第171話 天空城再建と予定
ついに、とうとう、ようやく、真紅帝国編です。
寄り道しません。本当です。章タイトルも「???」ではなく、最初から「真紅帝国編」にしています。
その日、ここ数日籠り切りだったミオから連絡を受けた。
「ご主人様、とうとう完成したわよ!」
「お、ようやく完成したのか。天空城ver2.0。すぐに行こう」
ミオには、『風災竜・テンペスト』の遺体と天空城の残骸をベースに、新しい天空城、天空城ver2.0の作成を頼んでいた。
意外と凝り性なところのあるミオは、思っていた以上に熱中してしまったようで、料理と食事以外で部屋を出てくることは無かった。
これは俺の勝手な想像なのだが、以前の天空城を創ったのは女神ではないだろうか?
だって、『テンペスト』を土に埋めて陸地を作るとか、普通に考えて当時の人達に出来る訳が無いから。
災竜の魂を亜空間に封じたのが女神なら、残った肉体を処理していても不自然ではない。
今回、そんな女神の所業を成し遂げたのは、ご存知俺の異能。
滅多に使っていない<
ぶっちゃけ、俺には物を作るセンスが無さすぎる上に、物が欲しければ他人に頼むため、使わなくなって久しい。
配下達は普通に使っているそうです。
「『ポータル』」
早速、俺達(食道楽のセラとドーラを除く)は天空城ver2.0へと転移した。
「これは見事なもんだ」
「まんま、ですね……」
俺とさくらが感嘆の声を出す。
ミオは以前の天空城から外観を大きく変え、俺の知っている天空の城にガッツリ近づけてきた。
以前のような平べったい陸地型ではなく、遠目で見れば卵のような縦方向の階層構造だ。
今は居住者がいないが、それらしい建物が並んでいたり、畑もあるようだ。希少な植物が植えられているんだろうな。
「いやー、苦労したわよ。何分、昔の話だから、記憶を引っ張り出すのが大変だったわね」
「ああ、そうか。転生しているから、俺達とはタイムラグがあるんだよな」
俺とさくらは転移だが、ミオは転生でこの世界に来ている。
この世界で生きた時間があるため、最低でも10年近く前の話になる。
「時間をかけた分、満足できる仕上がりになっているわよ。ああ、建造物部分は建造メイド達がやってくれました」
「出たな。建造メイド……」
時々話に出てくる建造メイド。
アドバンス商会の建物を一晩で建てたり、
A:マスターから大活躍と言われ、大変喜んでおります。
褒めてな……いや、褒めている。
褒めてはいるんだが、何と言うか、メイドの概念を真っ向から否定している感じが……。
はいそこ、今更とか言わない。
「ご主人様の城だって言ったら、凄い気合を入れていたわよ」
「むしろ、それで気合を入れない者は仁様の
「ようやく、ご主人様の拠点を作れるって喜んでいたわね。今のところ、カスタールもエステアも出来合いの屋敷だから……」
ああ、そうか。
建造メイドと言いつつ、俺の住む場所の建造には関わっていないんだ。
当然と言えば当然だよな。カスタールやエステアに俺が拠点を構えたのは、メイド軍団が今の規模になる遥か昔だからな。
そして、それ以降は屋敷を用意することも無くなった。
「いや、折角気合を入れて作ってもらって悪いが、俺はここに常駐する気は無いぞ」
この天空城は趣味以外の何物でもない。
時々遊びに来る別荘レベルであり、頻繁に使用する気は無い。
「それは理解しているみたいよ。それでも構わないからって。健気な子達ね」
「むしろ、申し訳なくなってくるな……」
まともに使う気もない物を全力で作らせたって事だろ?
A:マスターのお褒めの言葉があれば、いくらでも頑張れると申しています。
……後で、直接褒めに行こう。褒美もあった方が良いかな?
