挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第12章 真紅帝国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
254/265

第174話 街の移動と第一皇女

真紅帝国編が書き終わらないので、前後編にする予定でしたが、何とか書き終わりそうなので、12章だけで終わらせることにします。

その代わり少し長くなりました。

 『英霊刀・未完』の尊い犠牲になったゴブリンを除き、野生の魔物と会う事も無く6層の街に到着した。

 なお、7層の街は道中他にもあったが、時間的な都合から寄る必要は無いと判断した。

 ルージュも挨拶は面倒だと言っているので丁度良い。


「確かにスパイは減ったみたいだな」


 余所者は層、つまり地位を上げるのは難しいと言う話だったが、不可能と言う訳ではないようだ。スパイの人数は7層から比べれば0に等しいくらいだが、0ではない。


「居る事には居るのか……」

「まあ、根性のあるスパイって事だな」


 知られざる事実にルージュも顔が引きつっている。

 自国のスパイ事情とか、知らない方が精神衛生上良いからな。


 早速、ルージュ達は領主の元へ、俺達は観光へと向かう。


 層が変わっても国の特色までそう変わるモノでもない。

 『常盤の街』と似たような街並みを楽しむ。

 ちなみに、この街の名前は『山吹の街』。もはや突っ込まない。


 そして、最初に向かったのは服屋だった。


「じゃーん!チャイナドレスにメイクアップ!」


 そう言って試着室から出てきたのは、赤い子供用チャイナドレスを着たミオ。


「こんな服を着る機会は無かったから、少し恥ずかしいです……」


 さくらは顔を赤くしつつもしっかりと黄色いチャイナドレスを着ている。

 さくらの過去から察するに、チャイナドレスを着る機会があったとは思えない。普通の人だって滅多に着るような物でもないし……。


「動きやすいですけど、激しく動こうとすると下着が見えそうです」

《ドーラは気にしなーい》


 マリアは緑、ドーラは青の子供用を着ている。

 ドーラは気にして。


「身体のライン、出すぎじゃありません?」


 セラは白いチャイナドレスを着ているが、1人だけ格が違うな。

 端的に言うと……。


「エロい」

「エロいわね」

「あ、あんまりそう言う事を言わないで欲しいですわ!」


 ドーラ、ミオ、マリアは微笑ましくて、さくらは良くも悪くも普通。

 セラだけが明らかに浮いている。エロい方に。

 もちろん、一般的な日本人にとって、チャイナドレスと言うのはエロいモノだから(偏見)、ある意味正しくはある。


「もうちょい、華美な刺繍の入ったのでも良かったかしら?エロくてゴージャスな金髪って、キャラが立っていると思うのよね。後は鉄扇か何かを持たせて縦ロールにすれば……」

「ゲームか何かのキャラクターみたいだな」


 ミオの謎スイッチを押してしまったようで、本気の検討を始めている。

 今着ているのはベーシックでシンプルなデザインだ。

 サンプルがあれば、裁縫メイドがもっと凄いのを作ってくれるので……。


「とりあえず、今着ているのを買って良いんだよな?」

「あ、うん。サイズは問題なしだから、そのままお会計するね」

わたくし的には問題ありですわ……」


 近くに居た店員に言って、ミオが会計を済ませる。


 折角のチャイナドレスなので、購入するのは『常盤の街』の時点で決めていた。

 しかし、『常盤の街』にはチャイナドレスを売っているお店が無かったので、後回しにしていたのだ。観光に力を入れていたら話は別だが、そうでなければあまり売れない服を店売りにする理由は無いからね。仕方ないよね。


