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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第11章 ギルド編

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第164話 明晰夢とギルド連合地区

ギルド連合地区に観光に行きます。

 気付いたら真っ暗な宇宙の様な空間に居た。

 宇宙の様な、と言っても浮いている訳ではなく、地に足は付いているようだが……。


 ……ここは何処だ?……ああ、これは夢だな。

 夢の中特有の現実感の無さがあり、直ぐに夢だと自覚できた。

 明晰夢と言う奴だな。なら、楽しまなければ損だ。


 周囲を見渡すと、少し離れた場所に一本の木があった。

 太くはないが長い木で、いくら見ようとしても天辺が見えない程だ。

 ……浅井なら天辺まで見えたのだろうか?


 歩いて近づいてみる。

 全然近づけない。


 走って近づいてみる。

 全然近づけない。


 そこでようやく理解できた。

 あれは少し離れた所にある木ではない。

 途轍もなく遠くにあるのに、サイズが大きすぎて遠近感が狂い、近くにあるように見えているだけなのだ。


 こうなると意地である。

 大きな木へと全力で走っていく。


 夢の中だからだろう。

 疲れることはないが、現実よりは速さが出ない不思議な感覚だった。


 時間感覚が無いのでどれだけ走ったか不明だが、ようやく木に近づけた。

 大きすぎて最早壁である。

 触ってみると、不思議と懐かしい気がする。木だけに……。


 ………………………………。


 よく見れば、大きな木の近くには小さな木が生えている。

 こちらは俺の背丈程の大きさしかない。

 触れてみると、先程よりも懐かしい感じがした。


 さらに少し離れた場所には、小さな苗木があった。


 小さな苗木は9本、ある程度の距離を持って生えている。

 1本ずつ触れてみるが、内8本からは懐かしさも何も感じなかった。

 最後の1本は少し離れた場所にあり、他の8本に比べて明らかに元気がなく、触れると思わず応援したくなるような気がした。


 触れながら、元気になるように願う。

 夢の中だからだろう。元気のない苗木が少しずつ元気になっていった。



「変な夢だったな」


 翌朝、あまりいい気分とは言えない目覚めと共に呟く。

 夢の中で苗木に元気を分けたかのように、少し疲れた気分だ。


《どしたのー?》


 ドラゴン形態で抱き枕になっているドーラが俺の呟きを拾った。


「いや、大したことじゃない。ちょっと夢を見ただけだ」

《ドーラも見たよー。おかし食べるゆめー》


 ああ、癒される。

 夢で疲れた気分が吹き飛ぶ。その程度の疲れだったようだ。


「じゃあ、朝ご飯を食べようか」

《はーい!》


 俺の部屋の居候達(アヤ、ブルー、エル)を起こし、食堂で朝食を食べる。

 灰人アヤ始祖神竜エルはその気になれば食事不要なんだけどね。


 アルタ曰く、クロード達のハプニングも収束しつつあるようなので、今日こそギルド連合地区に行けるとの事だ。

 午前中から向かうとなると、朝は軽めにして到着した先で食べる余地を残しておいた方が良いかもしれないな。


「ご馳走様でした」

《でしたー!まんぷくまんぷくー》


 なお、軽くする気のないドーラは朝からガッツリ食べていました。


「それで、今回はご主人様について行けるの?」

「流石に無理じゃろ。普通の冒険者の振りをすると言っておったからな」


 ブルーの質問に答えたのはエルだ。

 今回は馬車移動と決めているので、騎竜ブルーの出番はない。


「そもそも、ブルーは女王騎士ジーンの騎竜として認識されているの。多分、変装無しではもう乗ってもらえないの」

「な!?」


 アヤの容赦のない発言にブルーが目を剥く。


 そう言えば、公の場でブルーに乗った時は全て女王騎士ジーンの格好をしていたな。

 逆に言えば、ブルーに乗れるのはジーンの姿に限られるのか。


「ご、ご主人様……」

