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23代目デウス・エクス・マキナ ~イカレた未来世界で神様に就任しました~ 作者:パッセリ

第一部 神なる者、方舟に目覚めしこと【更新中】

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#60 種も仕掛けもございます

 少し前まで楽勝ムードすら漂っていた司令室だが、今、そこは全身を焦がすような緊張に満ちていた。


「私は祝福的で心穏やかです」


 メッセンジャーが掲げた盆(金と白に装飾されており祝福的)の上には、法皇御璽の押された命令文書。法皇執務室から運ばれてきたものだ。

 将官達は最敬礼と共にそれを受け取った。エーリックを前にしているかのように。


 メッセンジャーが去って行くと、将官達は何かを憚るような小声でざわめいた。


「ほ、法皇陛下が御介入を……」

「いったい何事だ?」


 全員、まるで上役に呼び出された新米役人のように狼狽えていた。

 本来この局面は、作戦司令室に任されるはずなのだ。いかにエーリックが有能とは言え軍事……もとい異端審問の専門家ではないし、トップ自らが命令をせずとも神に対応できるだけのシステムは既に構築されているはずなのだ。エーリックは基本的に、部下に任せて静観する体勢を取っている。

 そんな中でついにエーリックが動いたのだ。これはヘタをすると、ここにいる全員の責任問題になるかも知れない。そうなれば仮に神を退けたとしても、その後は汚染地帯で奇形魚の目玉を数えることになってしまう。


 室長が深呼吸をひとつして、命令書を開く。

 すると彼はものすごく妙な顔をした。


「なんだ、これは?」

「なんとありましたか?」

「……命令ではなく質問ですな。『聖都を逃げ回っている神は本物か?』と……」


 一同、意味が分からずに首をかしげた。

 だがこれは法皇エーリック直々の問い合わせであるからして無視はできないし、何より、わざわざ連絡してくると言う事は何か重要な事柄であるに違いないのだ。


 有線中継で送られてくる、望遠レンズの映像。

 『聖都』市街を駆け回る小舟の甲板に仁王立ちした青年の姿……

 魔法コマンドによって味方の戦闘を援護し、対光学兵器防御の無い者が近寄れば『天罰』で排除している。

 その体勢はずっと変わっていない。


 将官と分析官のうち、察しの良い数名は既に閃きを得ていた。


「あれは、よもや幻影ではないのか?」

「何者かの変装という可能性も……」


 不自然なのだ。

 神が……すなわち神代賢が、先だっての襲撃でサイバネ強化兵ムラマサを相手に大立ち回りを繰り広げたことは報告されている。

 その彼が後方支援に徹し、ひたすらじっとしている……


 『天罰』は的確に降ってくるし、神でもなければ使えないような強烈な魔法コマンド封じも確認された。

 あそこに神が居るのは間違いない。

 いや……()()()()間違いない。

 だからこそ誰もが疑問に思わなかったのだ。


「待機中の魔人コマンドロイドを動かせ! 視覚情報以外のありとあらゆる手段で奴を観測させろ!」

「了解しました、祝福的です!」


 壁際に並んだ金白装飾の神聖伝声管に、オペレーター達が一斉に群がった。

 命令が伝えられ、魔人コマンドロイド達が動いている……はずだ。既に電子的鎖国状態と化した司令室は、味方の動きすら完全には把握できない。

 神経をやすりに掛けるような緊迫した時間が続き、やがて、伝声管から答えが返り始める。


「No.052ユニット、視覚・聴覚に加え質量の偽装を検知!」

「No.077同じく! 現在魔人コマンドロイドが解析中です!」


 司令室がどよめいた。

 ほぼそれと同時、断続的に数名の伝令が部屋に駆け込んでくる。

 魔人コマンドロイドのブレインインプラントコンピュータによる解析結果を記憶媒体に入れて持ってきたのだ。

 それはすぐさまオペレーターの端末で(記憶媒体のウイルスチェック後に)データ入力され、ローカルネットワーク上で分析結果が整理されていく。


 司令室前面のスクリーン上で、3Dのワイヤーフレームが編まれた。それは分析情報を元に、急速に人型を形成していく。

 おおまかに人間らしい輪郭となりかけたあたりで、テクスチャが張られて姿を鮮明にした。


「これは……」


 描き出されたのは、少女の姿をした魔人コマンドロイド


 『先の襲撃に使われ、神によって鹵獲された個体である』という照合結果が画面の端に書き添えられた。


 * * *


 俺は激しい水流の中で手を伸ばし、捕虜の腕を掴んだ!

 水に沿って走らせた魔法コマンド感覚で、周囲にいる残り4名の位置も把握している。この中層牢獄に全員集められているらしい。

 俺は即座に水の生成を止め、同時に周辺の水を消滅させて空気と置換した。


 水没していた牢獄は、一瞬で綺麗さっぱりカラッと乾いた。

 俺の前にはゲホゲホ咳き込む捕虜のお兄さん。ビデオレターでカンペ読まされてた人だ。急いでたんでちょっと手荒なやり方になったけれど、まあ無事そう。


 さて、俺が何をしたのか順を追って説明しよう。

 そもそも最初から俺は船の甲板に立ってなんかいなかった。あそこに居たのはアンヘルが遠隔操作している、魔法コマンドによって姿を偽装した魔人コマンドロイド……自称・チョットマッテクレさんだ。


 じゃあ俺がどこに居たかと言うと……ずーっとステルス状態で小舟の船底にへばり付いていた。まさか海洋生物並みに長時間息止めてて平気な身体になってるとは。汚染海水も平気だし。俺はクマムシか。

 その間『千里眼』で周囲を把握し、アンヘルとの脳内電波通信(やっぱりこう言うと俺がヤバイ奴みたいだ)で指示を出し、あとは魔法コマンド封じに全力だ。


 そして教会が魔法コマンドの効果圏内に入ると同時、魔法コマンド封じを解いて水攻めを掛けた。教会本部の魔法コマンド防御を破るも、司令塔である中枢区画には、あと一歩届かなかった……

 だがそれはフェイク!

