当時は学校に行かないだなんて許されなくって。イヤイヤ行ってた。その時のことを思い出して、クラスが50人だったら、いじめる奴は5人で、いじめられるのはあとの45人だから、いじめられる方を主人公にしたら、共感が得られるんじゃないかって思ったの。 そのままだと何もカタルシスがないから、最後はいじめられっ子が大逆襲したら痛快だろうと思って描いた。そうしたら、1回目からすごい反響で。
いじめに悩んでいる子たちの気持ちを魔太郎が代弁してくれたって思ったんでしょうね。
1年後、編集部で「いじめ買います」って募集したら、山のように手紙が届いたよ。名前まで書いて「あいつに仕返ししたい」とか。それで、ちょっと問題だなって思って、それまで現実的な方法で仕返ししていたんだけど、その頃から空想的な仕返しにしたんだよね。真似したらまずいし。その後、いじめが社会問題になって、テレビから出演依頼も来たけど、別にいじめの専門家ってわけでもないし、それは断ったね。一切出なかった。
私も学生時代、先生に比べればささやかかもしれませんが、いじめにあって不登校になった時期があったんです。でも生きていて良かったなって思えることがたくさんあって。だから、いじめに悩んでいる人たち、死にたいって悩んでいる人たちに向けた漫画を描いたんです。出来上がったらお渡しに行きます!
おぉ! タイトルは?
『死ぬんじゃねーぞ!!』
*07

*07 『死ぬんじゃねーぞ!!』 (文藝春秋) は、いじめで不登校になり 「死にたい」 とまで思い詰めた先に見つけた気持ちを文章と漫画で綴った作品。

です。時代が変わって、呼び方が変わっても“いじめ”に悩んでいる人はいると思うんです。先生の漫画に勇気付けられたように、私の実体験が少しでもみんなの役に立てば、と。
自分だけが悩んでいるんじゃないって、共感があると勇気でるよね。
先生の作品はダークな世界観で、闇があるのにちゃんとカワイイ部分もあって。レトロと未来が交錯する中野ブロードウェイにぴったりだなって思っていたんです。そういえば、魔太郎の衣装ってなんでバラ柄なんですか?
僕ら漫画家が漫画を描く時、キャラクターの服装、コスチュームというのはものすごく大事。顔だけでなく、服装、どういう格好をしているかで、キャラの個性が決まる。バラはゲイのイメージだった。当時、男性が着る柄じゃなかったからそれを着たらエキセントリックな感じがするかなって。
え!? ちなみに、魔太郎の恋愛対象は女の子ですか?
いやー、それはわからないね(笑)
えー!? はっきり言わないんですね……。もしかして(笑)。
そういえば、西原理恵子ちゃんと連載
*08

*08 『ビッグコミック』 (小学館) の連載 『藤子不二雄Ⓐ&西原理恵子の人生ことわざ面白“漫”辞典』 。藤子不二雄Ⓐがエッセイをしたため、西原理恵子がイラストと“ぼやき”でツッコむ、コレボレーション企画。

していた時、彼女も魔太郎に影響を受けたっていって、女の子のパンティをバラの柄にしてた。
さすが西原先生。バラにインスパイアされるとは。先生の描くキャラクターは、 頭身が低くてすごく可愛らしいキャラクターでも、スーツだったり、シルクハットだったり、品があるファッションなのが好きです。
僕ももう歳でおじいさんだから、それらしい渋い格好をすればいいんだろうけど、漫画家っていう職業は一般の人たちと違って年齢不詳というか、キャラクターみたいというか。
確かに(笑)。ちょっとキャラクターみたいな存在なのかもしれないですね。
その方が、年上の人とも年下の人とも、同じような感覚で友達でいられるような気がするんだよね。割と昔から幅広い年代の人と仲良くなるのは得意かも。自分でもこれは自信がある。
先生とご一緒させていただく時に感じるのは、年齢とか性別とか関係なく、人に対して興味を持って、一緒にいることを楽しんでくださるってこと。だから本当に嬉しい。
出会いってとても大切だから。未だにいろいろな人と知り合うけど、出会いは財産になる。その機会は大事にして楽しまないと! 子供のころはそれほど社交的ではなかったけど、学校出てから新聞記者を2年くらいやっていた時、僕の性格というかキャラクターがガラっと変わっちゃった。インタビューをしているうちに、人間ってこんなにいろいろな人がいるんだ、面白いなって思って。
満賀道雄
*09

