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異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ 作者:コーダ

第11章 ギルド編

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第159話 のんびり予定と異能の代替

新章です。

第11章さいりゅ……ギルド編(仮)始まります。

 冒険者ギルド、それは世界各国に存在する、冒険者を管理する中立組織である。


 基本的に冒険者ギルドは中立を謳っており、国家間の争いなどには関与しないことを原則としている。もちろん、例外はある。俺も知っている。

 争いには関与しないが、国家との関わりは密であり、高位の冒険者を貴族に準ずる扱いにするなど、国家から冒険者(及びギルド)に対する配慮もある。


 冒険者ギルド本部のある土地を『ギルド連合地区』と言う。

 ちょっとした小国よりも土地面積は広いが、建前上は国家に所属しない中立組織なので、連合地区を名乗っているそうだ。

 ギルド連合地区はカスタールから見て南側、いくつも国を越えた先にある。内陸国……もとい内陸地区の為、海路での移動は出来ず、行こうと思ったら結構な時間がかかる。

 もちろん、空路を使えば話は別である。


 余談だが、我らがアドバンス商会はギルド連合地区には進出していない。

 距離的な問題もさることながら、冒険者ギルド関連でイベントがありそうだったので、避けるように指示をしていた事が一番の理由だ。

 真紅帝国やエルフの里など、いずれイベントの起こりそうな土地には、アドバンス商会の進出や情報収集を控えてもらっている。楽しみは後にとっておきたいからね。


 話を戻そう。


 ギルド連合地区にある冒険者ギルド本部、そのギルド長はギルド総長と呼ばれている。

 ギルド総長がギルド連合地区、そして世界各地にある全てのギルドの実質的なトップだ。


 ギルド総長は最強のSランク冒険者とも言われており、風の噂によると女性らしい。

 はいそこ、『女性の王族みたいなモノだから、配下入り確定ね』とか言わない。

 お年を召していたらどうするつもりだ。


 ギルド連合地区、冒険者ギルド本部は冒険者達の聖地であり、冒険者達にとって一度は行ってみたい場所の筆頭である。

 そして、高ランク冒険者の多くが訪れる場所の筆頭でもある。

 ただし、国外のSランク冒険者は意外と行かない。Sランク冒険者には癖の強い連中が多く、一般的な憧れをガン無視する者の方が多いのである。


「僕達にはメリットが無いので、冒険者ギルド本部には行かないつもりでした」


 現在、俺はカスタールの屋敷でSランク冒険者のクロードからの報告を受けている。


「えー?勿体ないわねー。クロード達は話題性抜群のSランク冒険者パーティなのに……」


 ミオが不満を漏らす。


 Sランク冒険者は我の強い者が多く、Sランク同士でパーティを組むことが少ない。

 クロード達のように1つのパーティが全員Sランクで、Sランクになる前からパーティを組み続けているなんてケースは非常に稀だ。いや、前例がないらしい。


「でも、ギルド連合地区に行くという話をしていましたわよね?」


 報告の前にセラは少し話を聞いていたようだ。


「はい、僕達の方に行く予定はなかったのですが、向こうから来て欲しいと言われました。しっかりと指名依頼で……。こちらをお読みください」


 俺はクロードから渡された依頼書を読む。


「何々、冒険者ギルド本部からの招集。非常に珍しいSランク冒険者のパーティにギルド総長が興味を持った。劣風竜ワイバーンを用い、至急冒険者ギルド本部まで来ること……。ざっくり言うとこんな感じか」


 実際にはもう少し丁寧に書いてあるが、要約するとそう言う事だ。


「はい、ギルド総長直々の指名依頼と言う事で、ギルドの人達からも断るなと強い圧力を受けました。最終的にはこの依頼を受け、ギルド連合地区に向かうことになりました」


 そう言う圧力が嫌で高位の冒険者にならない部分があります。


「いつ出発するんだ?」

「準備を含め、今日明日中には出発します。仁様に頂いた劣風竜ワイバーンを使わせていただきます」

劣風竜ワイバーンは役に立っているか?」

「はい、大助かりです」


 Sランクになる前祝いであげた劣風竜ワイバーンだが、クロード達の役に立っているのなら何よりである。

 ……本当は『ポータル』が使えれば一瞬なんだけど、流石に秘匿が難しいからね。


「それはそれとして、そもそもの話、何でクロードは俺に報告に来たんだ?今まで、クロードが俺に報告しに来るときは、冒険者活動で大きな出来事があった時くらいだったよな?」


 何か問題やイベントがあったのだろうか?

