第172話 道中と最初の街到着
真紅帝国へ入った辺りからスタートです。
ほぼ最後まで真紅帝国が舞台の予定です。
アドバンス商会の超高級馬車(馬は自前)の旅の末、俺達は真紅帝国へと到着した。
「懐かしいな。もう真紅帝国を出て3年以上になるのか」
「もうすぐ4年になりますね。ルージュ様も随分とお変わりになりました」
「良い方に変わっていればいいのだがな」
同行者はルージュ、ミネルバを含む8人の真紅帝国出身者だ。
なお、馬車は2台で高級な方にメインパーティとルージュ、ミネルバが乗り、残りの6人はもう1台の馬車に乗っている。そっちの馬車はランクが一段落ちる。
流石にエステア王国からコツコツ馬車を走らせる気にはならなかった。
そこで、真紅帝国に最も近い、アト諸国連合のナルンカ王国王都(完全支配済)から東に向かって1日、というルートを採用して真紅帝国に向かった。
その気になれば、もう少し近い場所から帝国入りも出来たが……。
「距離としては近いのよね。ご主人様は頑なに行かなかったけど」
「アドバンス商会のメイド達も、ご主人様の指示で真紅帝国に入らないのですわよね」
<
あまり真紅帝国に近づくとネタバレになりかねない、アドバンス商会のメイド達にはナルンカ王国東部にはあまり近づかないよう指示している。
「仁様の楽しみを奪うような事を彼女達がする訳がありません。……本音を言えば、危険を回避するためにも、仁様の行き先は徹底的に確認しておきたいです」
俺の安全を確保したい気持ちと、俺の楽しみを守りたい気持ちに揺れているとマリア+メイドは常々思っているらしい。
「その分、私達が全力で仁様をお守りします」
そして、最終的な結論はそこに落ち着く。
マリアが過干渉気味なのは、俺を危険から遠ざけたいが故の行いなのだ。
……気持ちは有り難い、気持ちは有り難いんだが、時々迷惑なんだよな。うん……。
「
見た目からは分からないが、今の俺は完全防備である。
いつでもレインとの『精霊化』に入れるし、いざという時はエルとタモさんが
L:頑張るのじゃ!
見えないし、何も言わないけど、レインもやる気満々なのを感じる。
《守る》
そう言えば、タモさん、大分流暢に喋るようになったよね。
《頑張った》
おう、受け答えも流暢。
色々吸収した結果かな?人は吸収していないよね?
A:していません。
なら良し。
「一応、護衛対象は私達の方なのだがな……」
ルージュの言う通り、俺達は一時帰省するルージュ達の護衛として同行している。
護衛対象よりも完全防備な護衛役なのである。
「仕方ないだろ。この間1人で災竜と戦ってから、皆いつも以上に過保護なんだよ」
「我々の願いを聞き入れて下さり、ありがとうございます」
俺としてはここまでガッツリ守る必要はないと思っている。
しかし、少し前に災竜との戦いにおいて、1人で戦うと言う危険を冒したせいで、マリアやメイドがいつも以上に過敏になっているのだ。
俺は大人しく、マリアとメイド達の懇願を受け入れる事にした。いや、流石に100人以上が土下座で頼み込んできたら断れないだろ。
天空城の大広間でずらりと並んだメイド達の土下座、凄かったよ。
「流石の私も、自分の事を仁様よりも重要人物だとは思っていない。それは理解している」
「一応、ルージュ様も皇族なのですけどね」
「ミネルバ、一応とは何だ。一応とは」
ルージュは一応皇族らしい。
「王都から外に出ないせいか、国境の兵士には気付いてもらえなかったではありませんか」
「それを言うな……」
ルージュがげんなりする。
実は、ナルンカ王国と真紅帝国の国境を越える際、ルージュが兵士に顔を見せた。
皇族が顔を見せれば話がスムーズに進むと思っての事らしい。しかし、兵士は首を傾げ、『?』マークを出した。
