八幡がただひたすらにモテて、モテて、モテまくるだけ。それだけ(汗)
「お、お兄ちゃん。どうしちゃったのその髪!!////」
キッチン奥でフライパンを片手に固まる小町。
口元はわなわなと震え、もとから大きな目はさらに大きく見開かれて、こちらの一点を凝視している。
何故だか俺の頭部を。
え? 髪?
おいおい、確かに季節の変わり目で抜け毛が激しかったが。え、まさか、そんな驚くような惨事になっちゃってるのか?
慌てて手をやり確かめる。
「こ、小町。お兄ちゃんの髪、なんかヤバイことになってるのか?」
いろいろ触って確かめるが、別段おかしなところはない。
ただ、当の小町は近くまで距離を詰め、耳まで真っ赤にしてこちらを見つめている。
「・・・////」
「おい小町、なんとか言ってくれよ」
もう涙目。
無言の小町に手を引かれ、ズンズンと階下の洗面所に向う。
小町、お兄ちゃんの髪がどんなことになっていようと、小町はいつもの優しい小町でいてくれるよな?愛さえあれば髪なんて無くってもいいよね。ね?
なんて熟年離婚前の亭主のような心境。
「お兄ちゃん、これ、どうしちゃったの?////」
グイッと肩を押され、洗面所の鏡に向かわされる。
な、なんだと、
髪の色が変わっているだと・・・
透明感のある銀色に!!
抜けるような銀色の髪。
腐ってると言えば聞こえは悪いが、良く言えば射るような眼差との組み合わせで思いの外バランスがいい。
「はぁ♥︎、お兄ちゃん!、お兄ちゃん!、かっこいいよ、お兄ちゃん!!////」
「大袈裟なヤツだな。前とそんなに変わらんだろ?」
「ううん、全然いいよ! イケてるよ!////」
「それにしても、なんで突然髪の色が銀色に…?」
「お兄ちゃん、シャンプーと脱色剤、間違えたんじゃない? なんだかヘンな匂いするよ?////」
そういって首に抱き、クンクンと匂いを嗅いでくる。
あれ? 匂い嗅ぐのに抱きつく必要あるのか?
言われてみれば、確かに泡立ちが悪いと思ったんだよな。
ちょっとヒリヒリするし。気付けよ俺。
て、そもそもなんで風呂場に脱色剤があるんだよ!?
「はぁ、しゃーねぇな。今から毛染め剤買ってきて元に戻すわ」
「え!? ダ、ダメだよお兄ちゃん!せっかくイケメンになったんだから!////」
腕を取られてブンブンとイヤイヤされるが、このままって訳にもいかんだろ?
客観的に見て相当にイタイやつだぞ俺。
「いやいや、こんな目立つ髪色なんかダメだって! 一発で生徒指導室送りだって!」
「そんなことないよ、イケメンリア充金髪頭とか、お団子乗せ茶髪頭とか、金髪ドリル頭とか、お兄ちゃんの学校って結構自由じゃん////」
「あれはドリル頭じゃなくて『縦ロール』な。ていうか全部ウチのクラスじゃん」
まあ、なんだかんだ言って、ウチの学校も進学校の割りには自由過ぎるまであるがな。
「と、とにかく、小町はその銀色がとっても気に入ったのです!////」
どうしたんだ小町。
さっきからやたらと親密度が高い。
後ろからベッタリと密着して甘えてくるし。軟らかな胸の膨らみをグイグイと押し付けられて、お兄ちゃんちょっとドキドキしちゃうんですけど。
「そ、そうだ、せっかくだから何かカッコイイこと言ってみてよ!////」
「なに言ってんのお前?」
「いいからいいから、可愛い妹の言うこときいてくれたら、ちゃんと毛染剤買っといてあげるからさ////」
「しかたねぇな、だが『カッコイイセリフ』なんてボッチの俺には思いつかんゾ?」
「お兄ちゃんが普段から読んでるラノベやマンガからそれっぽい台詞を引用すればいいじゃん////」
「あ、なるほどな。じゃあ行くぞ」
胸の前で手を握りキラキラとした目を向けてくる。
我が妹ながらめちゃくちゃ可愛い。
まあ、そんなに期待しているならお兄ちゃん頑張っちゃうよ?
「小町、今まで黙ってたが、俺はお前のことを一人の女性として見ているよ!」キリッ
「はうっ! お、お兄ちゃん、・・・!////」(じわーっ)
「ど、どうした小町?」
「ちょ、ちょっと小町お部屋に籠ってるから、ぜ、ぜったいに覗いちゃだめだよ?♥︎////」
はて、どうしたんだ小町のヤツ?
