第10話 最強賢者、第一紋のありがたみを知る
受験か……。
それもただ合格するだけでいい訳ではなく、特待生だ。
「ううん……」
面倒だな。特に歴史なんて最悪だ。前世の知識が全く通用しない。
魔法関連の座学は、まあなんとかなるだろう。魔方陣数学はあまり得意ではなかったが、流石に10歳に受けさせるテストで、難しいものが出るとは思えない。国語も大丈夫だ。今は文字を読めないが、2年もあればなんとかなる。
……よく考えてみると、問題は歴史くらいだな。
「歴史を勉強できる本とかって、あるかな?」
「歴史……? なくはないが、何に使うんだ?」
「だって、入試といえば歴史――」
「王立第二学園の入試に、そんな科目はないぞ」
おお! ありがたい!
「じゃあ、どんな科目を使うの?」
「座学も確かあったが……あまり重要じゃない。重要なのは実技だ」
「実技?」
魔法とかのことだろうか。
「ああ。実技だ。マティは剣に力を注げばそれでいい。魔法や座学は教えられんが、剣があれば大丈夫だ」
それは、入試としてあんまりではないだろうか。
科目数がある中で一つ高い点数をとったところで、合格できる気がしないぞ。
「それで受かるの?」
「ああ。裏技的な方法だが、俺が使って実証済みだ。教えてやろうか?」
「うん」
「剣の試験は、試験官相手の実戦形式だ。とりあえず、出てきた奴をぶちのめせ。それが第一段階だ」
「うん?」
なんだか、雲行きが怪しくなってきたな。試験監督って、ぶちのめしても問題ないのか?
というか父カストルの言動は、貴族としてどうなのだろう。色々おかしい気がする。
「まあ待て。まだ話は終わっていないぞ。大事なのはここからだ。試験監督をぶちのめしたら、試験監督より強い奴が出てくる」
なるほど。その強い人に直談判して、実力を認めて貰おうと――
「そいつも、ぶちのめせ」
違った。
直談判(物理)だった。
「作戦は以上だ。確か50点満点の試験で、剣技の配点は10点だが、俺は剣技で30点を取った。他教科と合わせて35点で、無事合格だったぞ」
『作戦は異常だ』の間違いではないだろうか。
と言うか他の教科、合計5点しか取れてないのか。
……まあ、俺は魔法も使えるからな。
座学も多少は解けるだろうし、その分を足せば、特待生も何とかなる……か?
父カストルの戦術が今も通用するかどうかは分からないが、座学がダメそうなら試す価値はあるな。楽しそうだし。
「父上。特待生は流石に、条件が厳しすぎるんじゃ?」
父カストルの話を聞いた兄レイクが、こう言い出した。
「そうか? マティが12歳になれば、首席だって十分狙えると思うんだがな」
「そこは同感だけど、別に特待生じゃなくても……」
「ああ。そこはマティじゃなくて、うちの問題だ」
「うちの問題?」
「お金がない」
うん……。
何となく、気付いてはいた。
少なくとも金持ちでないことは、間違いない。
「でも父上って、昔はかなり稼いでたんじゃ……」
「騎士って、意外と儲からないんだよ。冒険者と違ってな。多少の蓄えはあったが、領地経営で溶けた」
「父上……」
ほう。
我が家の財政はひとまず置いておくとして、冒険者制度、今の世界にもあるのか。
とりあえず、俺の将来の職業は決まったな。
「まあ要するに特待生を取るか、ダメなら自分で学費を稼ぐかすればいいってこと?」
「そういうことだ。流石マティは物わかりが……あれ? マティってこんなに物わかり良かったか?」
「昔から、年の割にはよかったかな。ここまでとは知らなかったけど……」
よし。将来に備えて、学費を稼ごう。
……ただ、方法が問題だな。
このあたりでは魔物を見ないから、魔石を貯めておくことはできない。
動物の毛皮や肉も売れなくはないかもしれないが、そもそもこの領地(町というより、村と言った方が正しいだろう)には、そういった物を取り扱っている店がほとんどないようだ。
どこか大きい町に売りに行こうにも、今の俺では転移魔法を扱えない。
収納魔法は使えなくもないが、あの魔法は使用中の容量に応じて、魔力の最大値が減ることになる。魔石のように軽くて高価な品ならいいが、毛皮や肉を長期保存するには向かない。
……保管容器でも作って、そこに入れておくか。
木などを上手く使えば、魔道具なしでもある程度の管理はできるだろう。溜めるだけ溜めておいて、試験を受けるついでにでも売ればいい。
「と、いうわけで」
兄レイクと話していた父カストルが、再度口を開く。
「どんなに強い試験官が出てきてもぶちのめせるよう、鍛錬だ」
こうして、鍛錬が再開した。
この鍛錬は俺が領地を出るまで、毎朝の日課として続いていくことになる。
◇
その日の昼過ぎ。
俺は朝に決めた通り、俺は狩りの前に、収穫品を入れる物置を作るため、木を切り倒していた。
昼飯の際に聞いた話では、このあたりにある木は勝手に切っていいそうだ。
「さて。木の質は……うん。微妙だな」
管理されていないだけあって、良くも悪くも自然林といった感じだ。
質が特別いいということもなければ、特別悪いということもない。
まあ、十分だ。
俺は収束度を上げた炎魔法で木を焼き切り、板をいくつか用意した。
それらを魔法で結合し、大きめの箱を作る。
作るの、だが。
「……酷い出来だ」
ここで俺は、前世で持っていた第一紋のありがたみを思い知ることになった。
第一紋は、生産系の魔法に向いた紋章なのだ。
その感覚で魔法を使おうとしたら、酷いことになってしまった。
接着面が不均等で、しかも込められた魔力がとても少ない。
この箱は保管に使うだけだから問題はないが、本格的な装備を作るためには、第一紋の手助けが必要だろうな。
などと考えながらも、俺は今日も動物を狩り、毛皮を保管して肉を家へと持ち帰った。
その際――
「今日も、たまたま木にぶつかった鳥とかが手に入ったよ」
「綺麗に皮をはがれて、内臓まで処理されてか?」
「それはきっと、ちょうどいい具合にぶつかったんだよ」
「その言い訳、自分で言ってて無理があるとは思わないか?」
「……思う」
「お前が強いのは分かってるんだ。動物を倒したくらいであれこれ言わんから、堂々と持ってこい。肉が余ったら村人にでも売って、学費の足しにしてやろう」
などという会話があり、俺の狩りは晴れて家族公認となった。
こうして俺の鍛錬と強化は、順調に進んでいく。
そこにちょっとした転機が訪れたのは、俺が記憶を思い出してから、数年が過ぎた頃のことだ。
村の森に、魔物が現れたのだ。
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