第182話 迷いの霧とエルフの里
ローズは死んでいません。身体は無事です。精神もまだ壊れていません。
どんな「終わり」になったのか、作者の中では決まっていますが、エグいので公開しない予定です。
一つ言えることは、主人公のする事じゃない。
ノロノロ飛行の末、エルフの里のある森に到達した。
俺達の前には、霧に包まれた森が広がっている。
これが迷いの霧だな。
「ここから先、歩いて入らなければエルフの里に辿り着けません」
先に降り立ったアッシュが説明をしてくれる。
多分、その気になればそんなことしなくても大丈夫だよ?
後、クロアは人型(全裸)になり、服を着ている最中だ。
流石は
「そう言えば、仁さん達は騎竜をどうしますか?中で数日は滞在してもらうので、ここに置いていく訳にもいきませんよね?」
「中に連れて行っても良いのか?」
「普通のドラゴンは駄目です。
え?
「付いてきたいか?」
俺が尋ねると、ブルー、リーフ、ミカヅキは揃ってコクリと頷いた。
「それじゃあ、人型になって良いぞ。あ、ほらっ」
ブルーが人型になる前に、貫頭衣を頭からかける。
リーフにはさくらが、ミカヅキにはミオが同様の事をしている。
ブルー達にも羞恥心はないが、アッシュの前で全裸にするつもりもない。
「ふう……、これで、私達も入れるのよね?」
「らしいな」
すぐにブルーは人型になり、衣服を整える。
「やはり……。でも、よろしいのですか?僕に彼女達の正体を教えて?」
「アッシュさんは、言いふらすような人じゃないだろう?それに、もし広まったとしても、既にそれ程の不利益はないから……」
そう言えば、
A:カスタールとエステアに現れた冒険者であり探索者。Sランク冒険者のクロード達の師匠。エステア迷宮初の攻略者の所有者。くらいだと思われます。
うん……。結構、目立つ条件を満たしているよね。
と言うか、何で目立っていないのか、不思議なくらいだ。
A:あまり人前に姿を現さない事と、
そう言う事か。
言われてみれば、迷宮の攻略をしたシンシア達の素性に関して、問題になる可能性もあったんだよな。
俺の方に話が来なかったので、気にしてなかったけど、カトレアが頑張ってくれたのか。
A:最終的に『不可侵』と言う方針が取られることになりました。アドバンス商会との関連も疑われており、下手に手を出すと危険だと判断されました。
目立っていないとも言えない状況だね。
そろそろ、本格的に表舞台に立たないと駄目かなぁ……。
今表舞台に立っても、余計な責任だけ押し付けられそうで嫌なんだよな。魔王とか……。
もちろん、そんな状況になったら、全力で拒否するけど、拒否する手間自体が面倒だ。
まあ、それは追って考えるとしようか。
「言いふらすつもりはありません。それだけ、信頼されていると受け取らせていただきます」
「ああ、そうしてくれ」
正直、結構気に入っているよ、アッシュの事を。
それはそれとして、横で呆けているクロアはどうしたんだ?
「クロアさん?どうかしたのですか?」
アッシュに肩を叩かれ、クロアが意識を取り戻す。
「はっ!い、いえ、何故か、その少女を見たら心がざわついて……」
ブルーの事をじっと見つめるクロア。
《ブルー、この
《……あるわね。4年前にドラゴンとの戦いで行方不明になった、テンリ時代のお世話係の1人よ。死体はなかったと聞いたけど、生きていたのね……》
意外と近い関係だった。
そう言えば、エルガント神国でクロアを見てから、その話をブルーにした記憶はない。
ブルーは懐かしそうにクロア(旧ヨイヤミ)を見つめる。
クロアの方も記憶はないけれど、懐かしさだけは感じている様子だ。
記憶喪失と言っても、取り返しがつかないレベルで失われている訳ではないのだろう。
「もしかして、彼女はクロアさんの失われた記憶と何か関係が……?」
「ノーコメントよ」
取り付く島もないブルー。
《良いのか?》
《良いのよ。自分で思い出したのならともかく、私から何かを言うつもりはないわ。もう、2人とも立場が変わっているのだから……》
例え、記憶を取り戻しても、何もかもが元通りと言う訳には行かない。
既に、俺の配下以外は『
もし、クロアを『
しかし、無条件でそこまでの特別扱いは出来ない。
仮にブルーに本気で頼まれたら、俺も考えるだろう。逆に言えば、ブルーは俺にそこまで頼めないと考えたに違いない。
そもそも、記憶を取り戻したクロアが、戻る事を望むかも分からないのだから……。
「さっさと行きましょう。その為にここに来たのよね?」
アッシュはブルーに言われ、少し残念そうに頷いた。
「……ええ、そうですね。それじゃあ皆さん、ついて来て下さい。僕から20m以上離れると、迷いの霧の影響を受けることになりますので、注意してください」
そう言って、アッシュが森の中に入っていった。
その瞬間、アッシュの周囲だけ霧が晴れる。丁度、半径20mくらいだな。
「見ての通りです。もしも、途中で見晴らしが悪くなったら迷いの霧の影響を受けているので、そのまま進んでください。その内、森の外に出られます」
一度入ったら二度と出られない系の迷いの森ではなく、丁寧に帰してくれるらしい。
「ただ、森の外に出られるのは1日に一度だけです。二度目は死ぬまで森を彷徨うことになります」
チャンスは1日1回の様子。
まあ、日を跨げば再チャレンジできる分、優しいと言えるのではないだろうか?
