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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第12章 真紅帝国編

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第178話 皇家の事情と頼み事

感想欄のルビーちゃん未来予想が酷すぎる。

 応接室に戻った俺達は、ピエール氏とルビーの側近から話を聞くことになった。


「先程の襲撃をなかったことにして欲しい理由、それは、このままではルビー殿下がスカーレット陛下に処刑されてしまう可能性が高いからです」


 ピエール氏はいきなり物騒な話を始めた。


「今回、スカーレット陛下は仁殿に対する対応で、『余計な事をしたら叩き切る』と仰いました。これは、命令違反に対する最大の処罰が処刑であると言う事に他なりません。そして、ルビー殿下は、明確に『叩き切られる程に余計な事』をしています」

「皇女とは言え、皇帝の命に背いたのなら処罰されるのは当然です。しかし、幼い実の娘に対する処罰が処刑と言うのは、流石に有り得ないのでは?」


 そこまで血に飢えた暴君には見えなかったけど……。


「確かに、普通に考えれば、処刑まではいかないでしょう。しかし、皇帝陛下は以前、ご自身の妻、夫人達を反逆罪で処刑しているのです」


 おっと、物騒な話が、血生臭い話になって来たぞ。


「これは、帝都では知る者も多い話ですが、暗黙の了解で帝都の外には広げないようにしている話なのです。10年程前、皇帝陛下は当時の第一夫人を含め、ほぼ全ての夫人を処刑しました。罪状は、反逆罪、もう少し詳しく説明すると、皇族への毒殺未遂です」


 また、10年前の話か。一体、その時に何があったのかね?


「真実は皇帝陛下と処刑された夫人しか知らないので、私もそれ以上に詳しい事は分かりません。子供に罪は無いと言う事で、処刑されたのは夫人達だけですが、当時の皇帝陛下の怒りは強く、夫人たちに関しては、如何なる助命嘆願も受け付けませんでした」

「つまり、縁者であろうとも、処罰に関しては妥協しない可能性が高い、と言う事ですね?」


 ピエール氏は苦々しい表情で頷く。


「その通りです。……ルビー殿下の母である夫人も、その時に処刑されています。生まれたばかりのルビー殿下を残して……。それを考えると、ルビー殿下が処刑される可能性を低く見積もる事は出来ません」


 なるほど。

 ルビーちゃんの命、マジ風前の灯火。


「ルビー殿下の命を救うためにも、仁殿にはどうか先程の事を無かったことにしていただきたいのです。どうか、お願いいたします」

「お願いいたします」×4


 ピエール氏とルビーの側近が頭を下げる。

 なお、1名は別室でルビーの介抱をしている。


「とりあえず、事情は分かりました。まだ、もう1つの条件が満たされていないので、断言はしませんが、納得はしました」

「今はそれだけで十分です。ありがとうございます」


 ルビーが謝るまで、許すとも無かったことにするとも言わないが、少なくとも1つ目の条件である『納得』は出来た。

 隠されたスカーレットの過去も知れたし、聞けて良かったと思っている。


「ただ、先にも述べた通り、ルビー本人の謝罪なく許すことはしないので、悪しからず」

「……勝手な話だとは理解しているが、せめて『殿下』と付けていただけないか?」


 ルビーの事を呼び捨てにしたことで、側近が苦言を呈してくる。


「悪いが、それは出来ない。俺は自分で決めた敬意以上の事は譲歩しないからな」


 ピエール氏には敬語を使うが、ルビーの側近に敬語を使わないのも同じ理由だ。

 ルビーを諫められず、理由も説明せずに口止めに走った時点で、敬意の対象外となった。


 なお、演技ロールプレイ中はそれに見合った言動をします。

 今はデフォルト進堂仁だからね。


「む……」


 不満を顔に出すが、頼んでいる立場なので強くは言えないようだ。

 そう、ルビーの命運は俺の手の中にあるのだからな。はっはっは(悪い顔)。


「話はこれで終わりですか?」


 ルビーの側近を無視し、ピエール氏に尋ねる。


「……ええ、ルビー殿下はまだ目を覚ましていないようなので、謝罪は後程で構いませんか?それまで、口外しない事もお願いいたします」

「はい。明確に許さないと言う事にならなければ、口外しませんよ」


 逆に言えば、許さないと言う事になれば、口外すると言う事でもある。


「よろしくお願いします」


 こうして、話を終えた俺達は、再び帝城を後にするのであった。


「仁さん、先程ぶりです。帝城でのお話が終わったみたいですね」


 しかし、途中でアッシュと鉢合わせることになった。


 俺、何時になったら帝城を出られるのだろうか?

