ルルーシュはもういない。「ゼロ・レクイエム」から2年、世界の平和は一人の男の欲望によって終わりを告げようとしていた。 オール・ハイル・ルルーシュ! というわけで、「その後」のお話を考えてみました。物語設定の関係上、スザCCルルカレは出てきません。ガッカリされるとあれなので、先に告知をば。本作は玉城が主人公です。次回からR-18になります。本編で作者がイラッとした女性キャラを玉城さんがあの手この手で堕とします。寝取られ成分多めです。
皇暦改め、正暦2020年。
悪逆皇帝ルルーシュが正義の仮面ゼロに討たれた事件、「グランド・ゼロ」より早2年。
世界は超合衆国として統一され、安寧秩序のうちに治まっていた。
あらゆる国家は軍力を放棄し、唯一黒の騎士団だけが世界の守護者として武力を保っていた。
過去の戦いの反省から、汎用人型兵器ナイトメアフレームの性能も第六世代レベルにまで制限され、それ以上の機能を持つものは全て廃棄された。
先の大戦で大破した紅蓮、蜃気楼、及びランスロットアルビオンに至ってはデータごと抹消された。
超合衆国代表、皇神楽耶(かぐや)及びブリタニア第100代皇帝、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの指揮のもと、優しい世界が実現しつつあった。
唯一世界に衝撃を与えたのは、黒の騎士団総司令の黎星刻が先頃亡くなったことだが、予め後継に藤堂鏡志朗が決まっていたこともあり、特に混乱を来たすことはなかった。
戦争の爪痕が徐々に癒され、人々が世界に二度と戦争は起こらないだろうと信じ始めた頃、それは東京の小さな一角から始まった。
「おらおら、玉城ちゃんよぉー。俺達おちょくるとどうなるか、たっぷり思い知らせてやらぁ」
パリンッ、ガシャーンッ!
まだ店内に客がいるにもかかわらず、男達が棚からボトルを薙ぎ払ったり椅子を投げつけたりした。
「た、頼む。やめてくれぇー!お願いだ、2週間、いや、1週間でいい。必ず金は返すから」
泣きながら地面に額を擦りつける姿に、かつて黒の騎士団の一員だった面影はない。
「玉城ちゃんさぁ、返せない金は最初から借りないって、小学生でも分かることだぜ」
全ては玉城真一郎が闇金融に手を出したのがいけなかった。
復興の波に乗って玉城の経営するバーは当初、予想外の繁盛を見せた。
それに調子付いた玉城は経営戦略もないまま、2号店、3号店を開くと豪語した。
だが頼りにしていた扇要からは融資を断られ、あれだけ散々言いふらして後に引けなくなった玉城は、すがる思いで闇金融を訪れてしまったのだ。
「うっうぅーっ、くそぉーっ!何で俺だけがこんな目に遭わなきゃならねぇんだよ!」
1週間で納得して男達が帰った後、ぐちゃぐちゃになった店で悔し涙を流した。
「俺だってよぉー、ひっく、ゼロがいた頃は輝いてたんだぜー」
浴びるように酒を飲んだ玉城は、ウィスキーボトル片手に路地裏を歩いていた。
「ルルーシュッ!何で俺を置いて先に逝っちまったんだよー!」
ゼロの正体がブリタニアの皇子だと分かって裏切られた気分にもなったが、なんだかんだでルルーシュのことは嫌いにはなれなかった。
バタンッ!
