第170話 尋問と真実の一欠片
11章終わりです。徐々に一章当たりの話数が減っています。
ピークは第3章の迷宮編。あれは疲れました。そして一番筆が乗っていました。
アルタによると、結晶の中の幼女は仮死状態だそうだ。
そして、結晶を割ればほぼ同時に目覚めるとの事。
結晶自体はそれほど頑丈ではなく、ハンマーで叩けば割れる程度のモノだ。
ちなみに、俺が本気を出してハンマーを振るえば、大抵の物は叩き割れる。中身は死ぬ。
なお、災竜にステータスはないが、幼女にステータスはあった。
こんな感じ。
名前:-
LV1
性別:女
年齢:65535
種族:人間(
スキル:<疾風の精神LV->
称号:災竜の
名前は無いし、災竜の時にあった称号も無くなっている。
LVも初期値にしか見えないし、ステータスはレベル相応に低い。
後、年齢なんだけど、どこかで見た事のあるような値だな。何だっけ?
ユリエラから失われたユニークスキルである<疾風の精神>を持っていた。
ユリエラが死んだ時、『風災竜・テンペスト』に移ったのか?それが更にこちらに移った?
「危険はないと思うから、起こして話を聞いてみたいと考えている。……違うな、起こして話を聞く。無理矢理にでも、だな」
相手が幼女の姿だろうが、一切の容赦はない。
条件があるのでそもそも使えないが、念のため転移スキルである<疾風の精神>を無効化しておく。
「おお!ご主人様がいつになく強気ね!」
「仁君が強硬な姿勢を見せるのは珍しいですね……。何か理由でもあるんですか……?」
「勿論ある。……そろそろ、情報を秘匿されるのが面倒になって来たんだ」
今まで、ある種の情報は手に入らないと言う状況がずっと続いていた。
具体的には女神に関する情報だ。これは、アルタであろうとも手に入らない情報であり、長く生きている最終試練とか、女神の作った『灰色の世界』の門番も知らなかった。
意図的に情報を隠蔽している疑惑もある。
どうしても女神について知りたい訳ではない。
小出しでも情報が得られていれば、それほど興味も無かっただろうが、ここまで徹底して隠蔽されていると、逆に知りたくなってくる。
そして、これは多分、数少ないチャンスだ。
恐らく、災竜は女神と関連がある。
災竜との対話が可能なら、女神に関する情報が集められるかもしれない。
ある意味、倒されるのが仕事のような最終試練と違い、災竜は倒される事を考えておらず、情報の隠蔽がされていない可能性があるからだ。
「言われてみれば、不自然なまでに女神に関する情報が得られないですよね……」
「意図的と考えた方が自然だろうな」
俺が説明を終えると、さくらが納得したように頷いた。
「念入りに隠すからご主人様の興味を引いちゃったのね。ご愁傷さまだわ」
「まるで、ご主人様の興味を引くのが不幸みたいな言い草ですわ」
「え?ご主人様と関わって、平穏無事に済む訳が無いじゃない?」
「否定は出来ませんわね……」
そこは頑張って否定して欲しかったな。
頑張らなければ否定できない時点でお察しなのだが……。
「折角の機会だから、この幼女には洗い浚い喋ってもらう。拒絶するなら強硬的な手段も辞さない」
まず、○○を××して、△△を□□する。
その後、☆☆を◇◇すれば、▽▽となるだろう。
「それじゃあ、早速結晶を壊すか」
「仁様、その役目、私にお任せください」
「良いだろう。マリア、中身に傷をつけるなよ?」
「はい、承知いたしました。はっ」
マリアは剣を抜き、一瞬で結晶を粉々に切り裂いた。
支えが無くなり、倒れ込む幼女。
-ゴチン!-
幼女、後頭部から逝った。
幼女、目を見開く。
「ぬおぉぉぉぉぉ!!!うごぁぁぁぁぁ!!!」
《いたそー……》
ゴロゴロと転げ回りながら悶え苦しむ幼女。本気で痛かったようだ。