「建物は外観重視で中身はそこまで凝らなくていいって言ったんだけど……。この様子じゃ、頑張ったんでしょうね。私も中は見ていないから楽しみだわ」
と言う訳で、一番豪華な建物、ミオ曰く『俺の城』に入りました。
「豪華だな」
「豪華ね」
「豪華です……」
「仁様の格を考えればこれでも足りないと思いますが、出来は良い様で安心しました」
普通に王城でした。
後、マリアの要求はこれ以上らしい。
後日、サクヤ、カトレアを始めとした王族女性を呼んでみたのだが、大半が『あ、ウチの城負けてる』と感じたそうだ。
辛うじて、勇者が建造に関わったカスタールでギリギリ同格とのこと。
エステア王家は東と関係があるが、王城には関わっていなかったようで敗北。
イズモ和国はそもそも王城の修復を建造メイドがしたという過去がある。建造メイドの最高傑作に勝てる道理はない。
「気合を入れて作ってもらって悪いが、むしろ落ち着かない」
「ここが落ち着くのは、本物の王様だけでしょうよ」
俺の人生設計に『王になる』はない。
王様でもないのに王城で玉座に座る趣味はない。
住むだけなら、普通の屋敷で良いのよ?
その後、丁度お昼時と言う事もあり、王城で昼食をとりつつ今後の話をすることにした。
食道楽に出かけていたドーラとセラも合流し、地災竜の『姫巫女』、ユリシーズも呼んだ。
「セラとドーラは今まで食べ歩きをしていたんだよな?昼飯も食うのか?」
当然のように食事を要求する2人を見て尋ねる。
「お昼ご飯は別腹ですわ」
《べつばらー》
「その理屈はおかしい」
メインとなる昼食が別腹なら、胃が何個必要になると言うのだ。
……ドーラ、と言うか、
A:1つです。
良かった。
何が良かったのか分からないが、良かった。
「それで仁さん、私はどうして呼ばれたのかしら?もちろん、仁さんから食事のお誘いを受けられたのはとても嬉しいのだけど、意味も無くただ食事に呼んだだけ、と言う訳じゃないわよね?ああ、愛の告白なら、いつでも受け付けているから安心してね?」
ユリシーズが微笑みながら聞いてくる。
後半の冗談は、冗談に聞こえるが全く冗談ではない。目が本気だ。
「悪いが、愛の告白じゃない。天空城が完成したし、そろそろエルフ達の扱いを決めておこうと思ってな。ユリシーズにも話を聞こうと思ったんだ」
「確か、今は教育中なのよね?」
「ああ」
天空城に住んでいたエルフ約300名は、迷宮の50層台にある居住区で調教した。
今回は珍しく調教で正しい。
エルフ達のほとんどは地上の常識を知らず、タチの悪い事に選民的な思想を持っていた。
自分達純粋なエルフが偉いと思い、人間を含め他の種族やハーフエルフを下に見ていた。
一応、本格的な選民思想持ちは天空城落下の際に死んでいるが、残った者も多少の選民思想はあった。
対応したメイドは俺の前には出せないと判断したそうだ。
よって、遠慮容赦なく調教し、思想レベルで書き換えてやることにした。
ミオが天空城を作っている間に調教は完了し、エルフは従順な畜生になっているらしい。
そして、一旦壊し、従順にした後でゆっくりと常識や立ち振る舞いなどを教育している。
記憶力が良いので、覚えは悪くないとのこと。
「まずはユリシーズに質問だ。ユリシーズの親類である地の一族が俺の配下に加わった訳だが、ユリシーズはどうしたい?思うところがあれば、ユリシーズの意見を優先するぞ」
俺はユリシーズに尋ねる。
「エルフの寿命を考えれば、私の封印された時代を生きていた者はいないわ。祖先への恨みを子孫で晴らしたいとは思っていないから、私から何かを要求することは無いわよ。……ああ、もちろん、今も生きているハイエルフのギレッドだけは別よ。絶対に許さないわ」
地の一族、ハイエルフのギレッド。
ユリシーズを地下に封印し、ユリアの記憶を奪い、封印しようとした男だ。
今のところ、ユリシーズ、ユリアの2名が1発ずつ殴る事が確定している。レガリア獣人国のシャロン、ファロンにも1発ずつ殴らせてあげよう。
だから、生け捕りが望ましい相手だ。
「すまんな。天空城に現れた時点で捕まえておけばよかったよ」