 慌てている様子はないから、緊急度は低そうだけど……。


「お時間を取らせてしまって申し訳ございません」


 クロードが申し訳なさそうに謝る。


「いや、悪いと言う訳じゃない。何かあったのか気になっただけだ。問題じゃないのか?」

「はい、問題ではありません。先程話に出たギルド総長からの依頼書に、ギルド連合地区の観光名所である温泉のフリーパスが同封されていました。観光が好きな仁様に献上できればと思いまして、お時間を頂きました」

「詳しく聞こうか」


 居住まいを正してクロードの話を聞く。


 クロード曰く、ギルド連合地区のある土地には火山が多く、温泉地としても有名らしい。

 冒険者の聖地と言うのは伊達ではなく、温泉の効能は怪我の治癒力向上、疲労回復など、冒険者にとって嬉しいものばかり。冒険者が1度は訪れたいと思うのも無理はない。


 これ程分かり易い観光地を見逃していたというのは痛恨のミスだな。

 ギルド連合地区の情報を集めなかったことが悔やまれる。


 ギルド総長はギルド連合地区のトップだ。つまり、温泉地のトップでもあると言う事に他ならない。

 クロード達への依頼料とは別に、サービスで温泉へのフリーパス券(流石に宿泊は別)が同封されていたらしい。


「ぜひ、温泉のフリーパスをお納めください」

「まー、当然の反応と言えば当然の反応よね」


 ミオがうんうんと頷いている。

 他の面々も同じように納得した表情を見せる。


「悪いが、それを貰うつもりはない。お前達が報酬として得た権利を取り上げる様な真似をするつもりはないし、どこの誰とも知らない相手に借りを作る様な状況は御免だ」

「そ、そうですか……」


 直接的な関係者ではない俺がフリーパスを使うと言う事は、ギルド長とやらに借りを作ることになりかねない。

 大げさかもしれないが、嫌な物は嫌なので仕方ない。


「ただ、温泉地の情報だけは有り難かった。俺も行こうかな……」


 周囲を見渡しても、嫌そうな顔をしているものはいない。


「よし!それじゃあ、次の目的地はギルド連合地区だな!」

「わーい!温泉回だー!」


 ミオが殊の外喜んでいる。

 温泉回は良いけど、ミオは見られる側だぞ?色気はないけど、需要はあるだろう。


「仁様、ギルド連合地区には何で向かいますか?」


 マリアに問われたので少し考える。


 このところ女王騎士ジーンとして行動する事が多かったが、今回はその必要はない。

 どちらかと言えば、クロード達の師匠という立場になる。つまり、久しぶりの進堂仁モードだ。


竜人種ドラゴニュートに乗って、クロード達に同行するか、クロード達に『ポータル』を設置してもらって直接乗り込むかの2択だな。」

「ブルーちゃんは乗ってって言うでしょうね」


 ツンデレのデレ100%となった天空竜ブルーは間違いなくそう言うだろうな。

 ただ、問題はブルーがジーンの騎竜として認知され始めた事なんだよな。


 おれがジーンの騎竜に乗ったら、流石に正体がバレるだろうよ。

 いや、前も言ったけど、今となっては別に正体がバレても困らないんだけど、そんな情けないバレ方は嫌だから……。

 でも、ジーンではなく仁としてブルーに乗れないのも問題だな。何か考えておこう。


「今回は、『ポータル』かな。クロード達も、俺が一緒だと気が休まらないだろ?」

「緊張するのは確かですね。逆に喜ぶ娘もいますけど……」


 多分、犬っ娘ココエロっ娘ロロだな。

 ロロは発育がそれなりに良くて、小学生くらいの年齢にしてはありえないくらい色気があるから、個人的にエロっ娘と脳内で呼んでいる。

 発育で言えば、マリアも負けていないが、マリアには不思議とあまり色気を感じない。多分、信者成分が強すぎるからだろう。


「全体的にマイナスなら、同行しない方が良さそうだな」

「ココとロロには怒られちゃいますね……」

「全員を説得出来たら同行すると伝えてやってくれ」

「分かりました」


 全員が望むというのなら、同行するのも吝かではない。


 クロードが退室したので、今度はメインパーティでのお話だ。