「悪い。あんまり考えてなかった。ブルーに乗る方法は考えておく」

「お、お願いだからね!」


 愛竜ブルーに懇願されては考えない訳にもいかない。

 俺がジーン以外に変装して乗る。<無属性魔法>で俺とブルーを透明にして乗る。ブルーの方を変装させる。

 うん、機会が来るまでに考えておこう。


「ついでだから聞くけど、エルはどうする?」

「扱いが悪いのじゃ……。まあ、妾がついて行く必要もあるまい。正直な話、使い魔なんて必要ないじゃろ?自由にさせてもらうのじゃ」


 まあ、使い魔エルが必要になる機会なんてそうそうないよな。

 必要ならいつでも呼び出せるし……。


「レインは来るのか?」


-コクコク-


 俺が声をかけると、転移してきた大精霊レインが嬉しそうに頷く。


「何か出て来たのじゃ……」

「エルに話を振ったらレインが出てくるのは当然だろ?」


 大精霊レイン使い魔エルと同様に他人から見えない状態で同行できる。

 全く表に出て来ないけど、今までも遠出する時は大体同行しているんだよね。


 加えて言えば、レインと『精霊化』する事によって、俺の能力を底上げすることも出来るけど……いざという時のお守り状態である。

 レインが同行するのは戦力的な意味ではなく、単純に俺と一緒に居たいと言うレインの欲求によるものだ。


「レインが同行するなら、ますます妾の同行する意味がなくなるのじゃ。まあ、妾は顕現してのんびりできればそれが一番じゃから、問題は無いのじゃが……」

「全く役に立たない疑似人格って必要かな……?」


 エルのオリジナルは既に死んでおり、今ここに居るエルは異能で生み出した疑似人格だ。

 出すも消すも俺の自由自在なので、不必要なら消すという手もある。


「や、やっぱり妾も同行するのじゃ!役に立つから、何でも言って欲しいのじゃ!何でもするのじゃ!だから消すのだけは勘弁なのじゃー!」

「あー、ご主人様、こんなのでも一応友達だから、消すのだけは止めてくれない?」

「完全なゴクツブシだけど、友達なの」


 ブルーとアヤが友人であるエルのフォローをする。

 ……フォロー、だよな?


「流石に冗談だから安心しろ。……それで、エルはどうする?」

「もちろんついて行くのじゃ……。例え冗談でも、冗談を言う余地があるだけで怖いのじゃ」

「生き残るために必死ね」

「さもありなんなの」


 こうして、エルとレインは同行。ブルーとアヤはお留守番という事になった。

 そもそも、アヤの同行は体力的に元から困難なんだけどね。



 食休みの後、パーティメンバーと出発の準備を始めた。


「荷物良し。馬車良し。偽装用装備良し」


 俺はメイド達が・・・・・準備した荷物を指差し確認する。

 一応、自分でやるって言ったんだよ。でも、メイド達がそれは自分達の仕事だと譲らなかったんだよ。


「流石に神話級ゴッズ装備は目立つわよね」

「冒険者の国ですし、度を越えた武器は目を引くと思いますわ」


 ミオとセラの言うように、冒険者の国は神話級ゴッズとなった装備を持って行けるような場所ではない。見る者が見たら異常性がバレるからな。

 仕方ないので偽装用のミスリル装備で誤魔化すことにした。


「うーん、正直、ミスリル装備でも目立つと思うけど……」

「目立たない事が目的じゃないからな。明らかにおかしい装備じゃなきゃ問題なし。Cランク止めって言葉もあるくらいだから、Cランク冒険者がいくら強くてもそこまで不自然じゃないはずだ」


 冒険者はBランク以上になると貴族に準ずる権利と、それに付随する義務が発生する。

 それを厭う者はBランク以上にならないようにすると言う。それが『Cランク止め』だ。

 逆に言えば、Cランクが一番玉石混交となり、ランクがアテにならなかったりする。


「確かにそれは事実ですが、Cランク止めをしている冒険者はギルド連合地区にはあまりいないですわよ?」

「そうなのか?」


 初耳である。

 正直、ギルド事情についてはセラの方が圧倒的に詳しい。


「ええ、ギルド連合地区では冒険者が要ですわ。態々ギルド連合地区に居るような者が、実力よりも低いランクにしておくメリットはないですわ。国に対する義務も、ギルドに対する義務と同義ですからね」