ギレッド登場からユリエラ死亡までのスパンが短すぎて、ギレッドの捕縛が頭から抜けていた。
詳細を探ろうにも、直接的な関わりがあるエルフはおらず、唯一関わっていたことが確定しているユリエラは要介護老人状態だ。
俺にしては珍しく、『縁がない』。
「気にしないでいいわ。でも、いずれは絶対にその罪を償わせるから」
「全面的に協力しよう」
「お願いするわね」
今度見かけたら、とりあえず捕まえる。
「それじゃあ、地の一族も火、風と同じ扱いをするとして、今後の話をしよう。まず、エルフ達に今後、どこに住まわせるか、何をさせるか、と言う話だ」
「天空城じゃないんですか……?」
「そうとも限らないんだよ」
さくらの問いに対し、首を横に振る。
エルフ達は今まで天空城に住み、基本的に農業をして生活していた。
しかし、今の天空城はエルフ達の管理下にはなく、完全に俺の所有物だ。
今までエルフ達が住んでいたからと言って、今後もエルフ達を住まわせなければいけないと言う理由はない。少なくとも、明確なメリットが無ければ。
「そもそもの話、天空城の扱いも決めていないからな」
「ノリで作ったは良いものの、『どう使うか?』を全く考えていないからね」
「ちょっと、衝動的に動き過ぎたな。その点は反省しよう」
「そうねー」
俺とミオは天空の城と言うだけで興奮してしまい、後の事をほとんど考えていなかった。
「使う予定がないなら、いっそ<
「ホント勿体ないわ。でも、今のところ植物育てるくらいしか使えないのよね」
「それも迷宮で代用できるんだよな」
天空城ver1.0において、地上では絶滅してしまった希少植物が育てられていた。
再建した天空城ver2.0にも畑は有るので、引き続き育てる事も可能だ。しかし、天空城でなければ育てられない植物と言う訳でもなく、既にメイド達が迷宮で栽培を始めている。
迷宮内の環境設定は自由度が高く、育てられない植物はそう多くは無いはずだ。
「考えれば考える程、天空城の存在意義が疑問になるな」
上空に重量物を置くと言うのは、それだけで重大なリスクだ。
そして、天空城でしか出来ない事と言うモノが皆無。
つまり、冒す必要が皆無のリスクを冒すことになる。それは好ましくない。
「残念だが、天空城の放置は出来そうにないな。使わない時は<
「まるで簡易テントか何かみたいな扱いですわね。スケールは比べ物になりませんけど」
「まあ、似たようなもんだろ」
普段は仕舞っておけて、必要な時に軽微な手間で泊まれる。
うん、似てる似てる。
こうして、ミオ渾身の力作、天空城ver2.0は<
「残念だけど仕方ないわね。まあ、作るのは楽しかったからいいかな。それに、全く使わない訳でもないんでしょ?」
「ああ、機会があれば使うぞ。出来は良いんだからな。使わなければ勿体ない」
大規模なパーティを開くときとかに使おう。
屋敷、迷宮に続く第3の選択肢として。……屋敷以外が普通じゃない件は放置!
さて、大きく話が逸れたが、元はエルフの処遇についてだ。
「話を戻そう。天空城は仕舞うことになったから、エルフは地上で暮らさせるしかないな」
「そう言えば、私は呼ばれたけど、他のエルフ、当事者達は呼ばなくて良かったの?」
ここにはユリシーズは呼んだが、他のエルフは呼んでいない。
……あ、給仕メイドの中に居るエルフは除くよ。天空城のエルフがいないんだよ。
「呼ぶつもりは無い。現時点で天空城のエルフにそこまでの価値を感じないから」
「辛辣ですね……」
「まあ、友好的な相手でもなかったですし、ご主人様の中で価値が低ければ、扱いはこうなりますよね」
「ある意味、エルディアの国民に対する感情に近いかな」
ただただ興味がなく、扱いを良くしようとも思えない、といった感情だ。
それに、調教後のエルフに意見を求めて、有用な意見が出るとも思えない。
「じゃあ、どうして私は呼んだのかしら?さっきの質問をする為?」
「それも大きいが、エルフに出来ることを聞こうと思ったんだ。エルフ達に価値を感じていなくても、人数だけはいるからな。あれだけのエルフを使えば、出来る事もあるかもしれないだろ?」