「いつもの服の方が落ち着きますわ」

「私もです……」


 その後、女性陣は普段着に戻った。


 これは、さくらとセラがギブアップしたからではなく、着ていると無駄に目立つからである。そもそも、真紅帝国民にとってもチャイナドレスは普段着ではないのだ。


 そして、夕飯はラーメンにした。ライス付きだ。


「そもそも、ラーメンって、中華料理なんだっけ?」

「ご主人様、その辺の話は難しくなるから止めましょう?とりあえず、この国に来たのが日本人なのは確定したから」

「どう考えても、日本人向けの味付けだからな」

「はい、美味しいです……」

《おいしー》


 少なくとも、日本人の伝えた文化であることは確定しました。

 いや、大分前からほぼ確信していたけど……。


「ご主人様の世界の料理、レパートリーが凄いですわね」

「特に私達の国は凄いわよ。世界各国の美味しい料理は、探せば大抵食べられるから。まあ、しっかりと日本風にアレンジされていることも多々あるけど……」

「お得意の魔改造って奴だな」


 下手をすると、本場よりも美味いって言われることもあるみたいですよ?

 ただし、別の料理と認識されます。


「そう言う意味では、異世界に転移しているのが日本人で良かったな」


 異世界なのに、探せば馴染み深い物があちこちから出てくる。


「世界各地から転移していたら、文化が滅茶苦茶になっていたでしょうからね」

「まあ、異世界語が日本語な時点で、他の国から転移した人はディスアドバンテージ半端ないワケだが……」


 異世界転移と言うだけで厳しいのに、言語の壁が加わると更に酷い事になるからな。


「それもこの世界の謎よねー。勇者召喚は日本から限定っぽいけど。後、その他の転移者の情報は残っていないと思うわよ」


 ああ、勇者召喚以外で転移すると、下手をしたら死ぬんだっけ。

 そうなると、外国からの転移者の情報は残っていないよな。


「転生者も今のところ日本人限定っぽいな」


 まあ、転移、転生の元が日本だけと分かったところで、何が変わる訳でもない。


「そうね。あ、この国でもサンプル1人増えるかもしれないわね」


 一国の皇帝をサンプル呼ばわりするミオも随分と肝が据わっているよね。

 俺と一緒に居るせいで、感覚が麻痺しているだけかもしれないけど……。



 そんなこんなで5層、4層の街を進んで行きました。


 概ね、どの街も大きな差はなく、それなりに観光を楽しめた。

 中華料理に飽きた時は、こっそり『ポータル』で屋敷に戻ってメイド達の料理を食べる。

 どうしても、味が濃くて飽きるときがあるんだよ。


 順調なのは間違いが無いのだが、1つだけ問題があるとすれば……。


「<恐怖>」

「う、あ、ああぁぁぁ……」


 2回に1回は領主が出てきて実力を見せるハメになっている事かな?

 <恐怖>しか使っていないけど……。


 そして、今日中には3層の街に到着する見込みだ。


「う……」


 そんな中、馬車の中でルージュが複雑そうな顔をする。


「どうした?何か面白い事でもあるのか?」

「どうして、この顔が面白い事のあった顔に見えるのだ?いや、マップを見ていて、見知った名前があったのでな。これだ」

「どれどれ?」


 どうやら、次に行く予定の街にソイツは居るらしい。

 コイツだな。


名前:カーマイン・クリムゾン

性別:女

年齢:17歳

種族:人間

称号:真紅帝国皇女


「えーと、姪?」

「ああ、姪だ。兄、スカーレットの第二子、長女だな」


 スカーレットの娘、カーマインさんだそうです。


「あれ?ストロベリーは第二皇女で17歳だったよな?」


 俺の記憶が確かなら、だけど。


A:正しいです。


 時系列が合わない?


「ああ、第一子から長男レッド、長女カーマイン、次女ストロベリーと続くのだが、この3人は同い年、腹違いの兄弟なのだ」

「スカーレット、色々と凄いな」


 年子と言う訳ではなく、腹違いで同い年か。ヤるね。


「それで、何でさっきは変な顔をしていたんだ?」

「変な顔と言わないで欲しいのだが……。いや、カーマインは昔から私の事が気に食わない様で、何かにつけて絡んで来たからな。もちろん、私も言われっぱなしではなかったが」

