挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第12章 真紅帝国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
260/265

第180話 証拠隠滅と黒幕

タイトルが不穏ですが、仁君はピンチになったりしません。

一応、貴重なバトル回です。

 劇場から出て、次の目的地に向かう途中、俺達の前を赤いローブで顔を隠した、20名ほどの集団が立ち塞がった。

 その先頭、一番偉そうな男が口を開く(顔は見えない)。


「テメェがジンだな。悪りぃが、テメェにはここで死んでもらうぜ」


 もうすぐ夕方、人通りの多い天下の往来で殺害宣言をしたこの男(マップ表示はてき)、一体何者であろうか?


名前:ジョナサン・クリムゾン

性別:男

年齢:16歳

種族:人間

称号:真紅帝国皇子


 何と、驚くべき事に、この真紅帝国の第2皇子であった(棒)。


 この襲撃……暗殺と言おう。その動機を一言で言うと、『ルビー皇女を助ける為』である。

 名前からお気づきの方もいるかもしれないが、ジョナサンはルビーの同母兄妹だ。

 林檎ジョナサン宝石ルビーも、漢字で書くと等しく『紅玉』だからね。

 多分、スカーレットが名付けたのだろう。


 ジョナサンはルビーによる襲撃事件の事を知り、事件を隠蔽して初めから無かった事にする為、俺を暗殺することを選んだ。

 この時点で、ジョナサンは即有罪ギルティとなった。


 ルビーが悪いと知りながら、それを隠すために他者を害するなど、言語道断である。

 本当に妹の事を想うのなら、妹を連れて謝りに来るべきだったのだ。

 なお、許したかどうかは別の話である。

 兄妹揃って謝るという選択を取らず、誠意を見せる事も無い。その癖、暗殺などと言う最終手段は躊躇なく選ぶ。


 つーか、これ、暗殺が成功したとしても、無事で済むと思ってんのかね?

 目撃者、多いよ?


A:いえ、最悪自身が皇帝に処刑されることは覚悟の上です。


 それだけの覚悟があるなら、ホント何で『謝る』から試さないのか……。

 ちなみに、ジョナサンによる暗殺計画だけど、当然の様に計画段階から筒抜けだからね。


「死ね!」


 そう言って襲い掛かってくる赤ずくめの集団。

 コイツ等はジョナサンの部下で、それなりのレベルを持つ戦闘集団である。


 つまり、これは俺にとっても非常に珍しい、人間同士の集団戦(街中)である。

 なお、大人数による殲滅戦(盗賊狩りとか)は別扱いとする。


 俺はパーティの指揮者リーダーとして、この場において最も適切な指示を出す。


《まかせた》


 各々に力があるなら、その場その場で指示を出さず、各人の判断で一番いいと思う事をすれば、最善だと思います。

 指示を出さずとも、『あの人はこうする』と分かっていれば、なお完璧です。


 一応、リーダーであるジョナサンだけは俺が相手する事にしている。

 それ以外は、1人あたり、4人倒せばいいだけの簡単なお仕事だ。


「はぁ!」


 勢い良く大剣を振るうジョナサン。

 父親と同じ大剣装備のようだが、暗殺向きの武器とは少々言い難い。


 身バレ防止の為、普段使う物から、質を落とした武器を使っている。小賢しい真似を……。


-ガキンッ!-


 俺はその斬撃を剣で受け止める。

 その剣は『英霊刀・未完』ではない。


 『英霊刀・未完』は、普段使いするには問題が多いからね。

 ……実はジョナサンの事を『小賢しい真似を……』と言える立場ではなかったりする。


「何!?俺の斬撃を受け止めただと!」


 いや、斬撃を止められたくらいでそこまで驚くなよ。

 いくらユニークスキルを発動した全力の一撃を片手で止められたからって……。


<大剣術>

大剣による攻撃に大幅な威力補正。重量負荷の軽減。武器破壊効果付与。


 名前は<剣術>の派生スキルっぽいが、これでもユニーク級のスキルである。

 特化すると強力になるのはゲームの常だ。


 それにしても、スカーレットの息子と言うから期待してたんだが、コイツは駄目だな。

 俺の分類で『真っ当』に入らない。こうなると扱いも雑になる。


-スパッ-


 俺は無言でジョナサンの右腕を肩から斬り落とした。


「ぐがあああああああ!!!」


 ジョナサンが絶叫を上げる。

 理由があり、この場で殺すつもりはないが、報いは受けてもらおう。


 腕を斬り落とされたら、そのユニークスキルは事実上2度と使えなくなるよね?

