消費税を廃止したマレーシアはどうなったか? マレーシア人に聞いてみた
参議院選挙で、二議席を獲得して大躍進を果たした「れいわ新選組」。その公約の一つに「消費税廃止」があった。
そして山本太郎党首が実例としてあげたのがマレーシアだった。実際に政見放送から引用する。
「消費税は廃止。…実際に、消費税を廃止した国ありますよ。マレーシアです。マレーシアは、法人税の次に税収の多かった消費税を廃止。高級なサービスなどを利用するときにかかる金持ち向けの税制を復活させました。なぜマレーシアにできたことが日本にはできないっていうんでしょうか?」(参照:れいわ新選組)
ちょうどそのころ、おあつらえ向きにとでもいうべきか、筆者宅には二人のマレーシア人が滞在していた。ムハンマド(34)とアミルディン(25)の二人である。ムハンマドは化学で博士号をもつ国家公務員で、アミルディンは大学院生で、ちなみにこの二人は従兄弟同士でもある。「消費税廃止」の実態を、二人に聞いてみることにした。
◆マレーシア人に聞いた「消費税廃止」
「今の政権が成立したのが、去年の五月だった。先に説明しておくと、マレーシアは一院制で、議席数は222、つまり過半数をとるには112議席が必要ということだな」
ムハンマドが切り出した。彼の職業は国家公務員、つまり役人である。
この選挙で特筆すべきは、92歳のマハティール元首相が復活したことである。自らに当てはめて考えても、筆者がそもそも92歳まで生きているかどうかは甚だ怪しいものであり、仮に生きていたとしても要介護状態だろう。筆者の友人に同年代の都議会議員がいるが、「あなたは90歳をすぎて今と同じ政治活動・選挙運動を続けられるか」と聞いたら「絶対無理」と答えた。当然である。92歳で生きているのみならず、選挙に出馬して、選挙活動で毎日立ちっぱなしの上に喉を嗄らして、しかも勝つなど想像すらつかない。一体、なぜにマレーシア国民はこのような選択をしたのか。
「前首相のナジブが外国との癒着や収賄問題で批判されていたのは確かだな(筆者註:実際に、その後2018年7月に逮捕・起訴された)」(アミルディン)
「それまで野党の中心だったDAPというのは中華系の政党だから、普通ならマレー人は絶対に投票しないんだ。だが今回はマハティールがこちらに乗ったから、マレー人も投票したわけだ」(ムハンマド)
少し敷衍しておくと、マレーシアという国は主にマレー系、中国系、インド系で構成される多民族国家である。タイの場合は、中華系の住民もいるが宗教的縛りがなく、百年以上前に全員タイ風の名前に変えさせられたので、元々のタイ人と完全に融合している。一方でマレーシアは、豚肉を食べないイスラム教徒のマレー人と豚が大好物の華僑では混ざりようがなく、未だに人種がきれいに分かれている。名前もそのままだ。かつてボンドガールも務めたミシェル・ヨーがいい例だが、中国名を維持しながら高等教育を受けて英語を操り、英語名も併用している。クアラルンプールは首都にもかかわらず、マレー系住民より華僑のほうが多いというねじれ現象もある。
◆野党連合が掲げた「十の公約」
そして野党連合は政権奪取のために十の公約を掲げた、という。
「まずは、高速道路の無料化な。」(ムハンマド)
昔、日本でも聞いたことのある公約である。
「それから、消費税の廃止」(アミルディン)マレーシアでの名称は「GST」(Goods and Service Tax)で、元々は6%だったという。
「あとは、反汚職もあった」(ムハンマド)
筆者が、「つい最近、日本の選挙でも消費税廃止と教育ローン徳政令を打ち出した政党があったぞ」と話すと、二人は腹を抱えて笑い出した。