相手のスタンスが分からない為、態々『ヒール』をかける様な真似はせず、傍観する。
「うぅ、痛いよぅ……。絶対、コブになるって……」
しばらくすると幼女は転げ回るのを止め、涙目になって頭を擦る。
「…………ぁ」
そして、災竜と同じ翡翠の瞳が俺を捉える。
すぐさま幼女は手を胸の前で組み、精一杯の笑顔を作った。
なお、少し頬が引きつっている。
「殺さないで!何でもするから!」
災いの神と言われている存在の
目を覚まして最初にしたことが『転げ回る』で、その次にしたことが『媚びを売っての命乞い』。
もはや、完全にギャグキャラである。
さて、それでは尋問タイムを始めようとしよう。
「お前は、俺と戦っていた『風災竜・テンペスト』で間違いないな?」
「え?あ、うん。なすすべも無かったアレを戦ったと言うのなら、その通りよ」
少なくとも、死ぬ間際の記憶はあるようだ。
「今から、お前にはいくつかの質問をする。正直に答えるのなら、生き残る可能性を与えてやる。嘘を付いたり、敵意を見せたら、その保証は出来ない」
「わ、分かったわ!何でも聞いて!」
余談だが、態々脅して話を聞いているのは、この幼女には<奴隷術>や<魔物調教>が効かなかったからである。
一応、『円滑なコミュニケーション』の為に試したのだが、駄目だったのだ。
「じゃあ、最初の質問だ。お前のその姿は何だ?何の意味があって、意識を移してその姿になった?」
「え?それは死にたくないからよ。貴方に殺されると思ったから、意識だけでも逃がすためにこの身体を作ったの。無抵抗を示すために、力はほとんど残さなかったの。簡単に死ぬから、殴らないで下さい」
今度は土下座で懇願してくる。
つまり、脱出ポッドみたいな役割だったのか。
弱いのは脅威と思われたくなかったから。俺を見て最初に命乞いをしたのも、生存率を上げる為。……徹底しているな。
「次の質問だ。災竜だった時の記憶はあるのか?欠損はあるか?」
「災竜の記憶は全て残っているわ。ただ、亜空間で暴れていた時は変化が無さすぎて細かい事まで覚えてないかも」
「それは良かった。もし、記憶が無いと言われていたら、お前の価値が一気に下がるところだった。命の保証も無くなっていた可能性すらあったな」
「ひいっ!」
うむ、幼女が滅茶苦茶ビビっている。
「俺が聞きたいのは女神についてだ。その辺の知識はあるのか?……と言うか、何でお前にはそこまでの意識があるんだ?他の災竜にもあるのか?」
「じゅ、順番に答えるわね。女神に関する知識はあるわ。私が産まれた時に色々な知識が流れ込んできたし、彼女が私達に話しかけてきたことも覚えているから」
良し。とりあえず、一番重要な情報は持ってそうだ。
「意識がはっきりしたのはここ1年程前くらいからかな。それまでは自我と呼べるほどの物は無かったと思う。だから、他の災竜については分からないわ」
「1年前か……」
「仁様、ユリアさんが行方不明になったのと同じ時期ではないでしょうか?」
マリアの言う通り、ユリアの行方不明、記憶喪失となった時期と重なる。
他に災竜関係で何かあったと言う事は聞いていない。
「……もしかして、封印水晶の暴走が何か影響したのか?」
当時、ユリアは『風災竜・テンペスト』の人柱ではなかったので、『テンペスト』と直接的な繋がりは無かったはずだ。
しかし、ギレッドの作った封印水晶が『テンペスト』に何か働きかけていた可能性はある。
そして、封印水晶の暴走の際、『テンペスト』に変化を与えたのかもしれない。
「あるいは、ユリアの記憶・意識が『テンペスト』に流れ込んだとか? ……お前、災竜以外の記憶があったりするか?」
「えっと、ええ、あるわね。災竜以外の記憶、ハイエルフの少女の記憶が少しだけ。こっちは全て完璧と言う訳ではなく、断片的なものだけかな……」