 そろそろ、腹減ってきたんだが……。


《ごはんー……》


 見ての通り、ドーラも少し不満顔だ。


《もう少し我慢してくれ》

《うん》


 ドーラに我慢をさせている以上、あまり時間はかけられない。


「アッシュさんも帰ってきたんだな。俺達はこれから帝都を観光する予定なんだよ」

「そうですか。あまり観光に向いた土地ではありませんが、是非楽しんでいってください」


 意外なほどあっさりと別れることになった。


 流石にこれ以上は誰とも会わないだろう。

 どうせ会わないから、マップを見なくてもいいよね。


A:………………。


「あ、アンタはルージュの護衛!?何で帝城に居るのよ!」


 そんな俺の予想を裏切り、現れたのは第一皇女のカーマインだった。

 『朽葉の街』から戻ってきていたんだな。


 流石にそろそろ面倒になってきた……。


「俺の名前がジンだからだ」

「あ、アンタが!?」


 カーマインと会った時、俺は名乗らなかったから知らないよね。

 知っていたら、何が変わったかは分からないけど……。


「ピエール、本当なの?」

「はい、カーマイン殿下、彼の名前は仁と言うそうです。本当に陛下の待ち人かは不明ですが、我々はそのつもりで動いております」

「……………………」


 カーマインはピエールに確認すると、しばらく考え込むように俯いた。

 用がないなら、急いでいるからもう行くよ?


「アンタ、いえ、ジン。貴方、これから時間ある?」


 俺が歩き出そうとすると、カーマインが顔を上げて尋ねてきた。


「無い。今から、帝都で昼飯を食べるからな」

「なら、私が昼食を奢るわ。だから、私の話を聞いて頂戴」


 ルージュと話をしていた時のような棘は無く、割と普通に頼みごとをしてきた。

 この変わり様、少し気になるな。話を聞いてみるか。


「奢られるつもりはない。話は聞くから、お勧めの店を紹介してくれ」

「それで良いの?分かったわ、任せなさい」


 こうして、俺達は何故かカーマインに連れられて昼食を食べることになった。



 ピエール氏に見送られ、帝城を後にした俺達は、カーマインの案内の元、帝城から少し離れた所にある建物に入っていった。

 表には看板も無く、一見すると食事処のようには見えない。


「ここは、完全な紹介制のお店なのよ。味は城よりも上と言われているけど、その分、値段も馬鹿にならないわ。どうする?止める?それとも、奢られる?」


 少し挑発するように聞いてくるカーマイン。


 出来れば、奢っておきたいのだろう。

 どのような話であれ、奢って精神的に優位な状態の方が話し易いのは間違いないからな。


「いや、大丈夫だ」


 アルタ曰く、『余裕』。


 『欠損回復のお薬ソーマ』でお釣りがくる程度の値段だそうだ。

 アレ、オークションでとんでもない値段が付いたって話を聞くけど?

 比較対象として、本当に正しい?


「そう?足りなかったら、何時でも言って良いわよ」


 パッと見、そんなに金があるようには見えないよね。


 それはさておき、こういう特別なお店はあまり行かないから、少し楽しみではある。

 アルタのお勧め候補に入っていた?