「ミネルバ、そこに微笑ましい様子はあったか?」


 情報の裏付けをミネルバに取る。

 ほら、主観だけだとツンデレとか分かり難いから。


「いえ、本当に敵視している様子でした。正直、何が理由なのかは分かりません」

「物心ついた頃からずっとだ。理由があるとすれば、相当に年季の入った話だな」


 ミネルバ(有能)にも分からないとなると、外から伺い知れぬ理由だな。


「それで、このまま街に行っても良いのか?」

「当然だ。街を避けたら、カーマインから逃げるみたいではないか。私はカーマインに対して後ろ暗い事はしていない。避ける理由は無い」

「ご主人様みたいな事を言いますわね」


 横で聞いていたセラが口を挟む。


「ああ、私も言っていてそう思った。奴隷は主人に似るモノなのか?」

「聞いたこと無いですわ」

「まあ、主人の言動を聞く機会が多ければ、影響がないとは言えないでしょうけど、ルージュさん、そんなにご主人様と絡みないわよね?」

「仁様の影響があるのでしたら、私達の方が大きいと思います」


 奴隷組がルージュの考察を否定する。


「それもそうか。よく考えれば、昔からこんな思考だった気もするな」


 うん、ルージュに関しては元々の気質だと思うよ。


「しかし、領主に挨拶に行けば、否が応でも会うことになるだろうな。面倒だ……」


 逃げないというのと、面倒か否かは別の話だからね。


「そのカーマインって皇女、どんな子なの?」

「そうだな。プライドが高く、自分にも他人にも厳しかったな。悪く言うと高慢となる。後は、4年前の時点で相当な戦闘能力を持っていたはずだ」

「純粋な戦闘能力だけでしたら、皇帝陛下のお子の中でも1、2を争うと言われています」


 ミオの問いにルージュが答え、ミネルバが補足する。


「ちなみに、1、2を争っている相手はストロベリーだな」

「力のストロベリー様、技のカーマイン様という通り名が有名ですね」

「どこかで聞いたことのあるフレーズね……」


 通り名だけで大よその方向性が分かるって素敵だよね。


「さっきチラッと話に出てきた長男のレッド君はどうなんだ?」


 少し気になったので聞いてみる。

 長男なのに、1、2を争っていないのか?


「レッド様は……あまり戦いを好まれないようなので、正確な強さは分かりません」

「私も、レッドが戦っている姿を見た事が無いな」

「何となく、真紅帝国の皇族は血の気が多いイメージだったが、そうじゃない奴もいるか」


 真紅、だけに血の気……。


「何故、そんなイメージが出てきたのだ?研究者もいると説明した気がしたのだが……」

「今までに会った連中の平均で考えたら、仕方ないだろ?」

「むう……。否定できないのが悲しいな」


 高慢だった初期のルージュ、他国に乗り込んで暴れるスカーレット、力任せなストロベリーと中々に脳筋で血の気の多そうな連中だ。


「それはさておき、レッドも全く鍛えていない訳ではなさそうだったので、多少は戦えるのだろうな。まあ、結局はどれも4年前の情報なのだが……」

「本当に戦えないのか。あるいは戦えるけど実力を隠しているのか……」


 見かけたらステータスを暴いてあげようと思います。



 そして、3層の『朽葉の街』が見えてきました。

 段々、街の色が赤に近づいている気がしないでもない


「何故、入り口で待ち構えているのだ……」


 ルージュが心底嫌そうに呟く。

 件のカーマインさん、街の入り口で待ち構えているってさ。


「先触れがこの街に寄ったので、領主経由で知ったみたいだ。外壁の上から俺達の馬車を見つけた監視役が報告したんだな」

「余計な事を……」


 街をぐるりと囲む外壁、その上にいた監視役が俺達を発見し、カーマインに伝えたようだ。

 つまり、カーマインは待ち伏せする気満々だったと言う事だ。


「いっそ、この辺で野宿するか?」


 思い付きで提案してみる。


「それは……有りだな。カーマインに主導権を握られるのは避けたい」


 肯定されてしまった。


 こうして、俺達は道を少し外れた場所に陣取り、野宿の準備を始めた。


 言っちゃ悪いんだけど、メイドが作って<無限収納インベントリ>に入れておいた料理があるし、安全で清潔な『ルーム』もある。街の外壁よりも強力な寝ずの番タモさんも居る。野宿であろうと街で一泊しようと、大差が無いと言ってもいいだろう。