ルージュは『田舎者め』と悪態をついたが、ミネルバが『やっぱり』と言った顔をしていたので、知られていなくて当然なのだろう。
「まあ、早馬は出してもらえたし、問題はないだろう」
最終的に身分証を見せてルージュが皇族と分かり、兵士の対応も変わった。
今回、急な帰省なので、兵士に頼み、スカーレットへの先触れを出してもらっている。
「しかし、私達が帰ることを兄に伝えても良かったのか? 仁様達の存在が兄に伝わるぞ?」
「問題ない。今回、俺はジーンじゃないからな」
女王騎士ジーンとして
正体を隠している訳でもないし、こっそり活動する理由も特にない。
「元々、この世界で行動する地盤が無かったから正体を隠したり、目立つ行動を制限していたという面もある」
「え?ご主人様、あれで制限してたの?」
「正体は隠していましたけど、行動を制限しているようには見えませんでしたわね」
ミオとセラが驚愕する。
そう言う意見もあるようですね。
「今となっては、ある程度安定した地盤もあるし、大分状況も変わっているから、もう少し目立っても良いかもしれないな。目立つと言うか、名声を得ると言うか……」
「地盤と言うか、いくつもの国がご主人様の支配下に置かれているわよね。踏んづけていると言う意味では同じだけど……」
ミオ、上手い事を言うね。
でも、王族を支配下においているだけで、国に何かを強要している訳じゃないからセーフ(謎理論)。
「国のトップが配下の国、経済的に支配している国、国の根幹を支配している国、支配下の国の支配下の国。……より取り見取りですわね」
補足だが、俺のマップは配下のいる場所も『現在地』として扱われる。
つまり、俺はメイドのいる土地の情報も『現在地』扱いで確認できる。そして、メイド達は世界各国に派遣されている。
その内、半数以上の国が俺の支配下にあったりする。
「流石に支配下云々は公に出来ないけど、それ以外の理由で俺自身が目立った後なら、ジーンの正体すら明かしても良いかもしれないな。もちろん、格好悪いバレ方はNGだ」
俺個人の名前が売れ、名声を得た後で、実はジーンと仁は同じ人だった、と明かされるのはそれほど悪くない。
「……『仁』の名前が売れ始めた段階で、『ジーン』との関連を疑われると思うわよ?」
「ミオ!何故だ!?」
「名前が似てるから」
「ああ!?」
痛恨のミス!
自分から言うのはOKだが、推定されてバレるのは格好悪いのでNGだ。
しかし、仁が有名になるだけで、既に有名なジーンとの関係を疑われる。何故なら、名前が似てるから!
……凝った偽名にしておけば良かった。
「進堂仁、メジャーデビュープロジェクトは凍結かな……。仁とジーンの関係が明らかになったら、誰に憚ることなく
今回も騎竜である
『仁』として行動する時に『ジーン』の騎竜であるブルーには乗れない。
乗り物が同じで正体がバレるのは格好悪い。声優が同じで同一人物バレするような物だ。
「ブルーちゃん、寂しそうにしていました……」
《ちょっとあわれー》
ブルーの様子を見ていたさくらとドーラが言う。
「出発の前に乗り回したから、機嫌は直っているはずだ」
もちろん、フォローはしている。
人目のない天空城の周りをぐるぐる回ってみた。ぐるぐる、ぐるぐると……。
「それは良かったです……」
《ごしゅじんさま、ブルーに甘―い》
ドーラがプチ嫉妬しているので、膝にのせて撫でる。
《えへへー》
機嫌が直るドーラ。
機嫌を直すのはブルーよりも容易だ。
「今更だが、護衛の姿ではないな」
「本当に今更ですよ。ルージュ様」
ほぼ非武装で、膝に幼女を載せて撫でている少年。
護衛に見えるだろうか?いや、見えない。
そんなこんなで真紅帝国内を馬車で移動する事少々。
