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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第12章 真紅帝国編

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第177話 第三皇子と帝都到着

タイトルの通り、帝都に到着します。ついに明かされる帝都の名前!

 翌日、領主の舘に泊まったルージュが、アッシュを伴って俺の宿泊する宿へとやって来た。


 アッシュは護衛を連れず1人で来たようだ。

 ルージュはいつもの様に側近7人……いや、1人はアッシュとの面会を通達(を偽装)するために宿に戻っているので、6人が同行している。

 相変わらず、ルージュだけは過剰に側近が付いている気がする。


 アッシュが話をしたいのは俺だけらしいので、マリア以外には別室待機をお願いするつもりだ。マリアだけは仕方がない。後、ルージュも同席する。


 ルージュにも伝えてあるが、俺は真紅帝国で皇族に対して遜るつもりはない。

 そもそも、エステアとの戦争を予定している国の皇族だ。敬意もほとんどない。

 スカーレットは嫌いなキャラではないが、理由如何によっては敵対も辞さない予定だ。


-コンコン-


「ルージュだ。入っても良いか?」

「ああ。入ってくれ」


 ノックがあり、ルージュ達に入室を許可する。


「失礼する」

「失礼します」


 マリアが扉を開けると、ルージュに続いてアッシュが入室してきた。


 アッシュは、アッシュと名乗りつつも、皇族に相応しい赤い髪をした少年だった。

 温和な顔立ちをしており、物腰も柔らかそうだ。


「お初にお目にかかります。真紅帝国の第三皇子、アッシュ・クリムゾンです」


 丁寧な挨拶、そして、その目に宿る確かな敬意。


「こちらこそ。仁と言います。ようこそいらっしゃいました」


 遜るつもりはないが、いきなり尊大な態度をとるつもりもない。

 相手が敬意を持っているのが分かる以上、最低限の敬意は返さなければいけない。


 簡単に言うと、アッシュは俺の中で『合格』だった。



 早速、椅子に座って話をすることになった。

 テーブルを中心に俺とアッシュが向かいに座り、ルージュはアッシュの隣、マリアは俺の後ろで立っている。メイド服を着て、メイドの立ち位置である。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 婉曲な言い回しや、腹の探り合いをするつもりはない。


「そうですね。……少し、前提となる話をさせてもらってもよろしいですか?」

「はい、それは構いませんよ」


 アッシュが前置きをしたので、それを許可する。


「知っているかどうかは分かりませんが、現在、我が父であるスカーレット・クリムゾンは帝都『紅蓮』に居ません。少なくとも、後二週間は帰らないでしょう」


 余談だが、真紅帝国の首都の名前は『帝都・紅蓮』だ。『帝都』とも、『紅蓮の街』とも呼ばれる。……ようやく、街の名前に『赤』を冠する言葉が出てきた。

 恐らく、首都以外は『赤』の名前を使えないのだろうな。


「……それは、国外の人間である俺に言っても良い事ですか?」

「ええ、構いません」


 思った通り、スカーレット関連の話になるようだ。


「当然ですが、父は外出の前に様々な準備をしました。自分が居なくても国家の運営に問題が無いようにするためです」

「予定として決まっていたのなら当然ですね」


 サクヤだって首脳会議の前には色々準備していたよな。

 メイドパワーを割とガッツリ使っていた気もするけど……。


「ここまでを前提として、その中の1つが仁さんに関わってきます」


 まあ、そうなるよな。


「父は真紅帝国の上層部に次のような指示をしました。『ジンを名乗る者が真紅帝国に入ってきたら、俺が戻るまで帝都で持て成せ』と……」

「……………………」


 俺、持て成されるらしい。


「困惑されるのも無理はありません。僕達も困惑しましたから。本当は国全体に周知させたいとも言っていましたが、事が大きくなりすぎるので、『上層部の耳に入る事があれば』という条件に変えてもらったそうです」

「……………………」


 俺、国を挙げて持て成されるところだったらしい。


「仁さんには是非、帝都に滞在して頂きたいと思うのですが、如何でしょうか?父が帰るまでの約二週間、費用は真紅帝国の方で負担いたします。何名か人もお付けいたしましょう」

「……その指示の理由をご存知でしたら、お聞きしてもよろしいですか?」

「残念ながら、父はそこまで詳しく説明をしませんでした。ただ、『余計な事をしたら叩き切る』とは言っていました」


 暴君かな?