「当たりか。……既に他に流れているとなると、ユリアの記憶を戻すのは難しそうだな」
ユリアが忘れただけならともかく、他に流出しており、しかもそれで全てではないとなると、記憶の回収や復元は難しそうだ。
可能性が0じゃないなら、試してやりたいけどな。
A:試します。
アルタが頑張ってくれるそうです。
「とりあえず、意識と記憶をコイツから抜き出す方法を考えるのも有りだな」
「ひい!ひぃぃ!?」
詳しい事が分からずとも、自分に危機が迫っている事を理解した幼女が怯える。
「何か、ご主人様その子に当たりが強いわね」
「配下じゃありませんし、どちらかと言えば敵だからじゃないですの?元々敵でも、配下になったらその後は比較的優しいですし……」
「! は、配下になる!何でも言う事を聞くわ!忠誠を誓うから、殺さないで!」
ミオとセラの会話に光明を見出した幼女が、再びの土下座で懇願する。
奴隷や従魔には出来ないが、<
さくらも俺の奴隷ではなく、<
ところで、この幼女は<
A:問題ありません。効果対象として配下に出来ます。
「本当に何でもするのか?」
「す、するわ!死ねと言う命令以外なら、何でも聞くから!」
嘘ではなさそうだ。
『円滑なコミュニケーション』の為にも配下にしておいていいだろう。
「そこまで言うのなら、俺の配下にしてやる。指を出せ」
「つ、詰めるの!?」
怯えながらも指を出してくる幼女。
「違う、そうじゃない」
何故、『指を出せ』の命令から詰めると言う発想が出てくる。
そして、死ぬよりはマシと受け入れるのも止めろ。
無事、指切りをして幼女を配下にした。
ある意味、指は切っているが……。
「さて、他人なら名無しでもいいが、配下にした以上は名前が必要だ。何か名前はあるか?」
「えっと、『テンペスト』以外はなかったと思う」
元の災竜として扱わないのなら、『テンペスト』をそのまま使うのは無しだ。
「そうだな。それなら、『テンペスト』から取って『ぺス』だ。今日からお前はペスだ!」
「犬の名前じゃん!」
ミオの素早いツッコミ!
「もしくは『ペスト』」
「病原菌の名前じゃん!」
「あるいは『テスト』、『テント』」
「もはや名前じゃないし!一番マシなのが犬の名前ってどうなの!?」
と言う訳で、一番マシな『ペス』に決まりました。
ペス本人は名前に不満がなさそうだったので、理由を聞いてみる。
「え?名前を付けるって事は、殺す気はないって証明でしょ?だから嬉しいわよ」
変な名前を付けられたことより、生き残る可能性が高まったことを喜んでいた。
徹底しているな。
ちなみに、
配下になった以上、いつまでも裸で放置と言う訳にもいかない。
「そろそろ、女神の話をしてくれ。その前にお前の出生について聞いた方が良いか?」
「うん、その方が分かり易いと思うわ」
上半身裸で子供パンツ(模様は青のストライプ、アドバンス商会で定価500Gで販売)だけを履いたペスが肯定する。
「服を着せる訳じゃないんですね……」
「ご主人様、時々信じられないような選択をするわよね」
さくらとミオを華麗にスルー。
ペス本人は全く気にしていないし……。
「私が産まれたのはもうずっと昔の事。具体的に何年前かは覚えていないわ」
「それは仕方が無いな」
当時は自我も無いと言っていたし、覚えているとは思っていない。
それに、重要なのは生まれた理由の方で、具体的な年月日ではない。
「私は生まれた時から亜空間に居た。生まれると同時に、私の中にはいくつもの知識が流れ込んで来たの。私が産まれた理由もその中にあったわ」
「聞かせてもらおうか」
「まず、私達の名前に冠されているのは、この世界では起こる事のない災害なの」
「起こる事がない?この世界では地震、噴火、暴風雨が起きないのか?」
