第十三話:回復術士は愛人と楽しむ
イヴとのレースに勝った。
なので、事前に決めていた通り、勝ったら敗者になんでも言うことを聞かせる権利を講師する。
依頼はとっくに決まっており、イヴにも告げていた。
先に、セツナとグレンは滞在中に使う部屋に向かってもらっている。
そして、俺はと言うと。
「……本当にここでするんだ」
イヴが真っ赤な顔をして涙目で睨んでいる。
しかも、その姿は魔王としての正装だ。
そちらのほうが気分がでるので、わざわざ着替えてもらった。
「賭けに負けたんだから文句を言わな。そういう約束だろ?」
俺がイヴに要求したのは、玉座で愛し合うこと。
実は過去にやろうとしたことがある。
その場合は前戯を終わらせて、いざっていうところでイヴが嫌がりだした。
神聖な魔王の座で、そんなことは不謹慎で罰当たりということらしい。
それ依頼、ずっとここで愛し合う機会を伺っていたのだ。
「……そうだけど、そうだけどさ。もし、人が入ってきたらどうするんだよ」
「安心しろ、ちゃんと扉の前にはラピスに控えてもらっているから」
星兎族のラピス。俺の愛人でイヴの専属使用人だ。
人が来ても彼女が止めてくれるし、緊急案件であれば、それとなく合図を送ってくれる。
「無駄に準備がいいよね!?」
「ずっとやりたかったからな」
「ううう、なんか、罪悪感があるよぅ」
「それがいいんだ。それにこれは罪悪感じゃない、背徳感だ」
イヴを玉座に座らせる。
やはり魔王服はいいな。可愛らしいイヴとのギャップがいい反面、イヴの内面にある芯の強さとは見事に調和している。
「ちょっ、いきなり服の中に手をいれないでよ」
「そういう割にイヴだって……なっ?」
イヴの顔がより赤くなる。
彼女も期待をしていた。
せっかくの魔王服を脱がしてしまえば興ざめだ。全部脱がさないように、でもイヴの大事なところは見えるようにしながら愛し合うのは骨が折れそうだ。
だが、なんとかしてみせよう。
俺は楽しむためなら、どんな苦労も厭わない。
◇
魔王様プレイはなかなか楽しかった。
最後は気絶したイヴの着衣を整えて、お姫様抱っこをして部屋を出た。
ただ、一つだけ残念なことがあったとすれば、最後のほうにイヴが言った『見られてる、魔王様に見られてるよぅ』という台詞。
歴代の魔王様に見られている気分になったようだが、それはもう背徳感があるプレイを通りこして、ギャグだ。
爆笑してしまい、お互いちょっと盛り下がった。
なかなか難しい。
だけど、トータルで見たら十分すぎるほど楽しめた。
ラピスが隣に並ぶ。
「ケアルガ様の腕の仲で安心しきった顔をしておりますわ。こんなふうに甘えられるイヴ様が羨ましい」
彼女は俺をケアルガと呼んだことが少し気になり、立ち止まる。
「……そう言えば、お前にはまだ言ってなかったな。俺は見た目を変えているだろう?」
「はい、以前より可愛らしいお姿になっておりますの」
「これは俺の覚悟だ。見た目だけじゃなく、名前も変えた。これからはケアルガじゃなくケアルとして振る舞う。魔王領でもな。だから、これからはケアルと呼んでほしい」
「かしこまりました。では、ケアル様とお呼びしましょう。見た目が変わろうと、あなたはあなたです。これまでも、これからも私の主はあなただけです」
妖艶な笑みを浮かべてしなだれかかってくる。
彼女にとって俺は病を直した救世主であり、父と同胞を救ってくれた恩人であり、初恋の相手で、初めての男でもある。
彼女は俺に依存していた。
「その台詞、魔王直属使用人が言っていいものじゃないな」
「でも、本音ですの。イヴ様は大事なお友達で、守ってあげたい。それ以上に、ケアル様のために私はここにいます。その気持ちに嘘はつきたくないですわ」
可愛い奴だ。
出会うタイミングが違えば、俺の愛人じゃなく俺の女にしていたかもしれない。
「そういうことならいい。だが、俺の前以外では言うなよ」
「もちろんですの。私はこう見えてすごく要領がいいのでヘマはしませんわ。それから、明日。あの方が話をしたいと」
あの方というのは、ラピスの父親であるキャロルのこと。
ただ、キャロルは本来なら処刑されるところを俺が救い、【
キャロルがいなければ、政治の面では素人のイヴが魔族領域を治めるなんてことはできなかっただろう。
そんなキャロルには鬼族としての名もあるが、ラピスはその名を呼ばず、あの方という言い方をする。
娘として、父にできる最大の気遣いなのだろう。
「そうか……あいつがそう言うなら、そうとうでかい問題が起きてるな」
キャロルは極めて優秀だ。