「あの父が無意味なことをする訳がありませんし、アレは確実に本気の目でした。その状況で上層部ぼくの耳に入った以上、無視するという選択肢はありません」

「……………………」


 さて、どちらだろうか……?


 レガリア獣人国のシャロンと同じように、転生前の友好的な関係者で、俺に会いたいとでも言うのだろうか?

 それとも、転生前の敵対的な関係者で、俺を殺したいとでも言うのだろうか?

 自慢じゃないが、元の世界では敵もそれなりに居たからな。


 可能性は半々くらいだが、どちらにせよ会わない事には話が進まない。

 とりあえず、行くだけ行ってみようか。


「申し出を受け入れ、帝都へと向かおうと思います。ただ、費用は自分で出します。あまり、他人に借りを作るのは好きではないので……」


 友好的な相手でギブアンドテイクな関係ならまだしも、敵対する可能性のある相手に、無暗に借りを作るのは精神衛生上良くない。


「なるほど……。ですが、最低限の歓待は受けていただけないでしょうか?こちらの立場としても、招き、頼みをしている相手に対し、何もしないという訳にはいかないのです」

「分かりました。それならば構いません」


 まあ、それくらいは仕方がない。

 『スカーレットを待つ』という行動に対する報酬と考えれば良いのかもしれない。


「ありがとうございます。出発は何時頃にしますか?」

「ルージュ、何かこの街での予定はあるのか?」


 俺の予定だけで行動する訳にもいかないので、ルージュに尋ねる。


「いや、昨日の内に全て終わっているから、特にないな」

「分かった。多少の準備が終われば、すぐにでも出発できます」


 改めてアッシュに向けて答える。


「いえ、急いでほしいという訳ではないのです。申し訳ないのですが、僕の方に予定があり、出発は明日になってしまうのです。すぐに発つというのでしたら、一筆書いておこうかと思っています」

「待て、私がいるから、彼に不自由させるつもりはないぞ?」


 自分がいるのに、不足しているとでも言われていると感じたのだろう。ルージュがアッシュに待ったをかける。


「ルージュ姉さんは3年以上帝都を離れていたから、現在の状況に疎いですよね?本当に何の問題も無く仁さんを招けますか?それに、姉さん、結構敵が多いじゃないですか」

「うぐっ……」


 前のルージュの性格を考えれば、周囲が皆味方、と言う訳ではないのは容易に想像できる。


「一筆、あった方が良いと思いますよ?」

「仕方ない……。そうさせてもらおう」


 結局、ルージュの方が折れることになった。

 こうしてみると、ルージュの影響力の小ささが垣間見えるな。


「どうぞ。これがあれば、帝都で不便はしないはずです。実質、大半の貴族よりは大きな後ろ盾があるのと同じ状態になりますから」

「最低限の歓待とは一体……」


 思っていたより、一筆の影響力が大きいんですけど……。

 アッシュは「申し訳ありません」と断って話を続ける。


「相手の方を守るためにも必要なんです。何が父の逆鱗に触れるか分かりませんから」

「……なるほど、手を出すなら、皇族を相手にする覚悟をしろ、と言う事を分かり易く明示するんですね。その後ろ盾、使う事が無いと良いと思います」

「ええ、本当に全くです」


 その状況って誰も幸せにならないからね。

 俺も権力の有無に関わらず、貴族関連のトラブルが不快でNGなのは変わらないし……。


「後、今更の話ですが、皇族だからと言って、僕に敬語を使う必要ありません。父のお客様ですし、元々、敬語を使われるのは苦手なんです」

「苦手、と言うのなら止めますけど、敬語を使っているのは、皇族だからじゃありませんよ。敬意を持った相手にしか、敬語は使いません。その証拠と言う訳じゃありませんが、ルージュには使っていないでしょう?」

「ルージュ姉さん……」

「そ、そんな目で見るな!色々あったのだ!」


 アッシュに可哀想な物を見る目で見られ、意味のない反論をするルージュ。


「こほん、それじゃあ、敬語は止めさせてもらうよ」

「そうしてください。……僕の方は癖なので、この喋り方のままですけどね」


 えー、俺が敬語止めたんだから、そっちも止めようぜ?