確かに今まで、それらの災害が起きたと言う話は聞いていない。
「もしかして、貴方、異世界の出身者なの?」
そう言えば、その辺の話はしていなかったな。
「ああ、そうだ。勇者じゃないけどな」
「そう。それなら話が早いわね。女神がこの世界を創った時、人々を脅かす災害が起きないようにしたのよ。だけど、災害は
事はこの世界の創世記まで遡るようだ。
災害を封じる反動。それが災竜の称号、『反存在』の理由なのだろう。
「災害を封じる代わりに、災害の化身のような私達災竜が産まれた。亜空間と『姫巫女』は私達の危険性を理解している女神が作り出したストッパーなの。エルフやハイエルフが産まれたのも、寿命による根絶を防ぐ為に長命種が必要になったからよ」
今明かされるエルフの真実。
エルフの中にハイエルフ、『姫巫女』がいるのではなく、『姫巫女』を存続させるためにエルフが産まれたのか。
「話を聞く限り、女神って言ってもそれ程万能じゃないみたいだな」
「その通りだと思うわ。女神は女神でルールを無視出来る訳じゃないみたいよ。そして、産まれて亜空間に放り込まれる時、女神の声が聞こえたわ」
女神に関して、ここまで迫った情報を得られるのは初めてだな。
「『貴方方に恨みはありませんが、この世界の為に永遠に封じられていてください』。……今思えば、少しだけ申し訳なさそうな声色だったわ」
「思ったよりも真面そうな発言だな……」
今までの経験から、女神が真面である可能性は非常に低いと思っていた。
たった一言で判断する訳ではないが、少なくとも真面である可能性が0ではなくなった。
まあ、『姫巫女』に犠牲を強いている時点で、完全な真面とも言えないが……。
「他に女神に関する情報はあるのか?世界の秘密的な話でもいいぞ」
とりあえず、最低限聞きたい事は聞けた感じだな。
今までのほぼ情報0に比べれば上出来だ。
「女神の情報じゃないけれど、さっき貴方は地震、噴火、暴風雨って言っていたわよね?災竜には後1匹、津波、『水災竜・タイダルウェイブ』がいるわ」
「やっぱりか……」
何となく、そんな気はしていた。
地、火、風と来て、水がいない訳ないよね。そして、水の災害と言ったら津波だよね。
「横の繋がりは無いけれど、何となく生きている事だけは分かるわ。……あれ?他の2匹が死んでる……。ま、まさか……」
恐る恐る俺の方を見るペス。
「あ、それは俺が殺した」
「ひいっ!?やっぱり!」
おかしいな。
ペス、こんなに何度も怯えているのに、今まで一回も漏らしていないぞ?
A:体内に水分がありませんから、出すものがありません。
「ペス、お前、喉乾かないのか?」
「へ、平気よ。人の形をしているけど、人じゃないから、食べたり飲んだりは必要ないわ。食べる事も飲む事も出来るけど、排泄が必要になるだけで、大したメリットはないわ」
ああ、人の形をしているけど、普通の人間ではないのか。
多分、成長することも無いんだろうな。
「とりあえず、一杯水を飲め」
「? 分かったわ」
ペスは俺が取り出したコップの水をゴクゴクと飲む。
これで、次に脅せば漏らしてくれるだろう。
「ご主人様の悪だくみを感じるわ」
「ミオちゃん、余計な事は言わない方が良いと思いますよ……?」
ミオが漏らしたいなら、いつでも漏らさせるよ。
「お口にチャックをします」
ミオが口の前に指でバッテンを作る。
どうやら、今は漏らしたくない模様。
「それで、ペス。他に目ぼしい情報はあるか?」
「うーん……。ごめん、パッと思いつくものはないわ。また、何か思い出したらお話するから、それで許してもらえない?」
「分かった。それなりに有用な情報が多かったぞ」
「ほっ……」
心の底から安堵するように息を吐いたペス。
内心、相当に怯えていたようだ。