内股すり足で慌てて部屋に引っ込んだが、何か具合でも悪いのか?
はあ、それにしても明日の学校どうするかな。休んじゃダメっすかね。
× × ×
翌朝、俺の心中を察してかシトシト雨。
結局髪の毛はそのまま。小町のやつ『旅の恥はかき捨てだよお兄ちゃん』って言いやがって、完全に使い方間違ってるからな。アイツ本当に受験大丈夫なのか?
しかし、それにしても目立つなこの髪の毛。
ここまで来る間にも女子高生にはジロジロ見られるし、OLのお姉さんには何度か道を尋ねられ、交通整理していた交差点の婦警さんには呼び止められて連絡先聞かれる始末。
学校に着いてからも自転車置き場や廊下で周りの視線が突き刺さる、ホントもう帰りたいよ。
そんなこんなで、なんとか教室に到着した訳だが。
「「「!!!」」」
「だ、だれ、あの人!?////」(小声)
「あんな生徒ウチのクラスにいたっけ?////」(小声)
「リアル王子様キター!////」(小声)
軽くざわつく教室。
ホームルーム前の無駄話に興じてた女子が全員こっちを見て指差してるし。
なんだよなんだよ、変な目でこっち見やがって。あと『だれ?』だけハッキリと聴こえたからな。言ったヤツ絶対に許さないリストに追加な。ソレ、ボッチに言ってはいけない単語の一位だから。
「ヒ、ヒッキー・・・どうしちゃったのその頭?////」
気がつくと、由比ヶ浜に三浦、それに海老名さんのトップカーストシスターズに取り囲まれていた。三人とも顔赤いけど?風邪?
「ああ、間違って脱色剤アタマにかけちゃって。やっぱりヘンかな?」
「へ、ヘンんじゃないよ、ただちょっとビックリしたというか。ね、優美子?////」
「ま、まあヒキオにしちゃ上出来なんじゃない?髪もキレイだし////」
驚き!
女王様からお誉めの言葉を頂いちまったぜ。中世なら領地を頂けるレベル。ここはキッチリ返しておかないと後で何されるか分からんからな。
「いや、髪なら三浦の方が上だろ?いつも綺麗な金髪ですっげー似合ってて可愛いし」
「ヒ、ヒキオ・・・な、なにを////」(じわーっ)
「どうした三浦、顔赤いけどやっぱり具合でも悪いのか?」
「そ、そうだね。ちょっとお手洗いにいってくるよ////」
小走りで教室を出る三浦。
伏せた顔が真っ赤で、目も潤んでるし本当に具合が悪そうだぞ。なんで無理して学校に来ちゃったんだよ。
「はあ、それにしてもヒキタニ君、髪の色で随分と印象違うよね////」
「自分では見えないから自覚ないけどな」
「ぐ腐腐腐、銀髪王子様の絡みなんて超ご馳走なんですけど♥︎ ねえねえこの際だから試しにチョコっとからんでみない?////」
絡みません!有名店のちじれ麺じゃないんだから、そう簡単に絡んでたまるか!
だいたい何と絡めるつもりなんだよ?たぶん濃厚スープの類いじゃないよねきっと。
「いやいや、俺ホントにそういう趣味無いから」
「じゃ、じゃあさ、こっちの方の趣味は?////」
花が咲いたような笑顔の頬に自分の人差し指を押し当てて聞いてくる。
想定外の発言に言葉が出ない。え?どういうこと?そういうこと?からかってるの海老名さん。
「だ、ダメだよ姫菜! ヒッキーはそっちの趣味は無いんだから!」
「そっちの趣味じゃなくて、私と付き合って欲しいなとか思ってるんだけど。前に京都で告白してくれたアレ、まだ有効だよね?」
「あんなの無効だよ!ヒッキーはダメ! 絶対に渡さないんだから!」
「どうやら結衣との友情もこれまでのようね。ちょっと廊下に出てくれる?」
「望むところだよ姫菜、決着をつけるわよ!」
「・・・」
お互いに睨み合いながら外に出たっきり帰ってこ来ず。
助かったのか?いや、見逃してくれたのか?どちらでもいいが、君達授業どうすんの?
× × ×
午前の授業も滞りなく終わり、学校生活で唯一の楽しみお昼ご飯タイム。
しかし、なんぼお昼時とは言え、いつもに比べて教室の外がうるさい。開きっ放しの出入口から他のクラスの女子共が様子を伺ってるし。ナニコレ、また葉山の新しいファンクラブでも出来たのか?
