迷子のプレアデス   作:皇帝ペンギン

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第十二話

 闇夜を月明かりが照らす。そのか細い光だけを頼りに、アルシェは街中を当てもなく走り回っていた。目からはとめどなく涙が溢れ、喉はとうの昔に枯れ果てた。それでもひたすら妹たちの名を叫ぶ。

 

 結論から言うと、妹たちは売られた。わずかばかりの金貨と引き換えに。他の誰でもない、実の父親にだ。

 どれだけ捜しても妹たちの姿はない。半狂乱のアルシェはリビングで灯りも灯さずに呑んだくれている父を見つけた。父は聞いてもいないのに自ら暴露した。曰く「お前のせいだ」と。唯一の稼ぎ手であるアルシェを失えばこの家は立ち行かなくなる。その焦燥が父を凶行に走らせた。没落したとはいえ、年端もいかぬ貴族の娘たち。使い道はいくらでもある。

 アルシェは生まれて初めて本気で父を殴り飛ばし、間を取りなそうとする母の頬を叩いた。父の凶行を止めなかった母も同罪だ。口元の血を拭う父だったものが勘当を叫んでいたが今更どうでもいい。

 アルシェは実家だった屋敷を飛び出した。もう二度とここには戻らないだろう。

 

 アルシェの窮地にフォーサイトが立ち上がらないはずがない。三人共協力してくれた。今頃市街を駆けずり回っていることだろう。また、ヘッケランはワーカー独自のネットワークで、〝グリンガム〟など他のワーカーチームにも協力を仰いでくれた。だが、一向に見つかる気配はない。悪戯に時が過ぎていき、焦りばかりが募る。朝を待って改めて捜すべきだという意見もあったが、それでは遅すぎる。今夜を逃しては、もう二度と妹たちに会えない予感がした。

 

「クーデ、ウレイ! お願い、返事を──あっ」

 

 石畳に足を取られる。アルシェは前のめりにつんのめった。したたかに顔を打ち付ける。転んだ拍子にポーチの中身が散らばってしまった。泣きっ面に蜂とはまさに今の状況を言うのだろう。

 

「う……ううっ……」

 

涙でぼやけた視界。アルシェの手に硬いものが当たる。ヘアバンドだ。転んだ拍子に外れてしまったのだろう。緩慢な動作でそれを拾い上げようとして、貼られている1円シールに気づく。アルシェは思い出す。袋小路のような運命を彷徨っていた自分を救い出してくれた少女を。祈るように〈伝言(メッセージ)〉を発動した。

 

『…………どうしたの、アルシェ。こんな時間に』

 

 繋がった。アルシェは恥も外聞もなく叫んだ。

 

「お願い! 妹たちを助けて!」

『…………落ち着いて。何があった?』

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 〝深淵なる躯〟という組織がある。アンデッドの魔法詠唱者(マジック・キャスター)からなる集団で、彼はそこに属しているナイトリッチだ。内陣七人、外陣四十八人の計五十五名からなる集団は、その名簿を刻んだ〝グラニエッゾ碑文〟ですら強大な魔力を持つ。特に内陣の七人は、人の区分で言えば難度百五十相当の実力者だ。

 

 組織には大きく分けて二つの派閥がある。ひとつは生者の中にも積極的に介入し、勢力を伸ばすもの。もうひとつは世界の闇に紛れ、人知れずひっそりと活動するもの。アンデッドは生者の敵だ。後者の方が多いのは言うまでもない。例に漏れず、彼もまた後者の生き方をしていた。しかしそれも過去の話。深淵なる躯に属する前より数百年、属してよりまた二百余年。彼は独自の研究活動に限界を感じていた。彼もまた内陣の七人に数えられる一人、第七位階にまで到達している。だが彼はバネジエリ・アンシャスやグラズン・ロッカーと言った特異な肉体や稀有な才能を持つナイトリッチとは違う。彼らと同じ方法で深淵に至れるとは限らない。また彼らも自身の研究成果をそう簡単には開示しないだろう。そもそもコネクションも持ち合わせていない。