A:いいえ。入っていません。現状、配下以外の力が必要になる店舗はあらかじめ弾いています。マスターの要望があれば、今後は対応いたします。


 ああ、別に不満がある訳じゃないんだ。

 どちらかと言えば、こういう突発的なイベントで入れるようになる方が、偶然の要素が強くて嬉しいし……。


 ホテルの様にフロントがあり、カーマインが受付を済ませると、俺達は個室に案内された。


「完全な個室で防音も整っているから、上流階級の人間が秘密の話をするのに丁度いいのよ。もちろん、料理もおいしいんだけどね」


 部屋に入り、カーマインが説明をしてくれた。


 料理はカーマインのお勧めであるコースを頼むことにした。

 なお、カーマインは既に昼食をとった後だったので、頼んでいない。


「それじゃあ、料理が来るまでの間、私の話を聞いてもらっても良い?」

「ああ」


 店に案内してもらったし、約束通りに話を聞くのは問題ない。


「私は貴方がどんな立場の人間で、お父様とどんな関係かも知らないわ。だから、知っている事も話すだろうし、知らない事も話すと思う」


 カーマインはその様に前置きした上で続けた。


「でも、これだけは頭に入れておいて欲しい。私は、次期皇帝を目指しているのよ。これからの話は、それが一番の前提になるから」

「分かった」


 ここからの話は、カーマインが皇帝を目指している、という前提があるそうだ。


「この国の中で、私は最も次期皇帝に近い位置にいると言っても過言ではないわ。実力も、実績も、他の候補より前にいる自信がある。この事は知っているかしら?」

「悪いが知らない。この国の住人じゃないからな」


 単なる自慢話、と言う訳ではないだろう。


「それは構わないわ。それじゃあ、多分知らないと思うのだけど、お父様が数年を目途に皇帝の座から退こうとしているのは知っているかしら?」

「初耳だ。それは、この国の住人なら知っていて当然の事なのか?」

「いいえ、恐らく、帝位継承権を持つ皇子、皇女にしか伝えていないと思うわ。まあ、一番下のルビーは幼いから伝えていないはずだけどね」


 国家の最重要クラスの機密じゃないですか。

 そんな事、サラッと話していいのか?


「……理由を聞いても良いのか?」

「ええ、何でも、皇帝と言う立場があっては出来ない事をするみたいよ。皇帝として、すべき事は終えたから、とも言っていたわね。……詳しい事を話す気は無かったみたい」


 やはり、スカーレットは何か明確な目的があって行動しているようだ。

 その為なら、皇帝の地位すら不要だと考えているのか?

 もし、それが本当なら、エステア王国を攻めると言う話はどうなる?


「だから、数年の間に可能な限り実績を積み、次期皇帝になろうと努力しているのよ」


 そして、カーマインは『はぁ……』とため息をついた。


「それなのに、このタイミングでルージュが帰ってくるとか、悪夢以外の何物でもないわ」

「ルージュがどうかしたのか?」

「……さっきの話、1つ嘘、と言うか、正しくない情報があったわね」


 俺の問いに答えず、少し遠い目をする。


「この国で最も次期皇帝に近いのは私だけど、国外も含めたら、最も次期皇帝に近いのはルージュなのよ。少なくとも、私はそう思っているわ」

「ルージュが?3年以上も国から離れていて、国内の支持も高くないのに?」


 まさかの謎人事である。

 俺ですら、もしスカーレットを排除することになったとしても、ルージュを皇帝にすることを躊躇しているのに?


「ええ。実力とか、実績とか、そう言った理屈を全て無視する要素、知っているかしら?」


 ああ、それは知っている。


「感情だな」

「正解よ。ルージュは、お父様の一番のお気に入りだから。それこそ、ルージュが国内に居たら、ルージュに次期皇帝を任せると言いかねないくらいに……」


 なんだか違和感がある。

 今までのルージュの話から、スカーレットがルージュを気に入っていると判断出来る要素なんてあったか?


「そんな話、ルージュからは全く聞いていないぞ?」

「表立って表現するようなことは無かったわ。でも、私には分かるの。お父様が私達と接する時と、ルージュと接する時で、明らかに雰囲気が違うから……。もちろん、ルージュは気付いていないでしょうけどね」


 気付かなかったでしょうねぇ。ルージュだもの。


「だからこそ、私はルージュが嫌いなのよ!お父様に愛されているのに、それに気付かないルージュが!私が望んでも手に入らない物を、最初から持っているルージュが!」


 カーマインが声を荒げる。


 なるほど。カーマインがルージュを嫌う理由はソレか。

 確かに、ルージュの側から見たら、何故敵視されているのか分からないよな。


「……悪かったわね、声を荒げて」


 カーマインは感情的になったことを恥じているようだ。


「いや、それは良い。ただ、ここまで話を聞いて疑問なのは、何故その話を俺達にしたか、という点だな。多分、ここからが本題なんだよな?」

「ええ、その通りよ。ここまでは私の大まかな事情。本題はこの後よ」


 まず、自分サイドの話を聞かせ、その上で知りたい事を聞く。

 第一印象がアレだったけど、カーマインってもしかして有能?