たいていのことは、自身で対処できるし、彼はそうする。俺の時間を奪ってまで話がしたいというのであれば、相応に厄介な問題なのだ。
「では、私はこれにて」
ラピスが帰ろうとする。
いい尻とむちむちの太もも、丸い兎の尻尾が目に入る。
ラピスの太ももは絶品だ。そそる。
しかも興奮した女特有の匂いが漂っている。
この匂い、一人で慰めていたな。俺とイヴをおかずにして。
「帰っていいのか? 抱かれてたいんだろう。そういう匂いがする」
ラピスの白いウサギ耳がピンと伸びる。
そして振り向くとすごい勢いで戻ってくる。
赤い瞳がらんらんと輝いていた。
「ぜひ、お願いしますの。……兎は寂しいと死んじゃいます」
「ああ、可愛がってやる」
俺の息子もまだまだ元気出しな。
イヴが気絶したことでお開きになったが、俺のほうはまだまだ物足りなかった。
相手がイヴでなければ叩き起こしてでも続きをするのだが、彼女のことは大切に思っている。
「……ケアル様、すごいですの。あんなに激しく愛し合っていたのに、まだ、こんなに」
彼女の赤い瞳は俺の一点を見つめていた。
「エロいラピスのせいでもある。さあ、イヴを部屋まで運ぼう」
「そのあと、私の部屋に案内しますわ」
「いや、いっそのことイヴの部屋でするか。イヴは一度熟睡すると、まず起きないしな」
「それは……とっても興奮しますの」
彼女はとても乗り気だ。
寝ている恋人の前で、その使用人と愛し合う。
さきほどとは違った背徳感が味わえる。
こういう特殊プレイはたまにするといいアクセントになるのだ。
◇
翌日は魔王直属騎士としての正装をして魔王城を歩いていた。
かつて、魔王直属騎士として大粛清をしたこともあり、畏怖の目で見られる。
わざわざ、こんな格好をしているのは威嚇と警告だ。
そして、その姿のまま会議室に入る。
そこにいるのはイヴの他にはキャロルとラピスだけ。
あえて、この四人だけで話すのは、それだけきな臭い案件だということ。
「久しいな、キャロル。それとも別の名で呼んだほうがいいか?」
「いえ、もうその名で呼んでくださるのはケアル様ぐらいです。せっかく、ひと目もないことですし、あなたにはその名で呼んでいただきたい」
キャロルは俺を第一声でケアルと呼んだ。ラピスから話を聞いているのだろう。
そのラピスがウインクを飛ばしてくる。ほとんど寝ていないはずなのに肌がつやつやで生気に満ちている。
……さすがは星兎族、俺の知る限り、もっとも性に貪欲だ。イヴと愛し合った後ということもあったが、俺が一対一で女より先にバテるなんて相当だ。
「なら、ここではキャロルと呼ぼう。お互い、名前が複数あると苦労するな」
「ええ、そうですな」
同じ苦労をしているものだからこその共感をする。
「それで、俺の耳にいれたいことっていうのはなんだ」
「はい。それについてですが、我々は人間との和平を行うため、根回しを進めてきました。法の整備、プロパカンダなどですね。概ね、うまくいっていたのですが、状況は急変しました。各地で反対運動が起こり始めたのです」
「……くすぶってきたものが吹き出し始めてきたのではなく、急変したのだな」
「急変です。何者かによって扇動されております。民を鎮圧するのは簡単ですが、それをするとより大きな反感を買うでしょう」
個人ではなく、市民という名の群れというのがまずい。
実力行使する相手は個人でなければならない。群れを相手にした場合、肉を削いだところで変わりがすぐに集まってしまうし、逆効果になる事が多い。
「やることは一つだ。扇動者を潰す。……いや潰すよりも、こちらについてもらったほうがいいな。組織であれば潰された頭の代わりを用意されてしまうことも多多あるしな。俺の【
「そちらをお願いするつもりでした。始末することや、脅すことはこちらでもできますが、洗脳して、こちらの駒にすることはケアル様のお力が必要です」
頭を奪ってしまう。それが最善だ。
むろん、壊れた頭を切り離そうとしてくることも考えられる。だが、それでもかなりのダメージを与えられる。
「それで、首謀者らしき連中は把握できているんだろうな」
「もちろんです。ケアル様が残してくれた人形がよく働いてくれておりますから。リストはこちらにあります。二日もいただければ、彼らと接触できるよう調整が可能です」
「なら、頼んだ」
俺は頷く。
なら、さっそく動くとするか。
この平和を壊す害虫どもを次々に治療して、世界の益にする善行を。
いいことをするのは気持ちがいいものだ。
少々、世直しの旅に出るとしよう。
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