今回、メイド達もエルフの扱いには困っていた。
正直に言って、エルフ達のスペックが低すぎるのだ。
天空城のエルフ達は狩りもしないし、農業も魔法で済ませている為、多少の魔法スキルレベルがあるだけ。俺の配下として必要な技能が全くない。
加えて、調教の結果、思考能力が低下している為、更に役に立たなくなっている。
メイドや執事にする基準を満たせそうにないらしい。
興味はない。興味はないが、仮にも俺の指示で配下にした連中だ。
俺も何かアイデアを出した方が良いと思ったのだ。
「ユリシーズかスズか悩んだけど、因縁のあるユリシーズに聞くことにしたって訳だ」
「それは素直に嬉しいわ」
一応補足、スズは
頭の『ユリ』が消えたせいで、特徴が消えた感はある。
「それで、何か思いつくことはあるか?」
「そうね……。見た目だけは良いし、夜のお仕事でもさせたらどうかしら?」
「初っ端からブッ込んで来たなー……」
ハーフエルフとかには、割と多いらしいけどね。
経験と見た目が重要なシゴトだから。
「却下だ。アドバンス商会には後ろ暗い商売はさせない」
奴隷商もやらせていないくらいだからな。
……奴隷商をやらせると、どこまでやるのか分からなくて怖いんだよ。
「そうなの?それならもう私に思いつくことは無いわね」
「諦め早いな!」
「だって、話を聞く限り、私の時代から何も変わっていないんだもの。選民思想で、偉そうにしているけど、実際は大して使えない連中。仁さんも考えるだけ無駄だと思うわよ?」
ユリシーズは自分の一族を含め、災竜の封印を守護する一族をまるで評価していない。
「……情けない事実だけれど、『姫巫女』の一族の目的は生き残り、子孫を残す事。災竜の封印を絶やさない為、永遠に続くことなのよ。子供を残し、ハイエルフなら『姫巫女』にするだけの簡単な仕事。個々の資質なんて、何の意味も無かったわ。地上で暮らしていた頃でもそれなのに、天空城に住み、外敵も無く安穏と暮らしていたエルフに出来る事なんて、ある訳ないでしょう?」
天空城のエルフのスペックの低さ、それは高める理由が無かったからだ。
「……ユリ……違う、スズの奴は無暗に鍛えていたみたいだが?」
生来の物とは思えない、歴戦の戦士っぽいスキルを持っていたよ。
「火の『姫巫女』ね。彼女は例外よ。私も彼女と話をしたけど、彼女は『生き残る』と言う目的の為、自らを鍛え、簡単には死なないようになると言う道を選んだの」
「思い切ったこと考えるな。エルフだから、体力的に恵まれている訳でもないだろうに」
強くなれば、死に難くなる。それは真理だ。
しかし、長い寿命があるとはいえ、簡単に選べる道でもないだろう。
いや、明確に結果を残しているのだが……。
「ある意味、火の『姫巫女』にはその下地があったのよ。彼女の持つ<業火の意思>は戦闘用。その力を使えば、強くなるのは容易だったそうよ。ただ、強くなろうと考える『姫巫女』、いえ、封印の一族の者は他に1人もいなかったみたいだけど。だからこそ、天空城のエルフの中に、戦闘能力の高い者はいなかったでしょ?」
『姫巫女』の中でも例外的に強さを求めたスズ。
他のエルフ達は自らを鍛えるような事をしていない。
……冒険者組に入れる事を躊躇する弱さだからな。
「本当に、出来ることがないんだな……」
「言ったでしょ?時間の無駄だって。……夜のお仕事も、
メイド達よ、済まない。
どうやら、ちょっとしたアイデアでどうにかなる範囲にないようだ。
俺のモットーは適材適所。じゃあ、適所が無い者はどうすればいいのだろうか?
今後の課題である。
後で聞いたのだが、メイド達の決定により、天空城エルフ達の配属は一旦見送られ、一から徹底的に鍛え上げる事にしたそうだ。
調教済みで命令に忠実に従うので、身体を壊さないギリギリで訓練を続けさせた。
一月ほどで何とか使える程度まで引き上げることに成功。正直言って遅いらしい。
まだ重要な事をさせるのは不安なので、しばらくは裏方の仕事をさせつつ、訓練を続けることになった。
Q:適所が無い者はどうすればいいか?
