第8話 最強賢者、剣術の衰退に気付く
読めたぞ。ビフゲルは痛がるふりで、時間を稼ごうとしている。
ならば俺のするべきことは、追撃だ。
俺がビフゲルを降参させるのが早いか、ビフゲルが魔法を完成させるのが早いか。これはそういう勝負だ。
そう理解した俺は、木剣を持ってビフゲルに攻撃を加え始めた。
――だがビフゲルは痛がったり怖がったりするばかりで、いつまで経っても魔法を発動する様子はない。
流石に怪しいと思い始めた俺は、身体強化を少し削って、巧妙に隠されたものでもない限り全ての魔力を探知できる魔法【能動魔力探知】を発動してみた。
範囲内にそれらしき魔力反応は――存在しない。
「マティ。その辺でやめてやれ」
俺が探知の結果を確認したところで、父カストルから声がかかった。
よく見てみるとビフゲルは、泡を吹いて気絶している。
「……ビフゲルは、何をしようとしていたんだ?」
「マティを倒そうとしていたんだ」
「わざと隙を見せたのは?」
「あれはわざとじゃない。普通にバランスを崩しただけだ」
……ビフゲルは、そこまで弱かったのか。
ああ。父カストルの伝えたいことが、分かった気がする。
「分かった! つまり父上が伝えたかった常識っていうのは、練習してもできるようにならない、ビフゲルみたいなのもいるって事だね!」
「ダメだこいつ! 全く分かってない!」
……気がしたのだが、違ったようだ。
「じゃあ、何を伝えようと?」
「ビフゲルの強さだ」
ほら。やっぱり当たってるじゃないか。
どこが違うというのだろうか。
「ビフゲルは別に弱くないぞ。同年代から見たら、むしろ強めの部類に入る」
……え?
「このビフゲルが、強め?」
「そうだ」
「いやでも、父上は……」
父カストルの強さは、ビフゲルとは比べものにならなかったはずだ。
ビフゲルが100人いたところで、父カストル一人に傷一つつけられないのではなかろうか。
「自分で言うのもなんだが、私は強いぞ」
いや。「強い」と「強め」で差がありすぎだろう。
「じゃあ、伝えたかったことっていうのは……」
「マティの強さが、明らかに異常だということだ。少なくとも15歳未満に、お前に勝てる奴はまずいないだろうな」
マジかよ。いくら知識があるって言っても、訓練もしていない6歳の体だぞ。
魔法だけではなく、剣術まで衰退してしまったのか?
いや。剣術がそこまで衰退した世界で、父カストルのような剣士は生まれないはずだ。仮に生まれたとして、こんな場所の領主などではなく、剣術の大流派の開祖か何かになっているはず。
それと、だ。
父カストルの行動には、今の説明だけではつじつまが合わない部分がある。
「ところで、父上」
俺は,その点をつついてみることにした。
「何だ?」
「模擬戦の前、ビフゲルの要求に片っ端から従ってたけど……あれは、どうして?」
「ああ。どうせ一方的な戦いになるだろうから、適当なところで止めようと思っていたんだがな。ビフゲルがあまりに綺麗に墓穴を掘るものだから、好きなだけ掘らせてやったんだ」
ああ。確かに手加減無用だの審判不要だのと、自分から墓穴を堀りに行っていたもんな。
「まあ、ビフゲルにもいい薬になるだろう。できればこれで、考えを改めてくれればいいんだが……」
父カストルはそこで、言葉を切った。
気絶していたビフゲルが、目を覚ましたのだ。
「ビフゲル。何か言うことはあるか?」
父カストルがかけた声に、ビフゲルはすぐさま反応する。
「不正だ! 失格紋ごときが、俺に勝てるはずがない! こいつは何かいかさまをしたに決まっている! 父上、こいつを処罰してくれ!」
さっきまで気絶していたというのに、随分と元気のいいことだ。
父カストルもあきれ果てて、半笑いになっている。
読心魔法も使っていないのに、「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」という声が聞こえてくるようだ。
いや、「ダメだこいつ。もう手遅れかもしれない」のほうが正しいか?
そんな表情のまま、父カストルはビフゲルに声をかけた。
「そうかそうか。マティが不正をしていたと、お前はそう言いたいのか」
「そうだ!」
その言葉を聞くと、父上はニッコリと笑ってこう告げた。
「じゃあ次は、不正がないかどうかちゃんと気をつけるといい。私もちゃんと見ておいてやるから、正々堂々と戦うといい」
「え? いや。別にもう一度戦うとは……」
「何を言っているんだ。模擬戦は5回勝負だろう? お前が言い出したことじゃないか」
慌てるビフゲルを、父上が追撃――
いや、違うな。あらかじめ掘っておいた墓穴に、ビフゲルが勝手にはまっただけだ。
「というかさっきの模擬戦、ビフゲルはまだ降参していないよな? 喜べビフゲル。お前はまだ負けて――」
ビフゲルは逃げ出した。
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