「あー……、普通の国とは冒険者の立ち位置が違うんだよな」

「ええ。観光で来る者もいるらしいですが、冒険者ギルドを無視した観光に来ることは本当に稀だそうですわ」


 冒険者がギルド連合地区に来るのはギルド目当て。それ以外は観光目当て。

 冒険者が観光に来ることはほとんどない……当たり前か。


「レアケースって事で……」


 0じゃないならセーフ。


「ご主人様が気にしないなら良いですわ」

「今更ご主人様が観光を取りやめる事はないわよね」

「仁君ですから……」

《ですからー》


 話もまとまったところで、俺達はクロード達の用意した『ポータル』に転移する。


「ん?クロード達はいないのか?」


 転移先は草原だった、道から大分外れているようで、周囲に人の気配はない。


「クロード達はまだゴタゴタが多少残っているみたいよ。先に行ってて欲しいって」


 俺の疑問に答えたのはミオだ。

 俺以上にミオはクロード達と仲が良かったりする。


「そうか。アイツらも大変だな」


 今回は特にクロード達と一緒に行動する予定も無いし、先に観光させてもらおう。


 俺は周囲をぐるりと見渡す。


「あれがこの国の火山か。滅茶苦茶デカいな」


 俺の視線の先にあるのは、火山地帯であるギルド連合地区の中でも最大の火山、通称『ボルカン火山』である。名前、ほぼ被ってますよ。

 言わなくても予想が付くだろうが、『火災竜・ボルケーノ』がその下に埋まっている。


「あそこに災竜がいるんですよね……?」

「ああ、ギルド総長を殺すと復活するぞ」

「ご主人様、いきなり物騒な事言うわね」


 物騒ではあるが、事実でもある。


 不思議なのは、ギルド総長はユリシーズと異なり、表の世界で活動をしているという点だ。

 『姫巫女』の重要性を考えれば、秘匿されるべき存在であり、表の世界で責任ある立場に就くなど、リスク以外の何物でもないはずだ。

 万が一命を狙われる様なことになれば、世界の危機と同義なのだから。……機会があったら理由を聞いてみたいな。


「仁様、そろそろ出発いたしますのでお乗りください」

「ああ、分かった」


 今回はメインパーティのみで行くため、御者はマリアに任せる事にした。

 厳密には、大精霊レイン使い魔エルが同行?一体化?しているけどね。


L:呼んだかの?


 呼んでいません。


「それで、ここはどの辺りなんだ?」

「はい。ギルド連合地区の首都から馬車で1時間程離れた地点になります」


 マリアの説明を聞いてからマップを見る。

 これが首都だな。道なりでおよそ1時間、周囲に面白いものは……魔物の領域くらいか。そのまま首都に向かって問題なさそうだな。


「マリア、任せた」

「はい、お任せください」


 マリアに後を任せた俺はマップの確認を続ける。


 冒険者の国と言うだけあり、マップ上のあちこちに冒険者がいる。

 Sランクも結構な数がいるみたいだな。……明らかに首都に集中しているけど。


A:いざという時、ユリアを力ずくで確保するための人員のようです。


 うわぁ、やり方が汚いなぁ……。

 ところで、その件はSランク冒険者達も納得済みなのか?


A:はい。マップで打ち合わせを確認いたしました。中には嫌がる者もいましたが、ギルド総長直々の頼みと言う事もあり、最終的にはほとんどの者が了承いたしました。


 マップはいつも役に立つなぁ……。


 それにしても、Sランクが誘拐の補助なんて、落ちたものだな。

 俺の中で、冒険者の価値がまた一段下がった。

 そして、首都に集うSランク冒険者、もといSランク誘拐犯達は、暫定でスキルポイント扱いする事が決まった。


「ご主人様、なんか悪い顔をしてるわよ?」


 俺の顔を覗き込んだミオが言う。


「いや、ユニークスキルが一杯手に入ると思うと、嬉しくてな」

「それ、喜んでいる顔だったんだ。悪だくみしている顔かと思った」


 Sランク冒険者の多くはユニーク級のスキルを持っている。

 敵対したら、当然容赦なく奪うよ。


「ああ、首都のSランク冒険者の件ですわね。本当に嘆かわしいですわ」


 セラが憤慨している。

 どうやら、俺よりも先に首都の情報を集めていた様子。

 むしろ、俺が興味なさすぎ?