「温泉に行きたくない者は挙手」


 誰も手を挙げない。


「じゃあ、今回は全員同行で問題ないな」

「クロード君達に同行しない場合、ギルド連合地区に到着するまで、しばらく時間がありますよね……?その間はどうしますか……?」

「その間はいつものようにのんびりだな」

「ご主人様恒例ののんびりモードって奴ね」

《のんびりー!》

「のんびりと言いつつ、意外と騒動が多い事までいつもの流れですわよね」


 俺ののんびり癖を知っているメンバーが納得した様子を見せる。


「どちらかと言うと、温泉に行くのも含めてのんびりって言った方が正しいかな。温泉地でそんなバタバタイベントが起きるなんてこともないだろ」

「ご主人様?どうして態々フラグを立てていくの?温泉地なんてむしろイベントの宝庫じゃない。絶対に何かあるわよ」


 知ってる。


「仁様。護衛の為、私もご主人様にお供してよろしいでしょうか?」

「どうしたんだ?いつも、何も言わなくても護衛として付いてくるだろ?」


 マリアが同行させてほしいと願い出るのは珍しい。

 何故なら、いつも確定で付いてくるからである。


「公共浴場に同行しても構わないでしょうか?」

「……ああ、そう言う事か」


 そうか、マリアが同行すると言う事は、男湯に入ると言う事か。


「公共浴場という無防備にならざるを得ない危険な空間で、仁様を一人にするのは私の精神が持ちそうにありません。どうか、同行をお許しください」

「裸の男がいる空間に入るのに抵抗はないのか?」

「? 特に抵抗はありません。仁様のお供をすることが何よりも重要ですから」


 マリア、部外者には一切興味なし。


「とは言え、マリアにも温泉を楽しんで欲しいしな……」

「仁様がそう仰るのでしたら、仁様がお上がりになられた後、セラちゃんに護衛を任せてお風呂に入らせていただきます」


 マリア、その意思は一切揺るがない。


「男湯に女が入るのが問題と言うのも理解しているよな?」

「<無属性魔法>で透明化して姿を隠しておきます。<結界術>で気配や臭いも出さないようにします」


 マリア、プロの変態さんである。

 <無属性魔法>の悪用をマリアがすることになるとは思わなかったな。


「それでもなぁ……。タモさんを護衛に付けるから、諦められないか?」


 流石に混浴でもない公衆浴場にマリアを入れる気にはならない。

 タモさんは性別が無いので問題なし。


「タモさん、ですか……。少し考えさせてください」


 そう言ってマリアはしばらく考え込む。


「……タモさんが護衛に付くのでしたら、私は女湯に入ります。ただ、いざという時には仁様の元へ突入いたします」

「分かった。それで良い。……本当はマリアにも落ち着いて温泉に入って欲しいんだけどな」


 俺と離れている以上、それは難しいのだろう。


「ご主人様、ご主人様」

「どうした?」


 そこで、ミオが声をかけてきた。


「水着を着て混浴に入れば万事解決よ?」

「……その手があったか!」


 温泉地なんだから、当然混浴はあるだろう(決め付け)。

 混浴なら、俺とマリアが同じ風呂に入っても問題ない。問題ない。



 結局、ココとロロは全員の説得を出来ず、俺達は空の旅に同行しない事が決まった。

 と言う訳で、ここから数日はのんびりモードだ。


 まずはアドバンス商会の魔法の道具マジックアイテム開発部門に所属することになったハイエルフ、エルフの『姫巫女』ユリシーズの元を訪れた。

 今回の同行者はマリアのみ。他の子達はそれぞれ思い思いにのんびりするらしい。


「様子を見に来たぞー」

「あら、仁さん、ごきげんよう。朝から来てくれるなんて嬉しいわ!」

「おはようございます」

「マリアさんもごきげんよう」


 カスタール女王国王都にあるアドバンス商会の拠点に顔を出すと、ユリシーズは喜色満面で近づいてきた。

 アドバンス商会の経営に関して俺は完全ノータッチの為、聞いた話になるが、魔法の道具マジックアイテム開発部門は最近、ユリシーズが配下に加わったことで正式に発足した部門らしい。