 そう思ったが、口には出さなかった。


 こうして、アッシュとの面会を終えた俺達は、ちょっとした権力を手に入れて『帝都・紅蓮』に向かうことになった。

 真紅帝国の観光にも飽きてきたし、帝都なら少しは違いがあるかもしれないので、さっさと帝都に向かいましょうかね。



 『帝都・紅蓮』と『紫苑シオンの街』はマップ上で3エリア以内と言う事も有り、馬車ならば1~2時間で移動できる距離だ。


 真紅帝国の構造上、中央集権にするために、中心に行く程、街と街の間の距離が短かったり、中継となる村があったりする。

 唯一の1層の街である『紅蓮』の付近には、数多くの2層の街があるのだ。

 つまり、『紫苑の街』も『紅蓮』近隣の街の1つと言う事である。


 そして、俺達が『紫苑シオンの街』を出発してからジャスト1時間後。


「『帝都・紅蓮』に到着!」


 ウチの馬車と馬は特別製なので、1~2時間かかる距離ならば、1時間で余裕だ。


 実は、アドバンス商会は馬車も取り扱っている。

 考えてみれば当たり前だが、俺の旅をサポートするメイド達が、『旅の道具』とも言える馬車に手を出さない訳がない。そして、手を出したら妥協なんてある訳がない。

 今は、俺もアドバンス商会の最高級馬車(見た目は地味)を使っている。


 加えて、馬車馬の方も特別だ。

 この世界に来て最初に買った馬なのだが、当然のようにステータスを上げている。

 多分、投槍くらいなら当たってもかすり傷1つ負わずに済むだろう。


 ついでに言うと、速度を出しても、馬車の機能と馬の技術でほとんど揺れない。

 まあ、揺れたら揺れたで『ルーム』に逃げ込めばいいだけだが……。


「流石に外壁は凄いわねー。軍事国家だけあるわ」

「ええ、今までに訪れた国の中でも一番ですわね」


 ミオとセラの言うように、『帝都・紅蓮』を覆う外壁は分厚く、高く、過去最大規模と言えるレベルだった。……殴って壊したら怒られるかな?


 門は東西南北とその間に4つの計8つ。今回は南西の門から入ることになった。

 普通の国の首都は、入るのに順番待ちがあったりするが、真紅帝国は層のルールがあるため、国が認めたものしか入る事は出来ない。よって、順番待ちは発生しない。

 ただ、その分警備は非常に厳重だ。1つの門に20人近くの兵士がいる。最低1人は貴族の兵士も常駐しているようだ。帝都が外壁と門を重要視している証だな。


「確認いたしました。ルージュ殿下、どうぞお通り下さい」


 門を守る兵士は、一様に高レベル(最低30オーバー)であり、相手が皇族ルージュであっても動揺せず、媚びもせず、職務を全うしていた。高評価!

 同行者として俺達も後に続いたが、兵士達の値踏みする様な目が印象的だった。不審者!


 帝都は道路が非常に広く、整備されており、馬車を走らせる車道と、人の通る歩道がある。

 車道は進行方向別に分かれていて、衝突しないようになっている。うん、左側通行だね。


「日本人かな?」

「日本人だと思います……」

「日本人だな」


 異世界組満場一致で日本人の仕業と言う事になりました。

 異世界転移者であるスカーレットの可能性も0ではないが、この規模の工事をスカーレットが皇帝になってから終わらせたとも思えない。

 つまり、昔の日本人、大半は勇者だな。


 ちなみに、今では勇者でも帝都にアポなし訪問は出来ないです。

 さっきの門番さんが入れてくれません。


「それで、仁様は何処に泊まる予定なのだ?私は帝城の自室に戻ることになるだろう。アッシュによれば、仁様も帝城に泊まる事は出来るようだが?」

「流石にそれは嫌だな……。帝城にある程度近い宿があれば良いんだが……」


A:有ります。


「アルタに任せる」

《アルタにおまかせー!》


 困った時のアルタセレクションである。一説には堕落とも言うらしい。


 なお、今すぐ宿に向かう訳ではなく、先に帝城に顔を出すことになっている。

 他の街ではルージュだけで良かったが、今回は俺も顔を出す羽目になっている。


 ……面倒くさい。


「ご主事様、城に行くのが面倒って顔に書いてあるわよ?」


 ミオは俺の表情が読めるらしい。


「めんどくせえ……」

「口に出しちゃった」


 やっぱり、アッシュの依頼、受けるんじゃなかったかな?