「そして、そんなSランク冒険者もご主人様にとってはスキルポイント扱いなのよね」

「敵対してない奴からは奪わないぞ。もしくは貸しのある相手」


 これは破るつもりの無い自分ルールだ。

 まぁ、匙加減は俺が決めているので、そこまで意味はないかもしれないが……。


「でも、もうほとんど敵対が確定しているんですよね……?」

「十中八九って所かな。Sランク連中が情けないのは確定だが」


 さくらの問いに答えるも、ほぼ敵対するだろうとは思っている。

 ギルド総長の人となりを知らないので、断言まではできないのだが……。


「動くにしてもクロード達が到着してからだろ。……クロード達は今日中に着くのか?」

「無理っぽいわね」


 またしてもミオ情報。


「なら、今日はとりあえず宿をとって温泉でゆっくりしようか。……今更だけど、今から宿ってとれるのか?」


 観光地で当日に宿をとる?

 よく考えたら、結構難易度高いぞ?


「本当に今更ですわね」

「マップで確認済みです。空きがある宿から、仁様のお好みの物をお選びください」


 流石マリアである。

 俺はマップを見て、マーカー付きの宿を確認する。

 ああ、なるほど。料金がピンキリなのか。高級宿はそうそう満室にならないと。

 そして、俺達にお金を惜しむ理由はない。


「じゃあ、『個室混浴露天風呂 西風館』にしよう」


 男女で温泉地に来て、『混浴』を選ばない理由はないよな。

 部屋ごとに個別で温泉を引っ張っているようで、有象無象にみんなの裸を見られる心配も無い。


「こ、混浴……!?」

「遠慮なくぶっこんで来たわね」

「気にするほどの事ではありませんわ」

《わーい!ごしゅじんさまとおふろー!》


 反応もそれぞれだな。

 マリアは何で拳を握って小さくガッツポーズしてるの?

 ああ、一応水着OKらしいですよ。



 しばらく馬車を走らせ、ギルド本部のある首都、ボルケンに到着した。

 ……名前、もう少し頑張れなかったのか?