「ペスはこの世界の現状について知識はあるか?」
「それはないわ。災竜の情報は古すぎて使い物にならないし、ハイエルフの知識は天空城に限られている上に断片的なので役には立たないわ」
ユリアも元々箱入りお嬢様だったみたいだからな。
天空城の外の知識は多くないはずだ。
「なら、いつものように教育からスタートだな。正直、ペスには何をさせればいいかな?」
「さっきも言ったけど、何でもするわ」
俺に対する恐怖が動機とは言え、やる気自体は高そうだ。
それは良いのだが、ペスに何をさせるかが問題だ。
いつものようにメイドかな?しかし、普通の子供と異なり、身体的に成長しない可能性が高いから、扱いが難しいんだよね。
「任せる」
「はい、お任せください」
「え?この人誰?いつの間に?あ、ちょっと、手を引っ張らないで!?」
《ばいばーい》
とりあえず、メイドを呼んで教育を任せる事にした。
唐突に現れたメイド程度に驚いているようでは、先が思いやられるな。
『風災竜・テンペスト』との戦いで得られた戦果も、残すところ後1つとなった。
「それではお待ちかね。新しい異能の効果の紹介です!」
「それで、<
「くっ……!」
ミオの容赦のない疑問が俺を襲う。
ええ、<
LV9まで上がっておきながら、勿体ぶりやがって。
今回のレベルアップで<
<
死体から魂を抜き取れる。魂を<
「悪魔か何かかな?ヤバくないって嘘じゃん」
異能の効果を見たミオの第一声である。
「失礼な事を言うな。……まあ、俺も最初に見た時、似たような感想を抱いたけどな」
『殺した相手の魂を抜き取り、保存する』。物語だったら、悪魔が使いそうな能力である。
この能力は仮に『
「ただ、これ自体はそれほど意味のある効果じゃないんだよ。精々、集めた魂から情報を抜き取れるくらいだな」
「それはそれで凄いですよね……」
「似たような事は前からできたんだけどな。これ独自の利点もあるが……」
<
ただ、この能力には欠点がいくつかある。
例えば、『本気で嫌いな相手は吸収したくない』と言うモノや、『一度吸収すると、本体は消滅してしまう』と言ったモノがある。
『
「
「多分、その2つの異能の本質が魂とか情報とか、その辺りにあるんだろな」
セラの言うように、<
今まで、多くの異能はレベルアップ時点で必要な能力が現れていたように感じる。
しかし、高レベルになるとその傾向が薄れて、元々決まっていた能力が発現しているように見え始めた。
この2つの異能の本質が魂や情報と言ったモノにあり、徐々に本質に近づいているのではないだろうか?
そんな事を考えるようになった。
「そう考えると、LV10で発現する能力こそが、その異能の本当の姿と言えるんだろうな」
「正直、<
俺もミオと同じような事を考えていた。
「ああ、利点があるとはいえ、態々似たような効果が増えるのは不自然だ。<
情報を読み取れるのはオマケみたいなもので、本当に重要なのは死体と魂を切り離す効果、もしくは、魂を保存する効果なのだろう。
「つまり、レベル10で出てくるのが本当にヤバいって事ですわね」
「多分、そうでしょうね。まあ、分かり易く数字が増えた<
《ドはでー!》
正直、かなり楽しみです。
もう1つ正直に言うと、<
最大級の『本質』は2つ一緒に見せたいのではないか?
そんな気すらしてくる。
これで本当に全ての戦果を紹介できたな。
「ああ、災竜との戦いは実りが多くて嬉しくなるな」
ガッツリ話さなければいけないくらいに色々と得る物がある。
こうなると、『水災竜・タイダルウェイブ』も倒したくなってくるな。
「世界的には大ピンチだったんだけどね」
《あ、サクヤだー》
俺の呟きを拾ったのは、いつの間にか転移して来ていたサクヤだった。
何か、ぐったりしている?