A:そもそも、そのルールを知っている者が関係者に限られます。外では、一度目は入っても帰って来れるが、二度目はない、と有名になっており、日を跨いで再度入るものも居りません。
それもそうか。
リスクを負ってそんな事を試す奴の方が少ないよな。
「もし、はぐれたら迎えに来ますので、入り口で待機していてください。その場合、念のため入るのは明日にしましょう」
「分かった」
そうは答えたものの、20m半径からはぐれるなんて、そうそう起きる事じゃないだろう。
子供じゃないんだからさ。
「それでは出発します」
これがフラグだったと気付くまで、10分も経たなかった。
アッシュの先導の元、俺達は森の中を進んで行く。
目印があるようには見えないが、アッシュの歩みには迷いがない。
霧が晴れるだけでエルフの里に辿り着ける訳じゃないようだな。
俺?マップとか色々使えば、簡単に辿り着けると思うよ。
《仁様……》
《ああ、分かっている。でも、俺から言える事でもないからな》
マリアに言われる前から気付いていた。
今現在、こちらに接近する敵がいることは……。
世界樹の守護者
LV200
<飛行LV5><門番LV10>
備考:世界樹を守る
どうやら、完全にセキュリティに引っかかったようだ。
何が悪かったんだろう?
A:
うん、少し頑張ってどうにかなる問題じゃないね。
このまま放置と言う訳にもいかないだろうな。
「え?この気配はまさか!?」
俺が何かを言う前に、アッシュが気付いたようだ。
アッシュ、本当にスキル持ってないんだよね?
「皆さん、走ってください!敵が来ます。せめて、迷いの霧だけでも抜けないと!」
「ああ!」
俺達はアッシュから20m以上離れないように注意しながら走る。
「もうすぐです!」
あー、これは間に合わないな。
俺達が迷いの霧を抜ける前に世界樹の守護者が襲ってくるだろう。
その状態で全員が20m半径をキープするのは難しいかもしれない。
仕方ないので、適当な小石を投擲。
世界樹の守護者に直撃して吹っ飛ぶ。時間が稼げた。
え?迷いの霧?知らんよ。
そして、俺達は迷いの霧(笑)を抜けた。
霧も森もなくなっており、平原が広がっている。
エルフの里までは、もうしばらく進まなければならない。
「え?守護者が倒れている?なんか、ボロボロになっている?」
世界樹の守護者は倒れたまま起き上がってこない。
「アレはこのエルフの里を守る守護者です。どうやら、敵認定されてしまったようです。何か、心当たりはありますか?」
「少々ある……かな?」
ほんの5つ程……。
「あるのですか……。仕方ありません。アレに話は通じないから、身を守るためには倒すしかありません。仁さん、大変申し訳ありませんが、手を貸していただけませんか?弱っているとは言え、僕1人だと少々荷が重いですから」
アッシュのレベルは50。
年齢の割に異常に高いが、レベル200の守護者を相手取るのは困難だろう。
「ええ、もちろんだ。むしろ、アッシュさんは下がってもらって構わない」
俺が狙いだろうから、その方が確実で安全だ。
「それは出来ません。こちらの不手際ですから」
自分の不手際を客である俺だけに対処させる訳にはいかないと考えているようだ。
この辺り、紅玉兄妹とは根本から考え方が違うよね。
とは言え、流石に俺がここまでNG条件を満たしていたと想定するのは困難だろうから、アッシュが悪いと責めるつもりもない。事前に確認できるような話でもないだろうし……。