 ボルケンの街はボルカン火山(紛らわしい)から馬車で1時間もかからないであろう距離にある。

 近づいたせいか、先程よりもボルカン火山が大きく感じる。


 冒険者中心の国(正確には違うが)と言う事もあり、ギルド連合地区ではDランク以上の冒険者は街への出入りが無料となっている。

 しかし、出入り無料にするには、ギルドカードを街で登録しなければならない。

 今回、観光がメインなので冒険者活動をするつもりはない。

 余計な義務の発生(強制依頼とか)を防ぐ為に、普通に通行料を支払って入る事にした。


 温泉地だから和風の建物かと思っていたが、普通に洋風の建物が立ち並んでいた。

 温泉地ではなく火山地帯と考えるべきだったか……。


 観光地であり、冒険者にとっての聖地でもあるので、人口・人通りは非常に多い。

 しかし、それ以上に道が広いので、馬車で通ることも容易だった。と言うか、街自体がかなり広い。


「まずは宿をとろう。部屋に余裕はあるみたいだけど、早いに越したことはないだろうからな。マリア、西風館に向かってくれ」

「はい、承知いたしました」

《そのあとごはんー!》

「今までにない土地の食べ物、楽しみですわ」


 何だかんだで昼も近くなってきたので、我が家の腹ペコ達が活発になって来た。

 俺も見知らぬ土地の料理は楽しみだし、早く食べたいとは思う。

 ……いつ、街が滅んで食べられなくなるか分からないからな。


 縁起の悪い話はさておき、宿の確保は滞りなく済んだ。

 馬車と馬も宿に預けたので、俺達は心置きなく観光に専念できる。なお、馬車と馬にはタモさんが護衛に付いているので、セキュリティは万全だ。


 街が広いので馬車で移動するのも有りなのだが、小回りが利かないので止めておいた。

 態々自前の馬車を使わなくても、乗合馬車が街中を行き来しているので、それに乗れば事足りる。俺達の世界のバスのように、停留所にある程度の時間間隔でやってくるらしい。

 アイデアが何となく勇者産っぽいが、絶対とは言えない微妙なラインだ。


 折角なので乗合馬車に乗ってみた。目的地は街の中心部、その飯屋だ。


「あまり人は乗ってないんだな。採算取れるのか?」


 馬車の中には俺達6人しか乗っていなかった。

 俺達が乗らなかったら、馬車は客も乗せずに走ることになっていた。


「兄ちゃん、観光客かい!?」

「ああ、今日、この街に来たところだ」


 御者のおっちゃんが声をかけてきた。

 おっちゃんは体格が良く、それなりにステータスも高い。素人ではないだろう。


「それじゃあ、知らなくても無理はないか!乗合馬車は街が運営しているから、客が乗らなくても給料は出るんだよ!むしろ、客が乗っていない方が気楽でいいな!」

「それ、お客である私達に言って良いの?」

「あんまり良くはないな!」


 ミオの質問におっちゃんは悪びれもせずに答える。


「兄ちゃん達みたいな観光客なら良いんだが、問題は冒険者だ!アイツら、荒くれ者と紙一重だから、何かと問題を起こすんだよ!尤も、俺も引退した元冒険者だから、偉そうなことは言えないけどな!」


 ああ、そう言う事か。


 おっちゃん、実はそれなりに重い怪我があるんだよ。

 怪我で・・・引退した冒険者の再就職先の1つが、乗合馬車の御者なんだな。

 街が運営、つまり冒険者ギルドが運営と言うのもそう言う事だろう。


「冒険者ランクは何処まで行ったの?」

「Cランクだな!Cランク止めじゃなくって、実力でCまでだ!この国はCランクまで行けば大分待遇が良くなる!再就職先を準備してくれるくらいだ!」


 ステータスの高さも納得である。

 重い怪我こそあるが、全く戦えないと言う訳でもない。

 多少の腕っぷしと、冒険者としての経験があれば、この街で食っていくのはそれほど難しくないのだろう。


 その後もおっちゃんから街について色々と話を聞いた。


 この国のトップであるギルド総長は基本的に人前にはほとんど出て来ない。

 一度だけ見た事があるが、凄い美人のエルフだった。

 エルフだけあって、随分と長い事ギルドのトップに居続けている。

 Sランク冒険者になればアポが取れるという噂がある。

 本人の戦闘力もかなり高いらしい。

 魔法の道具マジックアイテム作りの才能がある。

 ギルド関連の魔法の道具マジックアイテムのほとんどをギルド総長が作っている。

 各国からの評価も高く、各地に影響力を持つ。

 引退した冒険者のフォローもギルド総長主体で行われている。


 ギルド総長、ユリスズさんに関する情報はこのくらいか。

 思ったより真っ当な評価で困惑中である。真っ当じゃなければ、統治が長続きする訳ないので、当然と言えば当然なのだが……。

 じゃあ、今回の乱暴な(予定)招集は一体何なんだ?


 この場で考えても結論の出ない事は脇にどけ、他の話も聞いてみる。

 美味い食事処、お勧めの観光スポット、温泉だけ利用できる宿、この街を拠点としているSランク冒険者、近寄らない方が良い吹き溜まり……。


 その街独自の移動手段を堪能し、その街の住人と雑談して街の情報を集める。

 俺、今とっても観光客している!


「おっと、到着だ!中心部の飯屋は少し高めだが、大体美味いんで安心してくれ!」


 俺が意味のない感動をしている間に目的地に到着したようだ。


 おっちゃんに礼を言って馬車から降りる。

 運賃だけで情報収集できたと思えば、悪くなかったな。


《こんどこそ、ごはーん!》

「そうだな。折角だし、おっちゃんお勧めの店で昼食にしようか」


 おっちゃんから教わったお店は、マップ上にマーキング済みだ。


「火山の国だけあって、料理にも『焼き』にこだわりがあるみたいね。お好み焼き系、焼きそば系がメジャーっぽいわ。バリエーションの多い料理だし、ミオちゃんもあんまりレパートリーは多くないのよね」