「しかし、魔物が全く出て来ないな」
「言われてみればそうですね……。マップでも数匹しか見つかりません……」
俺の呟きを拾い、さくらもマップを見るが、数匹しか見つからなかったようだ。
理由を求め、ルージュを見る。
「うむ、真紅帝国では定期的に帝国軍が魔物の掃討を実施するからな。魔物による被害は周辺諸国に比べ、明らかに低いだろうな」
「軍隊が魔物の掃討をしているのか?冒険者はどうした?」
「冒険者ギルドはこの国にはない。初代王の定める方針により、不安定な戦力を当てにすることを良しとしない。国家の治安維持は国家に所属する者が行うべきだと唱えたそうだ」
俺の問いに対し、ルージュは自信満々に答えた。
「驚いたな」
「そうだろう。他に類を見ない方針だと自負しているぞ」
「いや、それもあるが、ルージュって自国について説明が出来るんだな」
まさか、真面に答えが返ってくるとは思っていなかった。
てっきり、ミネルバに回答権が移るものだと思っていた。
「待ってくれ!仁様は私をどう見ているんだ!?」
「アホの子。最初は敬語も使えなかっただろ?」
「うぐっ!」
配下にした直後、ルージュは碌に敬語を使えなかった。
今は敬語じゃない事を許可しているが、敬語を使える事は使えるらしい。
「ご主人様のルージュさんへの評価が辛い」
「フォローしたいのですが、仕方ない部分もあります」
ミオにミネルバが同意する。
「こ、これでも王族として十分な教育は受けているのだぞ」
「そうなのか?」
ルージュに聞かず、ミネルバに確認をとる。
「はい。ルージュ様の頭は悪くありません。むしろ、地理や歴史に関しては優秀な生徒だったとすら聞き及んでいます。」
「へー……」
「もの凄く意外そうな物を見る様な目で見ないで貰えないか?」
いや、本当に意外。
第一印象から評価が低かったからね。仕方ないね。
「じゃあ、常識は?」
俺が尋ねると、ミネルバは無言で首を横に振った。
「ルージュ様、基本的に城から外に出ませんから。勉強も訓練も全て城内で済ませます」
「それは否定できないが、国内事情、という意味なら自信はあるぞ」
ルージュはずっと帝都のお城の引きこもりだったらしい。
書類でわかる知識なら自信ありとの事。
「真紅帝国、常識知らずのお嬢様、多くないか?」
「……ああ、仁様は姪……ストロベリーにも会っているのだったな」
ルージュの姪であるストロベリーも常識が無かった。
「真紅帝国の姫に、一点突破型の常識知らずが多いと言うのは割と有名です。常識はお付きの者が何とかすると言うのがスタンダードですね」
「随分とワイルドな国だな」
つまり、常識を覚えさせるのは諦めていると……。
「研究に没頭して部屋からほとんど出て来ない姪もいるし、魔物が好きなのに国に魔物が居らず、それを理由に出奔した姪もいる。後者には数名、付いて行った者がいるがな」
スカーレットファミリー、愉快な皇女多いね。
「姫の件を除いても、真紅帝国は色々と独自の特色を持っています。一説には建国にとある勇者が関わったとも言われています」
「また勇者か……。この世界、何かあると勇者が関わっている気がするな」
「どちらかと言うと、勇者の影響力が強すぎるんじゃない?残り過ぎていると言うか……」
ミオが言うように、『勇者が関わっている』と言うよりは、『勇者の影響が強く、残り続けている』と言う方が正しい気もする。
「何度か経験があるが、『勇者の言う事は正しい』みたいな風潮があるよな」
ただの高校生に『正しさ』を期待するのは間違っていると思うのだが……。
「女神教の基本的な考え方だな。一応言っておくが、我が国は女神教の信奉を禁止している」
「建国に勇者が関わっているのにか?」
勇者が女神を拒絶する?有り得るのか?
