日産の西川(さいかわ)広人社長が辞任を決めた。西川氏は不当な形で株価連動報酬を受け取っていた。ゴーン被告(前会長)時代の問題を見抜けず批判を受け続けていただけに、遅きに失した判断といえる。
問題の温床となったのは「ストック・アプリシエーション権」(SAR)という報酬制度だ。役員が自社株を保有した格好にして、あらかじめ決めた日の株価が上昇していれば差額をもらえる仕組みだ。
西川氏は行使日を株が上がった日に変えて本来より四千七百万円高い報酬を受け取っていた。報酬については事務局に任せ、日付変更の指示はしていないと弁明している。しかし、この説明で株主や社員らは納得するだろうか。
西川氏はゴーン体制で役員を務めていた。この間、権力がゴーン被告一人に集中し経営全体に弊害が出ていたことは否定できない。
元々、西川氏には独裁的な前体制を見過ごしてきた責任がある。さらに今回の問題発覚で、ゴーン体制終焉(しゅうえん)後も不正が見逃されてきた実態が浮き彫りになった。日産の企業統治は機能不全に陥っていると指摘せざるを得ない。
六月の日産の株主総会で、日本生命などは西川氏の再任に反対していた。日産は今年四~六月期の営業利益が前年同期比で約99%も減少した。収益悪化に報酬不正が加わった形で、株主による続投反対は当然といえるだろう。
日産には難題が山積している。仏ルノーとの資本関係見直しについては依然、見通しが立っていない。西川氏の後任探しが難航した場合、日産側の立場が弱まりルノー主導型の経営体制が再構築される可能性もある。
自動車業界全体は今、激変期を迎えている。急速な電気自動車(EV)化の動きや自動運転への対応だ。トヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)などライバルメーカーは、異なる業種を含む他企業との提携を加速させ、課題への準備を進めている。これに対し日産は出遅れ感が否めない。
自動車産業は裾野が広い。日産の経営判断は多くの関連企業の行く末を左右する。それは多くの人々の雇用や賃金に影響を及ぼすという意味でもある。
後任人事については社外取締役で構成する指名委員会が選任する。指名は急を要するが自浄作用が期待できない以上、現幹部からの起用は難しい。企業体質の刷新に向け、社内の若手や社外にも視野を広げるべきだろう。
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