千鳥足が何かに当たって勢いよくコケてしまった。
「おじさん、大丈夫?」
子供の手が目の前に伸びてきたので、払いのけた。
「あぁん?るせーっ!誰がおじさんだっつってん・・・ルルーシュッ!?」
起き上がった玉城は何度も目をパチパチさせた。
目の前にいるのが、10歳ほどのルルーシュそっくりの少年だったからだ。
「ちょっと違うな。僕の名前はB.B.(ビーツー)。おじさんに贈り物があるんだ」
ノースリーブの男の子の肩に、赤いヤタガラスのマークが急に光った。
「な、何だよこれ。どんどん吸い込まれてくような・・・」
複雑な神経回路の奥に奥に意識が向かっていくと、やがて光に包まれた。
「それはギアス、王の力だよ・・・」
B.B.の言葉が終わる前に、玉城は驚きの声を上げた。
「待てよ、ギアスって、あのギアスか!?おいおいおい、ウソだろウソだろ」
ルルーシュが超能力を持っていたことは、先の大戦時から知っていた。
「じゃ、じゃあ俺も誰にでも絶対遵守の命令が出せるってわけか?」
「それはどうかな、ギアスの能力は個人の潜在意識で・・・」
「やりぃー!ようやくこれで惨めな毎日からおさらばだぜ!」
「・・・・・・。あと、これを」
そう言って黒の騎士団の紋章がついた手帳を渡した。
「ん?何だこれ?」
まじまじと手帳のカバーを見てから向き直ると、少年は消えていた。
「き、消えた?まぁいいや、キャバクラでも行ってパァーッとやろ」
ギアスを手に入れたことで有頂天の玉城には、相手が何者かなどどうでもよかった。
「それじゃあカンパーイ!!」
女の子達の音頭で玉城はシャンパングラスを高らかに掲げた。
ここはお気に入りのバニーガールキャバクラである。
「今日は羽振りがいいじゃない?いつもいっちばん安いお酒でちびちびやってたのに」
この店の一番人気、彩華が玉城の横に陣取った。
ピンクドンペリを入れないと座らないことで有名なピンドンギャルだ。
「一言余計だっつーの。それよりじゃんじゃん酒持ってこい。今日は浴びるほど飲んでやっからよ」
「やったー!5番さんロマネ入りまーす」
ここぞとばかりに、彩華はこの店一番の高いお酒を入れた。
黒の騎士団にいた紅月カレンに似て、しかもカレンよりもっとぷっくらした唇が気に入っていた。
玉城がねだると、網タイツに包まれたむちむちした太ももをくっつけ、おさわりも特別に許した。
(よし、そろそろギアス使ってみるか)
「いいか、彩華。お前はだんだん俺のことが好きになーる、好きになーる」
一瞬、彩華の表情が固まったかと思うと、すぐに両腕を回して抱きしめてきた。
「うん!好き!ロマネ入れてくれる真ちゃんのこと世界で一番愛してる!」
「あ、あれっ?なんかちょっと違うんだけどな・・・」
嬉しいのだが、それではキャバ嬢の営業トークとなんら変わらなかった。
それからも彩華が妙に馴れ馴れしい以外は普段と変わらず、気が付けば会計の時間だった。
「玉城様、本日のチェックはこちらになります」
黒服が持ってきた伝票には、185万円と書かれていた。
(あっちゃー、さすがに飲みすぎたなぁ。でも俺には・・・)
「この玉城様が命じる、今すぐ俺の飲み代をチャラにしろ!」
「・・・玉城様、おふざけもほどほどにしていただかないと」
明らかに黒服の額には青筋が浮かんでいる。
「えっ、ちょっ、待てよ。何で効かねぇんだよ!」
(やっべぇぞ、俺の所持金1000円もないってバレたら・・・)
「ねぇ青木ぃ、それあたしが払うー。給料から引いといて」
ニコニコしながら答える彩華に、店内が静まり返った。
あの高飛車で高慢ちきな嬢王の言葉だとは誰も思えなかった。
「あ、彩華さん。ご自分の言ってること、分かってますか?」
ごくりと唾を飲み込み、黒服が再度確認した。
「もーしつこいなー。真ちゃんの分はこれから全部あたしが払うから」
「か、かしこまりました・・・」
かける言葉が見つからず、おずおずと退散する黒服。
「助かったぜ、彩華。今度必ず指名するからな」
「それよりぃー、この後ヒマ?あたし明日はオフなんだー」
キラキラのネイルを施した手が玉城の股間に添えられた。
「お、おう。いいぜ、なんだったら俺んち来るか?」
「えぇー!いいのぉー!?やったー!じゃあ店の前で待ってて、すぐ行くから」
玉城に抱きついて頬にキスすると、彩華は女の子走りで控室に上がった。
(な、何が起こったのか分からねぇけど、とにかくこれで俺もギアス使いだぜ!)
