突き押しで攻めまくる貴景勝が戻ってきた。同じ突っ張りを武器とする大栄翔との真っ向勝負で、鼻血を出してもひるまない。靱帯(じんたい)を痛め、2場所連続休場の原因となった右膝に力を込め、いなしに踏ん張る恐怖感も乗り越えた。激しい攻防の末、はたき込んで夏場所4日目の御嶽海戦以来、116日ぶりの白星。10勝以上が条件の大関返り咲きへ、最高の形で滑り出した。
「自分の仕事場に帰ってきた。後悔のない相撲をと思っていたけど、負ける覚悟もしていた。4カ月ぶりで簡単にはいかない。相手も強い」。手立てを尽くして、揺れる心を奮い立たせた。場所前に着けたり外したり、試行錯誤を続けていた患部へのテーピングはなし。万全だと自らに言い聞かせた。
さらに、昨年九州場所の初優勝時に着けていた験の良い紫色の締め込みを、呼び戻した。「大関をつかもうとしていた自分を思い出そうとした。ただ毎日、必死だった昔の自分があるから、今の自分がある」。初心に帰って、ただ攻めて心身がかみ合った。それでも、土俵上では顔色一つ変えなかった。「私情や感情は闘いに必要ない。相手に向かっていくだけ」と闘志はひた隠し、白星を積み重ねていく。(志村拓)