あ、サノキア王国の元勇者達や、織原が居たな。例外はあるようだ。
「その辺りの理由は不明だが、初代の時代から基本的にこの国の方針は『自立』だからな。何かに過剰に頼る事を良しとしない。食料自給率は100%だし、冒険者と言う不確かな戦力にも頼らない。この国だけで生きて行けるようになっている」
何と言うか、真紅帝国は色々な意味で『堅い』国だと思う。
この世界に来てから感じることの多かった『脆さ』を感じない。システムも人材も同様だ。
人材と言えば、国境の兵士ですら他国の精鋭兵士クラスの強さがあったくらいだからな。
「言っている事は立派だが、その立派な内容、
「「…………」」
目をそらすルージュ、そしてミネルバ。
「そう言えば、ストロベリーのお付きはメイド1人だけだったよな」
姫様とメイドの2人旅だったはずだ。
「あのメイドがミネルバ達7人分に匹敵するとは思えないし、主の不足に応じて人数が増えているとしたら……」
「もう……、もう止めてくれ………。もう、心を入れ替えたから……」
ルージュがギブアップした。
少し弄り過ぎたかもしれないが、昔のルージュが酷かったのは事実だ。
ただ、本人の言うように最近のルージュはかなり真っ当になっている。
これもアルタの
A:元勇者の一人、五十嵐の様に芸を仕込みますか?
いや、そんな事は望んでいない。
雌犬は比喩で、ルージュをペット枠にするつもりはないからな。
「そろそろ、最初の街に到着するな」
ルージュに促されてマップを見ると、後10分程で最初の街に到着するようだ。
もうそろそろ日が暮れ始める頃だ。日が暮れる前に到着できてよかった。
「最初の街の説明をよろしく」
「ふむ、そうだな。国境付近の街と言う事も有り、他国の者もそれなりに多いな」
「それは普通の事よね?」
ミオが聞くと、ルージュは頷いて続ける。
「それはそうなのだが、我が国では別の側面がある。真紅帝国では平民も含めて格付けがされており、中央……帝都に近づくほど上位の格があることになる。下位の者が上位の街に入る事は難しく、他国の者も同様に難しい。言ってしまえば、他国の者は中央に近づけないから外周の街にいる、と言う事だ」
「……そもそも、他の国が出入り自由過ぎるんだよな」
常々、この世界の国々のセキュリティは問題だと思っていた。
「冒険者の資格だけで、首都ですら簡単に出入りできますわ」
「我が国では冒険者を優遇していないから、高ランクを理由に中央に近づくと言う事も出来ませんよ」
「冒険者ギルドの恩恵を受けていないから、優遇する理由も無い。道理ですわね」
ミネルバの補足にセラが納得する。
「簡単に言えば、他国の
何割?
A:約1割です。
「1割くらいは俺の支配下の国から来ているみたいだな」
「マップはそんなことまで分かるのか……」
「最初は出来なかったけどな」
<
ただし、それほど重要な情報は見えないので、普段は表示していない。
「どうでもいい話だけど、ご主人様の支配下の国同士は情報戦をしないらしいわよ。ご主人様の屋敷経由で、いくらでも国の情報なんて手に入るし、そもそも、ご主人様配下って事は、下手な同盟国よりも近しい存在だからね」
「それはそれで凄いな……」
ミオのどうでもいい捕捉。
「ルージュと一緒に行動している時点で、国内で目立たないと言うのは無理だろうし、あまり気にし過ぎないようにしよう」
「一応、皇族だもんね。そりゃあ、目立つわよね」
「一応……」
ミオの何気ない一言にダメージを受けるルージュ。
方針としては、「楽しむ」>>>「目立たない」だ。
目立たない事を意識しすぎて、折角の観光を楽しめなければ損だからな。
もし目立ったとしても、
と言う訳で最初の街到着。
街の名前は『常盤の街』。……赤は!?