A:とりあえず徹底的に鍛える。それでもダメならさらに鍛える。
と言う事だ。
食後、新たに人を呼び、王城にある会議室に集まった。
「天空城の災竜により、女神やこの世界の話が少し聞けた。この世界において重要な話は不自然なまでに秘匿され、普通にしていてもアクセスできないらしい。そろそろ、後回しは止める頃合いかもしれない」
「ご主人様、今度は何をするつもりなの?また何か変な事ぴっ!」
威圧でミオを黙らせる。
「俺達は真紅帝国、そしてその先にあるエルフの里に向かう」
「真紅帝国の事など、すっかり忘れていたと思っていたが、覚えていたのだな」
この会議室には、メインメンバー、真紅帝国の皇族ルージュと付き人のミネルバ、そして……。
「それで真紅帝国、いえ、皇帝スカーレットに縁のある私達をお呼びになったのですね」
「納得した」
真紅帝国皇帝、スカーレット・クリムゾンに親友、あるいは両親を殺された月夜、常夜の金狐母娘を呼んでいる。
「以前、縁がないから行かないと言っていたが、その後、真紅帝国との縁が出来たのか?」
「ああ、首脳会議で真紅帝国、スカーレットと縁ができた。女神の件でエルフの里に行きたい理由も出来た。むしろ、今しかない」
以前、ルージュには真紅帝国に行かない理由として、タイミング悪く数回行かない状況が続いたので、『縁がないから行かない』と答えた。
しかし、皇帝本人との縁があり、目的地の1つがある以上、行かない理由は無くなったと言って良いだろう。
「そこで、真紅帝国への入り方、同行者を決めるために皆に集まってもらった訳だ。ちなみに、入り方と言うのは、どんな立場で入るかと言う事だ。『女王騎士ジーン』、『冒険者仁』、あるいは『ルージュの同行者』が候補だな」
「ああ、私を案内役として連れて行くと言う話だな。……大分昔に聞いた気がする」
ルージュも思い出したようで納得している。
その話をしてから、本当に時間が経っているから、忘れている可能性すらあった。
「真紅帝国に行く1番の目的はエステアへ仕掛ける予定の戦争を止める事だからな。『ルージュの同行者』がトラブル回避にもなるし、スムーズに行くだろうな」
スカーレットを1度見た感想としては、真面そうに見えた。
しかし、エステアへ戦争を仕掛ける予定だとルージュは言う。
事実の確認、事実だった場合、止めさせることが目的だ。
目的がある以上、道中のトラブルを楽しむ予定はない。
真紅帝国におけるフリーパス、
「最悪、兄を排除した後、そのまま私を担ぎ上げれば良い訳だからな」
「それもある」
どうしても説得できなければ、排除することも視野に入れている。
その後はルージュに皇帝(傀儡)になってもらうので、あらゆる面で同行してもらった方が都合良い。
「と言う訳で、ルージュ達には今度里帰りしてもらう」
「物騒な里帰りもあったものだ」
「文句があるのか?」
物騒であることは否定しないけど……。
「いや、無い。エステアには世話になっているし、
「なら良し。それじゃあ、俺達は道中の護衛と言う立場で同行させてもらおう」
「心強い護衛だな……」
「ええ、ルージュ様。これ以上ないレベルで安心ですね」
ルージュが苦笑し、ミネルバが同意する。
「さて、次は同行者の話だ」
今度は金狐母娘に向き合う。
「月夜、常夜、以前に聞いてから時間が経ったからもう1度聞くが、真紅帝国の皇帝、スカーレット・クリムゾンに対して報復をする意思はあるか?心変わりをしたと言うのなら、この場で言ってくれ。今回の件に同行しても良いからな」
10年程前、月夜の親友、常夜の両親がスカーレットに殺された。
2人が従魔になった時、スカーレットへの報復は考えない事にすると言っていた。
殺された者達がスカーレットへの報復を望んでいなかったからだ。
時間が経った事もあり、心変わりの可能性があったため、念のため集まってもらい、話を聞こうと考えた。
「貴方様の旅に同行できると言うのは魅力的ではありますが、スカーレットへの報復は考えていません。ご安心ください」
「月夜も考えていない」
2人とも迷う事なく言い切った。
我慢しているとか、そう言った雰囲気は一切ない。
「本当にいいんだな?」
「はい」
「うん」
ここまで確認すれば間違いないだろう。
「分かった。2人が良いと言うのなら、俺からはこれ以上言わない」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「ありがと」
「気にするな」
デリケートな問題だし、過剰に干渉するのは止めておきたい。
2人が良いと言うのなら、俺はその意思を尊重し、余計な事はしない方が良いだろう。
「兄が10年前に常夜の両親を殺したと言う話だったな」
そこで、ルージュが話に入って来た。