 余談だが、機密性が高い業務の為、開発部のある部屋はアドバンス商会の拠点(結構広い敷地)の中でもかなり奥の方にある。

 ここまで入り込むのは、普通のスパイには不可能だろう。


 今まで、アドバンス商会は魔法の道具マジックアイテムには手を出してこなかった。

 その理由は<魔道具作成>と言うスキルの特殊性にある。


 まず、<魔道具作成>スキル単体では、それほど多くの魔法の道具マジックアイテムを作成することは出来ない。

 単体の低レベルでは、生活必需品の様な魔法の道具マジックアイテムしか作れない。最高レベル近くまで上げても、アイテムボックス以上の物はほぼ作れない。

 実は、俺が集めているような特殊な魔法の道具マジックアイテムは、<魔道具作成>の他に派生スキルが必要となるのだ。


 この世界ではスキルの存在は認識されていない。

 しかし、『生まれつきの才能』が物を言う職業と言うモノは少なくない。魔法の道具マジックアイテムの作成者と言うのは、そんな職業の中でも安定した収入を得られる貴重な職業として有名だ。

 加えて、その才能を見出すのも簡単だ。子供に魔法の道具マジックアイテムを触らせるだけで良い。

 <魔道具作成>を持っていると、何となく感じる物があるらしい。


 <魔道具作成>のスキルを持つ者は、直ぐに働きに出されることが多い。

 商会も<魔道具作成>持ちはすぐに確保しようとする。

 つまり、在野の隠れ<魔道具作成>持ちは非常に少ないのである。

 俺の配下にも1名を除いて存在しない。


 <魔道具作成>の派生スキルは、生来<魔道具作成>を持っていた者が、稀に取得できるという性質を持つ。

 俺が後から<魔道具作成>を与えても、覚えることは出来ないのだ。

 <魔道具作成>を元々持っていた配下は、魔法の道具マジックアイテム作りが趣味じゃないみたいだし……。


 何が言いたいかと言うと、<魔道具作成LV10>とその派生スキルの<森の英知>、更には生産系スキルに大幅なバフを与える<大地の記憶>を持つユリシーズさんは魔法の道具マジックアイテム制作において、超重要人物なのである。

 ちなみに、<森の英知>は派生スキルの中でも最高級の物だ。


「どうだ?新しい環境には慣れたか?」

「ええ、大丈夫よ。封印の水晶に比べれば、どんな場所だって天国だから」

「……そりゃそうだ」


 6千年の封印を引き合いに出したら、どこだってマシに決まっている。


「それにしても、仁さんの言っていたことには、何の誇張も無かったわ。本当に、凄い人材が驚くほど多く居るのね」


 ユリシーズが感心したように、それでいて少し悔しそうに言う。


「仁さんの隣に立つのは、本当に大変そうね。まあ、私には時間はいくらでもあるから、気長にやらせてもらうわよ」

「ハイエルフの気長は本当に長いだろうな。その前に俺が死ぬんじゃないか?」

「え?仁さんって普通の人間の寿命で死ぬの?」

「多分……」


 あんまり自信ないや。


「もし、仁さんが普通の人の寿命で死ぬとしても、私は最後まで一緒にいてあげるから安心してね?私はいつまでも老けないから、若い姿のまま、ずっとそばにいてあげるから」

「お、おう……」


 言葉の端々から、愛の重さが見え隠れするね。

 信者じゃないのに不思議!