 

 行き詰まっていた彼は、あるナイトリッチの存在を思い出す。昔、わずかばかりに交流を持ったその男は、前者の生き方を貫いていた。見果てぬ大望を内に秘め、二百年ほど前に辺境の地へ消えていった。今、あの男はどうしているのだろうか。もしも野望が花開き、独自に深淵に至っていたとしたら。これ以上、無為な年月を過ごすのはもうやめだ。彼は男を頼り、大陸西端へ向かう。全ては深淵へ至るために。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「ちっ」

 

 クレマンティーヌは横合いから仲間のはずのブレイン・アングラウスを蹴り飛ばす。思いきり吹っ飛ぶブレイン。数瞬前まで彼のいた空間を三日月刀(シミター)が切り裂いた。あのまま棒立ちならば間違いなく致命傷を負っていただろう。クレマンティーヌはブレインを救ったのだ。

 

「いい加減にしろよてめえ! 死にてえのか!?」

 

 クレマンティーヌが怒声を浴びせる。立ち上がろうともせず、ブレインはどこか上の空だった。自分と対峙した時の覇気が全く感じられない。ブレインの胡乱な瞳はクレマンティーヌを見てすらいなかった。

 

「ああ、それもいいかもな」

「この──!」

 

「あはは、なんだいその様は」

 

 仲間割れとも言える愚行を犯す二人を〝踊る三日月刀(シミター)〟エドストレームが嘲笑う。

 

「ふっ、これがあのブレイン・アングラウスとはな。ガゼフ・ストロノーフと互角に渡り合ったのは過去の話か」

「いや、今や俺たちの方がずっと上なのかもしれない」

 

 〝千殺〟マルムヴィストが軽口を叩き、〝幻魔〟サキュロントが驕り高ぶった。いずれも劣らぬ六腕。アダマンタイト級に比する存在たち。八本指のアジトを潰す。ラナー王女極秘の依頼で〝蒼の薔薇〟と〝美姫〟は七つの拠点にそれぞれ人員を振り分けた。そんな中、クレマンティーヌとブレインは大外れを引いてしまう。

 

「……ガゼフ……ストロ……ノーフ」

 

 ブレインがその名に反応を示す。ガゼフ・ストロノーフに勝つ。それだけを目標に日々厳しい鍛錬に励んだ。研鑽を積んだ。それは最早生きる意味と言い換えても良い。その目標が、消えた。いきなり取り上げられた。自分は今までなんのために? 空虚感に苛まれた。もう全てがどうでもいい。これまでの自分の人生は、無意味だった。そんな諦念がブレインを覆っていた。

 クレマンティーヌはそんなブレインの事情などお構いなしに彼の横っ面を思いきり殴り飛ばす。大の男が再び吹き飛んだ。それからブレインの襟首を乱暴に掴む。額には青筋が浮かんでいた。

 

「ふざけんなよ? てめえは私が助けたんだ。その命は私のもんだ。勝手に死ぬんじゃねえよ! 死ぬなら私の役に立ってから死にな!」

「ッ──」

 

 腫れた頬に鼻血を垂らすブレインは改めて眼前の女を見据える。目の覚める思いだった。ガゼフという存在の欠けた穴に、クレマンティーヌという女が圧倒的な存在感でもってハマる。止まった時が動き出す。歯車が勢いよく回り出した。

 

「隙だらけだぜ! 〈多重残像(マルチプルビジョン)〉」

 

 サキュロントの姿が分裂する。幻術師(イリュージョニスト)軽戦士(フェンサー)を修めたサキュロントの幻術魔法だ。五人のサキュロントが一斉にクレマンティーヌに襲い掛かる。血飛沫が舞った。

 

「がっ……!」

 

