家畜伝染病「豚コレラ」が、国内では二十六年ぶりに岐阜県で発生してから、一年が経過した。発生は七府県に広がった。現場は追い詰められている。もはやワクチン接種をためらう時ではない。
目に見えない炎のように、豚コレラの感染拡大が止まらない。岐阜市を起点に一日最速四百二十メートルのペースで広がっているという。
消毒や洗浄を徹底し、“運び屋”とされる野生イノシシに、えさ型の経口ワクチンを散布、移動を阻む防護柵を設置するなど、可能な限りの対策は講じてきた。しかし、いまだ封じ込めには至っていない。先月九日には、最高レベルの防疫体制が敷かれていたはずの、愛知県農業総合試験場での感染が発表された。
殺処分は、計十三万頭にも上る。残された手段は、感染予防のワクチン接種。切り札だ。
国の防疫指針によると、ワクチンは平常時には使わないことになっている。だが、▽殺処分と埋却による封じ込めが間に合わないほどの同時多発▽感染経路不明の発生が広範囲にわたる▽野生イノシシ対策が不十分-のいずれかに当てはまる場合には、接種に踏み切るとされている。「現時点では、いずれの条件も満たしていない」というのが、農林水産省の見解だ。本当にそうなのか。
確かに、ワクチン接種に踏み切れば、デメリットは避けられない。国際獣疫事務局(OIE)の規約上、「清浄国」の格付け(現在は資格停止中)から外されることになり、日本からの輸出全体が制約される恐れが強い。
地域を限ってワクチンを打てば、それ以外の地域はOIEから「清浄」と認められる可能性は残るというものの、そこからの移動や出荷は制限される。
OIEの規定では、最初の発生から二年以内に感染が収束しない場合には、ワクチンを使わなくても「非清浄国」になる。一方、ワクチンを使っても、最終発生から三カ月間発生がなければ、清浄国復帰の道は開かれる。
「いつ来るか」「再開してもいいものか」-。未発生の地域も含め、養豚農家の不安は限界だ。
見た目は元気な生き物を殺して埋める-。炎暑の中、防護服に身を包んで殺処分や埋却作業に当たる現場の作業員らは、肉体的にも精神的にも疲れ切っている。
一年以内に収束できる確かな方法がないならば、切り札を切るべき時ではないのだろうか。
この記事を印刷する