(羨ましいです)


 ボソッとマリアが呟く。

 こちらもこちらで重い。ただしこちらは信者だ。


「それで、仁さんは何をしに来たの?私に会いに来た、なら大歓迎なんだけど」

「最初に言った通り様子見だよ。もう魔法の道具マジックアイテムを作り始めているんだろ?俺、面白い魔法の道具マジックアイテムの収集が趣味だからな」


 魔法の道具マジックアイテムなら何でも良い訳ではなく、収集するのは俺が面白いと感じたものに限る。

 厄介なのは、俺が面白いと判断する基準が、俺にも不鮮明な所だろう。


「それは丁度良かったわ。ここ数日で、いくつか試しに作ってみたの。仁さんが気に入ると良いんだけど……」


 ユリシーズの作成した魔法の道具マジックアイテムを見せてもらう。

 最初に出されたのは、占い師が使うような水晶だった。


「まずはこれね。遠距離通信用の魔法の道具マジックアイテム。姿が見えない代わりに『遠見の合わせ鏡』よりも有効範囲が広く、場所も取らない高性能品よ。魔石の消費も程々ね」


 いきなり現在の常識を大きくぶっ壊すシロモノを出してくれました。

 この世界、遠距離通信とか輸送とかに難が有るんだよね。

 遠距離通信が可能な魔法の道具マジックアイテムとなると、ほぼ漏れなく国家レベルで管理する物になる。サイズも大きく、必要な魔石も膨大な量になるのが常識だ。


「それぞれ固有の番号が振られているから、通信を望む相手が誰か分かるし、通信をしたくない場合は拒否も出来るわ」

「電話か!」


 雑なツッコミをしたが、本当に電話以外の何物でもなかった。


「デンワ?何の事かしら?もしかして、仁さんのお気に召さなかった?結構な自信作だったのだけど……」

「いや、凄いのは凄いけど、元の世界に似た……似すぎたものがあったからつい、な……」


 見た目は全く似ていないけど、機能的な意味ではとても似ている。


「そうなの?仁さんの元の世界では、それは普及していたの?」

「ああ、多分世界で1番普及している道具の1つだと思うぞ」

「仁様の世界では、一家に一台はあったそうです」


 マリアが補足してくれたが……何でマリアが知っているの?


A:ミオから聞いています。


 そう言えば、マリアはミオから元の世界の話をアレコレ聞いていたな。


「じゃあ、これは販売しても問題なさそうね」

「待った。ちょっと影響が大きすぎる。少し、慎重に考える必要がある」


 どう考えても、考えなしに広めて良いものではない。


「仁さんがそう言うのなら了解よ。元々、今の時代を知らない私に販売の決定権はないわ。アドバンス商会の上層部と話し合って決めることになっているわよ」

「それなら良いんだが……」


 6千年分のブランクがある、それも元々世間との交流の少ないハイエルフ……常識は期待できそうにない。

 アドバンス商会上層部の良識が求められる。

 一応、1番のトップって俺でいいんだよな?良識……自信ないなぁ……。


「じゃあ、次はこれね」


 次に出されたのはマットの様な敷物だ。


「これは2カ所に設置すれば、双方向の転移が可能になるという魔法の道具マジックアイテムよ」

「『ポータル』じゃねえか!」

「残念ながら、『ポータル』ほど手軽じゃないわよ。魔石の消費も馬鹿にならないし、1対1の転移しか出来ない。加えて転移距離にも上限があるのよ」


 欠点を並べれば大したことが無いように感じるが、実際には世界の常識を壊す程度の影響力はあるはずだ。

 それにしても……。


「1つ聞きたいんだが、どこかで見たような効果の魔法の道具マジックアイテムばかり出て来るのは偶然か?」

「いいえ、意図的な物よ。具体的に言うと、仁さんとさくらさんの異能の代替品……身も蓋もない言い方をすれば、仁さん達の力を誤魔化す為の囮なの。アドバンス商会は仁さん達の力で成り上がった商会なのよね。でも、仁さん達の力を秘匿すると代わりの手段が必要になる。私の仕事は、仁さん達の能力を代替する魔法の道具マジックアイテムを作ることなの」