 それじゃあ、遠慮なく貰うよ?


 俺はジョナサンから<大剣術>を奪う。

 それほど強いスキルでもないし、絶対に欲しいわけでもないけど、明確に敵対した相手だし、お駄賃みたいなものだ。


 セラが大剣装備だし、このスキルはセラにあげようかな。


「ぐぎぎ、テメェ……。やりやがったな……。ぜ、絶対に殺してやる……」

「その有様で何が出来るんだ?そんな事より、そろそろ顔を拝ませてもらうぞ」


 ローブで隠した顔を顕わにしよう。

 戦いに負けた者に、正体を隠す権利はない。


「や、止めろ……」


 ジョナサンは後退ろうとするが、痛みで上手く動けず、地面を這うことになった。


「はい、御開帳」


 躊躇なく手を伸ばし、ジョナサンの顔を公開する。

 あえて通行人に見せつけるようにする。


「あれ、第二皇子のジョナサン様じゃないか?」

「あ、ホントだ。え!?第二皇子が襲撃!?暗殺未遂!?」


 予想通り、周囲は騒然としだした。

 そりゃ、自国の皇子が暗殺未遂事件を起こしたら驚くよね。


「ち、違う!」


 いや、顔まで公開して、何が違うんだよ……。

 ああ、この場で殺さないと言ったが、ジョナサンの立場や今後まで考慮はしないよ。


「さて、他の皆はっと……」


 ジョナサンから目を離して周囲を見渡すと、他のメンバーの戦闘も終わっていた。

 まさしく瞬殺である。

 一応言っておくと、全員殺さないように指示を出しておいた(無事とは言っていない)。


 俺は基本的に『暗殺』と言う手段をとる者に対して容赦をしない。

 実行犯にも黒幕にも『報い』を受けてもらう方針だ。

 その『報い』は、大きく2パターンあり、1つ目のパターンは『直接殺す』。2つ目のパターンは『命以外の全てを奪う』である。


 1つ目は相手の権力によって、事実関係の隠蔽が出来てしまう場合に選ぶことが多い(例;エルディア王国の縦ロール、エルガント神国の司祭)。

 2つ目は何らかの理由により、容易に全てを奪う事が出来る場合に選ぶことが多い(例:エステア王国のガーフェルト公爵)。


 今回、ジョナサンはスカーレットの命令を破った上、公衆の面前で襲撃を行った。

 顔を公開した以上、言い訳のしようもなく、簡単に全てを奪える。

 加えて言えば、スカーレットが本当に命令違反した息子を処罰するのか気になるので、その確認の為にも使える。お得。


「と言う訳でルージュ。後は任せても良いか?」


 俺は近づいて来ていたルージュに声をかける。お付きの面々も一緒だ。

 これで、完全に、本格的に、何の言い訳もできなくなった。


「ああ、任せておけ」

「テ、テメェ、ルージュ!何でこんな所に居やがる!?」


 痛みに少しだけ慣れてきたようで、苦しみながらもジョナサンが問う。


「元々、彼らと合流予定だったからに決まっているだろう」


 実はこれは本当。

 帝都に来てからルージュとは別行動が多かったので、友好アピールとして一緒に食事をとる予定だったのだ。

 合流場所に向かう途中、馬鹿ジョナサンが襲撃してきただけなのである。


「騒がしいと思って来てみれば、貴様は何をやっているのだ?暗殺者のような事をするなど、皇族として恥ずかしいとは思わないのか?」

「う、うるせえ!俺は、ルビーを守らなきゃなんねぇんだよ!」


 こりゃ駄目だ。


「暗殺なんて強引な手段で解決を図る事を、『守る』とは言わねえよ」

「テメェに何が分かる!」

「分からんし、興味もない。少なくとも、もうお前にルビー皇女を守る事は出来ない」


 片手なので戦力的にも守れないだろうし、立場的にも守れる状況からは遠ざかる。

 スカーレットの采配によっては、処刑される事すら有り得る。

 ルビーどうのこうのと言っている場合ではなくなるだろう。