「クロアさんは下がっていてください」
「申し訳ありません」
竜形態は格好いいのだが、実は非戦闘員であるクロアが下がる。
「他の方は……大丈夫そうですね」
俺以外のメンバーも戦闘準備は出来ている。
アッシュも剣を抜き、構える。
俺、構えない。フリーハンド。
あ、世界樹の守護者が起き上がってきた。プルプルしてる。
世界樹の守護者を一言で表すと、『木製の羽付きマネキン』だ。
何となく、
武器は木剣。ただし、下手な金属よりよく切れる。
空は飛べる。最高速度はまあまあ、小回りは効かない。
世界樹の守護者は起き上がると、剣をこちらに向けてきた。
「来ま……」
アッシュのセリフの途中、世界樹の守護者はガラガラと崩れた。
「……せん」
うん、残念ながら、来なかったね。
まさか、小石一発でHP全損するとは思わなかったよ。
A:クリティカル、入りました。核を破壊すると即死するタイプの守護者です。
何と言うか、情けない終わり方だなぁ……。
「仁さん、何かしました?」
「少し先制攻撃をした」
隠すような事でもないので、アッシュの問いに頷きながら答える。
先制攻撃と言ったけど、どちらかと言えば牽制のつもりだったんだよ。
その牽制でHPが無くなったけど……。
なお、世界樹の守護者の残骸は残っていない。
この辺りは
「強いとは知っていましたが、そこまでとは……」
アッシュの想像を越えられたようで何よりです。
「仁さん、ここまで来て何なのですが、守護者を倒した以上、エルフの里に行くのは危険かもしれません。この事は確実にエルフの里にも伝わっています。下手をすれば、エルフの里全体が敵になるかもしれません」
そうなる可能性は十分にあるな。
でも、ここまで来てお預けは嫌だなぁ……。
「僕は説明のためにエルフの里に向かいます。仁さんは霧を使って森の外に出てください。このお詫びは後程いたしますので……」
「なら、俺達もその説明に同行するよ。それで、エルフ達に出て行けと言われたら出て行く。折角ここまで来て、何もせずに帰るのはあまりにも勿体ない」
守護者のセキュリティには引っかかったが、まだ出て行けとは言われていない。
なら、話を聞いてからでも遅くはないだろう。
「危険ですよ?」
「何が?」
正直、エルフの里のエルフ相手に、脅威を感じていない。
「……分かりました。僕も出来るだけ説得してみますが、あまり期待しないで下さい」
「頼む。それと戦闘になる可能性はあるのか?」
「無いと信じたいですが、可能性はあります。……もし戦いになったら、僕1人に任せてもらえませんか?僕が全員無力化しますから」
平然と凄い事を言うね。
エルフの里のエルフ達、レベル100以上の実力者もザラにいるのに。
「戦いを任せるのは構わないが、危険が迫ったら反撃するぞ?」
「それは仕方ありません。そのような状況にならないように努力します。そして、万が一の事態でも、襲って来た者を殺さないでいただけると有難いです。同郷の者なので……」
「分かった。努力する」
出来るとは言わない。するとも言わない。でも、努力はする。
「ありがとうございます」
そして、再びエルフの里を目指す。
「ここから、再び騎竜に乗って進むのですが、1つ注意点があります。あまり、飛ぶ高度を上げないで欲しいのです。高さ20mは絶対に下回るようにしてください」
空にも迷いの霧の当たり判定があると言う話かな?