唖然とした表情のまま、歓喜のあまり武者震いを起こしていた。
******
「それじゃあ行ってくるね。あ、夕食はキッチンに置いてるから適当に食べてね」
出勤用のハイヒールのかかとを引っ張り上げながら、彩華が行ってきますのキスをした。
「おう、あんま飲み過ぎんなよ」
彼女を見送り、ババシャツにパンツ一丁の玉城がドアを閉めた。
あれから1週間、彩華のマンションに転がり込んだ玉城はすっかりヒモになっていた。
彩華は高飛車な外見に似合わず、よく出来た女だった。
惚れた男にはとことん尽くすようで、忙しい合間にも掃除洗濯はきっちりやってくれた。
料理だって苦手なはずなのに、こっそり練習して今では毎晩夕食を作ってくれている。
「お、今日は豚汁かぁー」
ぽりぽりと股を掻きながら、玉城は鍋ごと食卓に持っていった。
(これが俺様のギアスか、でもなんかちょっと違うんだよなー)
豚汁に映った自分の目には、赤いヤタガラスの紋章が浮かんでいる。
キャバクラに通い続けて検証した結果、玉城のギアスは相手を惚れさせることだと分かった。
あちこちでギアスを使いまくったせいで、街中のキャバ嬢が今では貢いでくれていた。
おかげできっちりと借金を返すことができ、自分の壊された店も修復できた。
だがあまりにも順調に行き過ぎたため、今では働く気を失い、こうして毎日ゴロゴロしている。
(あのガキはこんなことのために俺にギアスを授けたのか?)
ルルーシュに似た少年のことが気になったが、探す手立てなどあるはずもない。
ふと部屋の隅に、少年がくれた手帳を放置していたのを思い出す。
「ん、そういえばまだ見てなかったな」
黒の騎士団の紋章のついた手帳を開けると、そこにはある計画が描かれていた。
「な、なんじゃこりゃっ!?」
その計画とは、合衆国中華代表の天子と玉城を結婚させようというものだった。
その詳細なメモと言葉遣いから、書いたのがルルーシュ本人だと分かった。
「す、すっげぇーぜ!こんな計画立てるなんて、やっぱルルーシュは俺の大親友だったんだ!」
手帳を抱きしめると、愛おしさのあまり頬擦りした。
その日のうちに彩華に書置きを残し、玉城は合衆国中華へと向かった。
合衆国中華、かつては大宦官と呼ばれる支配階級に搾取されていたこの国も、超合衆国に加盟してからは繁栄を極めるようになった。
僅か14歳の才女、天子は聡明さと心優しさから民から慕われていた。
だがどんなに民衆から支持されようと、天子の心は塞ぎ込んだままだ。
最愛の人、黎星刻(シンクー)を長い闘病生活の末に亡くしてしまったからだ。
そして今日、最後の別れを告げようと、世界中から来賓が集まっていた。
「皆様、本日はお忙しい中、黎星刻のためにお集まりいただきありがとうございます」
喪主として淡々と挨拶する間も、天子の頭にはあの頃の日々が走馬灯のように蘇った。
幼い頃に交わした永続調和の契り、ブリタニア帝国のオデュッセウス皇子と政略結婚させられそうになった時、自分を奪いに来てくれたその勇姿、そして黒の騎士団と共闘後に再び交わされた契り。
「・・・黎星刻はこの世界の剣となり、盾となって戦ってくれました。黎星刻はこの世界にとって光でした。そして黎星刻は私にとって、私にとって・・・」
どうしてもそれ以上語ることが出来ず、嗚咽を漏らす天子。
そしてとうとう感情が堰を切って流れ出してしまった。
「星刻ー、シンクー!うわぁーーーん」
その姿を見て、参列した神楽耶やナナリーも貰い泣きした。
「さ、天子様、こちらへ」
女官の周香凛(チャンリン)に付き添われ、天子は壇上から身を退いた。
長年星刻の補佐を務めてきた香凛も、唇を固く結んで泣かないでいるのが精一杯だった。
天子が控室で喪服姿のまま涙を拭いていると、急にドアが開いた。
「へへっ、さっきの挨拶、俺も戦友として泣けたぜ」
「あ、あなたは黒の騎士団の・・・。すみません、今は誰にも会いたくないのですが」
面会はお断りだと警備の者にも伝えたはずなのに、どうしてこの男は入って来れたのか。
「おいおい、そりゃないだろ。俺はお前の夫になる男だぜ」
「こんなときにふざけないでください!無礼です!」
キッと睨んだ瞬間、玉城の左目が赤く輝いたような気がした。