 どう考えても、トラブル無しで終わる未来が思い浮かばない。

 スカーレットとやり合うのはともかく、他の貴族と関わり、不快な目に遭う必要は無い。

 しかし、アッシュと約束した以上、行かない訳にもいかない。

 約束は守る男、進堂仁です。


「何、トラブルがあったら私が前に立つから安心すると良い」


 ルージュが自信満々に言う。


「いや、俺が蹴散らす。後始末は任せた」

「それは止めてくれ!」


 絶対蹴散らす方が速いよ?


「……真面目な話、兄が明確に指示している以上、馬鹿な真似をする貴族は少ないと思うぞ。この国において、皇帝と言うのは、それだけの意味がある」

「首脳陣はともかく、事情を知らない馬鹿がやらかす可能性はあるだろ?」


 どこにでも、行動の読めない馬鹿はいるものだ。


「そちらは0と言えないな。だが、一旦城に入れば、馬鹿を防ぐ為に誰かが付くと思う。本来、私が横にいるのだから、馬鹿を言う者がいる方がおかしいのだが……」

「4年国に居なかった上、元々認知度も低いから、防波堤にならないと……」

「うぐっ……。まあ、そう言う事だ……」


 ルージュ、地元の癖に思ったよりもアテにならないぞ?

 これ、下手をしたらアッシュを待つのが正解だったんじゃね?