 本題に入ると言っておきながら、食事が届いたので優先順位が変わりました。


「悪いな。食べながら真面目な話をするのもどうかと思うから、食べ終わるまで待ってくれ」


 食事をしながら真面目な話はしたくないし、行儀もよろしくない。

 カーマインの話より食事が優先されるのは当然なので、ここからは食事タイムとなる。


「分かっているわ。ちょっと、出鼻をくじかれた感じはするけど、元々食事に来ていたんだから、文句は言わないわ」


 と言う訳で、カーマインには悪いが、俺達が食べ終わるのを待ってもらう事になった。


《おいしー!》

「むむむ、やるわね」

「ええ、この国で最高レベルの腕前と言うのも、本当のようですわね」


 中華料理と言う括りは変わっていないのだが、明らかに味が洗練されている。

 カーマインに言わせれば、帝都でも最高レベルの料理らしい。

 こっそり見たが、この店の料理長は<料理>スキルのレベルが7だった。

 ミオやセラが認めるのも当然かもしれない。


「喜んでもらえて何よりだわ。紹介状が欲しかったらあげるわよ?ルージュじゃこのお店は紹介できないからね」


 ルージュへの対抗意識は根深いようだ。


「今の時点では必要ないな。欲しかったら、その時に頼むよ」


 美味い料理だが、常連になる程食べに来るつもりもない。

 あくまでも、旅行先の思い出レベルの話だからだ。


 そして、食事タイムが終わった。

 このお店、食べ終わってもしばらくは居座って良いそうだ。

 高い料金の中には、席料のような物も含まれているのだろう。


「それじゃあ、話の続きをするわね?」

「ああ」


 食休みがてらカーマインの話を聞く。

 俺にとっては今更の話だが、一国の皇女の扱いではない。


「先程、私は皇帝になりたいといったけど、それはお父様を押しのけて、と言う訳ではないのよ。私はお父様を尊敬しているし、敬愛している。お父様が皇帝を続けるのなら、それで良いと思っている。でも、お父様が退くなら、その後継は私でありたいと思っている」


 ルージュへの対抗意識は、父親への愛情の裏返しなのだろう。


「お父様は本当に大切な事は誰にも語らない。多分、ルージュにも語らないでしょう。だから、お父様の本心がどこにあるのか、それは誰も分からない。そして、私はそれが知りたい」


 薄々感じているスカーレットの『明確な目的』。

 カーマインの望みはそれを知る事。


「このタイミングでルージュ、そしてお父様が持て成してでも引き止めろと言ったジン、貴方がこの国に来たのは偶然とは思えない。多分、貴方の存在は、お父様の本心に近い位置にあると思うのよ」


 本心云々はともかく、タイミングに関しては偶然だと思うよ?


「お父様の本心、それに近づく情報を持っているなら、教えて欲しいの」


 そんなん、俺も知りたいよ。


「もちろん、タダとは言わないわよ。情報には対価を支払う用意があるわ。ルージュがこの国に戻ってきた理由、お父様の外出先、皇帝を退く理由、本当にルージュを皇帝にする気があるのか、その後にやりたい事。この辺りの情報には、1件あたり100万払うわ。値段は変わるけど、断片的な話でも良いし、それ以外の情報にも正当な対価を支払うわ。どう?」


