第14話 最強賢者、魔法を教える
「魔法の道に……いや。僕は魔法を鍛えるより、領地を豊かにしたいかな。魔法はそのための手段だ」
なるほど。
もし『魔法の道に進みたい』と答えたら、魔力上げとセットで、地獄の体力トレーニングを科したところなのだが……ビフゲルを超えるだけで良いのなら、もっと手軽な方法があるな。
「分かったよ。それじゃあ、まずは詠唱をやめようか」
俺がそう言うと、兄レイクは驚いたように目を見開いた。
「いきなり無詠唱かい!? 流石に無理があるんじゃ……」
「詠唱の方がよっぽど無理だよ」
魔法の使用には、精神の安定も要求されるのだ。
あんな恥ずかしいセリフを叫びながら、ちゃんとした魔法が使える訳がない。
「じゃあ、どうやって魔法を?」
「それはもちろん、こうやって手に魔力を集めて……」
言いながら俺は、右手に魔力を集める。
別に足や頭に魔力を集めても問題はないのだが、初心者にとって扱いやすいのは、やはり利き手だろう。
ここまでは、簡単にできると思っていたのだが――
「魔力を集める? どうやるんだい、それ?」
魔力の集め方を知らない……だと……?
兄レイクよ、今までどうやって魔法を発動していたんだ。
もしや、詠唱とやらに秘密があるのか?
「ちょっと待って。実験したいことができた」
俺は言いながら、兄レイクが試し打ちの的にしていた木に手を向ける。
そして恥ずかしさをこらえながら、さっきの詠唱とやらを真似てみる。
「我が体に満ちる火の魔力よ、一筋の矢となりて、我が前の敵を――」
すると、俺は魔力を全く操作していないにもかかわらず、魔力の一部が手へと集まった。
まるで外部から、体内の魔力を強制的に操作されたかのような感覚だ。
さらにそれが、極めて非効率な方法で魔法へと変換されようとして――途中で変換が止まり、魔法の発動がキャンセルされた。
俺が反射的に魔力を制御したせいで、勝手に行われていた変換を邪魔してしまったらしい。
……これ、自然の現象じゃないな。
俺が転生するまでの間で、誰かが意図的に、こういうシステムを作ったのだ。
魔力の操作を知らないまま、極めて非効率な魔法が使えるようにするシステムを。
しかし、何のために?
魔法を使いやすくすると言うのが自然な考え方ではあるが、それにしては使いにくすぎる。声をトリガーにしたいのであれば、もっと短くて単純な起動ワードで十分だし、そもそもこの程度の魔法なら、魔力さえ扱えればどうとでも発動できる。補助する意味がない。
今の状況を考えると、むしろこれは魔力の操作を覚えさせないことで、魔法の発展を――
「マティ、急にだまりこんで、どうしたんだい?」
おっと。つい考え込んでしまっていた。
兄レイクに魔法を教えるんだったな。
幸い今ので、問題点ははっきりした。克服の方法もだ。
「魔力操作の教え方を考えていたんだけど……良い方法を思いついた」
「いい方法?」
「うん。魔法を詠唱するとき、魔力の動く感覚があるよね?」
「魔力が動く感覚なのかは分からないけど、不思議な感じがするね」
「それを、邪魔してみるんだ。魔力を操作する感覚が、少しつかめると思う」
「魔力の動く……試してみよう」
そう言って兄レイクは、再度あの詠唱をする。
結果、魔法は発動したが……その際、魔力の動きに少し乱れがあった。
「今の感覚なんだけど……つかめた?」
「何となく。もう一度やってみよう」
そう言って兄レイクは、同じ詠唱を繰り返す。
今度は、ちゃんと動きを止められたようだ。魔法は発動しなかった。
「よし。次は何をすれば?」
「今度は止めるんじゃなくて、詠唱に頼らず、自分の力で魔力を動かすんだ。利き手に集めてみると、やりやすいと思う」
「分かった」
兄レイクの魔力が、右手に集まっていく。中々筋がいいな。領主にしておくのがもったいないくらいだ。
数百年も修行を積めば、いい魔法戦闘師になるだろうに。
だが、今はそれをする時ではない。
「じゃあ次は、手の先に炎が出るのをイメージして。あまり大きい炎だと出力不足で上手くいかなかったりするから、最初は小さいのから始めるといいと思うけど……」
俺がそう言った直後、兄レイクの手の先に、小さな炎が灯った。
これなら、あとは放っておいても、明日にはビフゲルを軽く超えるだろうな。兄レイクの紋章は、第二紋(初めは特徴がないが、訓練に従って威力が上がっていく紋章)だし。
ただ、それだけではもったいないので、簡易的な練習の方法を教えておこうか。
もしかしたら、魔法戦闘のほうに興味を持ってくれるかもしれないし。
「できたみたいだね。あとは自分でつけた炎をよく観察して覚えて、イメージを固めるといいと思う」
魔力を魔法に変換する際、一番大切なのはイメージだ。
手っ取り早く魔法の威力を上げようとすれば、イメージを正確にするのが一番手っ取り早い。
……まあ、扱える魔力量の関係で、それだけだと頭打ちになるのも早いのだが。
「イメージ? 炎のイメージは、そんなに難しくないと思うけど……」
「本当に? じゃあ、ちょっと炎の絵を描いてみて」
「分かった。こんな感じで……あれ?」
兄レイクが木の枝で地面に書いたのは、かなり大雑把にデフォルメされた、コレジャナイ感あふれるものだった。
何かが違うことは兄レイクにも分かっているようだが、どこを修正すればいいのかは分かっていないようで、修正をしようとすればするほど、絵は炎に見えなくなっていく。
「ね?」
イメージというのは、自分で思っている以上にあやふやなものなのだ。
だから形にしようとしても、絵なら思ったのと違う形になってしまうし、魔法なら変換効率が落ちてしまう。
現象を正確に理解、記憶し、魔法で再現する。それが魔法を鍛える第一歩なのだ。
兄レイクも、早速実践してみたらしい。炎を見ながら魔力を集めた兄レイクが作った炎は、以前より少し大きく見えた。
「なるほど。これで威力が上がったわけだ……マティ、君は本当に9歳かい?」
「9歳じゃなきゃ、何歳だって言うのさ」
今の俺は、あくまで9歳だ。
前世からカウントすると、千ウン百歳になるわけだが。
「いや。9歳なのはよく分かってるんだけどね。マティの魔法や剣を見ていると、とてもそうは思えなくなってくるんだよね。9歳どころか、現役バリバリの冒険者でも勝てる人は少ない気がするよ。兄馬鹿かな?」
今の世界のレベルをよく知らないから正確なことは言えないが、流石に現役冒険者相手ではきついんじゃないだろうか。
体のサイズとか、基礎体力が違い過ぎるし……。
ちなみに、父カストルにはもう勝てるようになった。【魔力撃】と身体強化を使っての話だが。
「マティに追いつくのは無理だろうけど、僕も頑張ってみるよ。これでビフゲルに負けたりしたら、笑えないからね」
そう言って兄レイクは、魔法の練習を再開した。
兄レイクがビフゲルの数百倍の威力を持った炎魔法を発動し、領地一の魔法使いとしての評判を得たのは、それから一週間後のことである。
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