六腕が目を剥く。果たして、絶叫を上げたのはサキュロントだった。逆袈裟懸けに切り裂かれたサキュロントは仰向けに崩れ落ちた。クレマンティーヌの前には抜刀したブレイン。新たな生き甲斐を得たその瞳は力強く輝いていた。刀身を振るい、血を払う。

 

 

「……ありがとよクレマンティーヌ、目が覚めた思いだ」

「はっ、遅せえんだよ馬鹿野朗が」

 

 クレマンティーヌがスティレットを逆手に構える。ブレインは大きく深呼吸し、刀を正中に構えた。脅威を感じたエドストレームは全ての三日月刀を先行させる。マルムヴィストが吠えた。

 

「この死に損ないが!」

「さて、俺のサビ落としに付き合ってもらおうか」

「ほざけ!」

「くふ、どっちにしようかなぁ」

 

 四者四様にぶつかり合う。ブレイン・アングラウスという男の第二の人生が、今ここから始まる。 

 

 

聖印を象った杖が勢いよく振り下ろされる。皮膚も肉もない頭蓋が陥没した。〝六腕〟の一人、〝不死王〟デイバーノックは自分の身に何が起きたか最後まで理解できぬまま消滅した。

 

「馬鹿、な──」

 

 六腕において最強を誇る〝闘鬼〟ゼロは戦慄した。デイバーノックは六腕においてゼロに次ぐ実力を持っていたのだ。それが、いとも容易く。あんな雑に殴られただけで消滅するなんて信じられない。しかも相手はその外見からはどう見ても戦士やモンクではない。あろうことかメイド装束だった。

 

「何者だ……!」

「あーあ、期待した私が馬鹿だったっす」

 

 絞り出すようなゼロの声に、しかし女は気に留めた様子すらない。後頭部を掻き、自嘲気味に嗤っている。

 あの御方がこんな矮小な組織に所属する訳はない。万一、偽装工作か何かで所属したとて、あの御方ならばもっと相応しい偽名をつけるはず。ひとしきり笑った後、女は思いきり嘆息し、俯いた。次の瞬間、女の雰囲気が一変する。

 

「不死王とは唯一無二、あの御方こそを指す名です。低級アンデッドが名乗るだなんておこがましいにも程がある」

 

 妖艶な瞳に浮かぶは魔性の微笑み。ルプスレギナ・ベータがその本性を現した。

 

「死を持って償いなさい」

「う、うぉおおおお」

 

 得体の知れない恐怖が全身を貫く。出し惜しみしている場合ではない。修行僧(モンク)、シャーマニック・アデプト等持てる全ての特殊技術を使う。全身の刺青が光る。ゼロは大きく腰を落とし拳を固めた。全ての特殊技術を乗せたこの拳はたとえアダマンタイト級冒険者や王国最強、ガゼフ・ストロノーフすら一撃で屠れる自負がある。それでも眼前の女は余裕の笑みを崩さない。必ず後悔させてやる──息巻き、女へ向かって正拳突きを繰り出した。ゼロの全身全霊を込めた一撃を、しかしルプスレギナはヒョイと軽くいなす。

 

「なっ……」

 

辛うじて制御していた剛拳が空を切る。ゼロは平衡感覚を失い前のめる。刹那、ルプスレギナはゼロの耳元で甘く囁いた。

 

「さようなら」

 

 すれ違い様、ルプスレギナの聖杖が無防備な後頭部に振り下ろされた。小気味良い音を響かせ柘榴が割れる。赤い果汁が飛び散った。

 

 

 

 

 

 ルプスレギナが担当した場所とはまた違う拠点。ここでも一つの決着がついていた。

 

「これが空間斬? はっ、身の程を知りなさい」

 

 ナーベラル・ガンマは地に倒れ臥す全身鎧(フル・プレート)に侮蔑の表情を送る。〝空間斬〟ペシュリアンが動くことはもう二度とないだろう。ペシュリアンの放つ空間斬──その正体は斬糸剣とも言うべき極細の鋼鉄鞭。ただのトリックと看破したナーベラルは〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉で背後をとり、〈雷撃(ライトニング)〉を詠唱した。それで終わりだ。焼け焦げた全身鎧(フル・プレート)から人の灼ける独特の異臭が立ち昇る。