「食事、少し遅れそうだな」

「ああ、先に行っていてくれ。私はコイツ等を城に連れて行かなければならないからな」


 ルージュの指示の元、側近達が暗殺者たちを縛っていく。

 襲撃するにしても、食事時は止めてくれませんかね?面倒だから。



 ルージュ達と遅めの夕食を取って宿に戻った。


「持て成すって話の割には、普通に襲撃を受けているわよね」

「それも、皇族自らと言うオマケ付きですわ」


 ミオとセラの言うように、皇帝の命令があるのに、むしろ普段よりも襲撃を受けている。

 それも、皇子と皇女それぞれ1回ずつと言う、普通ではあり得ないメンバーだ。


 何となく、レガリア獣人国を思い出すな。

 女王シャロンが勅命を出したのに、俺へのちょっかいが減らなかったから……。


 そうそう、夕食時にルージュから聞いたのだが、ジョナサンはスカーレットが帰還するまで、部下共々幽閉される事になったそうだ。

 スカーレットが帰ってきたら、事実を全て説明して、判断を仰ぐとの事。


 余談だが、その話を聞いたピエール氏は無言で天を仰いだそうだ。

 流石のピエール氏も手の打ちようが無かった様子。

 俺の元に助命嘆願にも来ていないし、完全に諦めたことが窺える。


 残念なのは、ルビーの調教計画がポシャりそうな事くらいか。

 暗殺未遂事件(未遂にも程遠いが)の動機がルビーにある以上、ルビーの襲撃事件も隠す訳にはいかなくなってしまった。

 スカーレットにルビーの襲撃の件が伝わる以上、ルビーが処罰される可能性もある。そして、口止めの話自体が無くなったので、調教の機会もなくなったという訳だ。


 笑える……いや、笑えないのが、ジョナサンの奴、ルビーを守るとか言っておいて、自分の手でルビーの命運を潰している事だ。

 余計な事をしなければ、被害は最低限で済んだというのに……。


「流石にこれ以上こんな茶番に付き合うのは嫌だから、今日中に終わらせる予定だ」


 面白くもない劇に付き合うつもりはないので、今日中に幕を引いてもらう。


「お供します」

《ドーラもー!》

「ドーラちゃんは私達とお留守番ですよ……」


 マリアが付いてくるのは、いつもの事だから仕方がないが、ドーラは駄目。

 教育によろしくないから。


「そう言えば、ご主人様だったら、1人目の時点で排除に動いても不自然じゃないわよね?どうして、2人目が来るのを待っていたの?」

「厳密に言えば、2人目にはほとんど何もしていないからな。遅かれ早かれ、似たような事が起きたはずだ。だったら、その後でもいいと判断したんだよ」


 事件が起きないように防ぐより、事が起こってから収拾を付ける。

 俺、割とそう言う方針で動くことが多いです。特に事件の原因が自分にない場合は……。


 その理由は大抵の場合、その方が面白くなるから。

 そして、自分の責任ではない事なので、ある意味無責任に事に当たれるからである。


「ただ、3人目を許すつもりはない」


 ここで打ち止めにさせてもらおう。


「納得したわ。既に導火線に火が点いていたって事ね」

「火元を消しても、爆弾の火が消える訳じゃないからな」


 爆弾の爆発を待ってから火元を消しに行っても問題はない。

 ミオの比喩はかなり事実に近い。


 ミオの理屈で言えば、今夜は火元を消しに行くってことになるな。


A:例の件で、アッシュが動きました。


 驚いた。アッシュの奴、本当に有能なんだな。

 ゆっくりしていたとはいえ、まさか俺が先を越されるとは……。

 どこまで話を進めるのか分からんが、俺も急いで行くとするか。


「と言う事らしい。少し、行ってくる」

「ご主人様、顔、少し怖いわよ?」

「……そうか?思ったより、イラついているみたいだな」