 つまり、何か知って良そうな俺に情報を売れ、と言うのがカーマインの目的のようだ。


「そう言われても、知っている事なんてほとんどないぞ。そもそも、俺は皇帝陛下に会った事すらないんだからな」


 少なくとも、公式記録上は。

 公式的に、俺は女王騎士ジーンとは無関係だから。


 後、俺が知っている情報は、ルージュが戻って来た理由くらいだな。

 状況によってはスカーレットを排除します、と言ったら、カーマインはどんな顔をするだろう?少し楽しみではあるが、言う訳には行かないよな。


「……まあ、ここでいきなりお父様の本心が分かるとは思っていないわ。ただ、この話は今だけの話じゃないのよ」


 流石にカーマインも、この場で情報がどんどん出て来るとは思っていなかった様子。


「貴方は、お父様が帰ってきたら、謁見することになると思う。その時、今みたいな話を聞いたら、私に教えて欲しいの。他の誰にも話せない内容でも、お父様が会う事を望んだ貴方になら話す可能性があるから……。これが、私の1番の頼み事よ」


 なるほど、将来への布石と言う訳だな。

 ああ、だからカーマインは俺がジンだと知ると、すぐに話をすることを望んだのか。

 とにかく、頼むなら早い方が良い内容だったから。


「私がそれを知って、お父様の望みを叶えつつ皇帝になるのが理想。そして、お父様の望みが叶って、私以外が皇帝になるのが次善。不本意だけど許すのが、ルージュが皇帝になってお父様の望みが叶うこと。とにかく、1番大事なのはお父様の望みが叶う事よ」


 スカーレットの望みが叶う事がカーマインの1番の目的のようだ。

 実に親孝行ですね。


「でも、良いのか?俺に話したことは、ルージュにも伝わる可能性があるんだぞ?」


 1つ目が理想と言いつつ、俺に話すと言う事は、3つ目の可能性を上げる事になる。


「別に構わないわ。ルージュに話が伝わり、ルージュが皇帝になる可能性が上がる。確かに私にとっては不利な話ね。でも、逆に言えば、お父様の願いが叶う可能性は全体的に上がっているのよ。私にとっては、後者の方が重要だって事」