 俺も聞いた話なのだが、アドバンス商会は転移系の魔法の道具マジックアイテムを持っていると噂されているらしい。

 異能の事を表に出来ないのなら、いっそ噂を事実としてしまおうと考えたようだ。


 アドバンス商会の面々と話をして、大まかな魔法の道具マジックアイテム作成の方向性を決めていたとの事。


「なるほど、それは確かにユリシーズにしか出来ない仕事だな」


 派生スキル持ちがいない以上、ユリシーズが主になるのが決まっている。


「ええ、まずは実績作りから始める事にしたの。仁さんの旅に同行するためのハードルは高いけど、時間はあるから焦らず、ゆっくりと、出来る事から始める事にしたのよ」


 俺の旅に同行したいというユリシーズの願いは変わらないようだ。


「次はアイテムボックスの中の時間を止める、もしくは緩やかにするのが目標ね」


 次のターゲットは<無限収納インベントリ>か。

 これもアドバンス商会の切り札の1つである。


「アテはあるのか?」

「ええ、試行錯誤が必要なのは確かだけど、絶対に無理と言う程の物ではなさそうよ」


 <魔道具作成>も碌に使えないので、どのような感覚なのかは不明だが、ユリシーズには大まかな方向性が見えているようだ。


「最終的には、仁さん達の力無しで同じだけのサービスを提供出来ればと思っているわ。そうすれば、アドバンス商会から異能の情報が洩れる心配はなくなるから」

「言われてみれば、アドバンス商会は割と無制限に異能の力を使っているな……」


 普通に考えて、この短期間で商会がここまで成り上がるのは不可能に近い。

 それを為したのは、異能の力をほぼ無制限に使えていたことが大きいだろう。


 ユリシーズの心配する情報漏洩の可能性は低いが、実は他にも懸念がある。

 異能の力で成り上がったと言う事は、万が一俺やさくらがいなくなった場合、異能の力が使えなくなった場合、ほとんどの業務が成り立たなくなると言う事に他ならない。

 今のところ居なくなる予定はないが、リスクを考えれば代替手段の確保は必須である。


「思っていた以上に、ユリシーズの仕事って重要そうだな」

「ええ、任せて。絶対に仁さんの役に立って見せるから」

「ああ、頑張ってくれ」


 ユリシーズに魔法の道具マジックアイテムを作らせることを決めたのは俺だ。

 初めは面白い魔法の道具マジックアイテムでも作ってくれれば良いと思っていたのだが、俺の手から離れていつの間にか、かなり重要な業務になっていました。

 予想外!


 後で知ったことだが、実はこの方針にはサクヤの思惑が紛れ込んでいたらしい。

 ユリシーズが普通に魔法の道具マジックアイテムを作ると、サクヤが『俺への対価』として用意している魔法の道具マジックアイテムが価値を失うことになる。

 それは不味いと考えたサクヤが、集めた魔法の道具マジックアイテムと競合しない魔法の道具マジックアイテムを作らせる為、色々とお題目を考えたそうだ。


 サクヤ、意外とコソコソ必死に動いているんだよね。



 話が一段落着いたので、気になっていたことを尋ねる。


「……今更な疑問なんだけど、何でここにミドリが居るんだ?」


 実は同じ部屋の中にドリアードのミドリが居る。

 全く動かないから、緑色の置物だと思っていたが、よくよく確認したらミドリだったのだ。


「彼女も魔法の道具マジックアイテム開発部門に所属しているからよ?」

「何故?」


 言っている意味が分からない。

 ミドリに魔法の道具マジックアイテムの作成は困難だろう。


「実は『魔法の道具マジックアイテム開発部』は、裏では『異能代替手段開発部』と呼ばれているのよ。『異能』と言う単語を表立って使わないための処置でもあるわね」


 先程の話から、異能の代替手段を用意することの重要性は理解できた。

 俺としては面白い魔法の道具マジックアイテムを作って欲しい気持ちもあるが、開発部門の主目的が代替手段の作成となるのも仕方のない事ではある。


「そう言う意味では、彼女は私の先輩にあたるわ。だって、『神薬 ソーマ』はさくらさんの作った魔法、『リバイブ』の代替になるのだから」

「ああ、そんな事もあったな」


 『リバイブ』による欠損回復を、『神薬 ソーマ』によるものだと偽った事ならある。


「秘薬の中には、他にも異能の効果の代替となる物もあるから、念のため所属してもらう事にしたのよ。他にも、特殊な生成物を作れると言う事で、ドワーフのミミさんにも所属してもらっているわ。鍛冶場にいるからここに来ることは少ないけどね」

