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失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~ 作者:進行諸島

第一章

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第2話 最強賢者、兄を哀れむ

 鍛錬を始めるにあたって、まず下準備として、【受動探知】と呼ばれる魔法を発動する。

 これは名前の通り、魔道具や生物が発する魔力を認識することによって、周囲の状況を調べる魔法である。


 効かない相手もいるが、敵に気付かれることもなければ魔力消費もないので、最もよく使われる探知魔法の一つだ。


 それでいて、精度や範囲を上げようと思うと、実は難しい魔法でもある。

 今の俺は簡単に死んでしまうので、森に入るためにこの魔法は必須だ。

 魔力を全く使わないので、魔法というより技術に近いかもしれないが。


 これはすぐに発動できた。魔力を使わないだけあって、今の体でも発動は難しくない。

 ただ、魔法制御力がかなり落ちているせいでノイズが多く、探知できる範囲はかなり限られるようだ。


 前世であれば半径数百キロはいけたが、しばらくは一キロ程度で我慢するしかないな。

 まあ今の雰囲気なら、この程度でも十分に危険を回避できるだろう。

 魔物はおろか、強そうな動物でさえ、ほとんど探知に引っかかっていないようだし。


「マティアス! なぜお前が外に出ている!」


 森に出るべく意気揚々と歩き始めた俺に、そんな声がかけられたのは、俺が家を出てほんの数百メートルのところでだった。


 声を聞くだけで、誰だか分かった。次男のビフゲルだ。

 どうやら、俺が家から出ているのが気にくわないらしい。


「出ちゃダメなのか?」


 俺は歩みを止めず、むしろ早めながら言葉を返した。

 現世の記憶の全てが、俺に告げている。こいつの相手をするのは無駄だと。


「ダメに決まっているだろう!」


 俺の言葉に、ビフゲルは怒りで顔を真っ赤にしながら答えた。いつ血管が切れるか、見ているこっちが心配になるレベルだ。切れればいいのに。


「ダメな理由は?」


 俺はさらに足を速めながら、さらに質問を浴びせる。

 ついでに、身体強化魔法も使ってみた。

 軽い強化だが、早歩きには十分だ。


「家の恥さらしだからだ! お前のような失格紋は、俺が家を継いですぐに追放してやる!」


 また『しっかくもん』か。

 知らない単語でけなされても、反応に困る。


 ただ一つ確かなのは、俺はビフゲル以外に恥さらし扱いされたこともなければ、家から出るなと言われたこともないということだ。

 ビフゲル矯正計画ならば、家に居る間に幾度となく聞いたんだが……この様子を見る限り、結果は芳しくなさそうだな。


「なんなんだ、その『しっかくもん』って?」


「そんなことも知らんのか。これだから失格紋は!」


 六歳児に向かって、そんなことを言われましても……。

 ちなみにビフゲルは十四歳だ。その十四歳が六歳児にこんな言葉を浴びせているというだけでも、ビフゲルの異常さは簡単に理解できるだろう。


 というかこの馬鹿は、本当に自分が家を継げると思っているのだろうか。底抜けの馬鹿であることを抜きにしても、お前、次男だぞ?


「ならば、栄光紋の俺が教えてやろう。左腕を見てみろ!」


 まあ教えてくれるというのならば、一応は聞いてみようか。

 そう考えて、俺は左腕に視線を移す。うん、第四紋があるな。


「これが、どうしたんだ?」


「それは失格紋。魔法をロクに使えないクズの証だ! そしてこれが、魔法の神に選ばれし者の証、栄光紋だ!」


 そう言ってビフゲルは、自分の左腕を空高く掲げ、俺に見せつけた。

 ……うわぁ。痛々しい。見ているこっちが恥ずかしくなるので、ぜひともやめていただきたい。俺が家の恥ならば、こいつは人類の恥、いや有機物の恥だな。

 まずい。こいつと同じ種族に生まれたというだけで、死にたくなってきたぞ。もう一度転生するか?


 頭痛をこらえながら、俺はビフゲルの腕を観察する。

 腕の向きからして、奴が俺に見せつけたいのは紋章のようだ。


 その紋章が何なのかは、一目で分かった。

 ――第一紋だ。これだけは間違えようがない。前世で何百年もの間、うんざりするほど見てきた紋章なのだから。

 俺はビフゲルに向けて、哀れみの表情を浮かべた。

 分かったぞ。きっとこいつは自分の紋章に絶望するあまり、人格を歪めてしまったに違いない。

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