国名に色の名が付いている以上、街の名前に色が入っていてもおかしくはない。
しかし、まさか国名と無関係な色とは思わなかった。
国境に近い街だけあって、それなりに大きい。
しっかりとした城壁に守られた数万人規模の街だ。
格が下の街だからと言って、繁栄していないと言う訳ではないようだ。
住民は人間が比較的多いが、獣人やハーフエルフなど、その他の種族もいる。
見た限り、種族による差別は多くなさそうだ。
俺達の馬車はVIP用の門へと向かう。
離れた場所に一般人用の門があるが、明らかに造りが違う。
「こ、この証明書は!?」
ミネルバが馬車の外で兵士の対応をしている最中に声が聞こえた。
何で、ミネルバがテンプレっぽいコトしてるんだろう……。
そして、やたらと低姿勢になった兵士に案内されて『常盤の街』に入る。
馬車を門近くにあるVIP用の預かり所に預け、ようやく俺達も外に出る。
「さて、早速観光だな」
「当然、私も仁様にお供します」
「ご主人様もマリアちゃんも、本当にブレないわね」
「仁君ですから……」
《ですからー!》
「流石にもう慣れましたわ。それはそれとして、食べ物が美味しいと良いのですけど」
《たのしみー!》
「こっちもブレないわね。まあ、私も真紅帝国の料理には興味あるけど」
ある意味、ミオもいつも通りと言えるだろう。
完全に観光モードになったメインパーティの面々である。
「私達は街の領主に挨拶をするので別行動だな」
「ここで失礼しますね。観光、楽しんでいってください」
ルージュとミネルバ、お付きの6人はこの街の領主に挨拶に行くらしい。
VIP証明書を使った以上、挨拶に行かない訳には行かないそうだ。
頻繁に忘れそうになるけど、ルージュって偉いんだよね。
「ああ、そうさせてもらうよ」
ルージュ達と別れ、俺達も観光に繰り出した。
「とりあえず、飯だな」
《ごはーん!》
「それを待っていましたわ!」
この街の事を知っている人もいないし、ヒントとなる情報が無いので、アルタのお勧めを聞く。頼んだぞ、アルタ。
A:お任せください。この街の全ての飲食店をマップより抽出し、料理の傾向、客数、安全、清潔感など15の項目からなる判定基準で選んだお勧めの店舗5件を表示いたします。
うん、いつも通り、アルタの仕事は完璧だな。
マップ上に表示されたアルタおススメ店舗を見て満足気に頷く。
「この街、と言うか、真紅帝国のメイン料理は中華料理っぽいわね」
「そうだな。そう言えば、今まであまり見かけなかったよな」
真紅帝国の料理の傾向、それは『中華料理』だった。
厳密に言えば、『日本でよく見かける中華料理を名乗るモノ』が多い。本場の人間がどう思っているかは知らない。
「これは腕が鳴るわね。ミオちゃん、前の世界では健康を考えて、濃い味が多い中華料理はほとんど食べなかった……作らなかったから、一般的な物しかレシピを知らないのよね。いい機会だから、しっかり覚えていくわね」
「お任せいたしますわ」
《がんばれー!》
この世界にいると忘れそうになるが、元々ミオは病弱だったそうだ。
ある程度健康になった後も、身体の事を考え、味の濃い料理は控えていたのだろう。
「今思い出したんだが、以前ルージュがチャイナドレスを着ていたな」
あれは王族の女性を集めたお茶会で、真紅帝国伝統のドレスと言ってチャイナドレスに似たドレスを着てきたことがある。
「もしかして勇者?」
「ああ、勇者だ」
「やっぱり」
大昔に勇者が伝えたとのことだが、『衣』に口を出しておいて、『食』に口を出していない訳がないよな。同一人物かは不明だが、真紅帝国には中華テイストがあるらしい。