「なるほど、確かに全員、特殊なアイテムを作れる人材だな」


 ユリシーズは魔法の道具マジックアイテム、ミドリは秘薬、ミミは聖剣と魔剣。

 どれも特殊なスキルが必要で、普通では有り得ない効果をもたらすものだ。


「尤も、秘薬と聖剣は製作者や制作方法を秘匿する必要がある点は異能と同じだけど……異能がバレるよりはマシでしょ?」

「そうだな。レアだったりユニークだったりするスキルだが、他の誰にも出来ない事じゃないからな。異能よりはマシだ」


 流石に切り札でもある異能はバレると困る。

 まあ、織原にバレているという意味では手遅れなんだが……。


 それにしても、自分の話題が近くで出ているというのに、ミドリは全く興味を示さないな。


「そして、本当にミドリは動かないな……」


 引きこもり気質のミドリは、今も日当たりが悪い・・場所でボーっとしている。

 植物の魔物の癖に、日当たりの悪い場所を好むという変わり種だ。

 ボーっとしているのは植物っぽいから別に構わない。


「基本的に必要最低限の動きしか見た事がないわね。秘薬のノルマがあるから、多少は動きを見せる事もあるけど、自主的な行動はスポット間の移動くらいかしら?」

「スポットって何だ?」

「何か、ボーっとするのに良いスポットがあるらしいわ。詳しくは知らないけど……」


 余談だが、移動は『ポータル』オンリーだそうだ。

 動かないと太るぞ、とは植物の魔物相手に言っても無意味だろう。


「…………」


 今までは俺達に全く興味を示してこなかったミドリがノソノソと近づいてきた。


《久々に……仁の魔力……頂戴……?》


 直球で魔力、MPをたかりに来た。


 <秘薬調合>にMPが必要なのは理解しているので、ミドリには多めのMPと<MP自動回復>を与えている。

 しかし、他人から<MP吸収>で吸うのが一番美味しく気持ちいいようで、時々屋敷の人間に強請ねだっていると聞いている。


 ミドリは人気の少ない日陰を好む。簡単に言うと、俺と接触する機会が非常に少ない。

 俺のMPを欲しいと思っても、その機会がなかったようだ。なお、自分から動いて要求しに行くと言うのは、最初から選択肢にないのだろう。


「MPの譲渡自体は別に構わないけど、絵面がなぁ……」


 ミドリのMPドレインは口で行われる。

 口に入る体の部位、と言う事で無難な手の指だが、その絵面は無難ではない。


 ミドリは魔物だが、外見は幼い少女だ。幼い少女に指を舐めさせるという絵面はヤバい。

 何よりヤバいのは、そのヤバい絵面がヤバい絵面群の中ではマシな方だと言う事だ。

 一体、何回ヤバいと言っただろうか……。


《お願い……》

「まあ、いいか。ヤバい絵面には慣れているから。……慣れちゃ駄目だけど……」


 最近で言えば、『全裸の女子高生にちんちんさせる』が1番インパクト強いかな。


 俺が許可をしたので、ミドリが再びノソノソ近づいて来て、俺の指を口に咥えた。

 MPがグングン吸われていくのを感じる。とは言え、その量はマリアが止めないくらいに微々たるものだ。俺に影響があるレベルなら、ミドリからの要求があった時点で止めてくる。


《んく……んく……。仁の……濃くなってる……?》

「主語を言え」


 MPを吸っているミドリが気持ちよさそうに顔を蕩けさせながら言う。

 主語である『魔力』が抜けていたので、絵面どころかセリフまでヤバくなっていた。


 魔力が濃いとはどういう意味だろうか?

 理由や根拠は分からないが、心当たり自体は多すぎる。


 ヤバさの指数がヤバいので、早く終わらせよう。

 体内のMPの流れを操作し、ミドリの方に押し出す様にイメージする。


《ん……!ん……!?勢いが……強くて……あ、溢れる……!漏れる……!見ちゃヤダ……!?》


 次の瞬間、ミドリが『ポータル』で何処かに跳んで行った。

 最後までセリフがヤバかったが、一体何があったのだろうか?


 この日、ミドリの秘薬に『ドリアードの雫』が追加されたそうだ。

信じられるか?この話、前話(短編)よりもずっと前に書いてたんだぜ。


投稿前に見直すまで、本話のオチの事を忘れていました。

何とは言いませんが、もはや言い訳すら出来ないレベルかもしれません。


後、無事にエイプリルフールネタは決まりました。

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