 監視除けのカーテンの中でテーブルを広げ、出来立て(屋敷直送)の夕飯を食べる。


「もしかして、ご主人様、真紅帝国の街に飽きてきた?」

「否定はしない。あまり、街単位での特色が大きくない国だからな。2、3カ所見て回れば十分と言えば十分な気がする」


 ミオの問いに肯定を返す。

 『飽きた』は言い過ぎだが、階級社会で観光を考えていない街造りなので、楽しむにも限界があるのは事実だ。


「本当に観光が楽しみだったら、街の前で泊まるなんてしないものね」

「それはそうだな。……ルージュ、何か面白いものは無いのか?」


 夕飯のうどんをすすっているルージュに尋ねる。


「むぐっ!そうだな。正直、この辺りに仁様の興味を引きそうなものは無いと思うぞ。街の他には、廃坑くらいしかなかったはずだ」

「廃坑……それは是非行ってみたいな」

「何故だ!?」


 ルージュには理解できないだろうな。

 採掘メインイベントが終わったはずなのに、ゲームではちょくちょくイベントのあるフィールド、それが廃坑だ。

 廃校でも廃港でもいいけど、『廃』と付く場所って大抵イベントあるよね(他の例:廃村)。


「ご主人様の言いたい事は何となく分かるわ。でも、危なくない?」

「仁様には危ない事をして欲しくありません」


 ミオの突っ込みにマリアが乗っかる。


「それじゃあ、カナリアでも連れて行くか?」


 人より致死量が少ないカナリアを前に出して、有害物の有無を調べる事があるそうです。

 そして、カナリアが死んだら全力で逃げる。


「可哀想じゃない?」

「じゃあ、代わりにハーピィを前に出そう」

「もう一度言うわね。可哀想じゃない?」


 ハーピィも駄目らしい。

 なお、後でハーピィ・クイーンのショコラに聞いたのだが、この時、ハーピィ達が謎の不安感を受信したらしい。あいつら、結構勘が良いからね。


「仕方ない。ならばこういう時こそ使い魔、エルの出番だな」


L:妾か!?いや、やれと言われればやるが……。


 エルは厳密には生き物ではないから、『可哀想』ではない。完璧だ。


「だからね。毒物はマップを見ましょ?気を付けるのはむしろ足場、崩落とかの話よ」

「それもエルを先に行かせれば解決するぞ」

「あー、そういう考え方もあるわね……」


 エルの肉体は仮初めの物なので、設定により痛みを感じさせない事も出来る。

 危険への対処としては、ある意味ただしい使い魔の使い方である。


「本気で廃坑に行くつもりのようだな。特に何もないと思うが……」


 ルージュが少し呆れている。


「本当にそう思っているのか?行きたいと言っている場所に、本当に何もないと思っているのか?」

「うっ……。何だ、この言い知れぬ説得力は……」


 絶対に何かあります(確信)。



 食事を終え、しばらくの後、何とカーマインが街を出て野営地に近づいてきました。

 アルタに聞いたら、我慢できなくなったそうです。


「ルージュ、どうする?」

「まあ、向こうから来るなら問題は無い。護衛も付けていないようだからな。会っても危険は無いし、どちらかと言えば危険なのは向こうの方だろう」


 1人でノコノコと敵地(仮)に乗り込んでくるなら、迎え撃てば良い。

 と言う訳で、話やすいように俺とルージュの2人でカーマインを迎え撃ちます。


「なんで街に入んないのよ!」


 外にいたルージュのお付きを捕まえ、野営地の中に入って来たカーマインの最初のセリフである。もちろん、相手はルージュだ。


 喋り方は今までの皇女達に比べると随分と荒っぽいというか、砕けているというか、皇女らしさが無いな。


「久しぶりに会う親族に随分な挨拶だな。カーマイン。そうだな。質問の答えは、お前が待ち構えていたからだ。お前の待つ場所には行きたくないからな」