「ええ、母親の方は、私の親友でもありました」
「ふむ、丁度その頃、兄は荒れていた時期だったな。確かもう1人の兄、ヴァーミリオンの死が原因だったはずだ」
「何その情報、初耳なんだけど?」
今更だけど、ルージュからスカーレットの情報を熱心に集めていなかった。
ルージュとスカーレットには他にも兄弟がいたのか。
「言っていなかったか?聞かれていなければ、言わなかったかもしれないな」
「……ルージュだし、仕方ないか。続けろ」
微妙に俺の中でルージュの評価は低いです。
「い、言った方が良かったのか……」
「それは話を聞いてから分かることだな。大事な情報だったら、折檻だ」
「ひっ……」
あ、少し漏らした。
「ふ、二人の兄、スカーレット、ヴァーミリオンは双子の兄弟で、互いをレット、リオンと呼び合う仲だった。スカーレットは天才型、ヴァーミリオンは努力型で、互いに切磋琢磨していたそうだ」
「『そうだ』と言うのは?」
「私も聞いた話なのだ。私が物心つく頃には、2人が競い合う事はほとんどなかった。スカーレットがヴァーミリオンを大きく離していたからな。皇帝の座もスカーレットでほぼ決まりだったらしい」
そう言えば、ルージュとスカーレット、それなりに年が離れているんだよな。
むしろ、スカーレットの娘に年齢が近いくらいだ。
「ヴァーミリオンは努力型とは言え、才能のような物はほとんど感じられなかった。マイナスからのスタートを、努力で出来るだけ埋めようとしているようだったな」
「それは、スキルポイントを得られていないと言う事か?」
「今考えれば、そう言う事なのだろう。ヴァーミリオンはスキルポイントを得られない体質だったのだろう。ある意味、仁様に似ているとも言えるな」
俺みたいに完全な0と言う訳ではないだろうが、スキルポイントを得難い、不利な人間も世の中には居る。
「……そうだ。話していたら思い出したことがある。アレは確か、ヴァーミリオンが死ぬ少し前だったな。スカーレットが『リオンの呪いを解ける』と言っていたのだ。詳しい事は聞かなかったが、それから少ししてヴァーミリオンが死んだ」
かなり気になる話だな。呪い?
「死因は何だったんだ?」
「済まない。そこまでは聞いていない。外部には病死と発表したようだが……」
「王族の病死程アテにならない情報も無いだろうよ」
困った時には王族って『病死』するモノだろ?
「そうだな。一応、予想出来る事はある」
「聞こうか」
「兄が死んだと聞いた翌日、城の一部が大きく壊れていたのだ。今ならわかるが、アレは戦いの痕跡だった」
「何かと戦い、殺された、と言う事か」
スカーレットとヴァーミリオンが戦った可能性も0ではないが。
「それからしばらく、スカーレットは荒れていた。あちこちに出かけ、魔物を狩っていたと言う話は聞いたな」
「そのタイミング、ですね……」
月夜が目を伏せて呟いた。
「ああ、そうだろうな。そして、丁度10年程前、兄はボロボロになって帰って来た。私も出迎えてビックリしたくらいだ。それ以降兄は落ち着き、少し後に皇帝になった」
ルージュは伺うように俺の方を見る。
「どうだろうか?私に何か処分が下るのか?」
折檻が気になって仕方がない様子。
「いや、聞けて良かったとは思うが、何かが変わるような話ではないから、折檻は無しだ」
「はぁぁぁぁぁ……。良かった……」
心の底から安堵のため息を吐かれた。
「1つ気になったことがあるのですが、よろしいですか?」
そこでマリアが挙手をした。
「どうした?マリアがこういう場で発言するのは珍しいな」
俺が話している時、大抵マリアは聞きに徹する。
「はい、少し気になる事がありまして。……ルージュさんの兄、ヴァーミリオンさんですが、もしかして、<勇者>のスキルを持っていたのではないでしょうか?」
「……才能が無いのは<封印>されていたからか」
「あくまで、推測ですが……」
マリアに言われ、少し情報を整理してみると、<勇者>スキルを持っていたと考えると腑に落ちる事が多い。
<封印>により、スキルポイントを得る事は出来ないが、それを除けば優れた資質を持っている。スカーレットの言う『呪い』と言うのもピッタリだ。
「可能性はあるな」
「ちょっと待って。ヴァーミリオンさんは人間よね?」
「ああ、人間だ」
ミオの問いにルージュが答える。
「『人間の勇者』はシンシアちゃんよ。シンシアちゃんは11歳。ヴァーミリオンさんが死んだのは?」
「確か12年前だな」
「まさか<勇者>スキルって持ち主が死ぬと、同じ種族の他人に移るの!?」
<勇者>、まさかの寄生属性付きスキルだった。
「せめて継承って言ってあげて!」
真紅帝国編は嘘じゃありませんが、今話で出発するとは言っていません。
次回、最初から国境スタートです。