 

「では私は他の拠点へ向かいます」

「あ、ああ」

 

 それきり一瞥もせず、ナーベラルは再び〈次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)〉を唱える。長い黒髪を翻し、あっという間に彼方へと転移した。残されたレエブン候子飼いの元オリハルコン級冒険者、盗賊ロックマイアーはしばらく呆然と佇む。

 

「あれがオリハルコン級? 俺と同じ? ははっ、信じらんねえ」

 

 既に引退した身といえ、全盛期の自分との格の違いにロックマイアーは笑うことしか出来なかった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 この地を訪れた彼は驚愕した。人間が大量に繁殖していたからだ。彼の古巣や、大陸中央六ヶ国ではよくて奴隷、大抵は単なる家畜、食糧である最弱種。これが他種族に対抗し、国家を形成するに至るとは。この目で見てもまだ信じられなかった。他種族に勝る何かをこの地の人間は手にしているのだろうか。非常に興味深い。研究対象に打ってつけだ。男の情報は未だ思うように集まらない。何にせよ、まずは拠点が必要だ。

 

 

 

 年に一度、ある時期を除き霧に覆われた呪われし地、カッツェ平野。素晴らしい。身を隠すには最適だ。しかも無数に湧いて出るアンデッド、黙っていても補給される人間の死体。ここに拠点を作ろう。

 

 

 

 ありえない、ありえない。最悪だ。何なのだあの化け物は。せっかく増やした配下が根こそぎやられてしまった。音に聞く八欲王の再来か。あの巨大なトレントは人間に支配されているのか。とにかく、もうこの拠点は破棄するしかない。研究成果を持って何処か別な場所へ。トレントが向かう方向とは逆へ。

 

 

 

 言うなれば、彼がここに居合わせたのは全くの偶然だった。謎の魔樹の襲撃にあい、拠点と部下を失った彼はカッツェ平野を離れざるをえなかった。土地勘のない彼がたどり着いたのは帝都アーウェンタール。彼は仮宿を求めて墓地へと向かった。

 

 月明かりこそないものの永続光(コンティニュアル・ライト)がぼんやりと辺りを照らす。等間隔に敷かれた墓標と切り揃えられた草木。おそらく定期的に整備されているのだろう。存外悪くない。訪れた彼の最初の感想はそれだった。拠点とするほどではないが、数日ばかりの仮宿には充分だ。

 

「……む」

 

 視線を霊廟に移した際、彼は違和感を覚えた。古びた霊廟より多数の生者の反応。少し離れた木の陰にはいくつかの馬車が停まっている。生者は陽の光を好むもの。跳梁跋扈するアンデッドの世界に何故これだけの生者がいるのか? 好奇心をそそられた彼は箱の中身を覗き込んだ。見張りらしき人間たちを〈不可視化〉で躱すと霊廟地下へと進んでいく。

 

 

 

 石段をしばらく下りた先、重い石の扉の向こうには薄暗い地下室が広がっていた。燭台の火が怪しく揺らめく。種族特性により〈闇視(ダーク・ヴィジョン)〉を備えた彼は見てしまった。それは不可思議な光景だった。髑髏の仮面以外、一糸纏わぬ人間たちが激しくまぐわっている。他種族の美醜はよくわからない。推測するに戦士の肉付きとは程遠く肥え太った、または年老いた個体だろう。何らかの魔法陣や祭壇もあった。悪魔召喚を試みる一団だろうか。

 

 

「我らが神よ、今宵も贄を捧げます!」

 