どこか適当な場所を探して昼メシにするか。
と、カバンの中身を整理していたところで人に囲まれていることに気づく。
ん?顔は見たことあるけど名前はしらない同じクラスのモブ子さん達。悪気はないからね、君達と接触無かっただけだから。
「ね、ねぇ比企谷くん。比企谷くんはどこの中学校だったの?////」
「近所の公立中学だが、それが何か?」
「ス、スポーツは何かしてるの?////」
「特に何も、それが何か?」
「髪、綺麗ね。お手入れはどうしてるの?////」
「・・・」
なんだこれ?
まるで転校生扱いじゃん。まさか俺の存在って一年近くも認識されてなかったの?
え、マジで?
「本当に綺麗な銀色だね、色が抜けた他はなんとも無いのかい?////」
青いポニーテールに声をかけられる。
川崎。お前保険係なの、保健室に案内してくれるの?まどかなの?別にお前に心配してもらう程病んでないからね。
意外な相手から心配されて惚けていると。
「ん、どうしたんだい?////」
「お前が心配してくれるとは意外だったんでな。優しいんだな川崎、さすがお姉さんだな」
「ば、ばか。なに言ってんだよ、もう////」(じわーっ)
「どうした川崎、目が赤いけど」
「うるさいよ!ちょ、ちょっと用事ができたんだよ、また後でね////」
これは一体どういうことなんだ? 何が起きてるんだ?
みんな話の途中で居なくなっちゃうし、そんなに俺と話すのに抵抗あるの?
この髪の毛が原因で嫌われ度が増しちゃっているのか?もう泣いちゃっていいかな、いいよね?
暗澹たる気分で購買に向う。
道すがらすれ違う女の子達の視線を浴びるが、いちいち気にしていられない。どうせまた話の途中で置いてけぼりにされるんさ。ぐっすん。
惣菜パンを仕入れたところでひとつの問題にブチ当たる。
お昼ご飯をどこで食べるか?
外は雨だからいつものベストプレイスは無理、かと言って教室の自席で好機の視線に晒されながらの食事はもっと無理。胃がおかしくなる。
あと思い当たる場所が無いわけではないが、場合によってはさらに心が折れるかも知れん。
まあ、繰り出される精神攻撃をオールスルーすればいい訳で、意を決したところで特別棟に向う。
軽くノックし扉を開けると、小さなお弁当箱を膝に食事をする姿に目が行く。
やっぱり絵になるよなコイツ。
「あら、学校一の有名人さん、何か用かしら?////」
「周りが騒がしくて居場所がねえんだ。今日だけここで食べさせてくれ」
「構わないわよ、比企谷くん困っているみたいだし////」
お、何故か本日はフィジカルが弱いでござる。
理由は分からんが、暴言もなく落ち着いて食事が採れるのはなによりだ。うんうん。
「はい、飲み物が無いと味気ないでしょ?////」
どどど、どうしたんだ雪ノ下。何かいい事でもあったのか?パンさんに押しつぶされる夢でも見たとか。何にせよ礼には礼で応えるのがスジだよな。
「ありがとうな、いつも美味しい紅茶入れてくれて。ホント感謝してるよ」キリッ
「ふぇ?////」(じわーっ)
「ん、なんだ、妙な声出して?」
「ちょ、ちょっと席を外すわ////」
ああ、またかよ。クソ!
そんなに俺と話すのがイヤなのかよ。コイツだけは違うと思ってたのに。裏切られた想いで心が急に寒くなる。
「ちっ、なんだお前もかよ!」
「な、なにかしら。私ちょっと急いでいるのだけれど////」
「さっきから、どいつもこいつも話の途中で席を外しやがって、一体何のつもりなんだ!?」
「いえ、これは、その・・・////」
「もういいよ!雪ノ下、お前だけは他のヤツらとは違うと信じてたのにな!」
「・・・////」
「なんとか言ったらどうなんだ?いつもの理詰めの説明はどこに行ったんだよ!」
「わ、わかったわ・・・////」
何か重大な決心をした時の雪ノ下の顔。
まっすぐにこちらを睨み付け、息がかかる程の距離まで近付いてくる。
と、次の瞬間、雪ノ下は無理矢理に俺の手を取り、スカートの中に招き入れた。
え?何してるのお前?
え?何このヒンヤリした感触は????
「・・・////」
「ゆ、雪ノ下、こ、これって!?////」
「あ、あなたがあまりにもステキだからよ! そ、その、女の子は好きって気持ちが大きくなるとこうなってしまうのよ! バカ! バカバカバカ!!////」
もう元の色が何色か分からない程真っ赤な顔になって俯く雪ノ下。
上目遣いは涙目で、唇の端を切れる程噛んでるし。
・・・雪ノ下、なんかいろいろ悪かったよ。主に俺が。
髪の色を元に戻す前に丸刈りになって謝った方がいいか?・・・
(おわりん)