ちなみに『住』、建物は一般的な西洋風の物が多いです。
「前も思ったが、あくまでも中華
「何となく……本場の雰囲気が無いですよね……」
「本場には行った事ないですけど、ご主人様とさくら様の言いたい事は分かりますね」
さくら、ミオも同じような感想を抱いているらしい。
「……何で、勇者は態々日本から召喚するのかしら?」
今までに召喚された勇者はほとんどが日本人だと思われる。
外国人が残したように見える軌跡が全くと言って良いほど無いからな。
そもそも、この世界の公用語、日本語だし……。
「何か理由があるのかもしれないな」
その理由は誰に聞けばいいのか不明だけどな。
女神に聞ければ聞きたいね。
「さて、今考えても仕方ない話はそろそろ終わりにして、夕食の話に戻そうか。ミオ、アルタのお勧めから一軒選んでくれ」
「はーい」
アルタチョイスからのミオチョイス。
こうして選ばれたお店がハズレだった事はない。有り得ない。
そうして入った一軒の中華料理屋。比較的高級な店なので、満員ではないようだ。
前に行った事のある中華街を思い出す。
「いらっしゃいアルねー」
シンプルなチャイナドレスで給仕をする女性の一言である。
「マジかー……」
ますますパチモン臭くなった。
折角の高級中華(風)料理店なのに……。
絶対に勇者のせいだ。しかも100%日本人である。
大丈夫、店員の口調で料理は不味くならない。
そう心を強く持った。
とりあえず、興味のある料理を片っ端から大皿で頼む。
幸い、お金には困っていないし、セラとドーラが居るので食べ残す心配も無い。
あまり褒められた行為ではないが、最悪の場合は<
「うん、美味いな」
モグモグと(マリアが)小皿に取り分けたチャーハンを食べて呟く。
同じく(マリアが)小皿に分けた焼売も美味い。
アルタ、ミオの選んだ店だけあって、当然のように料理は美味かった。
焼売や春巻、餃子も大皿で頼んだので、最低でも1つずつ以上は食べられる。気に入ったら多めに取り、足りなければ追加する。
「チャーハン大皿でおかわりですわー!」
《大盛でー!》
「毎度アルー(あの子、何を言っているんだろう?)」
特に特製の餡かけチャーハンが美味く、既におかわり2回目である。
大半はセラとドーラの胃袋の中だが……。
「私はもう満腹です……」
「ミオちゃんも一通り食べたからいいかな」
小食組のさくら、ミオは食後のデザートとして杏仁豆腐を食べている。
とことん、日本風の中華料理店である。
「マリア、ちゃんと食べているのか?」
「はい、合間を縫って食べています」
マリアは俺の分の料理を小皿に取り分ける作業に従事していた。
……俺が頼んだ訳じゃないからな。
そして、4回目のおかわりチャーハンが空になった頃。
「満足ですわ!」
《まんぷくー!デザートはべつばらー!》
満足したセラとドーラも杏仁豆腐を食べている。
「ちと食い過ぎたかな」
美味かったし、久しぶりの中華料理と言う事も有り、少々食べ過ぎたかもしれない。
「ミオちゃんもちょっと食べ過ぎたわ。でも、これで大体のレシピは把握できたわね」
「それじゃあ、屋敷でも食えるのか?」
「ええ、少なくとも、再現は出来るわ」
「よし。よくやったぞ、ミオ」
久しぶりの料理を楽しみ、ミオのレパートリーが増える。
勇者が調子に乗っているのはいつもの事で、多少問題もあるが、結果として得をしているので、あまり文句も言えなかったりする。
今更ですけど、ルージュって皇女と言わないですよね。
皇帝の娘ではなく、妹ですから。
元皇女、もしくは帝妹(王妹より)とするべきだったかもしれません。
今更過ぎて、修正する気にもなりませんが。