さっきアルタに聞いた。
「実は、迷いの霧は森だけじゃなく、空にも広がっているのです。空から見たら、この辺りも霧に覆われているように見えます。そして、ある程度の高度、先程言った約20mまで飛ぶと、中からでも霧に捕まることになります」
うん、やっぱり当たりだった。
ここから空を見ても霧は見えない。
しかし、迷いの霧の効果が無くなっている訳ではない。……分かり難いよ。
「上空で霧に捕まると、周囲の様子が分からず、危険な状態になります。もし、霧に捕らわれたら、すぐに地上に降り、森を歩いて外に出てください」
こちらも一度だけなら許されるらしい。
俺達は低空飛行を意識して進んだ。
一番飛行が安定していないのがクロアなのは、心の中で笑わせてもらった。
20分程でエルフの里が見えてきたので、一旦地上に降りる。
「武装した人が集まっているな」
「守護者が動き出したというのは、それだけ
エルフの里の入り口付近には、武装したエルフの集団が居た。約20人だな。
エルフらしく、弓装備や魔法使いっぽい格好の者が多い。
レベルは全員100オーバー。エルフの里のレベル上位20人。つまり、精鋭だ。
世界樹の守護者が起動した事により異常事態と判断、大急ぎで戦闘準備を整えたようだ。
向こうからも俺達の事が見えているだろうが、険呑な雰囲気は消えていない。
刺激しないように、ここからは歩いて進むことにした。
ある程度近づくと、エルフの武装集団もこちらに向かって来た。
そして、両陣営が向かい合う形で接触する。
「止まれ」
一番前にいる無表情で偉そうなエルフがそう言った。
偉そう、と言うか、本当に偉い。
名前:ゴーシュ
性別:男
年齢:1111
種族:ハイエルフ
称号:エルフの里の長、世界樹の保護者
パッと見、成人したての男性に見えるが、ハイエルフの見た目成長速度が遅いだけで、里の中では語り部を除き最高齢である。
おっさんもハイエルフで世界樹の保護者やっているんだね。
男なので『姫巫女』称号は持っていない。
「アッシュ、その者達がスカーレットの言っていた客で相違ないな?」
「はい、彼らが仁さんとその一行です」
仁と愉快な仲間達です。
「気付いていると思うが、誰かが条件を満たしていたようで、守護者が動き出した」
「確かに、僕達のところに守護者が来ました」
「その様子だと、守護者を倒したのか……。流石アッシュと言っておこうか」
あれ?アッシュが守護者を倒したと勘違いしている?
「だが、守護者はエルフの里を守る者。守護者がその者達を外敵と認識した以上、我々はその外敵を排除しなければならない」
アレ?追い出すとかの前にいきなり排除?それって殺すって事でOK?
「待ってください!彼らは外敵ではありません!この里を攻撃する意思も無いはずです!偶然、守護者の排除要件に引っかかってしまっただけです!」
アッシュが声を荒げて弁明する。
え?……うん、里、だよね?多分……恐らく攻撃しないよ?
「意志は関係ない。理由も関係ない。排除対象が森を抜けた以上、排除以外の選択肢はない」
取り付く島もないって奴ですね。
「なら、せめて森の外への追放にしてください!彼らを呼んだのは僕達です!それで殺すというのはあまりにも不条理です。長も呼んでいいと許可してくれたではないですか!」
「確かに、スカーレットに説得され、里に入れる事を許可した。だが、それは排除対象でない事が前提だ。排除対象である以上、その約束は既に意味を為さなくなっている」
無表情に淡々と答える
「どの要因が理由で外敵認定されたかは知らぬが、一度エルフの里に足を踏み入れた以上、排除対象には死以外の結末は許されていない」
これはもう戦闘確定ですね。
「アッシュ、其方だけは対象外だ。其方さえいなければ、その者達は脅威ではないだろう。大人しく我々に従い、その者達の排除を手伝うと良い」
あれ?なんか、随分と弱く見られていないか?