「出来れば、ミオさんのレパートリーを増やせるお店が良いですわ」


 ミオとセラの要望もあり、おっちゃんセレクションからミオがレシピを知らない料理の店を選ぶ。


「匂いからして、食べられるのは間違いないと思いますけど、少し躊躇がありますわね……」

「見た目は、ね……。でも、美味しいから安心して!向こうの世界でも人気はあるから!」


 初見では躊躇してしまう料理の代表格。そう、もんじゃ焼きです。


「ああ、向こうの料理なんですのね。それに、ミオさんが言うのなら、大丈夫そうですわね」


 注文を終え、しばらくすると料理ではなく材料が運ばれてきた。

 最低限の作法を教えて、自分で作らせるタイプのお店だ(一応、言えば代わりにやってくれる)。

 多少失敗しても大抵はある程度美味くなるように出来ている。


「俺は絶対に触らないからな」

「私もです……」


 物作りカースト最下位級の異能者組オレとさくらは見学に徹することにした。


「出来れば私が作るべきなんでしょうけど、タッパが足りないのよねー」

《ざんねーん》


 元々、子供が作ることを想定していないお店らしく、鉄板がデカいため、身長の低いミオ、ドーラに作るのは難しい。

 手段を選ばなければ話は別だが、ここでそこまでするつもりはない。


「と言う訳で、わたくし達が作るんですわよね?」

「仁様がお食べになる以上、全力を尽くします」


 ミオほどではないがセラ、マリアも料理が出来る(ミオほど料理が出来る奴は超貴重)。


 2人にもんじゃ焼きを作ってもらい、ヘラで掬い取って食べる。

 作り方はそれほど難しくはないが、俺は絶対に手を出さない。絶対にだ。


「美味しいんですけど、一度に食べる量が少ないから、満腹感が出にくいですわ」

《おかわりー!》


 当然のようにセラ、ドーラは山のように食べましたとさ。

 俺も思っていた以上に食べてしまった。


 どうでもいい話だけど、ヘラはそのまま買いました。

 もんじゃ焼きの料金に少し足せば買えるって書いてあったからね。記念品、記念品。



 もんじゃ焼きで腹も膨れたので、街中を見て回ることにした。

 うっぷ、食べ過ぎで口からもんじゃが出る(最低な比喩表現……比喩か?)。


 再び折角なので、おっちゃんセレクションからピックアップ。

 その場所の名は『冒険者記念館』と言うらしい。


「へー、大きな活躍をしたSランク冒険者の記念館かー」


 ちょっとした美術館よりも大きいその建物は、Sランク冒険者の功績を讃え、その記録を残そうと言う記念館だった。

 そもそも、Sランク冒険者になると言う事は、それだけの偉業を成し遂げたと言う証でもあるので、記録すべき内容には事欠かないはずだ。


「逸話と武器などのレプリカを展示しているようですね」


 マリアの言うように、記念館にはかつてのSランク冒険者の写真や絵姿、成し遂げた偉業に加え、有名な武器の所有者ならその武器のレプリカまで飾ってある。

 流石に本物はこんな場所にないだろう。


A:少しですが、本物もあります。


 あるのかよ。武器は使ってこそ価値があるのに……。


 少し腑に落ちない思いと共に、記念館の中を回っていく。


「何々、街を襲った竜を一刀両断にした?眉唾っぽいけど、冒険者の街にある記録だから、嘘ってことは無いはずよね?」

「ちょっと前にドラゴン狩りをしたばかりですから、驚けませんわね」

「こちらは魔法で雨を降らせ、干ばつから救ったって書いてあります……。これ程の広範囲は<水魔法>のレベル10でも難しいでしょうし、ユニークスキルでしょうか……?」

「天候を操るスキルですか。在野にも強者はいるのですね」


 うん、ビックリ人間録として見ると、それなりに面白いね。


《ごしゅじんさまー、これみてー!》

「どうしたんだ?」


 ドーラに呼ばれたので、指差された展示物を見に行く。


「あー……」

《ごしゅじんさまのぶきとおんなじー!》


 そこに展示されていたのは、Sランク冒険者、セルディクことセバスチャンの持っていた伝説級レジェンダリーの刀、『霊刀・未完』のレプリカだった。


 当然、横にはセバスチャンの逸話もある。

 どれどれ……。

 国同士の戦争で、何人ものSランク冒険者を暗殺した『死神セルディク』……。

 意外とエグイ逸話持ちだったんだな、あの爺さん。


 ギルド連合地区に来る前に『英霊刀・未完』を隠しておいて良かったな。

 最終試練を越え、姿形が変わっているとは言え、見る者が見たら関係に気付かれる可能性も十分にあっただろう。


 この世界に来て最初に出会ったSランク冒険者、あれから随分と時間が経ったが、意外なところで縁があったようだ。


「刀、有難く使わせてもらっているよ」


 俺に礼を言われても嬉しくないだろうけどな。


ただし、最近『英霊刀・未完』を使っていません。


本話の前半ですが、特に深い意味はありません。

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