[3-7] 最初に言っておきますが人化はしません
その獣は、象と同じくらいの大きさだった。
体高は3メートルほど。強靱な四肢は猫科の猛獣を思わせるが、頭部は毛深いブルドッグのようにも見え、ロップイヤーのウサギのような耳が垂れている。
全身を覆う剛毛は鮮やかな黄色から橙色へとグラデーションを描き、まさに焔の色だ。
だが、しかし。奇妙なことに毛の間から染み出すかのように、まちまちな大きさの金属質な鱗を纏っている。密集して背中を覆うそれはアルマジロの甲羅か、それとも動物型戦闘ロボの装甲板か。装甲に覆われた太い尻尾は凶器以外の何物でもない。
頭の周りなどは、金属質の部位が大きく隆起し、まるで悪魔のツノか冠かという形になって、陽光を浴び歪に輝いていた。
巨大な獣は燃えるように真っ赤な目をして、己の前に現れた奇妙な死体を睨み付ける。
「……推定脅威度・第七等級相当。
イグナイトビースト変異体、ネームドモンスター"絢爛たる溶鋼獣"」
獣を見上げ、ルネはトレイシーが拾ってきた冒険者ギルド情報を反芻する。
密林の木々は部分的に薙ぎ倒されていて、残っているものも幹の部分を豪快に引っ掻いた跡がある。
ここは大樹海の奥地、"絢爛たる溶鋼獣"の巣だ。
ク・ルカル山脈の足下に広がる密林の各所には、強大なネームドモンスターが住んでいる。
その大半は周辺一帯の食物連鎖の頂点であり、獣も魔物も向かうところ敵無しの暴君。各々が縄張りを持ち、他の強大なネームドとはあまり争わず棲み分けているようだ。
そして、ルネの居る一帯のボスがこの獣。
元種族である
彼(どうやらオスらしい)の身体を彩る金属質の部位は、自然界に存在する鉱石や、犠牲になった冒険者の装備品が捕食・吸収され表出したものだった。
ルネは周辺の魔物をスカウトするに当たって、まずこの獣を捜した。
昔の人は『将を射んとするならばまず馬を射よ』とか有り難いことをおっしゃっていたが、世の中にはまず将を射た方が早いことも往々にして存在する。
この辺りをシメている有力ネームドを配下にすれば、近場の魔物たちは雪崩を打つようにルネの下へ馳せ参じるだろう。
しかし、"絢爛たる溶鋼獣"はルネを見ても流石に怯まなかった。
傍らのウダノスケがカタナに手を掛け、一歩進み出る。
「お任せあれ、姫様。
我が愛刀ドウチョウアツリョクは硬きミスリルすら切り裂く。
鋼の鱗と言えど、拙者の前には豆腐に等しい!」
「……いえ、手出し無用よ、ウダノスケ。多分こいつ、一対一で力の差を教えてやらなきゃ従わないと思うわ。
火葬されないように離れてなさい」
「はっ」
目的は倒すことではなく屈服させること。
獣の頭でも分かるよう実力差を教え込むには、
「この辺りではずーっと無敵で、自分が世界最強だと信じ込んじゃってるのね。その鼻へし折ってあげるわ。
……へし折ろうにもマズルはとんがってないわね。えっと、じゃあ……顔に泥を塗るわ!
泥パックで美白になってから後悔しても遅いわよ!」
獣はツッコミの代わりに火を噴いた。
「ガアアアアアアアアッ!!」
「姫様、危ないっ!」
大口いっぱいから吐き出された炎の烈風が、ルネの立っていた場所を薙ぎ払った。
吹き抜けたブレスは木々を薙ぎ払い、その軌跡を黒く染め上げた。
だが、ルネはもうそこには居ない。
獣の側面に転移することでブレスを回避したルネ目がけ、今度は鋼鉄(推定)の尻尾が振り回される。
破城鎚の突撃じみた一撃を、ルネは、避けなかった。
「≪
小さな足で大地を踏みしめ、魔法で自己強化しつつ受け止めた。
巨体に相応の衝撃を受け、首の上に載せていた頭部が吹っ飛んでいく。
ウダノスケが即座にカバーに入り、ルネの頭を抱き留めた。
「使令に下れーっ!」
尻尾を受け止めたルネはそれを無理やり持ち上げて、背負い投げの要領で思いっきり叩き付けた。
* * *
8時間後。
木々を薙ぎ倒した密林の広場は、さらに多くの木々が薙ぎ倒されて倍近くまで拡張されていた。
辺りの地面は焼け焦げてひび割れ、デコボコに荒らされている。
広場の真ん中ではしたなく大の字になったルネの身体。探検服はあちこち切り裂かれている。
その隣には精根尽き果て、コの字で寝転ぶ巨大な獣。だらりと舌を出しパンチング呼吸をしている。
ウダノスケが摺り足でそっと近寄り、預かっていたルネの頭部をルネの身体の隣に置いた。
あかね色に染まった夕焼け空をのんきな魔鳥が飛んで行く。
「……やるわね、あなた」
「グルルルル…………」
"絢爛たる溶鋼獣"は『へっ、お前もな』とでも言わんばかりに一声唸った。
赤刃や魔法攻撃を使えばもっと早く決着が付いていただろう。
しかし、それではうっかり殺してしまう可能性もあるのではないかと考えたルネは、魔法は補助に留めて取っ組み合いを挑んだ。
結果としてその考えはほぼ杞憂だったようで、ルネは"絢爛たる溶鋼獣"の無尽蔵のタフネスとスタミナを思い知った。
殴り飛ばし、組み伏せられ、投げ飛ばし、打ち据えられ、炎のブレスに呑まれかけ……
いくらルネが疲労しない身体とは言え、うんざりするほどの長い戦いだった。
そして、なんか知らないが何らかの友情らしきものが芽生えていた。
「あなたの力が必要なの。私のペットになってみる気は無いかしら?」
ルネは身を起こし、"絢爛たる溶鋼獣"に近づく。
人語は解さないようで返事は無かったが、小さな手で口元を撫でられた巨大な獣は目を細めてされるがままになっていた。
「うむ。これこそ『路面は舗装した方が良い』というもがふご」
また格言を発しかけたウダノスケはグールたちに制圧される。
「来なさい、"絢爛たる溶鋼獣"」
「わん!」
「……あなた、そういう声で鳴くのね」
巨獣はむくりと身を起こし、伏せ直した。
べったりと顎を地面に付け頭を低くしたポーズは獣流の礼といったところか。
「それにしても……"絢爛たる溶鋼獣"って、微妙に呼びにくいわね。
第一これって、冒険者ギルドが付けた二つ名だから本人は聞いた事すらないかもだし。
もっと呼びやすくて分かりやすい名前を付けるべきかしら」
ルネは自分の頭部を抱え上げ、焔色の巨獣をためつすがめつ観察する。
"絢爛たる溶鋼獣"はじっと大人しくしていた。
やがてルネは一つの閃きを得る。
「犬……炎を吐く犬……
…………ホットドッグ?」
彼は人語を解さないようだが、ただ事ならざるニュアンスだけは察知した様子で、抗議のために火を噴くべきか迷っているような顔をしていた。
正式な名前は別のになります。
なお、こんなのが居るのに山火事が起きないのにはちゃんとワケがあります。
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