今どき転職は珍しいことではないが、なかには仕事を辞めたことを後悔する人も多い。
食品加工用の機器を製造するメーカーに勤めて4年になる池本純平さん(仮名・32歳)も「転職が間違いだったのでは?」と感じることがあるという。
◆28歳で自衛官から営業マンに
「正直、民間企業ならどこでもいいやと深く考えず、給料の良さだけで決めてしまったんです。仕事は営業担当で表向きはノルマがないことになっていますが、それぞれに課せられた“売上目標”があるから大変。実際、そのプレッシャーに耐えられず、辞めていく同僚もいました」
そう話す彼の前職は自衛官。公務員なので収入は安定しており、当然ながら福利厚生も充実していた。しかも、独身の隊員たちは駐屯地や基地内の営舎で暮らすため、お金も貯めやすい。ちなみに自衛官が開設できる防衛省共済組合の口座の貯金金利を調べたところ、上限300万円の定期預金の年利は1.23%。池本さんが自衛官だったころは、今の倍の2.46%もあったそうだ。
「おかげで除隊するまでの10年間で1000万円近い貯金ができました。民間だと誘惑が多いですし、ここまで貯めるのは不可能だったでしょうね。でも、自衛隊は外出するのに外出証をもらわなければならず、休日前でも夜11時までには戻らなければいけませんでした。もちろん、事前に申請すれば外泊許可も下りますが、民間企業だったらこうした制約を一切受けずに済むわけじゃないですか。自衛隊だから仕方ない部分はありますが、24時間管理されているのが嫌になり、自由な生活に憧れていたんです」
◆サラリーマンの生活は楽しいけど、貯金ができない
民間企業に転職したばかりのころは仕事終わりに飲み歩いたり、休みの前には徹夜で遊び回っていたそうだが、しばらくするとそんな生活にも飽きてしまったとか。
「お金を使うわけですから貯金も全然できません。給料だけでは足りずに自衛官時代の貯金を切り崩していました。今はさすがに自制していますが、転職してからの1年で溶かした貯金は150万円。一気に使ったわけではなく、毎日少しづつ飲み代や遊び代に消えていったお金なので、これだけの額を使っていたことに愕然としました。自衛官を続けていたら避けられた出費でしたからね」
また、仕事についても自衛隊のほうがよかったと感じているという。
「企業だと上司からの大まかな指示などはありますが、基本的には自分で判断して動かなければいけません。ずっと民間で働いていた方にとっては当たり前のことでしょうけど、自衛官は上官の命令に従うのが絶対。自分で考えて動くことは許されなかったため、その違いには今でも戸惑うことがあります。
正直、自衛隊は言われたことさえ守ればいいので、体力的にはキツい任務もありましたけど、営業の仕事のように神経をすり減らすことはなかった。個人によって向き不向きはあるかもしれませんが、私にとっては自衛隊のほうが仕事はラクでしたね」
◆悩んだが今の会社で働き続けることを選択
現在、自衛官の採用上限年齢は従来の26歳から32歳に引き上げられ、元自衛官が出戻るケースもあるとのこと。池本さんも考えたそうだが、今の会社で働き続けることを選んだ。
「自衛官って幹部を除くと定年が早いんですよ。役職で異なりますが、自分みたいに高卒で入った隊員だと大体53~54歳。定年の年齢が引き上げになりましたが、1年程度なのであまり意味がありません。退職金や年金が手厚いとはいえ、遊んで暮らせるほどではなく現実には再就職する人が多い。
けど、50代半ばで民間で働くのも辛いじゃないですか。その点、今の会社は65歳まで働くことができる。仕事はハードですが個人の業績をちゃんと評価してくれますし、そこは自衛隊にはない利点かも」
どちらの仕事にもメリット、デメリットは存在するもの。辞めてしまった以上、今の会社で働き続けるか転職するか、そのいずれかしか選択肢はないのだ。<TEXT/トシタカマサ>
【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。