A:マスター達の実力を、得られるリソースから推測しているからです。
アルタによると、世界樹は
俺達から得られたリソースが非常に少なかったため、脅威ではないと判断したのだろう。
なお、
他の仲間達のリソースの大半は、<
リソースに関して言えば、誰を利することになるか不明瞭なため、意図的に他の
先にも述べた通り、『出さない』と言うよりは、『行き先を変える』が正しい。
この方針は『
得られるリソースが『0である』と『少ない』の間には大きな差がある。
『少ない』だけなら弱さの証明だが、『0である』と言う事は、何らかの理由があるのだ。
それを知らない、考えていない
「お断りします。自ら案内した客に剣を向けるなど、僕の矜持が許しません」
「愚かな」
愚かなのは
「仕方あるまい。皆の者、アッシュに構わず、殲滅せよ」
「仁さん」
「任せる」
「ありがとうございます」
俺達はアッシュに戦いを任せるべく、後ろに下がる。
「行きます」
アッシュはそう言うと剣を鞘から抜きつつ駆け出した。
俺達もアッシュの邪魔にならないように距離をとる。
「喰らえ!『ファイアボール』!」
「今だ!『サンダーバレット』!」
「『アイスボール』!」
エルフ達は、最も素早く発動できるレベル1魔法を撃ち出した。
残念ながら、精鋭とは言っても、<無詠唱>を持っている訳ではない。
ひょいひょい使っているから実感はないが、<無詠唱>って実はかなりのレアスキルなのですよ。
走ってくるアッシュに向かう魔法達。
しかし、アッシュは魔法を避けず、持っている剣を振るって
斬り飛ばしたのではなく、剣に触れただけで消えたように見えたな。
アッシュの剣は良い物だが、魔法を消す効果はない。
そして、アッシュにはスキルが無い。……もしかして、『
『
スキルと違い、容易には変化せず、魂に刻まれた情報の為、ステータスに表示されない。
『
アッシュには触れていないので、アッシュの『
しかし、『
<敵性魔法無効>に似た効果があるとすれば、相当に珍しいモノだろう。
「アッシュに魔法は届かぬ!魔法で狙うのなら外敵達にして、アッシュには弓を向けよ!」
待機していた弓兵達がアッシュを狙い、魔法使い達は俺達を狙う。
5名しかいない前衛職っぽい鎧を着た連中は、後衛職の護衛だ。
弓兵が放った矢がアッシュに襲い掛かる。
しかし、アッシュはそれを紙一重で避ける。
「ちっ、惜しい!」
弓兵が悔しそうに呻る。
いや、惜しくないよ。
『紙一重で避けた』のは事実だけど、『紙一重になるように避けた』が正しいんだよ。
必要以上に大きく動かなかっただけなんだよ。
そのまま、アッシュは後衛に接近する。
「させぬ!」
「遅いです」
「ぬっ!?」
後衛職の前に盾を持った前衛職が立ち塞がるが、トップスピードのアッシュはサイドステップで盾を避けるように回り込んだ。
前衛職からは、急にアッシュが消えたように見えただろう。
そのまま、アッシュは前衛の1人を蹴り飛ばす。
「ぐうっ!?」
自分よりも大柄なエルフをいとも簡単に吹き飛ばしたアッシュ。
アッシュが次に狙ったのは魔法使い達だった。
魔法使い達は、レベル2以上の魔法を詠唱していた。
魔法使い達と俺達は距離が離れているので、レベル1魔法では避けられたり、効果が薄かったりするからだろう。
アッシュは腰に下げたアイテムボックスからナイフを取り出した。
そして、詠唱が終わりそうな順番で魔法使い達に向けて投げる。
「何!?」
「ぐあっ!」
「ちっ!」
ナイフを避けた魔法使い、避けきれずに当たった魔法使い、どちらにせよ詠唱は止まることになった。
<詠唱中断>持ちがいないので、一旦詠唱を止めてしまえば、最初からやり直しだ。
「うおおおお!何!?ぐはっ!」
ナイフを投げ終えた体勢のアッシュに向け、剣を持った前衛職が襲い掛かる。
次の瞬間には、足払い+踵落としにより背中から地面に叩き付けられ気を失っていた。
その後も次々と倒れて行くエルフ達。
俺達への攻撃も都度封じている。
剣を持っているが、相手を倒すときは体術が中心であり、武器は武器同士の打ち合いにしか使っていない。流石に遠距離攻撃はナイフだが……。
アッシュの戦いは対人戦に特化している印象だな。人が相手なら多対一でも対応できる。
逆に言えば、小細工の通じないステータスお化け相手は辛いだろう。
「はあ!!!」
前衛を少しずつ減らし、それ以上に後衛を減らし、最後の前衛は掌底により崩れ落ちた。
あれ、鎧越しにダメージが通るから、使い勝手が良いんだよね。
こうして、精鋭エルフは全滅し、残るはおっさん1人となった。
あ、エルフは死んでいないよ。全員、綺麗に気絶しているだけだよ。
次回からネタバラシ回が続きます。本作品の謎や伏線の3分の1くらいは明らかになります。