 ルージュ、椅子に座り、余裕たっぷりな大人ムーブをしている。


「な!? 何で私がいるって知ってるのよ!答えなさい!」

「無礼な小娘に態々教えてやるほど、私も暇ではないな」

「本当に苛立つわね!これだから、オバサンは……」

「おい、オバサンは止めろと言っているだろう。お姉さんと呼べ」


 椅子から立ち上がり文句を言うルージュ。

 先程までの余裕は消えている。


「嫌よ。私は長女だから、兄はいても姉はいない。私は誰の事も姉と呼ぶ必要は無いんだから。アンタは私にとって、紛れもない叔母さんなのよ!それも、役立たずのオバサンよ!」

「くっ……」


 仲が悪いと聞いていたが、中々に仲が悪いな。


「それで、アンタは何をしに帝国に戻って来たのよ?お父様の命令を完遂出来なかった言い訳をしに来たの?聞いているわよ。エステア迷宮の攻略、無関係な奴らに先を越されたんですって?何が史上最速の30層到達よ。あっさり抜かれてるじゃない。本当に役立たずね」


 ルージュを挑発するように嘲るカーマインだが、実情を知っていれば挑発にはならない。

 どうも、無関係な迷宮支配者ダンジョンマスター、進堂仁です。


「迷宮?そんな事はどうでもいい。最優先で兄に報告する事があるから戻って来たのだ」

「一体何よ?答えなさい」

「答える気はない。お前如きが知って良い内容ではないからな」

「馬鹿にしてくれるじゃない……」


 カーマインのいかりのボルテージがあがる。


「馬鹿にしているのはカーマインも同じだろう。街に入らない文句を言いに来ただけならば帰れ」

「嫌よ。折角役立たずの出戻り年増を、声高に馬鹿に出来る最高の機会なのだからね!」


 口調が荒っぽいだけかと思ったら、相当に口が悪い。


「お前は本当に口と性格が悪いな」

「性格は4年前のアンタよりもマシよ。国内の評判、知らないの?」

「ぐっ……」


 ルージュ、評判が悪かったらしい。


「私、これでも帝国軍の部隊長よ?実績も十分にあるし、国民からの評判だって、アンタとは比べ物にならないくらいに良いんだから」

「ぐぬぬ……」


 カーマインは自信満々に胸を張って言うと、ルージュ悔しそうに呻いた。

 胸はまあ、それなりにある。胸を張っているから分かり易い。


 カーマインが着ているのは女物の軍服だ。

 皇族だけあって、軍服も多少は豪華だが、基本的な部分は一般兵とそう変わらない。

 恐らく、『朽葉の街』に居る一般兵達をまとめているのだろう。

 レベルの高い兵が大勢いるみたいだし、魔物の殲滅部隊かな?


A:その通りです。


 ミネルバに聞いたのだが、魔物の殲滅部隊は国内ならどの街でも尊敬の対象だそうです。


「それに、アンタは敬語の1つすら使えないけど、私は敬語は当然として、お嬢様らしく話す事も出来るのよ。もちろん、アンタみたいなのを相手に敬語なんて使う気はないけどね」

「ば、馬鹿にするな!私だって敬語くらい使える!」


 比較的最近敬語を覚えたルージュが反論する。


「はぁ?その年まで敬語を使えなかったのに、いきなり使えるようになった?嘘でしょ」


 ルージュの発言を全く信じていないカーマイン。

 普通に考えたらおかしいよね。


「ま、それほど興味ないからいいわ。とにかく、今の私はあらゆる面でアンタを越えているのよ。人望も、地位も、賢さも、強さも全部ね。悔しい?ねえ、悔しい?」


 カーマイン、滅茶苦茶煽る。


「……ふ、ふん、言ってくれるじゃないか。だが、1つ誤りがあるぞ。他のモノはともかく、強さでお前が私を上回っていると言う事はない。私とて、迷宮で力を付けているのだからな」