 本当の目的はドサクサ紛れに俺が単身潜入することだ!

 架橋を通じて流し込まれた水の中に、ステルス俺もこっそり混じっていたのだ。


 その後は魔法コマンド封じを破りつつ、水を通じて隅々まで探査を行う。

 なにしろ教会内部の構造に関しては、アンヘルですら140年前のデータしか持っていなかったのだ。どこに居るか分からない捕虜を素早く探すにはこうでもしなきゃならない。

 そう、素早くだ。魔人コマンドロイドチョマさんの替え玉に気付かれたら警戒レベルは一気に引き上がる。それまでに捕虜を見つけ出して確保しなければならなかったわけだ。


「げほっ……お、お助けくださいまして……ありがとうございます」

「ドゲザはいいですから。今傷を治しますんで、ちょっとじっとしててください」


 無理に礼拝のポーズを取ろうとするお兄さんを押しとどめ、俺はちょっとだけ持ち込んだバイオペレットを用意。魔晶石コンソールを無理やり引き剥がされた痕らしい、痛々しい傷に押し当てて魔法コマンドで治療を施した。

 だが治療が終わってもお兄さん、動かず。


「っと……どっかまだ怪我治ってないとこありました?」

「神様。どうかお許しください。

 この私、あなた様と一族のため、命を捨てた気でおりました。

 ですが私は恐ろしくなり、生きる事を望んでしまったのです……」


 震える手を合わせ、捕虜のお兄さんは縮こまる。


「あなた様はここへ来るべきではありませんでした。

 ですが私は、あなた様のお助けをありがたく思ってしまった。

 愚かな私をお許しください」

「愚かだなんてとんでもない」


 俺はぶんぶん首を振ってから、ドゲザポーズの相手には見えていないことに気が付いた。


「生きていたいのは誰だって同じですし……誰ひとり犠牲にしたくないってのは、俺自身の意志です。

 だからそれを引け目に感じたりしないでください」

「ああ! あなた様こそまことの神にございます!!」


 お兄さん、額を全力で床にこすりつけながら両手をすりあわせ、それでも物足りないのか床を舐め始める。人間は感動が行きすぎると奇行に走るということを俺は学んだ。


「とにかく今は脱出しましょう。他の4人も……」


 連れて来ようと思った時、ぶち破られた鉄格子の穴からフラフラと入ってくる人々が。


「私は祝福的で心穏やかです」

「私は祝福的で心穏やかです」

「私は祝福的で心穏やかです」

「私は祝福的で心穏やかです」


 目つきのヤバイ4人がゾンビのような足取りで奥からやってくる。

 ……電子ドラッグで拷問というか洗脳というか、まあなんかそういうのやられたようだ。

 ゾンビが本能的に肉を求めるように、4人は本能的(そうとしか見えない)に俺の前で平伏した。


「これって……治療できるのか?」

「神様を認識できておりますので、まだ軽症かと思われます。

 治癒の魔法コマンドと精神治療プログラムで回復するかも知れません。

 ……ああ、でなくても、あなた様の奇跡を以てすれば、きっと」

「俺の力で物理的な治療はできるけど、精神の方は難しいみたいで……

 とにかく、やりようがあるなら試さないと。そのためにもまずは無事に脱出しましょう」


 そして俺は意識を電波通信の方に切り替えた。


『アンヘル、通信できてるか!? 捕虜を確保した! 外に伝えてくれ!』

『かしこまりました』


 思考での指示から、ほんの数瞬。


『……各種レーダーと魔人コマンドロイドによる探知が、戦闘艇に対して掛けられているようです』

『連中、気付きやがったか。間一髪だな』


 と、自分で言っておいてだが別にセーフじゃない。本当は捕虜を連れて脱出するまで気付かれないのがベストだ。

 この状況、俺が捕虜を助けに侵入したのは火を見るより明らか。

 間違いなくやべー奴がここへ向かってくる。全員無事に脱出させるには、もはや一刻の猶予も無し!


「よし……逃げましょう」

「はい!」

「「「「私は祝福的で心穏やかです」」」」


 通路へ踏み出せば、一応俺を認識している様子で、ニアリーイコールゾンビ4人も追随してくる。


 壊れた隔壁の残骸が散らばる、曲がりくねった通路。

 俺が水気を消し飛ばしたお陰で上の方は乾いているけれど、未だにどこからか水が流れ込んでいるらしく、靴が水没する程度の水位。

 6人パーティーはざぷざぷと水を蹴立てて歩き出す。行く手にはメイド。


 ……メイド。


 現実を認識したくないッ……!

 だがどれほど目を背けようとしても、そこにメイドは居る!


 艶やかな栗色の長髪が、長身痩躯のモデル体型をふわりと身体を包む。

 黒いワンピースと白いエプロンのメイド服に身を包み、無骨な革のベルトでハルバードを背負うバトルメイド。そして当然のようにパンツを被っている。

 人形めいた顔は、感情とか慈悲とか、なんかそういうの全部削ぎ落としたような硬質さだ。パンツ被ってるくせに。


 通路を塞ぐように立ちはだかるのは……シャルロッテの護衛にして、(たぶん)最強のサイバネ強化兵、クララ!


 いきなり一番やべーのが来てんじゃねーか!!

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