第3話 最強賢者、6歳にして魔物を狩る
俺がビフゲルに哀れみの目を向けていると、ビフゲルはさらに顔を真っ赤にした、
「何だその目は! 舐めているのか!」
違うぞ。哀れんでいるんだ。
とりあえず『しっかくもん』が『失格紋』 だと分かったことと、ビフゲルを相手にするのが完全に無駄なことが分かっただけでも、収穫としておこうか。
後者に関しては、話す前から分かっていた気もするが。
「おい! 何とか言え!」
今度は俺が黙っているのが、よほど気に食わなかったらしい。
ついにビフゲルは手に持っていた棒きれを振り上げて、俺を追いかけ始めた。
正当防衛と称して処分してしまったほうが人類のためな気もするが、この世界における犯罪の扱いがよく分からないうちは、うかつなことをしない方が無難だ。
ということで、とりあえず逃げておく。
俺は身体強化を強め、一気にスピードを上げた。
動きこそ早歩きのそれだが、速度はすでにビフゲルの全力ダッシュを超えている。
「くそ、待て! ぜぇ、ぜぇ……なんで追いつけねえんだ!」
それは魔法の神に選ばれし者さんが、魔法をろくに使えないクズでも使えるような身体強化を扱えていないからじゃないかな?
俺はそう思ったが、口には出さずにビフゲルを撒き、森へとたどり着いた。
そして、体や魔力への負担が思ったよりも軽いことに気付く。
元々第四紋は身体強化に向いた紋章だが、その効果は想像していた以上のようだ。
「とりあえず、動物でも狩るか」
【受動探知】の対象となることからも分かるように、この世界に存在する動物は、多くはないながらも魔力を持っている。
しかも動物や魔物の魔力には特殊な性質があり、俺達はそれらを倒した際に魔力を取り込んで、自らを強化できるのだ。
もちろん強力な魔物を相手にした方が伸びは速いものの、リスクが大きい上に狩れる数が少なくなってしまうので、あまりおすすめできない。
――ちなみに人間の魔力を使って強化する方法も無くはないのだが、かなり複雑な魔法が必要な上に効率も悪いので、使う状況はかなり限られるだろう。
前世の俺が開発した魔法ではあるが、実際に使うことはほとんどなかったように思う。
最初に見つかった動物は、鳥だった。名前は分からないが、サイズは鶏よりやや大きいくらい。
鳥が止まっている木の枝はまでの高さは、およそ五メートルほど。
さっそく魔法で撃墜……といきたいところだが、第四紋の魔法は射程が短い。
今の俺では、あの位置に魔法を届かせることすらできないだろう。
そこで俺は気配を消しつつ、地面から小石を一つ拾った。
脚に集中的な身体強化を施し、一歩踏み出す。十分に勢いが乗ったら、今度は肩と腕に身体強化の対象を移し、思い切り腕を振り抜く。
限られた身体強化を、最大限まで小石に伝えるための動き。
それは六歳児の魔力と体力によって投げられる石の速度を、時速百数十キロまで跳ね上げる。
ここまで動くと流石に気配を消しきれず、鳥も俺の投石に気がついたようだが、すでに遅い。
顔面に石の直撃を受けた鳥は、ドサッという音と共に、地面へと落下した。
それと同時に俺は、自分の体力と魔力が、少し強まったのを感じる。
本来は自覚できるようなものではないのだが、初めての戦闘ということもあって、成長の幅が大きいのだろう。
落ちた鳥はちゃんと回収し、魔法で首を切って血抜きしておく。
これは貴重な栄養源だ。家の食事は残念ながら、体の成長を支えるのに十分な量とは言えないからな。
特に、タンパク質が足りない。
毎日寝る前に魔法で筋肉を痛めつけ、超回復させることで筋力を強化する計画なのだが、それも回復に使う栄養がなければ逆効果でしかない。それは非常に困る。
原因は食材不足のようなので、これを家に持って帰れば、ちゃんとしたものが食べられるだろう。
そんな調子で俺は五匹の鳥を狩り、森を後にした。魔力稼ぎも大事だが、乱獲はよくないからな。
日間入り記念に連続投稿。
次回更新は本日8時の予定です。
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