 尤も、と話を繋げる。


「ルージュが皇帝になったら、私はこの国を出るんだけどね」


 流石にルージュの下に付くのは嫌らしい。


「ルージュに情報が渡るのは仕方のない事だと思っているわ。そして、引き受ける、と言わなくても良い。だから、もし気が向いたら、私にもそれを教えて頂戴」


 俺に何1つ強制することなく、自分の伝えたい事を伝え、1番の目的の為、少しでも可能性が高まる方法を選ぶ。

 そして、1番の望みが叶うなら、それを為すのが自分でなくて良いとすら言える。

 ……その姿勢、嫌いじゃないぜ。


 とりあえず、ルージュ皇帝化計画は事実上の消滅と言って良いな。


 第一印象はアレだったが、実際に話を聞いてみれば、カーマインも性質は十分に真っ当だ。

 現時点で、アッシュ、カーマインは俺の中にある合格ラインを越えている。なお、ルビーは余裕の不合格。


 態々、不安の残るルージュを皇帝に据えるより、元々真っ当な皇子、皇女に皇帝になってもらった方が良いと思う。

 ルージュを皇帝にするメリットなんて、傀儡皇帝が出来上がることくらいだろう。


「分かった。今この場で何かを断言する予定はないが、話は理解した」

「そう、それは良かったわ。話を聞いてもらった甲斐があったわね」


 本当に、第一印象から印象が変わったな。

 もし、カーマインが次期皇帝になったら、ルージュは真紅帝国に近づけない方が良いんじゃないか?色んな意味で危ないぞ。


 カーマインとの話を終えた俺達は、会計をして店を出た。

 うむ、結構高いけど、払えない程ではない金額だ。


「それじゃあ、私は城に戻るから。話があるなら、何時でも尋ねて来て良いわよ。少なくとも、お父様が帰ってくるまでは、帝都にいる予定だから」

「ああ、分かった」

「色々とよろしくね」


 そう言ってカーマインは城へと向かって行った。



 カーマインと別れた俺達は、『帝都・紅蓮』の観光に乗り出すことにした。


 帝都観光、最初の目的地は博物館である。

 最初なので、全員が楽しめそうな場所を選んだ。

 多分、次は自由行動になる。


 それなりに重要な施設なのか、帝城からそれほど離れていなかった。

 この国は、重要なものほど中心に置かれる傾向があるからな。


 博物館は二階建ての横方向に広い建物だった。

 帝城ほど広くはないが、一日で回るのは結構大変なサイズだ。

 別に一日で回る必要も無いか。今日は流しで見て、自由行動でもう一度来ても良いだろう。


 博物館に入るには本来ならいくつか条件があるようだが、ピエール氏から貰った推薦状を見せるだけであっさりと入れた。

 主な展示物は『歴史』、『芸術』、『民俗』だそうだ。


 まずは『歴史』のコーナー。


 建国は700年程前のようだ。

 勇者が関わったと言う話だが、勇者の名前などは出て来ない。


 初代皇帝の名前はスカーレット・クリムゾンと言うそうだ。どうやら、赤系の名前にも限りがあるようで、ある程度の周期でループしている様子。

 それで、二代目皇帝がヴァーミリオンで、三代目が女性でルージュ……。つまり、スカーレットの兄弟は初代から三代目までの名前をパクった訳だ。


 初代から伝わる国宝が『王剣・神授』であり、一説では女神から直接渡された宝剣らしい。

 ああ、見覚えのある剣が飾ってある。当然レプリカだが、それなりの品質の剣だな。

 ……細部は違うけど、どう見てもスカーレットが持っていた『王剣・神呪』と関係があるよね?


A:最終試練突破による強化です。スカーレットによる突破時かは不明です。


 ……何があったら、『神授』が『神呪』になるのかな?

 いや、『神を呪う』ような事が起こったのは想像に難くないけどさ……。


 そこから、順調に歴史は進んで行った。

 ルージュの言っていた『自立』が、初代からの方針というだけあり、国家運営の所々でその片鱗が見え隠れする。


 その証拠と言って良いのか不明だが、過去1度たりとも勇者の召喚国にはなっていない。

 ただ、勇者に支援をしたことはあるようだ。それは話が別なのだろう。


 また、隣接するアト諸国連合が、連合になる前、群雄割拠の戦乱時代に戦争に参加し、ちゃっかり領土を増やしていたりする。

 古い地図と比較的新しい地図が並べてある。おお、結構ガッツリ奪ったな。


 国内が層構造になったのは比較的新しく、ここ200年程の事で、当然、不満も多かったようだが、当時の皇帝が国防に必須と言う事でゴリ押したのが切っ掛けだ。

 階級制度があるとはいえ、国内でも大きな悪影響はない。この辺りのバランスは中々に難しい調整だっただろうな。


 お、街の配置と階級が色別で分かり易く表示されている。

 ……あれ?何だ、この『未開領域』って?

 地図の一部、北東方面に『未開領域』と書かれ、情報が全くないように見える。


A:そこはエルフの里のある森です。普通の人間を遠ざける結界があるので、調査が進んでいません。


 なるほど。

 ……ところで、今までの経験上、結界といえば迷宮ダンジョンなんだが、もしかしてエルフの里って迷宮ダンジョンなのか?


A:迷宮ダンジョンではありませんが、似たような存在を使用しています。


 それは何だ?


A:世界樹です。


 SEKAIJU!!!


 待て、落ち着くんだ進堂仁。アルタの言う世界樹が、俺の想像するような世界樹と必ずしも一致しているとは限らない。そもそも、創作物ファンタジーにおける世界樹とは、物語ストーリーの数だけ解釈があると言っても過言ではない。

 解釈によっては、世界樹と呼ぶのが憚られるような物もある。つまり、ぬか喜びになる可能性もあるのだ。

 だから、ゆっくり、大事な事から、聞いて行こう。


 アルタ、その世界樹と言うのは、本物の樹なのか?


A:はい。地面に根を張って生える大樹です。リソースを吸収しているので、一般的な植物と同じかと言われれば、否と答えることになります。


 OK。それくらいは問題にはならない。

 『実は金属でした』とか、『概念的な存在で実体は無い』とか、奇をてらった様な面白世界樹ではないようだ。

 まずは一安心。


 さて、それじゃあ、もう少しじっくりと話を聞いて行こうか。


再掲載:ファンタジーを書いたら、絶対に出そうと考えていた物ベスト3

1位:世界樹  →予約済み

2位:天空の城 →済

3位:迷宮   →済


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