*09 『まんが道』 の主人公。モデルはもちろん藤子不二雄Ⓐ本人。

の頃ですね(笑)
そうそう。最近は、あんまりしゃべらない人が増えたような。やっぱり会って、会話して、の方が成長すると思うんです。
飲みにいかないみたいですね。遊びにもいかないとか。
そうすると、歳はとっても人間として成長しない。もっと遊んでもっとお酒を飲まないと。
たしかに。外に出ないとバッタリ憧れの人と会うこともないですもんね。それにしても先生はお元気ですよね。さっき、ゴルフとスイミングの話が出ましたが、ほかにも何か?
1番凝っているのはゴルフ。週に2~3回ぐらい行っているかも。朝起きて天気がいいと予約して、1人で行く。ゴルフ場に誰かしら知り合いがいるから、一緒に回って。まあゴルフが1番面白いかな。
『まんが道』にも出てきますが、先生はお肉は食べないし、ウナギを食べたら鼻血が出るとか。それでこの元気さ! お豆腐は食べるんですよね? 
豆腐は食べますよ。寺で生まれて、厳しかったから、肉は一切食べなかったの。
1番好きな食べ物は何ですか?
1番好きなのは松茸かな(笑)。秋は松茸、春はタケノコ、夏はスイカ。
私もスイカ大好き! 宇宙で1番スイカが好き!
お酒は何でも飲むけど、ほとんど焼酎のウーロン茶割だね。
お酒といえば、私、チューダーに感動しました。トキワ壮でよくテラさんが作ってくれる、アレ。それを満賀道雄が作ってくれるなんて! 美味しかった!
トキワ荘の頃はね、僕、テラさん、藤本くん、石ノ森、赤塚、つのだといて、僕とテラさん以外はみんな社会人経験してなくって酒を飲む習慣がないわけ。飲めないの。それじゃあしょうがないから、サイダーを八割入れてそこに焼酎垂らしてチューダーって名付けて。それを飲んでギャーギャーやってたわけ。
飲んで「ンマーイ!」って言うのが先生節ですよね! お酒が強くなくてもチューダーだったら、気持ちよく酔っぱらえるんですよ。
あれは丁度いいよね。だから未だに僕は焼酎のウーロン茶割を飲んでて、これも全然酔わないの。
(笑)。先生は、お酒の席でも、いつでもどこでもスタンスが変わらない。いつも私の世界を明るく照らしてくださる人です。
しょこたんは、スターなのに気取らないよね。僕みたいなジジィにもね。
とんでもない!! 私なんて……。そして自虐がすごい(笑)。
タレントとしての仕事だけじゃなくって、いろいろなチャンネルを持っているのがいいよね。今回の件もそうだけど、出会いを活かして、仕事をエンジョイしてる感じがする。不思議な縁で知り合ったけど、すぐに仲良くなれたのは僕と考え方が似ているのかも。
好きっていう気持ちが乗っかると、熱のある物ができるということを、今回すごく実感しました。私は、猫と中野ブロードウェイと絵を描くことが好きなんです。先生の漫画をたくさん読んだ、子供の頃の懐かしい思い出が全部、今の原動力になっています。だから今回は夢のようなコラボレーション。〈マミタス〉のファンの方々にも先生のことが大好きな人がたくさんいるので「待ってました!」って喜んでくれると思います!
じゃあ、今度行くよ、中野ブロードウェイ。
え、本当ですか!? 嬉しい! ぜひお店の壁に絵を! 中野は私のホームタウンなので、美味しい飲み屋さんをご案内します! これ、実現したら最高!
中野には同級生がいるからときどき行くんだよ。駅前に4時からやってる居酒屋があって。
そうなんですか? ではぜひそこで!
でもオジサンばっかりだから、しょこたんを連れていったら大変なことになるかもなぁ。
行きます! 絶対行きます! 先生、中野にいらっしゃる時はご連絡ください。〈マミタス〉のお店もご案内しますので。やっぱりこのコラボは縁がありますね!
注釈
  • *01 中川翔子とBEAMSが共同プロデュースするファッションブランド。

  • *02 藤子不二雄Ⓐの自伝的作品。漫画家を目指す2人の少年の成長を描いた長編青春漫画。藤子不二雄Ⓐによるシリーズとしては最長連載作品で、シリーズの連載は1970年から43年間にわたり続いた。

  • *03 『藤子不二雄Ⓐ展  -Ⓐの変コレクション-』のこと。キャッチコピーは 「あなたのココロのスキマ、お埋めします…」 。2018年10月の 「六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー」 を皮切りに、各地を巡回中。10月6日から12月22日までは故郷の富山で開催。詳しくはこちらで !

  • *04 昨年12月、東京・日本武道館で行われた 「モーニング娘。'18 コンサートツアー秋~GET SET,GO!~ファイナル 飯窪 春菜卒業スペシャル」 のこと。しょこたんのツイッターには、 「はるなん卒コン参戦」 というコメントとともに藤子不二雄Ⓐ、堀井雄二、中川翔子のスリーショット写真を投稿。

  • *05 『あしたのジョー』 、 『あした天気になあれ』 などの作者、ちばてつやのブログ 『ぐずてつ日記』で 。

  • *06 週刊少年チャンピオン」(秋田書店)1974年23号からの1カット。

  • *07 『死ぬんじゃねーぞ!!』 (文藝春秋) は、いじめで不登校になり 「死にたい」 とまで思い詰めた先に見つけた気持ちを文章と漫画で綴った作品。

  • *08 『ビッグコミック』 (小学館) の連載 『藤子不二雄Ⓐ&西原理恵子の人生ことわざ面白“漫”辞典』 。藤子不二雄Ⓐがエッセイをしたため、西原理恵子がイラストと“ぼやき”でツッコむ、コレボレーション企画。

  • *09 『まんが道』 の主人公。モデルはもちろん藤子不二雄Ⓐ本人。

撮影協力 : 日本外国特派員協会