「へえ、だったら、試してみる?」

「良いだろう。私の力を見せてやる」


 バチバチと火花を散らすルージュとカーマイン。

 互いに武器を抜こうとしたところで……。


「止めろ。戦うなら外でやれ」


 俺がストップをかける。

 『やるな』とは言わないが、こんな場所で戦われたら迷惑極まりない。


「む、それもそうだな……」

「……さっきから気になっていたけど、アンタ何者よ。私に……この国の皇女に命令するなんて、覚悟は出来ているんでしょうね?」


 ルージュは納得して武器を収めるが、カーマインは引かない。


「カーマイン、止めろ。彼は私の護衛であり客だ。無礼な真似は許さない」

「護衛で客?意味が分からないわね。……ああ、女が男を地元に連れてくる理由なんて、そんなに多くないわよね。こんな冴えない男に引っかかるなんて、本当に皇族の恥さらしだわ」


 カーマインの挑発は続く。

 おいおい、流石にルージュの恋人扱いは俺も許さないぞ(それはそれで酷い扱い)。

 なお、『冴えない』という評価は別にどうでもいい。


「ぐっ!?殺気!?」


 カーマインが呻きながら武器に手をかけ、周囲を見渡す。


 様子を伺っていた別室待機中のマリアが殺気を放った。

 俺は気にしていないけど、マリアには『冴えない』を許せなかったようだ。


「くっ、何ていう重圧プレッシャーなのよ!?」


 その殺気はほとんど物理的な重圧となりカーマインだけを襲う。


「ぐ……。かはぁ、かはぁ……」


 我慢の許容範囲を超えたようで、苦し気に膝をつくカーマイン。

 息も途切れ途切れで危うい。


 マリアも殺気だけで制圧できるくらいに成長したんだなぁ……(しみじみ)。


《マリア、もう止めておけ》

《承知いたしました》


 俺がマリアに念話を送ると、すぐに殺気が止まった。

 カーマインは力尽き、その場に横たわる。


「はぁ……、はぁ……。一体……何なのよ……」

「だから止めろと言ったのだ。全く、兄の後継者を名乗るなら、少しは見る目を鍛えたらどうなのだ?まあ、私が言えた事ではないがな」


 ホントだよ。特に最後の一言。


「休んで立てる様になったらもう帰れ。余計な事を言わないで、黙っていると良い」

「上から目線で偉そうに……。まだ、私は負けていないわ……。アンタなんかに負けるもんですか!」


 カーマインはそう言って立とうとするが、相当に消耗が激しかったようで、身体を起こすのが限界だった。


「その無様な有様で、私と戦うというのか?」

「そ、そうよ!」


 見るからに強がりなのは明らかなのだが、ルージュの前で弱みは見せられない様子。


「分かった。ならば、外で相手をしてやろう」

「ちょっ!?離しなさい!」


 俺の言葉を覚えていたようで、立てないカーマインの服を引っ張って、野営地の外に連れて行った。


「勝ったぞ」


 数分後、戻って来たルージュが嬉しそうに報告してきた。

 まあ、マップで見ていたから知っているけど……。


「お前、あの状態の相手に勝って嬉しいのか?」

「純粋な力比べと考えれば嬉しくはないが、鬱陶しいカーマインに一泡吹かせたと考えれば、とてつもなく嬉しいな」


 当然、ルージュとカーマインの戦いは戦いと呼べるような物ではなかった。

 ボロボロの状態で『朽葉の街』に帰るカーマインは、それはそれは憐れだったそうな。

継承権を持つスカーレットの子供一覧です(年齢順)。

12章で全員は登場しません。名前の決まっていない子は確実に出ません。

第一皇子:レッド

第一皇女:カーマイン

第二皇女:ストロベリー

第二皇子:ジョナサン

第三皇女:ローズ

第三皇子:アッシュ

第四皇女:名称未定

第五皇女:名称未定

第六皇女:名称未定

第七皇女:ルビー

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。