心優しきバッテリーは二兎(にと)を追い、逃がした。
「試合後に大野さんとも話したんですが、無四球でいってたので…。僅差なら絶対にボール要求していたと思います」
受けた加藤が振り返ったソトへの1球。完封したい。なおかつ無四球で終えたい。2ボール1ストライクからのツーシームが甘く入ったのにはそんな背景がある。
「正直、プレッシャーはありました」。加藤は言った。5連勝中4試合は大野奨が先発マスク。チームが最後に負けた1日のヤクルト戦(ナゴヤドーム)は大野雄-加藤のバッテリーだった。1-2の7回。低めへの球が股間を抜け、3点目が入った。記録は暴投だが、誰のミスかは加藤自身がわかっていた。それなのに、試合後の大野雄はこうコメントしていた。
「あの球以外はしっかり止めてくれていた。次は止めてくれると思います」。取材の前に愚痴も恨み言も飲み干した。大野雄とは、こういう男なのだ。傲岸(ごうがん)不遜な人間なら、もっと勝っていることだろう。投手にこんなことを言わせ、奮い立たねば捕手ではない。
「あの1点で決まったのに…。投手の信頼を得たかったら、僕が止めないと。そうでないと、低めには投げられなくなりますから」
6日にノーヒットノーランをやったソフトバンクの千賀は「僕のアホみたいなフォークを拓也は全部止めてくれる」と、真っ先に甲斐に感謝した。最後の1球を受けた甲斐は、千賀よりも喜び、抱きついていた。ともに泣き、ともに笑う。バッテリーのあるべき姿を見た思いがした。
7回の追加点は加藤の中前打から始まった。この1点があったから、完封に挑めた。「いや、今日の大野さんは球が良すぎたんで」。加藤は笑顔でこう言った。投手が捕手を育て、捕手が投手をもり立てる。完封を逃したのも、このバッテリーが未完成だからと思えばいい。