 結論、割と大丈夫でした。


 帝城に行ったところ、早々に(態度では無くて地位が)偉そうな初老の男性が出迎えた。

 『紫苑シオンの街』からも先触れが出ていたので、準備が出来ていたのだろう。


 帝城は予想通り、中国風のお城といった風情だ。

 語彙力が無いので上手く説明できないが、西洋風の城のような高さは無く、横に広いタイプの城だ。シルエットで見ると、台形のような形をしている。

 後、やっぱり赤い。元々、中国も赤のイメージ多いし、一致しているとも言える。


「ピエール、久しいな。元気だったか?」

「ええ。ルージュ様もお元気そうで何よりです。それに、噂の仁殿とご一緒とは驚きました」


 初老の男性ピエールさん、ルージュとは比較的仲が良さそうだな。

 マップ表示も緑だし、問題のある人物ではないようだ。

 ちなみに、おれの事を知っている時点で、首脳陣であることも確定している。


「うむ、彼には世話になっていてな。帝都までの護衛も頼んでいたのだ」

「ほう!ルージュ様が護衛と言うからには、相当な実力者なのでしょう」


 だから、ルージュが実力者として見られているのって、違和感しかないんだよ。


「ああ、少なくとも、私より強い事は間違いがない」

「そこまでですか。……スカーレット陛下がそれを知ったら、決闘でも挑みかねませんね」

「ヴァーミリオン兄様が亡くなって以来、強者との戦いに飢えているからな」

「そうですね……。本当に惜しい方を亡くしました」


 ピエール氏、少し後悔するような表情をする。


「さて、それでは仁殿、少々お時間を頂きたく思います」

「分かりました」


 ピエール氏は意識的に話を終え、俺を帝城の応接室へと案内した。


 高級そうなソファに、ピエール氏と向かい合う。


「アッシュ殿下からお話をお伺いかと思いますが、今一度状況を整理させていただきます」


 そうして、ピエール氏はアッシュから聞いた話を繰り返した。

 その後、本題に入る。


「アッシュ殿下からの書状にあったのですが、仁殿は基本的に歓待を望まないというのは誠でしょうか?最低限、貴族の品位を落とさない程度、と書かれていました」

「はい、理由もわからずに歓待を受けるのは気が進まないので、遠慮したいと思っています。少なくとも、金銭的な優遇を受けるつもりはありません」


 お金ってさ、何よりも分かり易い『借り』だからね。


「承知いたしました。それでは、アッシュ殿下の書かれた後ろ盾のような、権利的な優遇なら良いのですね?」

「程度にもよりますが、そこまで拒否するつもりはありません」


 招かれて、多少の権利を与えられるのなら、招かれた分と相殺しやすい。


「ピエール、1ついいか?」

「ルージュ様、何でしょうか」

「彼は観光をするのが趣味だ。街の通行に関する権利がお勧めだぞ」


 そこで、ルージュのナイスアシストが入る。意外!


「なるほど。そう考えると通行権をお渡しするの良さそうですね。歓待で時間を潰せないなら、観光で時間を潰していただく、と言うのは理に適っています」

「我が帝都も観光を意識していないとは言え、何も見る物がない、と言う事はないだろう?」

「ええ。ただ、劇場や博物館はありますが、武闘派の方が面白がるような物は心当たりがありません。流石に軍事関係の施設への通行を許すわけにはいきませんからね」

「軍事施設には興味がありません。劇場や博物館の方が良いです」


 こうして、俺は真紅帝国帝都における、『観光する権利』を手に入れるのだった。


 軍事施設?そんなのマップに入った段階で丸裸だから。

 へー、今は対竜装備に力を入れているんだ。


 そして、話は続いていく。


「滞在は帝城近くのホテルですか。食事にお招きするのは……出来るだけ控えて欲しいと。承知いたしました。皇族の方からの面会は……こちらも控えます。アッシュ殿下だけは良いのですね?ホテルの方には一部事情を伝えてもよろしいですか?ありがとうございます」


 後は必要な事を事務的に話し続けた。

 思った通り、ピエール氏は有能だ。人柄も問題ないので、敬語で話すに値する。


 一通り話を終えたので、本日はここまで、と言う事になった。

 今日はもう観光に走って構わないそうだ。


 よっしゃ!


 そろそろ昼だし、まずは昼飯をどこで食べるか決めないといけないな。

 地元だし、ルージュにおススメを聞けると良いんだが、ルージュは帝城で色々とやらなきゃいけない事があるというので、一旦別れることになった。



 俺達はピエール氏に連れられ、帝城の正門、馬車の元へと向かう。


 ピエール氏が同行している以上、行動の読めない馬鹿が絡んでくる可能性は低い。

 しかし、行動が読めないのは、『馬鹿』の他にもう2種類いるのだ。

 それは、『お年寄り』と……。


「てやーーー!!!」


 『子供』である。


 10歳くらいでドレスを着た赤髪の少女が、短剣を持って跳びかかって来たのだ。

 もちろん、居るのは知っていた。


「あっ」


 流石の俺も慌てた。

 少女の足が意外と速く、マリアの殺害圏内キルゾーンに入りかけていたからだ。


《マリア、俺が対処する》

《承知いたしました》


 子供とは言え、刃物を出している以上、冗談では済まない。

 あらかじめ宣言しておかないと、マリアは容赦をしないだろう。


 俺は少女に対し、複合スキル<恐怖>を一瞬だけ、ただし強めで発動した。

 これにより、少女の意識は綺麗に刈り取られた。


 そのまま少女がヘッドスライディングを決める。

 華麗に避ける俺。


「これ、誰ですか?」


 俺はぐったりした少女の襟を掴み上げ、ピエール氏の方に向ける。

 ステータスで見ているから知っているけど、聞かない訳にもいかない。


「第七皇女、ルビー殿下です……」

「皇帝の客に皇女が襲い掛かるのがこの国の普通なのですか?」


 ピエール氏、頭を押さえて天を仰ぐ。


「普通ではありません……。大変、申し訳ございませんでした。そして、ルビー殿下を傷付けずに抑えていただき、感謝いたします」


 ヘッドスライディングのせいで、ドレスも肌も結構ボロボロだよ?


