第4話 最強賢者、家に食料をもたらす
「今日の夕食は豪勢だな! 何かあったのか?」
食事の時間。
大量の肉が置かれた食卓を前に、父のカストルが感嘆の声を上げる。
夕食に使われたのは2匹だけだが、五人家族である我が家にとっては、なかなかの量のようだ。
考えてみると、転生してからこの量の肉が出されたのは、レイクが15歳の誕生日(この国では、15歳から成人と認められるようだ)を迎えた時くらいかもしれない。
「今日は、マティの誕生日だった気がするけど……それを祝うために作ったって訳じゃないよね?」
そう言ったのは、レイクだ。
俺が転生したのはちょうど6歳になった日なので、必然的に初日は誕生日ということになる。
だが先ほども言った通り、誰かの誕生日だからといって豪勢な料理が出されたのは、レイクの成人の時だけだ。
他の誕生日に関しては、お祝いさえしていなかった気がする。
「そうだ! こいつの誕生日を祝うなどとんでもない! むしろ悲しみ、運命を呪うべき日だ!」
レイクの発言に乗っかるようにして、ビフゲルが俺を馬鹿にしていた。
「ビフゲル。お前は黙っていろ」
そして、黙らせられていた。
黙らせたのは我が父、カストル=ヒルデスハイマーだ。正確な年齢は知らないが、見た目からすると四十五歳といったところだろうか。
流石に当主には逆らえないらしく、ビフゲルが口を閉じる。
顔は怒りで真っ赤になっているが。……しかも心なしか、昼間よりもボルテージが上がっている気がする。この自称魔法の神に選ばれし者さん(14歳)は、魔法もロクに扱えないクズ(6歳)に駆けっこで負けたのがよほど悔しかったのだろうか。
「このお肉はマティが持ってきました。文句があるなら、食べなくてよろしい」
会話が切れたタイミングを見計らって、母のカミラが答えを明かした。
それを聞いた父が、俺に質問する。
「マティがこれを? 一体、何があったんだ?」
さて。どう答えるべきか。
正直に答えると、色々と面倒なことになる可能性がある。
この領地が魔法的に未発達な点を除いても、俺の魔法は六歳児としては優秀なのだ。
特に最悪なのが、この領地に縛り付けられるパターンだ。
俺はそのうちヒルデスハイマー領を出て、魔法戦闘師として活動する気でいる。
この世界では別の名前になっているかもしれないが、やることは変わらない。
便利な魔法屋として認識されてしまえば、それが難しくなる可能性がある。
「たまたま鳥が木にぶつかって、落ちてきたんだよ」
考えた末、俺は魔法のことを隠すことにした。
五匹というのはいささか不自然だが、何とか通らなくも――
「綺麗に首を切って、血抜きまでされて落ちてきたんですか?」
ダメだった。母に速攻でツッコまれてしまった。
しかしここは、しらを切り通す!
「血抜きは尖った石を見つけて、自分でやったんだ」
「五匹も?」
「うん。五匹も」
「……確かに攻撃で倒したにしては、それらしい傷が見当たりませんでしたね。珍しいことですが、あり得なくはないのかもしれません」
よし。ごまかせた。
次からは何か言い訳を考えてから、もっと少ない数を倒すことにするか。
肉の供給をやめる気はない。栄養は大切なのだ。
「鳥の異常行動か。妙なことの予兆じゃなきゃいいんだがな。……そういえばマティ、お前6歳になったのか」
「うん。マティは今日で6歳だよ」
カストルの質問に、レイクが答える。
「じゃあマティも明日から、剣術を教えてやろう。特にマティは領地を出ることになるから、剣は大事になるぞ」
そういえばレイク達は、父から剣術の訓練を受けていたな。
あの訓練、六歳から始まっていたのか。なかなか先進的だな。
――だが父の発言には、それ以上に気になる点があった。
領地を出る、という点だ。
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