●“人生の応援歌となる物語”を作り続けるスタジオに

――“スタジオイストリア”という社名は馬場さんが考えられたそうですが、社名の意味や込められた理想について教えてください。
馬場 スタジオを立ち上げる際に、“人生の応援歌となる物語を提供する”という企業理念を作りました。この理念を何よりも大事にしていく会社であるためには、必然的に物語を大事にしなければいけませんし、いままでも物語を大事にして、チームみんなで作品を作ってきました。スタジオ発足は完全なゼロからのスタートですが、そこはブレたくないと思いました。“イストリア”はギリシャ語で物語を表す単語で、“イストリア(物語)”を大事にするスタジオにかけて、“スタジオイストリア”と名付けました。

――現在発表されている“Project Prelude Rune”ですが、どういったゲームを目指しているのか教えてください。
馬場 まずは日本人が作るRPGという、大きな考えの軸があります。もちろん、海外は海外で多くのすばらしいRPGがありますが、日本人が得意な表現、たとえばビジュアルだけではなく、演出なども含めたアニメやマンガの表現は、日本ならではの強みにできるはずです。僕たち日本人が現在表現できるものは何なのかを突き詰め、日本のそうした文化をバックボーンとしたコンテンツ作りをして、それを“メイド・イン・ジャパン”として世界中にお届けしたいと考えています。

――まったくの新しい環境で、新規IPを創出していくことについて、プレッシャーを感じていますか? それともやりがいを感じていますか?
馬場 正直に言うと、楽しさ、そして不安、その両方があります。喜びと言うか、ワクワクと言うか、まったく新しい顔ぶれのスタッフと、いったいどんなゲームを作ることができるのだろう。お互いの経験やスキルを踏まえ、何を生み出すことができるのだろう。ゼロからのスタートですから、まったく先が見えないところから、ひとつずつ石垣を積んでいくような感じですよね。何もない場所に何かを作り上げるということについて、たまに夜ひとりで考えることがあるのですが、「エジプトのピラミッドは本当にスゴイな」と(笑)。いまは、ゲームのベースとなる土台を作っているのですが、紀元前の時代から、人間は途方もないことをしていたのだなぁと考えることがありますね。
 一方で、ゲームを作る場合、企業の方針や戦略が大前提になります。そうでないと開発予算はいただけませんよね。つまり、会社の戦略にのっとったコンテンツ作りが必要です。これはどのゲームメーカーも同じで、開発チームが好き勝手なことができるわけではありません。会社の戦略や方針と合致したうえで、コンテンツを具現化していくわけです。そういった当たり前の会社のルールで開発を行ってきましたが、スタジオイストリアという会社は、その判断はよくも悪くも私自身で判断しなければなりませんので、方針や戦略、そして開発と、二足のわらじを履いてまい進しております。

――いままでは、ゲームクリエイターとして活動されてきたわけですが、これからはそこに会社の代表としての顔が加わります。ある意味、相反する面があるわけですが、どのようにバランスを取っているのでしょうか?
馬場 たとえば、財務関係などはまったく経験がないので、いま一生懸命勉強している最中です。また、現在のスタッフは信頼に足る仲間ですので、まかせられることはまかせています。ゲームの開発に関しては、今回は1作目ですから、絵作りや遊び部分(戦闘、フィールドなど)について、方針書という、この新規IPで実現したい遊びと表現の枠組みを示したものを用意しています。迷ったり、困ったりしたらその方針書を読んで確認するようにしてもらい、もし、スタッフのほうで方針書と違うことをやりたい場合は、相談案件として提案の場を設け、その都度スタッフと協議して決めています。
 それにしても、最近は数字を見る時間が一日の中でも増えました。立ち上げたばかりの会社ですし、1作目ですから、予算面も必要以上に細かくキチンとチェックしています。1作目からいきなり「オーバーしました」というわけにはいきませんからね(笑)。1作目だからこそ、キチンとした成果を出して、実績を残すことが何よりも重要で、それで初めてグループからも認められると思っています。そうなれば、2作目の予算が増えるかもしれませんからね(笑)。

――馬場さんには、人材の発掘と育成もミッションになっていると思いますが、それについてはどのような方針ですか?
馬場 ゲーム業界の経験者はもちろんですが、今後の業界全体のために、それほど経験のない方も一部採用しています。“育成枠”のような感じでしょうか(笑)。基本的に人材募集は経験者が対象ですが、熱意があり、我々の理念に共感していただける方であれば、考慮させていただきます。また、長いスパンでは、次世代のクリエイターを育成する必要があります。それこそ、会社の顔となるようなスター・クリエイターの発掘・育成も、今後意識して取り組んでいきたいと思います。