「この凶行、理由をご存知でしたら教えていただけますか?」


 流石にこれは聞いてもいい話だよね。

 関係者だもの。


「恐らく、と言う話になりますが、構いませんか?」

「ええ、構いませんよ」


 真実は本人に聞けばいいからね。


「目的は恐らく武力の証明です。ルビー殿下は第一皇女のカーマイン殿下、第二皇女のストロベリー殿下と仲が良く、お二人のような武芸に秀でた皇女になりたいそうです」


 確かに二人とも武闘派皇女だ。


「資質は十分にあり、最近では訓練でも才能の片鱗を見せているそうです。ですが、年齢的な理由により、実戦にはまだ早いと言われています。そして、ルビー殿下はそれを不満に思っていました」


 そこまで聞けば、何となく分かる。


「どこかで仁殿の話を聞き、仁殿を倒せば周りに認められる、と考えたのではないかと思われます。……恐らく、仁殿が実力者であると言う話を聞いたのでしょう」

「その結果があの奇襲ですか。下手をすれば、反撃で殺される可能性もありましたよ」


 あまりにも迂闊!あまりにも無謀!


「ええ、その通りです。だからこそ、傷付けずに抑えていただいたことを感謝したのです」

「もう少し強かったら、手加減できなかった可能性もあります」


 相手が弱いからマリアを止める事が出来たが、相手がある程度強ければ、俺が止める間もなくマリアが切り捨てていた可能性も否定できない。


「仁殿には申し訳ないと思いますが、今回は運が良かったと言う事ですね。不幸中の幸い、と言うモノですが……。ルビー殿下の側近達は一体何をやって……」

「居たぞ!ルビー様だ!」


 ピエール氏が言い終わる前に、ルビーを探していたと思われる者達が現れた。


「ル、ルビー様……」


 集まって来た5名の男女。

 その内の1人、メイドが青い顔をして俺に抱えられたルビーを見る。


「ピエール様、この状況は……?」

「ルビー殿下が、陛下の客である仁殿に短剣で斬りかかりました。直後、仁殿の殺気を受け、ルビー殿下は気を失いました」

「いつの間にか居なくなったと思ったら、何と言う事を……!」


 剣を携帯した護衛っぽい男が頭を抱える。

 どうやら、ルビーは側近を撒いて、ここまで来たようだ。


「ルビー様を見失った貴方達の失態でもありますよ」

「それは分かっています。ですが、まさか陛下の命に背くとは……」

「ええ、それが一番の問題です」


 ピエール氏と5人の側近が難しい顔をしている。

 どうやら、『俺に斬りかかった』事よりも、『皇帝の命に背いた』事の方が問題のようだ。


 側近の1人が俺の方を向いた。


「仁殿、だったな。厚かましい頼みなのは承知だが、ルビー様による襲撃の件を無かった事には出来ないだろうか?無かったことにする以上、正式に謝罪をする訳にはいかないが、その分の補償はする」


 どうやら、本気で『無かった事』にしなければヤバい案件のようだ。


「それは出来ない」

「な、何故だ!?」


 しかし、俺はその申し出を断る。


「理由は2つ。1つは事情も知らず、襲撃をなかったことにして欲しいと言われても、何も納得が出来ないからだ」

「じ、事情か……」


 どうやら、凄く言いにくい事らしい。

 それでも、事情を聴き、納得しなければ、無かったことになんて出来ない。


「もう1つは、正式な謝罪が出来なかろうが、謝罪自体は必要だからだ。それも、周囲の人間ではなく、本人の謝罪に限る」

「そ、それは……」


 俺は持ったままのルビーを見せつける。

 周囲がどう騒いだところで、本人が謝らないのに、許す事なんて出来ない。


「はぁ……。仁殿の言っている事の方が正しいですよ」


 そこで、ピエール氏が諫める様に言った。


「しかし、ピエール様!」

「ですが、無かったことにするしかないのも事実。仁殿の望むようにするしかありません」

「そ、それでは……」

「それが、最善です」

「……はい」


 側近が諦めたように肩を落とす。


「仁殿、申し訳ありませんが、再び応接室に来ていただけますか?あまり、表では話したくない内容ですので。もちろん、ルビー殿下に謝罪もさせます」

「分かりました」


 側近を説得したピエールに連れられ、再び応接室へ。


理由は伏せますが、本章(本編)におけるルビーちゃんのセリフは「てやーーー!!!」だけです。

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