 あまり、表情を取り繕うような事をしてこなかったせいか、苛立ちが顔に出ているようだ。

 これから行く場所には、俺の嫌いな種類の人間がいるからな。


 とりあえず、無理にでも笑顔を作ってみる。


「仁君にはいらない心配だと思いますけど、気をつけてください……」

《いってらー》

「ああ、行ってきます」



 帝城の一室、そこで2人の皇族が向かい合って座っていた。


「ローズ、貴女ですよね?ルビーとジョナサンを唆して、仁さんを襲わせたのは」

「アッシュ、いきなり何を言っているのかしら?そんな意味の分からない事を聞くために私の元を訪れたの?」


 1人は真紅帝国の第三皇子アッシュ・クリムゾン、もう1人は同じく第三皇女ローズ・クリムゾンだ。

 アッシュは険しい顔をしており、対するローズは穏やかに微笑んでいる。


 ローズ・クリムゾンは皇族の例に漏れない赤い髪を腰の辺りまで伸ばしている。

 緩やかに波打つ艶やかな髪、妖しさを持つ顔は15歳とは思えない程の色気を放っている。

 胸もデカい。


「分からない、と言うのならそれはそれで構いません。糾弾するために呼んだ訳でもありませんから。ただ、これ以上、仁さんに迷惑をかけたり、兄弟達に害を与えるというのなら、僕が敵に回ります。その事だけは覚えておいてください」

「まるで、私が犯罪者か何かみたいな物言いね。あまり、気分が良い話じゃないわ」


 少し、不快そうに顔を歪ませるローズ。


「違うというのなら、何故ルビーが仁さんの事を知っていたのでしょう?幼いルビーには最低限の情報しか与えないと決めていたはずです。仁さんの容姿や、父が強い関心を持っている事は知らなかったはずです。誰かが、意図的に教えない限り、そして、行動を誘導しない限り、ルビーが仁さんを襲うとは思えません」

「それが私だって言いたいの?ルビーがそう言ったの?」


 ローズが挑発するように尋ねると、アッシュは首を横に振った。


「いいえ。誰に仁さんの話を聞いたのか、ルビーは覚えていないそうです」

「それなら、私を犯人扱いしないで貰えるかしら?不快だわ」

「ルビーが覚えていないといった時点で、貴女の犯行だと思いました。そんな事が出来て、実行しようとする存在、貴女以外に思いつきませんから」

「何を言っているのか、分からないわよ?もう少し、分かるように説明したらどうかしら?」


 表面上に全くと言って良いほど動揺を出さずにローズが言う。


 表情には出さないが、身体は正直だ。

 アルタ曰く、発汗や目線の動きが、焦っている事を如実に伝えてくれるらしい。

 デカい胸の隙間に汗が溜まっているそうです。


「貴女なら、ルビーの思考を誘導し、記憶も改竄する事が出来る、そう言っているんですよ」

「っ……」


 ギリギリでローズが耐えた。

 しかし、胸汗は増える。


「ジョナサンの件も同じです。公にしないはずのルビーの事件を、ジョナサンが知るのが早すぎますし、一部行動に不自然な部分があります。……何より、記憶の欠落がありました」


 さらに増える胸汗。


「この場で糾弾するつもりが無いという言葉に嘘はありません。これ以上は本当の糾弾になりそうなので、この辺りで失礼します」


 そう言って、アッシュが退室しようとする。

 扉を開けたところで、くるりと振り返ってローズを見る。


「一応言っておきますが、僕にソレは通じませんよ」

「………………」


 バタンと扉が閉まり、しばらくの間微動だにしないローズ。

 たっぷり2分ほど経ってから、ローズはため息をついた。


「……全く、上手く行かないものね。折角、邪魔者と異常イレギュラーを同時に潰せる良い機会だと思ったのに。それに、上手く行かないまま、あの混ざり物に気付かれたのも誤算だわ。どうやら、先に混ざり物を潰さないといけないみたいね」