「サクヤちゃん……。疲れているんですか……?」
サクヤはさくらの問いに頷いた。
「……うん。さっき、お兄ちゃんが倒した災竜?それが生み出した突風がカスタールにも届いて……。その対応で働き尽くしだったから、クタクタになったの」
「『テンペスト』の風、カスタールまで行ったのか……」
『天空城』のあった土地はカスタール女王国からかなり離れている。
『テンペスト』の風が強力なのは理解していたが、そこまでとは思っていなかった。
「幸い、カスタールには大きな被害は無かったけど、他の国には結構な被害を受けたところもあるらしいわよ。公式には知っているはずのない配下情報だけどね」
女王として知った知識ではなく、俺の配下としてのネットワークで得た情報か。
アルタ、俺の関わった国で『テンペスト』復活の被害を受けた国はあるか?
A:エルガント神国が1番大きな被害を受けました。復興中だったのが理由です。
あ、そこは別にどうでもいいや。
縁は有っても、義理も興味も無いから。
A:その他のマスターと関わりのある国々に大きな被害は出ていません。マスターと関わりの無い国の中には、被害を受けた国もあります。
何で俺と関わりがあると、被害が少ないんだ?
A:配下の魔法使いが風を相殺するように働きかけたからです。ただ、不自然になり過ぎないよう、完全な相殺はしませんでした。
色々、裏でやってくれていたようだ。
「カスタールでは人的被害はほぼ0。お年寄りが風でよろめいて転んで軽傷って言うのが一番大きな被害ね。ただ、作物はほんの少しだけ被害を受けたわ。ほんの1分程度だったけど、影響は各地に出ているみたいね」
「カスタールが無事で何よりだよ」
『テンペスト』が完全覚醒してから、蹴り上げて影響力がなくなるまで凡そ1分。
たった1分で世界中に影響を与える暴風を撒き散らした。
もしかしたら、『テンペスト』が1番影響範囲の広い災竜なのかもしれないな。
逆に言えば、短期的な顕現なら一番被害が小さいとも言える。地震も噴火も一瞬でとんでもない被害を出すからね。
例え被害が出たとしても、完全覚醒まで攻撃しないと決めたのは俺だが、実際に被害が出たと言う話を聞くと、多少は考える事もある。
しかし、今更な話だが、覚醒前に攻撃した場合、被害はもっと大きくなっていたそうだ。
アルタ曰く、半覚醒の災竜に攻撃を仕掛け、一撃で殺しきれなかった場合、広範囲への無差別反撃が自動で発動するらしい。
流石の俺も『テンペスト』を一撃で倒すのは無理だった。
周囲への無差別攻撃が発動したら、被害は今の比ではなくなっていたし、俺のせいで余計な被害が増えるところだった(俺が倒さなければどのみち被害は増えたが)。
そう言う意味では、『テンペスト』への対応で俺はベストを尽くしたし、最良に近い結果となったはずだ。
誰にも文句は言わせない。
「うん、ありがと。……誰も知らないけど、この世界はお兄ちゃんに救われたのよね」
ああ、一応、そうなるのか。
封印中ならともかく、覚醒した災竜は1匹で世界を壊しかねない。
それを倒すって事は、世界を救ったと言って良いのか。
……全く実感ねぇな。
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設定
・災害について
この世界では、地震、津波、台風、噴火などの自然災害は起きないようになっている。
厳密に言えば起きないわけではないが、その影響が広がることは無い。
この世界の
地震、津波と言うのは、波(振幅の変化)として進行する。大抵の場合、この変化には距離減衰がある。地震で言えば、震源地から離れるほどに震度が低くなるようなものだ。
この世界においては、この距離減衰が非常に高く設定されているため、地震は震源地以外ではほとんど揺れず、10m級の津波ですら、1kmもすれば波と扱われない程になる。
この他、気圧変化や熱伝導にもこの減衰率は適用され、結果として災害の被害が大きくなることは無い。
なお、この
また、この
災竜が復活した際は、速やかに影響範囲外に逃れる事をお勧めする。
初期案ではペスの装備は子供パンツではなく、絆創膏でした。
仁に作者の趣味を押し付ける訳にはいかないので、子供パンツに修正しました。これで安心。
それはそれとして、もうすぐ4/1ですね。さて、来年はどうするか……。