 子供一人ほどの幅と重さの皮袋が二つ、祭壇に載せられる。仮面の男女六人が祭壇を囲んだ。その手には各々光るものが握り締められていた。殺せ、殺せ。捧げよ、神に捧げよ。狂気は伝播し、新たな狂気を生む。割れんばかりの大歓声は彼らから理性を失わせた。皮袋に何が入っているかは理解している。これまでも数え切れない贄を捧げてきたのだ。狂気の笑みを浮かべる老人はナイフを思いきり振りかぶる。

 

「神よ! 我が忠義をお受け取りください!」

 

 哀れな獲物目掛け思いきり振り下ろそうとして、

 

「がっ」

「ぎゃっ」

 

 衝撃が走る。金属音が響き、ナイフが床を転がった。男女は手首を抑え激痛に顔を顰める。見れば全てのナイフの歯が根元から折れていた。

 

「な、何事だ!」

 

 悲鳴と怒号が飛び交う中、二人の少女が祭壇に躍り出た。

 

「…………間に合った」

「クーデリカ! ウレイリカ!」

 

 銃を携えたシズ・デルタと杖を構えたアルシェ・イーブ・リイル・フルトだ。思わぬ来訪者に狂信者たちは驚きを隠せなかった。幾重にも見張りや監視をつけ、尾行には細心の注意を払っていたはずなのに。

 

「馬鹿な、何故この場所が……!」

「見張りは何をしていたのだ!」

 

 神官が驚愕した表情で固まる。会合の取りまとめ役、ウィンブルム公爵は怒声を上げた。アルシェは鬼の形相で公爵を睨みつける。

 

「〈魔法の矢(マジック・アロー)〉!」

「ひ、ひぃい!?」

 

 魔法の矢が放たれる。祭壇前の狂信者たちを蹴散らした。元より戦う力を持たない貴族だ。自分より弱いものにしか強く出れない。悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 

「…………うわぁ」

 

 部屋の惨状にシズの無表情が珍しく歪む。醜い老体の醜態をもろにみてしまった。だが今は気にしてる場合ではない。シズは腰のホルダーからコンバットナイフを引き抜くと細心の注意を払い皮袋を裂いていく。アルシェが絶叫する。中身は最愛の妹たちであった。着の身着のまま攫われた二人はお気に入りのヘアバンドをしたままだ。そこに燦然と輝く1円シール。シズとアルシェは〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉の巻物(スクロール)でここまでたどり着いたのだった。

 

「ああ、クーデリカ! ウレイリカ!」

 

 もう二度と会えないかもしれない。待ちわびた妹たちとの再会に、しかしアルシェの顔色が変わる。クーデリカ、ウレイリカ共に生気がない。まるで精巧な蝋人形のようである。唇は蒼白く、呼吸は胸に耳を当てなければ聞こえないほどだ。それは今にも止まってしまいそうなくらいか細かった。

 

「そん、な……」

「……大丈夫。まだ、助かる」

 

 アルシェの涙の跡にまた新たな雫が溢れ落ちる。そんな友の肩にシズは優しく手を置いた。儀式の道具だったのか、鎌や剣を手に何人かが少女たちを包囲しようとにじり寄る。シズは狂信者たちの足下へ発砲する。銃弾が正確に石床を撃ち抜いた。

 

「ひっ……!」

「…………次は当てる」

 

 これ以上近くなという警告だ。威嚇射撃で腰を抜かす狂信者を後目に二人は妹たちを抱きかかえる。その場を後にしようとして、

 

 

「…………何かいる」

 

 シズはあらぬ方向へと発砲した。何もない空間に放たれた弾丸は透明な障壁に阻まれるように地に落ちる。

 

「誤解してもらいたくないのだが──」

 

 闇より死が顕現した。漆黒のローブから覗くは異形。半身は骸骨、もう半分は動死体(ゾンビ)。わずかに残る皮膚が張り付く骸の手には錫杖。落ち窪んだ眼窩に残る眼球がこちらを見下ろしている。

 

「私はこの儀式とは無関係だ」

 

 悍ましい声が地下室に響いた。

 

 


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