 腕を組んで何かを考え始めるローズ。

 組んだ腕で胸が強調される。胸汗は引いた。


「私の『目』が効かないのは想定外だったけど、本人に効かなくても、手はいくらでもあるから、問題はないわね」


 アッシュの言っていたローズの力、それはローズの持つユニークスキルの力だ。

 その名も<虚ろなる瞳ホロウアイズ>。人の記憶や感情を操作するスキルだ。

 そして、俺が一番嫌いな種類のスキルでもある。


「残念ながら、そう言う訳には行かない」

「何者!?」


 姿の見えない何者かに声をかけられ、周囲を見渡すローズ。

 後ろを振り向き、再び正面に顔を戻した時、先程までアッシュが座っていた場所、ローズの正面で姿を現す俺。


「貴方は……」

「俺の名前は進堂仁。お前が異常イレギュラーと呼んでいる男だよ」

「誰か来なさい!曲者よ!」


 大声を出すローズだが、部屋の外にいるはずの護衛は一切反応しない。


「無駄だ。外の連中に音は届かない」


 これはマリアの<結界術>の効果で、結界の中から外に向かう音や光を遮断している。

 一見、何も変わっていないように見えるが、外からは何も分からない。

 ローズの護衛は、ローズが許可を出すまで部屋に入らないので、気付くことも無い。


「一体、何のつもりかしら?いくらお父様のお客人といえど、夜中に許可も無く帝城に忍び込み、皇女である私を脅迫なんてして、タダで済むと思っているのかしら?」


 冷たい目でこちらを見て来るが、今更その程度の眼力で怯む訳がない。


「タダで済まない、はこちらのセリフだ。お前のしたことは立派な殺人教唆。いや、殺人の依頼と等しい行いだ」


 ジョナサンはともかく、ルビーに俺を殺すつもりは無かっただろう。

 しかし、襲撃の時、ルビーの動きは明らかに命を取りに来ていた。

 『考え』と『行動』に乖離があったのだ。これは、<虚ろなる瞳ホロウアイズ>により、意識と無意識を誘導された結果によるものだ。


 なお、ジョナサンにも多少の誘導はあったようだが、ルビーに比べれば影響は薄かった。

 つまり、誘導の有無に関わらず、襲撃はあったと言う事だ。タイミングが少し早まったくらいの話でしかない。

 故にジョナサンには情状酌量の余地がない。


「またその話なのかしら?一体何のことだか分からないわよ」

「今更とぼけるなよ。全部聞いていたんだからな。……ルビーとジョナサンを唆したのもこの部屋だったよな?」

「……………………」


 最初の襲撃の前から、全部まるっと聞いていますよ。


 この女ローズ、根っからの黒幕気質で、<虚ろなる瞳ホロウアイズ>を使って色々とやらかしているのだ。

 最終的な目標は皇帝になる事で、その為に邪魔な兄弟達を排除するべく、裏で動いている。


 最初は行動理由がいまいち分からなかったが、カーマインにスカーレット引退の話を聞いて納得したよ。既に最終フェーズに入っているんだな。

 しかし、ここでルージュが帰ってきた。これが完全な誤算。

 しかも、スカーレットが探しているオレ付き。


 こうして、ローズはルビーとジョナサンを唆して、俺を排除することに決めたらしい。

 上手く行かなくても、皇族2人の脱落は確定。<虚ろなる瞳ホロウアイズ>により、自身の存在は明るみに出ないという保証もある。


 ああ、不愉快だ。

 こんな奴が次期皇帝になるくらいなら、まだルージュの方がマシだ。


「色々企むのは勝手だが、ハイリスク、ハイリターンの理を捻じ曲げ、リスクだけを他人に押し付けるっていうやり方が特に気に食わない。そんな気に食わない奴が、暗殺なんて手段を用いて関わってきたんだ。手心を加えてもらえるなんて、甘い事を考えるなよ?」


 大して関係もないのに気に入らないから排除、なんて乱暴な事を言うつもりはない。

 だが、気に入らない奴の方から関わってきたのに、優しくしてやる理由もない。


 さっきも言ったが、今日中に終わってもらうよ。


「どうやら、これ以上惚けても無駄のようね。そうよ、私があの2人を貴方に仕向けたの」


 ローズ、意外とあっさりとゲロったな。


「何のために?」

「もちろん、皇帝になるためよ。折角皇族に生まれたのだもの。どうせなら皇帝になりたいじゃない?その為には、他の兄弟達が邪魔なのよ」


 さっき、俺が説明したことをそのまま話してくれました。

 新情報、一切出て来なかったな……。


「兄妹を躊躇なく殺すのか。とんだ外道だな」

「今生の兄妹に興味はないわ。折角の二週目、自由に生きて何が悪いのかしら?」


 今、さらっと言ったセリフから分かるように、この女ローズは転生者なのである。

 転生者スカーレットから転生者ローズが産まれたというのは、因果的なモノを感じるね。


名前:ローズ・クリムゾン

性別:女

年齢:15歳

種族:人間(転生者)

称号:真紅帝国皇女


「それにしても、本当に日本人なのね。勇者なのかしら?」

「いや、ただの転移者だよ。転生者さん」

「あら、そこまで知っているの?もしかして、お父様と同じように、『物を見抜く目』でも持っているのかしら?」


 生憎、そんな便利な『目』は持っていない。

 俺が持っているのは、<千里眼システムウィンドウ>だけである。


「それじゃあ、これも見抜けているのかしら?」


-バシッ!-


 俺はローズが投げてきたナイフを弾いた。

 次の瞬間には、ローズがテーブルを越えて接近してきており、腰のレイピアを抜き、突きを放ち始めていた。


 ソファに座ったまま、頭を横にずらすことで回避する。

 ローズは深追いせず、一旦距離をとる。


「見た目で誤解されがちだけど、私、これでも結構強いのよ」


 油断せずに構えたままのローズが言う。

 確かに、令嬢のような見た目からは想像もできない程に洗練された突きだった。


「強いのは知っている。どう強いのかは分からなかったけど、なるほど、フェンシングか」


 高レベルの<剣術>があったから、方向性は分かっていたが、フェンシングとは驚いた。


「あら、突きを見ただけで分かるの?これでも、向こうでは結構名の知れた剣士フェンサーだったのよ」

「なるほど、つまり合計すると最低でも三十路近いという訳だな」


 フェンシングで有名と言うのだから、ある程度の年齢であることが推測される。

 『10代前半で死んだ天才少女(前世も女と仮定)』とかでなければ、享年15歳は越えているだろう。


 つまり、今生15年、前世15年の合わせて三十路と言う事になる。


「余計なお世話よ!」

「しかも、折角スポーツをやっていたのに、健全な精神までは得られなかったらしい」


 スポーツ選手が人格者である保証などどこにもない。

 健全な精神は、健全な肉体に宿るとは限らないのである。

 そもそも、フェンシング選手は投げナイフを目くらましに突きを放ったりしない。


「だから、余計なお世話だって言ってんでしょ!!!」


 レイピアは分類すれば片手剣だ。

 空いた手で別の事をしようと思えばできる。

 だからって、サブウエポンによる牽制に使うのはどうかと思うよ。


「ふっ!」


 ほら、また投げナイフが飛んできた。

 俺は投げナイフを、左手の人差し指と中指で挟むように受け止める。


 そして、先程と同じように、そして、先程と比べ物にならない速さで突きが放たれる。


 多分、これがローズ一番の奇襲戦術だ。


 最初の攻撃の時は両者がソファに座っていた。

 そこからの奇襲は、どう頑張っても時間がかかってしまう。


 なので、あえて貴重な初回攻撃を捨てた。

 そして、意図的に遅い・・攻撃をして、最高攻撃速度を誤認させる。

 その次の攻撃では、ほぼ同じ手順の攻撃をしつつ、一気にギアを上げ、その落差で不意を突こうというのだろう。


「よく考えているじゃないか」


 俺はレイピアの切っ先を、右手の人差し指と中指で挟んで受け止めながら呟く。


「ほら、もう一度試してみると良い」


 俺は左手のナイフを放り投げ、右手のレイピアを押し返す。

 勢いが強すぎて、ローズがたたらを踏む。


「何て馬鹿力なのかしら?でも、あまり舐めないで欲しいわね!」


 今度は勢いをつけ、更に速い一撃となっている。

 二撃目は初撃と同じモーションだった。本気の全力と言う訳ではなく、奇襲性を重要視した結果なのだろう。

 これが、本当の意味で全力っぽいな。


 その切っ先は真っ直ぐに俺の額を狙っていた。


 俺はその攻撃を避けずに、ソファに座ったまま額で受け止めた。

 レイピアの切っ先は、皮膚に傷をつけることなく止まっている。


 これが、ステータスの差と言う、純粋なる暴力だ。


「き、聞きしに勝る化け物ね……」


 流石のローズも冷や汗を禁じ得ないようだ。胸汗。


「もう終わりか?なら、次はこちらから行かせてもらおう」


 これぞ、圧倒的な強者ムーブ!!!


真の黒幕とは、その存在すら知られないものである(マップの前には無意味)。

真の黒幕過ぎて、読者視点では話に全く出て来なかったローズ皇女。

唐突に出てきて、次回退場します。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。